第251話 夏休みの終わり

 ☆奈央視点☆


 紗希発案のパートナーシャッフルの結果、佐々木君と観覧車に乗る事になった私。

 佐々木君かぁ……。


「一番ハズレだわ」

「悪かったな!」


 つい言葉に出してしまった。

 ただ、佐々木君は怒ってはいないらしい。

 いつも皆から雑な扱いを受けているけど、本気で怒ったりしたとこを見た事ないわね。


「嫌じゃないの?」

「西條と観覧車に乗る事がか?」

「じゃなくて、皆からの扱いの悪さとか」

「扱いが悪い? そんな事は考えた事無かったな。 そういう立ち位置なんだよ、昔から。 それに、俺は俺で楽しんでるんだ」

「マゾ?」

「違うわい!」


 でもたしかに、扱いは雑だけど嫌われてるわけじゃないし、むしろ愛されキャラになってるものね。

 亜美ちゃんまでが、佐々木君に対して雑になったりするし。

 それに、私が一度は惚れた相手でもあるわけだし。


「ねえ、私が佐々木君に惚れてた時期があるの知ってた?」

「何? 知らないぞそんなの」

「でしょうね」


 悟られないようにしていたから、そうでしょうよ。

 気付いてたのは紗希だけ。


「すぐに諦めたんだけどね」

「諦めた?」

「だって、佐々木君には奈々美がまとわりついてたし、さすがにね」

「あぁ……そうだったかぁ?」.

「そうよ。 佐々木君にべったりくっついて、周りの女子牽制してたもの」

「うーん?」


 佐々木君は首を捻る。

 まあ、佐々木君の顔面偏差値はかなり高いし、奈々美が必死にガードしてたのもわからないではないわ。

 それでもかなりの数の女子が、佐々木君にアタックして散っていったらしいけど。


「すぐに諦めがついた辺り、そこまで本気じゃなかったのかもね」

「なるほどなぁ」

「ちなみに、中1の時点で私に告白されてたら、返事はどうだった?」

「断ってたな」

「まあ、そうよね。 当時は亜美ちゃんにお熱だったものね」

「まあ、そういうこった」


 やはり諦めて正解だったわね。

 私の輝かしい人生の足跡の中に「佐々木君にフラれる」という汚点がつくところだったわ。


「で、春人とは?」

「え?」

「春人とはどうなんだ? あいつも特に何も言わねーし、ちゃんと上手くやれてるのか?」


 どうやら、私と春人君のことを気にしてくれているらしい。


「そうね。 私達は日本とアメリカの遠距離だから、普段は会えないし、電話で話すくらいだけども……5月にアメリカ行った時とか、この夏休みとかはデートしたりして上手くいってると思う」

「そうか。 春人の奴、亜美ちゃんの事は完全に忘れられたんだろうかね」


 春人君は、去年亜美ちゃんに会ってから亜美ちゃんが好きだった。

 完膚無きまでにフラれたが、実際のところどうなのかを春人君に聞いた事は無い。


「わからないわね」

「そうか。 でもまあ、今の様子を見る限りは大丈夫だろ」

「だと良いけど」


 何だかんだ言って、佐々木君は良い男ね。

 ちゃんと周りに気を配ってくれるし。

 亜美ちゃんや奈々美がいなければ、どうなっていたことやら。



 ☆奈々美視点☆


「よくよく考えたら、春人と2人になった事なかったわね」

「そうでしたか?」


 私が覚えている限りではそのはずだ。

 色々と聞き出すチャンスだわ。


「ねえ。 ズバリ聞くけど、奈央とはどうなの?」

「え? あ、清いお付き合いを」

「まだ清いの?!」


 まあ、あのお子ちゃま体型には中々欲情出来ないかもしれないけども。


「そういうのは、籍を入れてから」

「嘘っ……いつの時代の人よ」


 何というか、古風な考え方をする奴ね。

 私がとやかく言うのは良くない事なのかしら?

