第237話 続・皆とウォータースライダー

 ☆夕也視点☆


 プールでウォータースライダーを周回しているのだが、麻美ちゃんからも紗希ちゃんからも、不意打ちを食らってしまい戸惑っている。

 そんな中、3番目は希望。

 こいつはこいつで、何かやってきそうな気はするが……。


「どうしたの夕也くん?」

「いや、なんでもないっす」

「そう? それにしても、麻美ちゃんも紗希ちゃんもびっくりしたね?」

「本当になぁ」

「麻美ちゃんなんて、アレ絶対初めてだよ」

「なぬっ?! そんな大事なもんをあんな風に……」

「でも、満足そうだったよ? やっぱり初めては好きな人が良いって事だねっ」


 はぁ……でもまあ、麻美ちゃんは俺と付き合うというのは諦めているようだし、奪い合いになったりはしないだろう。

 紗希ちゃんも恋人がいるしな。


「ところでな?」

「何かな?」


 ウォータースライダーの列にならびながら、気になっていた事を訊いてみる。


「希望はウォータースライダーとか平気だったか?」

「はぅっ……実は、あの場のノリでつい……」

「やっぱりなぁ」


 希望はちょっとした物でも怖がる奴だ。

 ウォータースライダーのようなスピード系アトラクションも苦手である。


「ゆ、夕也くんが抱き締めてくれてればぁ……」


 と、希望さん。

 また亜美が怒りそうな展開になりそうだぞ。

 ここは引き返した方が──。


「次の方達どーぞー」

「夕也くん、行くよ」

「へい……」


 逃げる術を失った。

 三度俺を見たスタッフのお姉さんは、何とも言えない表情で見ている。


「か、彼女さんですか?」


 だから何故一々訊いてくるんだよ……。


「元彼女ですっ」

「は、はぁ……」


 希望が前に座り、その後に腰掛けて希望の腰に手を回す。

 相変わらず細いなぁ。


「では、いってらっしゃい!」


 背中を押されてスタート。

 

「は、はぅーっ!? 助けてー!」


 希望は、いきなりパニックになり、終始叫び倒しながら最後はプールに突っ込んだ。


「はぅはぅ……死ぬかと思ったよ」

「こんなんで死ぬかよ」


 まったく、こいつは変わらんなぁ。

 プールサイドに上がり、皆に馬鹿にされる希望を置いて、次の子は……。


「ほら、渚だよ?」

「や、やっぱりパス」

「何で? 勿体無い」

「ほ、ほれ、清水先輩かて待ってはるし」


 はぁ、しょうがないなー。

 俺は、問答無用で渚ちゃんの手を取り、ウォータースライダーへ向かう。


「夕也兄ぃナイスゥ」

「いってらっしゃいー」

「ちょっとーっ?!」


 ウォータースライダーの列に到着して手を離すと、渚ちゃんが騒ぎ出した。


「パスって言うたやないですかー」

「せっかくなんだから楽しもうぜ」

「うっ……ズルイはこの先輩……」


 良く聞こえなかったので、聞き返したが「何でもないです」とはぐらかされた。

 観念したのか、溜め息をついた渚ちゃん。


「はぁ……今日はサーフィン教えてもろて、ほんまおおきにでした」

「おう。 出来るようになって良かったな」

「はい」

「そういえば、最近は京都弁っていうのか?

 そういう感じで砕けた話し方をするようになったな?」

「慣れてきたんやと思います。 親しい人と話すときは自然と出るんです」

「なるほど。 親しい人になったわけだ」

「っ!?」


 渚ちゃんは、照れて赤くなり俯いてしまった。

 中々可愛い反応するな。


「先輩はもうちょっと、考えてから発言したり行動したりした方がええと思います」

「はっ……まさか、また勘違いさせるような発言をしてしまったのか?! すまん!」

「あ、いや……別にええんですけど」


 いかんな……。

 まったく意識してない発言でも、女性にとってはキュンときてしまうような台詞を、平然と吐いてしまっているらしい。

 昔から奈々美や亜美にも指摘されていたが、未だに治らない。


「次の……方ー」


 順番が回ってきたようだ。

 何故か一瞬言葉が止まっていたような気がするが。


「か、彼女さん……じゃないですよね?」

「ち、ちゃいます! 後輩です!」


 彼女かどうか訊かなければならないと、マニュアルかなんかに書いてあるのか?


