第225話 始まりは……

 ☆亜美視点☆


 決勝トーナメント2回戦を何とか勝って、ホテルに帰って来た私達。

 次の対戦相手が決まる試合は、後輩達がビデオに撮ってきてくれるらしい。

 夜にはミーティングがあるので、それまで少し仮眠をすることにした。


「疲れたよぉ……」


 ベッドへ飛び込むと、私はすぐに眠りについた。



 ◆◇◆◇◆◇



 私は夢を見ているようだ。

 これは小学生の頃の夢かなぁ?

 奈々ちゃんの家の人達と、海水浴へ行った時の夢っぽい。

 何となく記憶にある。

 この日、私は初めてバレーボールというものに触れたんだっけ。

 ビーチだったけど。


「……」

「どうしたの、亜美ー?」

「あれ、バレーボール?」


 砂浜にはネットが設置されていて「ビーチバレーボール大会子供の部」と書かれた幕がたなびいていた。


「そうみたい」

「奈々ちゃんっ! 出てみよう!」

「えぇ……亜美も私もやったことないし、ルールも知らないし」

「良いじゃん負けてもー」

「しょうがないわねー」


 そうそう……結局1回戦で負けたんだっけ。

 でも、楽しかったんだよね。

 だから、その海水浴の翌日から、私はバレーボールの事を勉強し始めたんだっけ。

 奈々美ちゃんも興味持ってくれて、2人で練習したりして……。

 クラブチームとかには入らなかったけど、たまに大人の練習にも参加したねぇ。


 中学に入って、希望ちゃんが私と一緒にやりたいと言い、3人でバレーボール部に入部した。

 同期に紗希ちゃんと遥ちゃんがいて、凄く上手だった。

 途中から奈央ちゃんも入部してきて、今のメンバーが揃ったんだよね。


 もしあの時……ビーチバレーをやってなかったら……今頃は何をしていたんだろう……。



 ◆◇◆◇◆◇



「亜美、起きなさい」

「あぅ……」


 名前を呼ばれて目を開けると、奈々ちゃんがベッドの横に立っていた。


「んーっ……」


 大きく体を逸らして体を伸ばす。


「ミーティング前に夕食行きましょ」


 時計を見ると18時。

 それなりに寝ていたらしい。


「うん」


 ベッドから立ち上がり、奈々ちゃんと部屋を出る。


「昔の夢?」

「うん。 奈々ちゃん家の人達と海水浴行った時の夢」

「あー、あったわねー。 小5ぐらいだっけ? あの時ビーチバレーしたのが始まりよね」

「そうそう!」

「1回戦でボロ負けしたわよね」

「うんうん」


 ちゃんと奈々ちゃんも覚えていてくれたようだ。

 

「あの時、ビーチバレーに出会ってなかったらどうなってたかな?」

「さぁ……遅かれ早かれ、バレーボールに興味持ってたんじゃない?」

「結局、今みたいに皆でバレーボールしてるかもって事?」

「そういう事。 その方がなんか良いじゃない?」

「あはは、そだねぇ」


 そんな話をしながらロビーへ行くと、皆が私と奈々ちゃんを待っていた。


「来た来た。 早くしないと時間無くなるわよー」

「ごめんー。 寝てたよぉ」

「疲れたもんねー」


 皆で並んでホテルを出て、近くにあるというお好み焼き屋さんへと向かう。


「そうそう。 明後日の次の相手は山形の霧山第一女子になったわよ」

「山形かぁ」


 正直言って、都姫女子や大阪銀光に比べればレベルは落ちる。

 が、ここまで残っているチームだし、油断は出来ないね。

 

 レストランに到着すると、入り口の前で京都立華のレギュラー御一行とばったり遭遇。


「おお?」

「なんやなんや。 あんさんらもここで晩飯かいな」

「そうよ」


 早速、弥生ちゃんと奈々ちゃんが会話を始める。

 渚ちゃんは、黙って後ろで立っているねぇ。 話す事とかは無いのかな?


