第245話 隠れた趣味

 ☆亜美視点☆


 今日は奈央ちゃんの別荘の近くを流れる川でバーベキュー中。

 2班に分かれて鉄板を囲んでいる。

 だけど、宏ちゃんと遥ちゃんの食べっぷりには脱帽だよ。

 イナゴの様にあっちこっちの鉄板を飛び回っては、食べまくっている。


「2人とも、凄いねぇ……」

「私はもう入らないです……」


 早々にギブアップしたのは渚ちゃん。

 ダイエット中らしいけど、結構食べた方なんじゃないかな?


「私ももうちょっとで限界かな」


 かく言う私も、そろそろお腹は一杯である。

 この後でスイカを食べることも考えると、少し抑えてておくべきだね。


「夕ちゃんももうお腹一杯?」

「んまぁ、まだ食えるけどこれぐらいでいいや」

「うんうん」


 目の前ではまだ宏ちゃんがとうもろこしにかぶりついている。


「うまうま」

「あはは。 これだけ美味しそうに食べてくれる人が旦那さんだったら、毎日料理するのも楽しそうだよ」

「たしかに……」


 私の言葉に紗希ちゃんも賛同。

 奈々ちゃんに訊いてみると──。


「楽しいけど、もうちょっと味わって食べてほしいとも思えるわね」

「そうだよね。 美味しいと思ってくれてるのはわかるけど、なんだかね」


 なるほど、そういう意見もあるんだね。


「今鉄板に乗ってるので終わりよね?」

「うん。 終わりだね」


 持ってきた具材は全部使ってしまったようだ。

 宏ちゃん達が一杯食べると思って多めに持ってきたんだけどなぁ。

 凄いねぇ。


「麻美ちゃんは意外と普通だよね?」

「あはは! 宏太兄ぃみたいには無理だよ。 胃袋どうなってるのかな?」

「見てるだけでお腹一杯になりますね」

「遥とか体重気にならないのかしら……」


 紗希ちゃんが心配している。

 遥ちゃんはジムで筋トレとかやってるみたいだし、大丈夫なのかなぁ?

 結局、宏ちゃんと遥ちゃんの2人が残りを全部食べてしまった。

 あまりにも凄すぎる。

 化け物に認定しちゃうよ。


「よし、じゃあ片付けてちょっと自由行動にしましょう」


 奈央ちゃんの一声で、鉄板や火の後始末、ゴミの片付け等を手分けして進める。

 12人もいれば早いもので、あっという間に片付けが終わった。


「さて、自由行動だけど誰と何をしようかな」


 夕ちゃんと過ごすのも良いし、他の皆と過ごすのも良い。

 ここで恋人優先にならない辺り、私はちょっとおかしいのかな?


「んん?」


 どうしようか考えていると、宏ちゃんが竿を持って川の方へ歩いていくのが見えた。


「ヘー、宏ちゃんって釣りするんだ……どれどれ」


 興味があるので、宏ちゃんの所へ向かう。

 宏ちゃんは、じーっと川を見ながら立っている。

 ポイントを探してるのかな?


「宏ちゃん!」

「ん? 亜美ちゃんか」


 呼びかけると、私の方を振り向いた。


「釣り?」

「おう。 西條が結構釣り人も来るみたいな事言ってたんだ」

「へー。 宏ちゃんって釣りとかするんだね? 私でも知らなかったよ」

「まあ、あんまり人には言ってなかったからなー。 奈々美と付き合う前はちょくちょく行ってたんだが、最近は行けてなかったんだよ」


 そう言って、キャスティングする宏ちゃん。

 何だか様になっている。


「釣りしてるとこなんか見てても面白くないだろう?」

「そんなことはないよ? 知らない宏ちゃんが見れるし」

「別にいつもと変わらないと思うが……」

「まあまあ」


 宏ちゃんは、何度かリールを撒いてはキャスティングを繰り返す。

 すると、途中で動きが変わった。

 どうやら魚が掛かったらしい。


「おお、宏ちゃん頑張れ」

「おう」


 リールを巻いて、少しずつ魚を手繰り寄せて、遂には釣り上げた。


「凄いね、宏ちゃん!」

「いや、まあ大した事じゃないけどな」

「これは?」

「イワナだなぁ」

「イワナなんだねぇ」


 宏ちゃんは、釣るのを楽しむのであって、食べたりはしないらしい。

 キャッチアンドリリースだね。

 宏ちゃんの釣りをしばらく見ていると、数人が興味を持って見にきた。


「宏太、釣りやるんだな?」

「あ、夕ちゃん」

「まあな。 最近は行けてないが」

「釣れるんですか?」


 と、春くんもやって来た。


「さっきイワナを釣ってたよ」

「おお、釣れるんですね」

「佐々木君にこんな取り柄があったのねー」

「神崎、お前は俺を何だと思ってるんだ……」

「そうだよ紗希。 佐々木君だって何かしら取り柄ぐらいあるさ」

「柏原ー、フォローになってねーぞ」


 と、宏ちゃんは笑いながらそう言った。

 宏ちゃんがこういう扱いをされるのは、皆から好かれているからだよね。

 宏ちゃんは、その後も皆にバカにされながらもイワナ等を何度か釣り上げたり、私や紗希ちゃんに釣りを教えたりしてくれた。


 釣りを続ける宏ちゃんから離れて、今度は川に足を浸けて涼んでいる希望ちゃん、奈央ちゃん、渚ちゃんの所へ向かう。


「やほー」

「あ、亜美ちゃんと夕也くんもどう?」

「私達もいるんだけど」

「紗希と柏原君と春人君も涼んでみたら? 気持ち良いわよ」


 と、言われたので、私達は靴を脱いで足を川に浸けてみる。


「うわわ、冷たい」


 思ったより冷たい。

 足を刺すような痛みがあった。

  

「確かに気持ち良いわねー」

「足だけは冷んやりするんですよね」


 と、渚ちゃん。

 そういえば麻美ちゃんはどうしたのかな?

 辺りを見回してもその姿は見えない。

 奈々ちゃんもいないし、一緒にいるのかな?


「あっちで何してたの?」

「宏ちゃんが釣りをしてるのを見てたんだよ」

「あー、そういえば釣りが出来るか聞かれたわね」

「佐々木先輩、釣りやるんですね。 お姉ちゃんも中学時代はよくやってたなぁ。 主にバス釣りやったみたいですけど」


 や、弥生ちゃんって釣りとかするんだ。

 これは意外な事を聞いたよ。


「皆、結構知らない趣味持ってるのねー」

「そう言う紗希は、皆に言ってない趣味とか無いの?」


 と、奈央ちゃんが訊くと、これまたとんでもない返答が帰ってきた。


「コスプレかなー」

「コスプレ?!」


 私もつい声を出して驚いてしまった。

 紗希ちゃんにはそんな趣味があったんだねぇ。


「ちょっと待ってちょ」


 そう言って、紗希ちゃんはスマホを操作し始める。

 そして「ほい」と、スマホをこちらへ向けてきた。

 そこには、メイド服を着た紗希ちゃんやら、よく分からないゴテゴテした服を着てポーズを決めている紗希ちゃんが写っていた。

 か、可愛い。


「凄いな、紗希ちゃん」


 夕ちゃんも絶賛。

 アニメキャラクターのコスプレなんかもしているみたいだ。


「たまにイベントとか言って、撮影会なんかにも参加してるのよ。 裕樹は何回かついて来たわよね」

「あの独特の雰囲気には中々驚いかされたよ……」


 去年の夏に海へ行った時、ミスコンでのアピールに慣れているみたいな事を言ってたのは、こういう経験があったからなんだねぇ。

 これまた意外な事を知れたよ。


「亜美ちゃんや希望ちゃんは無いの? 皆が知らない趣味」

「わ、私は無いかな」


 と、希望ちゃん。

 私も特には無いけど、最近は麻美ちゃんとゲームをするのがちょっとした楽しみではある。

 1日1時間くらいだけどね。

 その話をすると、奈央ちゃんは意外そうに「ゲームなんてするのね」と言った。


「最初はそこまでやる気無かったんだけど、やってみたら結構楽しくてねぇ」

「何の話ー?」


 皆で趣味の話に花を咲かせていると、姿の見えなかった麻美ちゃん、奈々ちゃん、遥ちゃんが後ろからやって来た。

 麻美ちゃんは、手に何か持っているようだけど……。


「皆の意外な趣味について話してたんだよ」

「趣味かー。 私はゲームぐらいかなぁー」

「あんたはそうでしょうね」

「そう言うお姉ちゃんは何かあるの?」


 奈々ちゃんは「んー」と、考えると「特にこれと言ってないけど、歌うのとかは好きよ」と、答えた。

 奈々ちゃんの歌は凄いからね。


「なあ、今度亜美のギターと奈々美の歌でコラボしてくれよ」

「あら、良いわねそれ」

「面白そうだねぇ」


 今までどうして思いつかなかったんだろう。

 それは是非やってみたい。

 皆も聞いてみたいと言ってくれたので、今度練習して皆の前で披露する約束をしたよ。


「清水先輩ギターとかやりはるんですね? 意外過ぎます」

「こいつ、長年皆に黙ってたからな」


 夕ちゃんは、私の頭をわしゃわしゃしながらそう言った。


「べ、別に良いじゃん……あ、そうだ。 麻美ちゃん手に何持ってるの?」


 さっきから気になっていた。

 何やら黒光りしてるけど……。


「これ? じゃん! ヒラタクワガタくんだよ!」

「はぅーっ?!」


 どうやらクワガタムシを持って帰って来たようだ。

 林に入って虫取りをしていたらしい。

 中々のサイズのクワガタを見つけたから持って来たという。

 後で放してあげるらしいけどね。

 虫とかが苦手な希望ちゃんは、ガクガク震えていた。

 その後は皆で別荘内に入り、よく冷えたスイカを食べた後、車に乗り込んで私達の街へ戻った。

 夜には皆で集まって、花火を楽しんだよ。

 夏休みも後数日。

 まだ何か出来ないかな?

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