第226話 敵情視察

 ☆亜美視点☆


 今日、私達の試合はお休み。

 強豪と連戦して疲れた体を、ゆっくりと休めたいとこだけど──。


「ということで、今から敵情視察に向かいます」


 朝のミーティングで、部長がそんな事を言い出した。

 今日の準々決勝第1試合を観戦に行くということらしい。

 今日の第1試合というと……京都立華と岡山の桃城高校の試合。

 なるほど、京都立華の視察というわけだね。


「キャップー、強制参加ですかー?」

「強制です!」

「横暴よー!」

「ええい、良いからついてくる!」


 遥ちゃんと紗希ちゃんは文句を言いながらも、渋々ついてくるようだ。

 とにかく、試合が行われる体育館へと移動することにした。

 弥生ちゃんもそうだけど、キャミィさんがどれくらい成長したかを見ておかないとね。



 ◆◇◆◇◆◇



 体育館について観客席へ座ると、周囲がざわつき始める。


「あれ、月学じゃない?」

「本当だ。 偵察かな?」


 ざわざわ……。


「あはは……やっぱり目立つね」

「まあ、仕方ないでしょ」


 まだ試合は始まってないみたいだねぇ。

 ベンチに集まって作戦会議中かな?

 と、騒ぎに気付いたみたいで、こちらを見上げる選手達。


「……」

「……」


 弥生ちゃんと目が合う。

 見させてもらうよ、今年の立華の戦い方を。


 スタメンには弥生ちゃん、キャミィさんも入ってるようだね。


「お姉ちゃん……」


 ここにも、弥生ちゃんを強烈に意識している子がいるよ。

 早く直接対決したいよね、渚ちゃん。


「試合始まるわよ」


 奈々ちゃんに促され、試合に集中することにする。

 まずは岡山のサーブだね。

 山なりのフローターサーブがキャミィさんの方へ飛んで行く。

 春高の時のキャミィさんなら、狼狽えてまともに拾えなかったけど……。


「上手くなってるね」

「厄介ねぇ、あれがバレーボール覚えると」


 冷静にレシーブを上げていた。

 これはもう素人とは呼べないねぇ。

 立派なバレーボール選手だよ。


 眞鍋さんがトスを上げて、弥生ちゃんが決める基本の攻撃パターン。

 うん、綺麗な攻撃だよ。


「どう清水さん?」

「このワンプレー見ただけでも、春より強くなってるってわかります」

「そうねぇ。 特にキャミィね。 春とは別人よアレ」


 相手のスパイクも、キャミィさんの高いブロックで悠々と落としている。

 ここからじゃわかりにくいけど、高さも春より高くなっているかもしれない。


「これは、あの高速連携で揺さぶるしかなさそうですわね」

「そうだね」


 さらに特筆すべき点は、攻撃面。

 春高の時は、キャミィさんのスパイクはタイミングさえ合わなければ威力が出なかったんだけど、しっかりその弱点を克服しているようだよ。

 これは攻防に隙が見当たらなくなった。


「戦ってみないと何とも言えないけど、今までで一番強いかもしれないわねー」


 私もそう感じていたけど、紗希ちゃんもそう感じるようだ。

 勝てるかどうかわからないね。


「まぁ、まずは私達も準々決勝勝ち上がらないとダメだけどなぁ」


 遥ちゃんの言う通りで、京都立華と対戦するには決勝まで行かなきゃいけない。

 私達だって、この先勝ち上がれる保証はないんだ。


「……あの留学生さん、パワーはあるけど攻撃が単調だねー。 パワーだけで押そうとするタイプだ」


 と、麻美ちゃんが分析を始める。

 ここから1回スパイクを見ただけでそこまでわかる?

 やっぱりこの子は謎だよ。


「渚と同じだー」

「うぐっ」


 渚ちゃんは言葉を詰まらせる。


「でも、渚ちゃんも私や奈々ちゃんから空中戦学んで、良くはなってるよ?」

「そうね。 ちょっとはだけど」

「ちょ、ちょっとですか……」


 せっかく私がフォローしたのに、奈々ちゃんがまた落ち込ませちゃったよ。


「んー、なんとか止められるかなー?」

「え? キャミィさんのスパイク止めれる?」

「多分だけどー」


 ど、どうしてそんなに自信あるの麻美ちゃん。

 キャミィさんのスパイクは本当に強烈だったよ。

 来るコースがわかってても、簡単に止められる代物じゃないと思うけど……。

 麻美ちゃんには何か見えてるんだろうか?


 試合の方は、立華優勢で進んでいく。

 攻撃は弥生ちゃん中心にキャミィさんも参加して高火力叩き出している。

 やっぱりあの威力は脅威だと思うけどなぁ。

 麻美ちゃんはじーっと、立華の攻撃を凝視している。

 もしかしたら、こうやって頭の中でシミュレートしているのかもしれない。


「遥ちゃんはあれ止めれそう?」

「春は良い様にやられたからね。 今回は止めるよ」

「頼もしいねぇ、うちのブロッカーは」


 って、ブロッカーにばかり頼ってられないよね。

 私や奈々ちゃんだって、あのスパイクを止められるようにしておかないと。

 その後も試合は立華ペースで進んでいき、セットカウント2-0で準決勝進出を決めるのだった。


「やっぱり強いね、立華」

「今年の決勝もあそこで決まりそうねぇ」

「うん」


 大番狂わせは無さそうだね。

 さて、逆に私達が大番狂わせに遭わないように気を付けないといけないよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日の準々決勝をストレートで勝利して、準決勝に進んだ。

 同日の午後から準決勝が行われたが、そこもストレート勝ちを収めた。

 これで決勝進出。

 京都立華も同じく決勝進出を決めていたので、ここに3度目の直接対決が実現するのだった。

 明日の最終日の午後……楽しみだよ。


 で、その夜のミーティング。


「えー、明日で最後、決勝戦となります。 相手はおなじみの京都立華。 スタメンは2年主体でいきたいと、思ってるんだけど……」

「はいーっ!」


 麻美ちゃんが元気よく手を上げる。


「はい、藍沢麻美さん」

「私を使ってください!」


 うわわ、自己申告したよ。

 そんなに自信があるんだろうか……。


「んー……確かに、大阪銀光戦では大活躍だったけど」


 キャプテンは頭を悩ませているようで、一応顧問で監督である先生の方をチラリと見る。

 ただ、お飾りの監督なので大して意味は無かった。


「これは冒険ねー」

「ダ、ダメですか?」


 キャプテンが出した結論は……


「蒼井さん、良い?」

「私は構いませんよー」

「わかったわ。 MBのスタメンは藍沢麻美さんでいきます。 でもちょっと無理そうだと思ったら蒼井さんに替えるわよ?」

「はいっ!」


 凄いなぁ、通しちゃったよ……。

 と、感心していると……。


「はいっ!」

「はぁ……はい、月島さん」

「私もスタメンで出たいです」


 うわわわ、渚ちゃんまで。


「スタメンはこれで決まりです」

「うっ……」

「ただ、貴女には雪村さんの交代要員で出てもらうから、頑張って頂戴」

「は、はいっ!」


 弥生ちゃんとの勝負にこだわってるのは、皆が知っている。

 それに、これはそう言う気持ちを汲んだからというわけではなく、純粋に実力を評価しているからこそだ。

 という事で明日のスタメンは、私、奈々ちゃん、麻美ちゃん、紗希ちゃん、奈央ちゃん、希望ちゃん(渚ちゃん)となった。

 防御固めの時は、紗希ちゃんを下げて遥ちゃんが入ることになる。


 そして、決勝戦当日がやってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る