 奈央も、特に気にしてはいないみたいだけど。


「キ、キスぐらいは?」

「それぐらいはまあ……」

「そ、そうよねー」


 良かった……キスぐらいはするのね。


「やっぱり、将来は西條家に婿入り?」

「そうですね。 このままいけば。 僕に奈央さんを支えられるかはわかりませんが」


 というか、西條グループをよね。

 奈央も春人も、プレッシャー凄そう。


「覚悟はしてるつもりですから」

「そう……。 じゃあ亜美の事はもう?」

「はい。 今は良い友人です」

「それを聞いて安心したわ」


 今の亜美はとても幸せそうだ。

 誰にも邪魔はさせたくないものね。

 希望がまだ頑張ってはいるみたいだけど、あの子はまあ例外かしらね。


「皆、上手くやっていけたら良いわね」

「はい」



 

 ☆亜美視点☆


 観覧車を降りた私は、一目散に夕ちゃんの元へ向かう。


「夕ちゃん!」

「うおっと……」


 我慢出来ずにそのまま飛びつく。

 やっぱり夕ちゃんが一番だよ。


「紗希ちゃんに何もされてない?」

「何もしてないってばー」


 紗希ちゃんが、ケラケラ笑いながらそう言った。

 良かったよぉ。


「亜美ちゃんってば、私の事をなんだと思ってるのよー」

「ご、ごめんなさいっ」

「きゃはは、良い良い」


 パンパンッと背中を叩かれる。


「まあ、私も誤解されるような事したりしてるしねー。 さっきは今井君も終始身構えてたし」

「わ、悪かったよ」

「良い良い」


 紗希ちゃんはやっぱりよくわからない。

 けど、とても良い子である。

 

 さて、時間も時間だし……。


「そろそろ帰ろうか」

「そうね。 1日楽しめたわ」

「たまにはこういうデートもありかしらね。 といっても、次に春人君とデート出来るのはいつになるやら……」

「次は冬に来るつもりですから、すぐですよ」

「冬にまた来るのか」

「何だ、あまり遠距離って感じしないな」

「そんなこと無いわよ? やっぱり寂しいわ」


 と、奈央ちゃん。

 もうすっかり恋人さんだ。

 4組でのデートは、いつもの遊びに行く感覚と対して変わり映えはしなかったかもしれないけど、それでも楽しくデートが出来たと思う。

 何事も楽しくが一番である。


 かくして、夏休み最後のデートは終わったのだった。


 翌日、アメリカへ戻るという春人君を見送った私達。

 

 そして夏休みも明けて10日が過ぎた───。


「希望ちゃん、荷物大丈夫?」

「うん」

「よし。 じゃあ、行こうか」

「うん」


 私達は、日本ユースの最終合宿へ向かう。

 合宿後は直接アメリカへ。

 世界選手権がもうすぐそこまで来ていた。


 最終合宿所は、空港近くの体育館。

 ユースの選抜メンバーが勢揃いしている。


「もうじきやな。 なんや楽しみやで」


 と、弥生ちゃん。

 いつもはコートを挟む敵同士だけど、世界選手権中は心強い味方となる。

 他にも、都姫の宮下さんや大阪の黛姉妹、立華の眞鍋先輩といった日本女子高生のトップ達が集まっている。


「よく集まってくれた。 まずは組み合わせ表を配るぞ」


 監督から世界選手権の組み合わせが配られた。

 私達はBグループ……。


「今回の優勝候補は開催国のアメリカ、続いてイタリア、ロシアだ。 日本の評価は……まあ気にするな」


 今回の日本メンバーは、平均身長がとても低い。

 各国からの評価もあまり高くはないようだ。


「評価なんか気にしてへんで。 プレーでわからせたるわ」

「おう、その意気だ!」


 世界の壁は高いかもしれないけど、監督が私達を歴代最強だと信じてくれている。

 期待には応えたい。


「良いか。 目指すのは世界一だ! 若き火の鳥の力を世界に見せつけてやれ」

「はいっ!」


 1週間後に始まる世界選手権に向けて、一気に士気が上がるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る