第255話 日本の月姫VSイタリアの若き天使

 アメリカで夜が明ける頃、日本では……。


 ☆紗希視点☆


「はぇー、亜美ちゃん達4連勝でグループ1位抜けなのね」


 現在時刻は夜22時。

 スポーツニュースでは、女子バレーボールのユース大会である世界選手権の事が報道されている。

 歴代最強と謳われる今年の日本ユースは、かなり注目されているらしい。

 私がアメリカにいない事が悔しいわね。


「次の試合は、優勝候補の一角のイタリア……。 現地時間的にはそろそろ始まるぐらいなのね。 頑張って、皆」




 ☆遥視点☆


「くぅ! 私も世界の舞台に立ちたかったなぁ!」


 普段同じコートで練習している友達が、今は世界の舞台で活躍している。

 それを目の当たりにすると、悔しさ半分羨ましさ半分。

 もう少し自分にも実力があればと、そう思わずにはいられない。


「私って身長高いだけだからな……何か新しい事を出来るようにならないと、上には上がれないか」


 麻美のような天性の物は持っていないけど、私にだって何かあるはずだ。


「今からイタリア戦か……明日の朝のニュースでは結果がわかるかな? 負けるんじゃないよ」




 ☆亜美視点☆


 イタリア戦の朝。

 軽く運動をして、今日の調子を見る。

 体は軽い。 調子も良いね。

 一応、守備的な立ち回りを言い渡されてはいるが、

チャンスがあれば攻撃にも参加する。

 

「イタリアの若き天使か……早く対戦したいなぁ」


 まだ見ぬ強敵との対戦はとても楽しみである。


 今日の試合は10時から。

 朝ご飯を食べた後は、のんびりと過ごした。



 ◆◇◆◇◆◇



 会場に入り、着替えた後は軽くアップを済ませてベンチで一息。

 

「あれが天使かー」


 動画では良くわからなかったけど、見た目も天使のように可愛らしい。

 祖国イタリアでは人気もありそうだ。


「やっぱり滞空時間長いわね」

「うん」

「あれ、空中で止まってるんちゃうの?」


 そんなはずは無いんだけどなぁ。

 どんな人間でも、上昇加速度が0になったらすぐに落下運動に入るもの。

 何か、そう錯覚させるようなカラクリでもあるのだろう。


「どうですか、曽木さん? ここから見て、セッターの癖わかります?」


 宮下さんが訊いているのは、昨夜に判明した腕の角度の事だろう。


「んー、わかるにはわかるけど、瞬時に判断して跳ぶとなると難しいかもねー。 慣れるまではクイック素通し許してね」

「が、頑張って拾います」


 今日も希望ちゃんは大変そうだ。

 あ、私もか。

 希望ちゃんがコートにいない時は、私がリベロの役割を引き受けなきゃいけないんだ。


「よし。 今日勝てば上位8チームの順位決定戦に進める。 勝つぞ!」

「はいっ!」

「行ってこい!」


 監督に促されてコートへ向かう私達。

 私はライト前衛からスタート。

 前には、天使ことアンジェラさんが立っている。

 身長は奈々ちゃんぐらいか。


「piacere」(よろしく)


 とりあえず挨拶しておく。

 すると、アンジェラさんも「piacere」と微笑みながら返してくれた。


「て、天使だよ……」


 さて、サーブは私達日本から。

 奈央ちゃんがパワフルなサーブをお見舞いするが、簡単に拾われる。

 さすが優勝候補。

 1人1人のレベルも高い。


「来るわよ」

「遅らせてジャンプ……」


 トスが上がると、アンジェラさんは相当早くジャンプに入る。


「ん……」


 何か違和感を感じるも、当初の予定通りボールを見て跳ぶ。


「せーの!」


 パァンッ!


「うわわ……巧く当てられた……」


 ボールは、私の手の平に当たりブロックアウトとなったなった。

 タイミングは合ってたので、止めようと思えば何とか止められる。


「……」


 ローテーション中、アンジェラさんがこちらを見て、少し考えるような表情を見せた。

 初見でタイミングを合わされた事に、少々戸惑っているのだろうか。

 それにしても、さっき感じた違和感は何だろう?

