第244話 川辺でバーベキュー

 ☆奈央視点☆


 今日は8月26日。

 夏祭りの翌日となる。

 皆、先日はあれだけ騒いだというのに、今日は今日でバーベキューへ行くという。

 ということで、ちょっと遠出をして近場の私の別荘へと向かう予定である。

 近くに川が流れているのでバーベキューには最適だ。

 春人君が日本に来ているうちに一杯遊ぼうという亜美ちゃんの提案である。

 たしかに、ちょくちょく遊びには行っているけど、がっつりではなかったわね……。

 いや、私は毎日会ってるんだけど。


「奈央さん、そろそろ皆が来るころでは?」

「そうね。 車を出してもらいましょう」


 内線で車を出すように連絡を入れて、春人君と2人で家の門の前に出る。

 しばらくすると、友人達が徒党を組んでやって来た。

 こうやって見ると怖いわね。


「おはよう皆さん」


 私が挨拶を掛けると、皆揃って挨拶を返してきた。


「もうじき車が来ますから、それに乗ってね」

「え? 車って1台ですか?」


 渚が不思議そうに訊いてくる。

 それ以外の皆は、特に何も言わない。

 どうやら慣れてしまったようね。


「そうよ。 全員乗れるから安心して」

「ど、どんな車なんですか……」

「渚ちゃん、気にしちゃだめだよ」

「そうそう。 この子に一般人の常識は通用しないのよ」

「は、はい」


 まあ、常識離れしている自覚はある。

 一般家庭の人には信じられない事ばかりだろう。

 少しすると、我が家の誇る大人数乗車可能な特別車がやって来た。


「バス……?」

「まぁ似たようなものね。 さぁ乗って」


 今日は、柏原君や麻美、渚も加えた12名。

 増えたものねぇ……。

 皆が思い思いに席に着き、駄弁り始める。

 私の隣は当然春人君なんだけどね。

 シートは回転できるようになっていて、早速前の席の亜美ちゃんと今井君がくるりとこっちに向いてきた。


「やほ、奈央ちゃん、春くん」

「おっす」


 と、笑顔で挨拶してくる2人。

 さらに通路挟んだ隣の席からは、希望ちゃんと麻美が声を掛けてくる。


「今日はありがとね、奈央ちゃん」

「え? 何が?」

「バーベキューの企画を考えてくれて」


 亜美ちゃんがそんな事で私にお礼を言ってくる。


「別にお礼なんていらないのに。 私だって皆と遊びたいと思ってるのよ? 亜美ちゃんに頼まれなくてもきっと企画してたわ」


 これは事実である。

 元々、夏休み中にバーベキューへ行く企画は考えていた。


「そうなんだ。 でも、いつも奈央ちゃん頼りでごめんね」

「もう……好きでやってるんだから気にしないの」

「奈央ちゃん……」


 まったく亜美ちゃんったら……。

 こんなことばかり気にするんだから。


「そうだ。 春くんは向こうではバスケ続けてるの?」

「はい。 学校の方で部活に入りました」

「ほう。 やっぱり向こうはレベル高いのか?」


 今井君が話しに食い付く。バスケの話題になると反応良いのね。


「うちの学校はそこまでではないですね。 月ノ木の方がレベルは上でしょうか。 ただ、全体としてはやはり日本より上ですね」

「なるほど。 さすが本場だな」

「ね、ねぇ、バスケしに渡米するとか言わないよね?」


 亜美ちゃんが心配そうに今井君に訊ねると、今井君は「考えてないな」と、応えた。

 私達もそうだけど、バレーは高校で終わり。

 今井君もそうなんだろう。


「バレーボールはどうかな?」


 と、通路の向こうから希望ちゃん。

 アメリカといえば、世界選手権に出てくる。

 確かに気になる。


「詳しくはわかりませんね。 特に皆さんの世代のプレーヤーの事は……」

「そっかぁ」


 その後も、春人君と話をしたり、紗希がやってきてトランプで遊んだりしながら、目的地に到着するまでの時間を楽しんだ。



 ◆◇◆◇◆◇



 2時間程走って、ようやく目的地である川辺の別荘に到着した。

 今回は泊まりというわけではないので、別荘内には荷物を置いたり、バーベキュー後の休憩に使う程度。


「荷物置いたら早速始めるわよ」


 私の言葉に、11人が元気に返事した。


 荷物を別荘内に置いた後は、皆で川辺に移動してバーベキューの準備を始める。

 火を点けて鉄板を準備。

 下ごしらえを済ませた具材をクーラーボックスから取り出す。


「柏原君、そっちの方にも具材渡すから並べていってくれる?」

「了解」


 ちょっと人数が多いので2グループに分かれてのバーベキュー。

 まあ、鉄板間の移動はご自由にということにしているけど。


「奈央、早く早く」

「急かしなさなんな」


 遥が早くしろと急かしてくるが、焦らず火の通りにくい物から鉄板に並べていく。


「肉!」

「宏ちゃん、まだ生焼けだよ」

「ま、まだか」


 ここにも急かしてくるのがいたわね……。

 こっちの鉄板には、大食いの佐々木君に遥、亜美ちゃん、春人君、渚、私がいる。

 残りはあっちの鉄板。


「宏ちゃんと遥ちゃんがいるとあっという間に無くなりそうだね」

「食欲すごいですもんね、佐々木先輩と、蒼井先輩」

「そうなのよねー。 春人君を見習ってほしいわ」

「春くんは食べなさ過ぎだよ」


 と、留学中に春人君のご飯も作っていた亜美ちゃんが言う。

 春人君は確かに少食だ。

 今は私の家で過ごしているが、食事の量はいつも少な目にしてもらっているほど。


「昔からあまり食べられないんですよ」

「ダメだぞ。 男ならちゃんと食え」


 佐々木君は無茶振りを……。

 春人君の自由じゃないのよ。


「あ、そろそろ焼けてきたよ」

「お、そうかい! じゃあいただきます!」

「おう、食うぞぉ!」


 言うや否や、遥と佐々木君が凄い勢いでお肉を取り出す。


「こら! 私達の分もあるんだからね!」

「わーってるわーってる!」

「本当かしらね。 あ、春人君も渚も亜美ちゃんも食べてね」

「はい」

「うんうん」


 佐々木君達が結構取ってしまったが、残っている分を私達で仲良く分ける。


「んむんむ。 おいひぃ」

「そうですね」

「やっぱり外で食べるんは良いですね。 ちょっと暑いけど」

「真夏だしね。 あとで川で涼みましょ。 あ、そうだ……スイカ冷やしておかないと」

「スイカもあんのか?!」

「バーベキューのあとでね」


 私は別荘からスイカを3玉持って来て、川の水で冷やしておく。

 その間に、亜美ちゃんが次のお肉や野菜を鉄板に乗せてくれていた。

 っていうか、佐々木君と遥は鉄板の食材を食べ尽くしたら、すぐさま隣の鉄板に移動してしまったようだ。


「まるでイナゴね……」

「あははは、そうだね」

「凄い食欲やなぁ……」

「渚さんも小食なんですね?」


 と、春人君が渚の皿を見て言う。


「ダ、ダイエットです」

「ええー、渚ちゃんには必要ないと思うけどなぁ」


 ふむ……。 確かに、渚の体を見るに、そこまで気にする事は無いと思うけど。

 まぁ、本人が納得いかないなら納得のいくまでダイエットすればいいと思う。


「食べて体力付けないと、バレーボールの練習についてこれないよ?」

「そ、それはそうなんですけど、女子としては譲れんと言いますか……」

「わからなくもないわよ。 私もダイエットした方が良いかなとか考えるもの」

「奈央ちゃんこそ必要ないよ……もっといっぱい食べて大きくなったほうがいいよ」

「小さくて悪かったわね!」


 身長はいいけど胸が小さいのだけは気にしてるのよね。

 こんなの恥ずかしくて春人君に見せられないわよ。


「ダメダメー。 奈央って食べた栄養何処に行ってるのか知らないけど、全然成長しないもの」


 後ろから紗希が話に加わってきた。

 佐々木君、遥から避難してきたのであろう。

 ちょっとした災害ね、あの2人は。


「ていうか何気に酷いわね、紗希」

「だって事実じゃんー」


 うぐ……確かにその通りなんだけど腹立つわね。

 

「まぁでも、奈央は今のサイズが丁度いいから大きくなんなくていいわよ」

「紗希と並ぶと大人と子供みたいでなんだか嫌なのよねぇ」

「あー、たしかにそう見えるね」

「ほんまですね……」


 やっぱりもうちょっと大きくなりたいと思う私であった。

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