第224話 嗅覚?
☆亜美視点☆
現在は大阪銀光との試合中。
お互いの高速連携を止められずにシーソーゲームになっていたけど、麻美ちゃんがうまく駆け引きに持込み2ブレイクすることに成功した。
1セット目は終盤。 ブレイクしたリードを守りきりたいところだよ。
「あと2点! 集中!」
「おー!」
ここで私のサーブ。
ライン上を狙うサーブはもうバレてるし、ここは普通に拾いにくそうなところにコントロールしようかな。
となると、黛妹さんとOHさんの間だね。
そう決めて、私は助走してジャンプサーブ打つ。
ボールは狙い通りの位置へ飛んでいく。
この位置のサーブでも、迷わず黛妹さんはボールから離れる。
もう、黛の妹さんは絶対にレセプションしないって決めてるみたいだね。
上がったボールは、当然黛妹さんがセットアップする。
「またこの攻撃ー?」
当然いつもの高速連携。
麻美ちゃんは、さっきのように黛妹さんを凝視しているが、もう癖を矯正してきたようで視線でトス先を読むという作戦は通用しないようだ。
仕方なく、黛姉さんのジャンプに飛びつく。
「はいっ」
「やっぱそうだよねー!」
後出しのトスであっさりかわされる。
ここで私と希望ちゃんが仕事しないと。
スパイクに備えて腰を落とす。
アタッカーの前には奈々ちゃんがいる。
ブロック1枚。 私は空いているクロスを警戒、希望ちゃんはフェイントやストレートと、ワンタッチのフォローに回る。
が、冷静にセンターネット際に落とされる。
やっぱり攻撃の流れが早すぎて、思考も体も追いつかない。
「OKOK。 リードはしてるから、ブレイクだけされないように気を付けるわよ」
「そうだね」
奈々ちゃんは冷静である。
ここはブレイク出来なくても、私達がブレイクされなければ1セット目は取れる。
切り替えていこう。
飛んで来るサーブを私が拾う。
私を跳ばせないつもりだろうけど、甘いよ。
レシーブでボール上げた後、奈央ちゃんのサインを確認。
奈々ちゃんが先に走り出し、その後で私と遥ちゃんも助走する。
「崩せへんなぁ!」
向こうから、そんな言葉が聞こえてくる。
奈央ちゃんがボールを上げた先は、虚をついた麻美ちゃん。
「そっち?!」
「うぇいー!」
パンッ!
冷静に相手コートにスパイクを叩き込む麻美ちゃん。
これでセットポイント。
次の攻防は、姉妹にやられる。
大丈夫、次取れば良い。
この場面で、希望ちゃんと紗希ちゃんが交替。
3人同時の高速連携が可能だよ。
お相手さんは、それを封じる為に私と奈央ちゃんの間を狙ってサーブを入れてきた。
だけどそれは読み読み。
私がレシーブに入り、絶好の位置にボールを上げる。
「レシーブも相変わらず上手いですわね!」
サインを出しながら、落下地点に入る。
私もすぐに助走を開始。
これが3人同時の……。
高速連携!
ボールは紗希ちゃんの手元へ運ばれて、そのまま鋭角にボールを叩きつける。
ピッ!