「い、いってらっしゃいー」


 スライダースタート。

 さすがに4回目ともなると、新鮮味も何もない。

 まあ、前に座る女の子が毎回変わるが。


 ザバァァァン!


 渚ちゃんは、特に何かをするでもなく、お礼だけを述べてそそくさとプールから上がってしまった。

 後2回か。

 そろそろスタッフのお姉さんから白い目で見られそうだ。


「んじゃ、行きましょうか?」

「奈々美、宏太はどうしたんだよ?」

「あいつ? 春人とサウナ行ったわよ? 私は嫌だからこっちに来たの。 ほら、行くわよ」

「お、おう」


 奈々美に手をひかれて、5回目のウォータースライダーへ。

 亜美が早く早くと急かしてきて仕方ない。


「それにしても、お前は別に俺とウォータースライダーなんて滑りたくないだろ?」

「そんな事無いわよ?」


 奈々美は、普通にそう言って笑った。

 こいつはこいつで良くわからん。

 宏太と付き合う前は、別に俺と付き合っても良いなんて言ってたっけな。


「まさか、今でも俺と付き合っても良いなんて思ってないよな」


 冗談っぽく訊いてやると、奈々美はこちらを見ずに、さも当たり前のように言った。


「思ってるわよ? 私、あんたの事は好きだもの」

「お、おい……」

「ふふふ。 ただ、亜美が怒るからそれは無理だけどね」

「宏太には怒られないのか?」

「あいつは怒んないと思うわよ。 私の好きにすれば良いって感じじゃないかしら」

「確かにそれっぽいな」

「下りたら麻美とか紗希みたいにキスしたげよっか? 舌も入れたげるわよ?」

「遠慮する」

「つれないわねー」


 と、苦笑した。


「次の方ー。 はいはい、彼女さんですか?」


 何かもう適当になってるぞ、スタッフのお姉さん。


「幼馴染です」

「そうですかー。 はい、いってらっしゃい」


 スライダーを滑り出し、奈々美は大いに楽しんでいた。

 滑り下りた後、奈々美にも抱き付かれて亜美を怒らせた。

 俺は悪くないんだが……。


 で、最後は亜美とウォータースライダーだ。

 6回目である。


「待ちかねたよ!」

「あはは、亜美ちゃんってばずっとウズウズしてたもんね」

「だって、皆して好き放題夕ちゃんとイチャつくんだもん……気が気じゃなかったよ」

「わ、私は何もしてへんですよ……」


 と、渚ちゃん。

 

「さあ、行くよ夕ちゃん!」

「わかったから引っ張るなー」


 亜美に引っ張られて、もはや常連となってしまった列に並ぶ。

 スタッフのお姉さん、次はどんな反応をするだろうか。


「皆、夕ちゃんが好きなんだねぇ」

「形はどうあれ、好かれるのは嬉しいもんだ」


 憧れ、友人、愛、先輩後輩、腐れ縁……。

 色んな形があるもんだな。


「私のは純粋な愛だよ」

「知ってる」


 亜美は嬉しそうに微笑むと、手を握ってきた。

 小さな頃から、ずっと一緒に育ってきた大事な人。


「次の方ー。 はい、友達ですね?」

「「恋人です」」

「えぇ……」


 何故ここに来て、彼女かどうか訊くのをやめたんだよ。

 何かすこし不機嫌そうになりながらも.毎度のように「いってらっしゃい」と、背中を押すのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 プールでしこたま遊んだ俺達は、今日は解散。

 また後日、集まって何処かへ遊びに行こうということになった。

 今度は何処へ行くのやら……。

 

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