「店の入り口で立ち話してたら、他のお客さんに邪魔だし入りましょ」

「そやな」


 何人ぐらいいるかわからないけど、とにかく団体さんでお好み焼き屋に入店した。

 弥生ちゃん達とは、すぐに別れて席へ着く。

 別れる際「あとでちょっと話しようや」と言われたのでOKしておいたよ。


「大阪のお好み焼き……初めてだね、亜美ちゃん」

「うん」


 他の皆も食べた事は無いらしいが、奈央ちゃんだけは何度か食べたことがあるらしい。

 きっと大阪にも色々と西條グループの手が伸びてるんだろうねぇ。

 それぞれ食べたいものを注文すると、店員さんが鉄板に火を入れてくれる。

 私達がお好み役初心者であることを伝えると、丁寧に焼き方を教えながら一枚焼いて見せてくれた。


「ありがとうございました」


 とりあえず焼いてみる事に。


 ジュー……


「はむはむ……美味しいわね」


 店員さんが焼いてくれた小さなお好み焼きを、奈央ちゃんが頬張る。

 あんな風に焼けるかなー。


「むぅ……」


 ちゃんと焼けてるかな……。


「亜美、そろそろいいんじゃないの?」

「よぉし!」


 私はお好み焼きをひっくり返してみる。

 綺麗に焼けていて、とても美味しそうだよ。


「大成功じゃないこれ?」

「うんうん。 さっすが亜美姉! お好み焼きも天才!」

「お好み焼きの天才ってなんやの……」


 麻美ちゃんの言葉に渚ちゃんも呆れている。

 とりあえず、焼き方はわかったので私と奈央ちゃんで皆の分も焼いて行く。

 中々自分の分が食べられないよ。


「ごめんね亜美ちゃん」

「大丈夫だよぉ」


 2人で8人分を焼くので4:4で焼けばOK。 私は3枚目に取り掛かるのだった。


 全員分を焼き終えて、ようやく最後に自分の分を焼きお好み焼きを食べる。


「美味しいっ」

「そうね。 これは向こうに帰っても作って食べてみたいわ」

「うんうん」


 レパートリーに入れてみよう。

 それにしても美味しい。

 粉を溶いて焼いただけなのに、どうしてこんなに美味しいのかなぁ。

 

 皆でゆっくりとお好み焼きを楽しんでお店を出ると、弥生ちゃんが待っていた。

 あ、待たせてたんだっけ。


「ごめん弥生ちゃん!」

「かまへんよ」


 歩きながら話そうという事になり、私達の集団に弥生ちゃんが加わる。

 渚ちゃんの隣に移動した弥生ちゃん。 渚ちゃんも少し嬉しそうである。

 以前電話でも聞いたけど、仲の良い姉妹なんだね。


「月ノ木は大阪銀光に勝ったんやて? 東京の都姫女子と大阪の銀光とまぁ、強豪と連戦ご苦労さんやで」

「本当に大変だったよ」

「せやろなぁ。 せやけど、もしかしたら大阪には負けるんちゃうかと思ってたんやけど」

「あら、そうなの?」

「正直言うと、ウチらはあんさんらより大阪の方が怖かったんよ。 せやから、大阪倒してくれておおきにやで」


 と、笑いながらそう言う。

 たしかに大阪の攻撃は厄介だからね。

 私達だって、まともに止められたの麻美ちゃんだけだったし。


「それって、私達には勝てるって事?」

「大阪よりは楽な相手やと思ってるだけや」

「1回も勝てたことない癖に……」

「それ言わんといてや……」

「あはははは!」


 全員で大笑いする。

 でもそっか。 うちより大阪を警戒してたんだねー弥生ちゃん。


「まぁでも、あんさんらが勝ち上がってくれて良かったわ」

「大阪より楽だもんねぇ」

「それもやけどな……あんさんらを倒すのは、ウチら京都立華以外にはおらんと思うてるからや」


 ライバル校として、何度も頂上対決をしてきたからこそ、誰にも譲れないという事なのだろう。


「せやから、決勝まで負けんときや?」

「そっちこそ」


 私達は、お互いに握手を交わす。


「まぁ、噂によると月ノ木もあの高速連携取り入れたっちゅう話やし……大阪より厄介になったかもなぁ。 ほな、ミーティングあるさかい帰るわ」

「うん。 じゃあね」


 弥生ちゃんと手を振り、そのまま別れた。

 決勝で会おうね弥生ちゃん。

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