 

「来ますわよ」

「あ、うん」


 よし、良くわかんないから、とりあえず後回し。

 プレーに集中するよ。

 お相手さんのサーブ。

 ふんわりとしたフローターサーブだ。

 余裕を持って希望ちゃんが拾う。

 ここはまだ同時連携はしないようだ。

 前衛の私、奈々ちゃん、曽木さんがタイミングをずらして助走。

 トスが上がる。

 私の前に飛んできたボールに合わせて跳ぼうとした時、前に出てきたアンジェラさんが、一足先に跳び上がる。

 あの長い滞空時間は、ブロックでも活きるって事か。

 クイックにも対応出来そうなブロックだよ。

 厄介だね。

 私は構わずに全力ジャンプをする。

 滞空時間は長いけど、高さは私の方が数段高いようだ。

 アンジェラさんは、この長い滞空時間で身長の高いの選手達と戦ってきたんだね。


「はっ!」


 パァンッ!


 ピッ!


「よしっ」


 滞空時間が長かろうが、高さで上回れれば脅威じゃない。

 攻撃はともかく、ブロックは何とかなりそうだ。


「Bravo!」


 私の高さを目の当たりにしたアンジェラさんは、私を称賛した。

 い、良い人だよ。


「ナイス亜美」

「うん」


 ローテーションでサーバーになる。

 さて、今大会中はまだアレを見せてないし、ここはリードも欲しい。


「やりますか、ライン上狙いのカーブサーブ」


 私は軽くボールに回転をかけてトスを上げ、ボールを擦るようにサーブする。

 ボールは、アウトになる軌道で飛んでいき、イタリア陣営もボールを追いかけてはいかない。

 ネットを越えるあたりで、ボールは急に曲がり、際どいコースになる。

 そして気付いた時にはもう手遅れ。


 ピッ!


「ナイスサーブ!」

「相変わらずえげつないサーブやな」

「どういうコントロールしてんだか……」


 弥生ちゃん、曽木さんが呆れたような顔でこちらを見ていた。

 このサーブ、初見なら世界レベルでも通用するんだね。

 とりあえず1ー2となった。

 今度は普通のジャンプサーブで、セッターの足元を狙い打つ。

 これならリベロが拾いに行くのは難しいはず。

 思惑通り、セッターが拾う。

 セッターの代わりに、ブロッカーが上げるようだ。

 私と希望ちゃんは後衛。 クイック警戒だ。

 トスが低い、クイックだ。


 パァンッ!


「っ!」


 ピッ!


 うぅ、わかってても反応できなかった。

 希望ちゃんは反応してダイビングしていたが、一瞬届かなかったようだ。


「ごめん」

「かまへんかまへん。 これはわかっとったことや」

「そうそう」

「そだけど……」


 今回はセットしたのがセッターではなくブロッカーの選手だったため、癖を見て動くという事も出来なかった。

 セッター狙いのサーブは失敗だったよ。


「大丈夫。 反応は出来るから、次は拾うよ」

「多分、私達がクイックを諦めてると思ったはずだから、これからどんどんやってくるね」

「そしたら、セッターの癖を見てコミットブロックね」

「方向性が固まっていい感じやな。 ほな、こっからやで」


 次はお相手さんのサーブ。

 それを私が拾う。


「行きますわよ!」


 出た。 同時高速連携日本ユースバージョン。

 前衛の弥生ちゃん、奈々ちゃん、そして後衛に私が同時に助走、そして同時にジャンプして腕を振る。

 イタリアコートは面食らっていてどこにブロックをつければいいか判断しかねているようだ。

 ボールは奈々ちゃんの手元へ運ばれた。


 パァァン!!


 ピッ!


「……Wao」

「しゃ!!」


 高速連携は完璧に決まった。

 イタリアコートは完全に沈黙してしまっている。

 まだ試合は始まったばかりだけど、ここからだよ。

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