「よし、決まった!」
「ふぅー……気が休まらないわねぇ」
まったくその通りだよ。
結局、麻美ちゃんが2ブロック決めてくれてないと1セット目はまだ続いていたのだ。
「麻美ちゃん、ナイスプレーだったよ。 次のセットもお願いね」
「頑張る! けど、癖治したみたいで……また何か作戦考えないと」
麻美ちゃんの動きは突拍子もないけど、実は色々考えているようだ。
次のセットは、どんな変人ブロックを見せてくれるのだろう。
「先輩方、少しでも休んで下さい」
ベンチに座っていた渚ちゃん達が、一斉にやってきてマッサージやらをしてくれる。
「あぅ〜ありがとう〜」
昨日から気の抜けない試合が続いていて、結構疲れているのは事実だ。
次セットでサクッと終わらせたい。
「亜美ちゃん、私達の2枚守備がいまいち役に立ってないけどどうする?」
「それなんだよねぇ……」
去年はそれで何とかなっていたんだけど、今年は黛姉さん以外の人もレベルアップしていて、きっちり空きスペースに決めてくる。
前衛2人が黛姉さんをブロック、もう1人で別のアタッカーをカバー、後ろは黛姉さんの攻撃と、他の人の攻撃両方を警戒……すると、どうしてもフォロー出来ないスペースが生まれる。
「私と麻美で、黛姉は意地でも止めるから、そっちはもう捨ててくれて構わないよ」
「は、遥ちゃん」
「そーだよー。 私達を信じてよ亜美姉、希望姉」
「麻美ちゃん……」
私と希望ちゃんは、顔を見合わせて頷き合う。
「わかった。 2人を信じるよ」
「任せてよ!」
円陣を組んで、気合いを入れ直す。
最低2回ブレイクすれば、あとは死ぬ気でリードを守り抜くよ。
2セット目が始まる。
「奈央ちゃん、まだあの高速連携やる?」
「チャンスがあればやりますわよ?」
「らじゃだよ」
もう随分と出したし、立華戦の為に隠す必要は無いか。
出し惜しみ無しだね。
「来るわよ」
2セット目も中盤までは完全なシーソーゲームになった。
が、ローテーション2周目に流れが変わる。
「ここで私と麻美が前衛に出てきたわけだし、亜美ちゃんと希望ちゃんは、黛姉の攻撃は無視して良いよ」
「OK」
先程、ベンチで話していた通り、黛姉は私達のスーパーブロッカー達に任せよう。
奈央ちゃんのサーブを拾われる。
これは仕方ない。 両チームとも、ワンミスが命取りになるとわかっているので、慎重に入れにいくサーブを選択するようになっている。
「麻美!」
「はい!」
黛姉さんがジャンプするタイミングで、遥ちゃんと麻美ちゃんがブロックに跳ぶ。
「せーの!」
私と希望ちゃんは、黛姉さんのスパイクコースを完全に捨てて、空きスペースのフォローに入る。
が、今回は黛姉さんの方へトスが行く。
頼むよ遥ちゃん、麻美ちゃん。
黛姉さんは、腕を振り抜かずにフェイントをしてきた。
「良く見てる!」
冷静な判断だよ。
あの高速連携の中で、私と希望ちゃんがフォローから外れて空いたブロックの真後ろのスペースに落とすフェイントを出してきた。
技ありだ。
と、思った次の瞬間──。
「読んでたー!」
何と、麻美ちゃんが後ろ向きに倒れ込み、無理矢理に手を伸ばす。
よ、読んでたって……ブロックに飛んでたじゃん。
「拾ったよー!」
何だか良くわからないけど、ボールはまだ生きているらしい。
ただ、ボールはあまり高く上がっていない。
どうしよ、返すだけ?
「走って!」
「!」
奈央ちゃんの声が聞こえた瞬間、私は助走に入っていた。
奈々ちゃんも、遥ちゃんもだ。
あんな低いレシーブ、普通ならトスなんて出来ないけど……でも、奈央ちゃんなら。
私は信じて跳び上がり、腕を振り抜く。
パァンッ!
ボールをスパイクする感触。
ピッ!
「……凄い」
奈央ちゃんは、ほとんど寝転ぶような格好でトスを上げていた。
あんな格好で、ジャストタイミングで寸分の狂いも無いトスを上げたの?
「……」
さすがの銀光サイドも無言で見つめていた。
麻美ちゃんの意味不明な寝転びレシーブから始まり、奈央ちゃんのとんでもない寝転びトス。
こんなめちゃくちゃなバレーボールは私も見た事ないよ。
観声が湧き上がる。
「す、凄いよ麻美ちゃん、奈央ちゃん!」
「いやー、拾えて良かったー」
「ギリギリ間に合いましたわー」
寝転ぶ2人を引っ張り起こしてあげる。
先程のプレーで気になるのは、麻美ちゃんの動きだ。
「麻美ちゃん、さっきのは?」
「フェイントの臭いがしたから、着地後に後ろに倒れ込むつもりで低めに跳んだんだよ」
言われてみれば、少し低く跳んでたような。
とにかく貴重なブレイクだ。
「もう1ブレイク取るわよ!」
「おー!」
このプレーで勢いに乗った私達は、直後にブレイクを取り、終盤にも1ブレイク。
結局3点差で2セット目を取り、銀光に勝利した。
「はぁー今年も負けてもうたー!」
「その1年ブロッカーやばいやん! なんやの!」
「私の妹だけど、私にも良くわかんないわね」
「ひ、ひどいよお姉ちゃん……」
今日のMVPは間違い無く麻美ちゃんだ。
凄いブロッカーに成長したものだよ。
高さのある遥ちゃんとはまた違うタイプだけど、攻撃への嗅覚はチーム1だ。
この先も頼りにしてるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます