第236話 皆とウォータースライダー

 ☆夕也視点☆


 プールに遊びに来たはいいが、何故か俺は女子6人と順番にウォータースライダーをすることになった。

 6回もやるのか……。

 トップバッターは麻美ちゃんである。

 先程、激流で楽しそうに遊んでいたが、この子は疲れというものを知らないのだろうか?

 2人で並んで順番を待っている間、少し会話をする。


「麻美ちゃんは元気だよな」

「それだけが取り柄だからねー」

「それだけってことは無いだろ」

「例えばー?」


 ふうむ……。


「頑張り屋なとことか、あとゲーム上手いとことか」

「ゲームを取り柄って言われてもなー……」

「ははは。 まだオンラインゲームとかやってるのか?」

「うんー。 夕也兄ぃもやりなよー」

「俺は根気が無いからダメだ」


 多分すぐ飽きてやめてしまうだろう。

 麻美ちゃんは「残念」と言って唇を尖らせる。

 可愛い子だな。


「悪いな」


 お詫びと言ってはなんだが、頭を撫でてやる。

 すると、麻美ちゃんはジト目になってこっちを見る。

 な、なんだ? 子供扱いするなってことか?


「夕也兄ぃは相変わらずだね……何人の女の子泣かせるつもりなんだか……」

「うっ……」


 そういえばさっきも紗希ちゃんに「優しいのは良いけど勘違いさせるようなことするな」とか言われたな……。

 しかし、別に軽いスキンシップだし良くないか……?


「はぁ……私は別に良いけどねー? 渚とか純粋な子だから程々にねー?」

「お、おう……」


 すでに先程、頭を撫でたとは言えないよな。

 これは隠しておこう。


「順番来たよー」

「おう」


 ようやく1回目のウォータースライダーである。


「夕也兄ぃは私の事妹みたいに思ってるでしょ?」

「ん? そうだな」


 小さな頃はよくつるんで遊んでたが、1つ年下という事で俺達の妹分的な存在だった。

 それは、麻美ちゃんの俺に対する気持ちを知ってからも変わっていない。


「ま、そーだよねー」

「次の方達どーぞー」

「はーい! 夕也兄ぃ行こ」

「あぁ……」

「素敵なカップルですねー」

「あー兄妹ですー」

「え?」


 麻美ちゃんはそう言って、前に座る。


「ではいってらっしゃーい!」


 背中を押されて、スタートする。

 グネグネと滑り落ちる中、麻美ちゃんはひときわ大きな声で叫ぶように言った。


「夕也兄ぃ、だーい好き―!!」


 ザバァァァン!

 

 次の瞬間、一番下まで滑り降りてプールに突っ込んだ。

 大好きか……。 その気持ちの応えてやれない事を、本当に申し訳なく思う。

 すぐに水面に上がり、麻美ちゃんを探す。

 すると、水中をゆっくり泳いで近付いてくる姿が見えた。

 そして、俺の前に来ると──。


 ザバァァァン!


 麻美ちゃんが飛び出してきて、抱きついてきた。


「お、おい……」

「……どうせなら女の子として見てほしいかなぁ。 小さかった頃はそれでもよかったけど、私も高校生だよー?」

「……いや、それはそうだけどな。 俺にはもう亜美って言う恋人がいるし」

「わかってるよー。 亜美姉には勝てないもん。 それでも妹扱いは脱却したいかなーって」


 妹扱い脱却ってどうすればいいんだよ……。

 今まで妹として見て来たから、急にそう言われても困るんだよな。


「まぁ、とりあえず。 んっ」

「ぬんっ?!」


 不意打ちでキスされてしまった。

 おいおい、他の客もいるってのに何やってんだ麻美ちゃん。


「あははは、これでちょっとは意識してくれたー?」

「あのなぁ」

「むう! 意識してくれるまで何回でもやっちゃうよー? 別に亜美姉と別れろとか、私と付き合ってほしいってわけじゃないんだからさー」

「わかったわかった! 妹卒業!」

「やったー!」


 なんだかややこしいことになってしまった……。

 ふと痛い視線を感じてプ-ルサイドの方を見てみると……。


 ゴォォォォォ!


「うっ……」


 亜美が物凄い形相でこちらを見ていた。

 希望もちょっと怒っているように見えるが、元がタレ目なのでよくわからない。


 戻って亜美に平謝りして機嫌を取ってから、次は紗希ちゃんと一緒にウォータースライダーへ。

 というか、亜美も怒るなら俺じゃなくて麻美ちゃんに怒れよなぁ。


「モテる男は大変だねー」


 と、紗希ちゃん。


「そうなんだよなー」

「きゃはは、謙遜しないんだねー」

「ふっ……事実故」


 俺は髪を掻き上げて、キザっぽく振る舞う。

 すると、紗希ちゃんは大爆笑しながら「面白いね、今井君はー」と背中を叩いてきた。

 痛いんだよなぁ。

 先程と同じように順番待ちをしながら紗希ちゃんと話をする。


「柏原君は今日は来れなかったのか?」

「誘ったんだけど、夏期講習がどうのって言って無理だったわ」

「そうかぁ。 なんていうか大変だな彼も」

「そうねー。 でも成績下がると別れさせられちゃうし、我慢しないとねー」

「うむうむ、偉い偉い」


 自分とほとんど変わらない身長の紗希ちゃんの頭を撫でる。

 身長高くて、ナイスバディとかモデルにでもなれるんじゃないだろうか。

 おまけに美人だ。


「今井君、さっきも言ったけどねー」

「うぉ、しまった……」


 女の子を勘違いさせるような事をするなって言われたじゃねーか。

 つーかこれもう癖だな。


「私は勘違いしたりしないけどさー」

「柏原君いるもんな」

「それもあるけどさー、私の今井君への好感度は結構高いからねー」

「え?」


 そういえば、俺の事は「お気に入り」なんだったか?


「今井君はなんだかんだ言って、私の相談も乗ってくれるし、ちゃんと力にもなってくれるし感謝してるのよー?」

「お、おう」

「ふふ、本気になっても良いかもとか思った事あるんだからね」

「いやいや……それはダメだろ」

「そうだけど、それぐらいは気に入ってるってこと―」


 などと話していると、順番が回ってきた。

 先ほどのお姉さんは、俺が違う女の子と一緒にいるのを見てジト目になっていた。


「彼女さんですかー?」


 なんでそんなこと訊くんだよ……。


「きゃははー、ただの友達ですよー」


 紗希ちゃんは笑い飛ばしながらそう言って、俺の前に座る。

 スタッフのお姉さんが背中を押してスタート。

 あと4回これやるのか……。


 ウォータースライダーを滑りながら、紗希ちゃんが大声で俺を呼んだ。


「今井君ー!」

「ん?」

「この間はありがとうねー!」


 相談に乗ったことだろうか。

 そんなこと、友達なら普通じゃないのか?


「気にすんなー!」


 ザバァァン!


 スライダーからプールへ飛び込む。

 んんー、なんだ? 紗希ちゃんが抱き付いてきて身動きが取れねぇ。


「ぶくぶくぶく」

「ぶくぶく」


 水中で会話を試みるも当然無理である。

 とにかく引き離さねば……。


「ぶくぶ……んんっ!?」

「んん……」


 な、何故か紗希ちゃんからもキスをされてしまった。

 今日はどうなってるんだ……。

 そのまま水面に浮上すると、先程よりもさらに痛い視線を感じる。

 恐る恐るそっちを見てみると……。


 ゴォォォォォ……バチバチバチ……


 亜美がオーラだけでなくスパークまで発生させている。

 スーパーなんとか人2になったみたいである。

 例によって、亜美に平謝りして許しを請う。

 今回は紗希ちゃんも謝罪してくれて、何とか丸く収まった。

 今日は一体どうしたというのだろうか……。

 次は希望の番である……希望も何かやらかさないだろうなー……まさかなー?

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