第223話 VS大阪銀光

 ☆亜美視点☆


 さてさて、これから決勝トーナメント2回戦の大阪銀光戦だよ。


「久しぶりやなー、月学さん」

「強化合宿以来だね」


 黛のお姉さんの方が話しかけてきた。

 3年生になったのかな。


「なんや知らんけど、私らの攻撃バクったんやって?」

「ま、まぁ……」

「あんなん出来るのは、私ら姉妹ぐらいやと思ってたんやけどな」

「やっぱり西條さん凄いわ」


 奈央ちゃんと同じポジションである、黛の妹さんがそう言うと、奈央ちゃんは踏ん反り返り──。


「それ程でもありますわー」


 と、調子に乗るのであった。

 でも実際に凄い。


 過去回想──


「紗希、奈々美、亜美ちゃん、ちょっと良い?」

「何よ?」


 部活中に奈央ちゃんから呼ばれた私達。


「少し試したい事があるんだけど、協力してくれない?」

「そりゃ良いけど、一体何すんの?」


 紗希ちゃんが訊くと、奈央ちゃんが内容を説明してくれた。


「強化合宿の時から考えてたんだけど、私達も大阪の姉妹みたいな超高速連携を出来ないかって思って」

「おお……出来たら凄いねぇ」

「あんなの、姉妹で息が合うから出来る芸当じゃない?」

「出来るの? 奈央」

「だから、それを試すんじゃない」

「あ、そっか」


 奈央ちゃんは「はぁ……」と、溜息をついたあとでコートに入り、私達3人にクイックを跳ばせた。

 次に、3人でジャンプのタイミングを合わせる練習や、奈央ちゃんのトスの精度を高める為に、繰り返し練習した結果が、昨日の試合で見せたアレである。


「オリジナルの方が上やってとこを見せたるわ」

「進化した月学バージョンの力を見るが良いですわ」


 何だかバチバチと火花を散らしてるよ……。


 てなわけで、試合開始だよ。

 まずはうちのサーブ。

 奈央ちゃんのサーブを、簡単に拾われて早速見せてきたよ。


「これは挨拶代わりや!」

「来るわよ」


 トスが上がるより早く、ジャンプの最高点に到達した黛姉さんが、腕を振り抜く。

 遥ちゃんと麻美ちゃんは、警戒していたのでコミットブロックに跳んだが、黛妹さんはそれを見てから、後出しジャンケンの要領で別のアタッカーにトスを上げ、ガラ空きのコースに決められる。


「うわー、あれはズルい!」


 と、麻美ちゃん。

 さすがに後出しされてはといったところか。

 やっぱり、私と希望ちゃんの2人で拾う、去年の作戦の方が良いかもしれない。


 次のサーブは大阪銀光。

 これは希望ちゃんが綺麗に上げる。

 同時に奈央ちゃんのサインを確認。

 どうやらお返しするようだよ。

 私と奈々ちゃんが、同時に助走。

 ワンテンポ遅れて遥ちゃんも助走に入る。


「刮目せよ! これが月学式超高速連携!」


 私と奈々ちゃんが、同時に飛び上がり同時に腕を振り抜く。

 相手ブロックはどっちに付いていいか、一瞬迷ったようだけど、その迷いが命取り。

 奈々ちゃんの手の先に運ばれたボールは、強烈なスパイクとなり相手コートに刺さる。


「ふ、2人同時ってアンタ達なんやねん……」

「ふふん、最高3人までいけますわよ」

「バ、バケモンや……」

「……」

「あれ? 亜美、いつものは?」

「いや、今のは奈央ちゃんに言ったんだよね?」

「あんたら皆や!」

「人間だよ!」


 自分も入ってるんなら、ちゃんと否定しておかないと。

 とにかく1ー1。

 激しい攻防が予想されるね。

 お互いが、攻撃に対しての有効な防御手段を持たない以上、どちらかがミスをするか、ブレイクを決めれば一気に優勢になる。


「これでどないや!」


 ピッ!


「あーもう! 止められない!」

「集中して。 次行くわよ」


 この連携は、アタッカーが後衛に下がっても途切れる事は無く、高速のバックアタックに変わるだけ。

 お互い止める事が出来ないまま、1セット目中盤に差し掛かる。


「いやー、今年は私と希望ちゃん2人がかりでも拾えないよ」

「はぅーっ……皆ごめんね」

「こればかりは仕方ないってば」

「そうよー。 お互い止められないんだから」


 それにしても、向こうもこっちもミスしないなぁ。

 奈央ちゃんと黛妹さんの集中力とトスの精度、一体どうなってるんだろう。

 トスを上げる寸前まで、相手コートをじっと見て、瞬時に判断して的確に後出しジャンケンを決める。

 口で言うほど簡単じゃないよ。


「私達ブロッカーが、ただ跳ねてるだけのバッタになってて申し訳ない」


 遥ちゃんが謝ってくる。

 後出しジャンケンされている以上仕方ない。

 さて、こちら側のサーブは奈央ちゃん。

 これも相手Lが強引に拾う。

 絶対に黛妹さんのセットアップを使うという意志を感じる。

 レシーブされたボールは、当然黛妹さんがトスをする。

 既にお姉さんの方はジャンプしていて、遥ちゃんと麻美ちゃんが、ブロックに……あれ?

 麻美ちゃん、ブロック低い?!

 ていうか、ほとんど跳んでないし。

 しかし、そのジャンプは黛妹さんにトスコースを変えさせるには十分な動きであった。

 着地した瞬間、麻美ちゃんがレフト方向へ猛ダッシュ。


「これ以上好き放題決めさせてたまるかー!」

「なっ?! 何処から?!」


 麻美ちゃんの、虚を突いた行動に一瞬戸惑った相手アタッカー。

 トスは、麻美ちゃんが走り込んだ先に飛んでいた。これは麻美ちゃんの駆け引き勝ちだよ。


「うぇーい!!」


 パン!


 相手のスパイクを手の平下に向けて叩き落とす。


 ピッ!


「よっし!」


 麻美ちゃんが、大阪銀光の攻撃を完璧に防いで見せた。


「ちょっとちょっと! あんたやるじゃん!」

「まあね。 もっと褒めて良いよお姉ちゃん」

「麻美ちゃんナイスブロックだよ! 本当にこれは大きいよ!」


 皆で麻美ちゃんを褒め称える。

 このブレイクで、均衡が崩れて私達がリード。

 もう一度ブレイクが欲しいところだよ。


「やっと仕事出来たー! ここからはバンバン止めるよー!」


 なんとも頼もしい1年生である。

 これで黛妹さんは、麻美ちゃんの動きを最大限注意しなければならなくなった。

 後出しジャンケンも、かなりし辛くなるはずだよ。

 尚もこちら側のサーブ。

 今回は、相手側も普通の攻撃を選択。

 1点を返されるが、ブレイクした分こちらが優勢。


「もう一度ブレイクしたいわね。 このままじゃデュースよ」

「大丈夫だよお姉ちゃん。 向こうはちょっとビビってるよ」

「そうだねぇ。 さっきのブロックはかなり効いてるよ。 さっき姉妹の連携を使わなかったのが良い証拠だよ」


 たった1プレーで、相手の動きを止めてしまった麻美ちゃんのブロックは、本日のベストプレー賞に値する。

 とはいえ、あんな奇策はもう通用しないかもしれない。

 奪ったリードを大事にして、もう1ブレイク狙っていくよ。


 次の相手のサーブは、奈央ちゃんを狙って私達の同時高速連携を止めに来たが、希望ちゃんがダイビングレシーブで強引に拾う。

 

「ナイスですわ!」

「はぅ……ちょっと痛い」


 私達は奈央ちゃんのサインに反応して、同時に助走を開始。

 ブロックは私に2枚、奈々ちゃんに1枚。

 全員コミットブロックに跳び、完全にクイック一点読みだ。

 Lは少しライト寄り……。

 私はレフト側へスパイクをするように腕を振る。


「ガラ空きですわね?」


 と、奈央ちゃんはトスではなく、ツーでプッシュスパイクを決める。

 とても冷静だ。

 さすがは私達のブレインだよ。


「よーし、ブレイクするよ!」


 と、いう事で私のサーブ。

 そういえば、大阪銀光にはまだカーブサーブ見せてないよね。

 サービスエース狙ってみようか。

 私は高くボールを上げてランニングジャンプサーブを打つ。

 コースは相手コートのレフト側ラインの外へと飛んでいく。

 このまま行けばアウトだけど……。

 ネットを越えた辺りで、急激にコート側へとカーブする。

 狙いはライン上。


「それは知ってるで!」

「うわわ!」


 昨日初出しだったのにもうバレてる。

 情報早いなぁ。

 黛姉さんが拾い、そのまま助走に入る。

 またあの連携だね。

 前には遥ちゃん、麻美ちゃん、奈々ちゃんと背の高いメンバーが揃っている。

 頑張れー。

 今度は、奈々ちゃんと遥ちゃんが黛姉のブロックに付く。

 麻美ちゃんは……あれ?

 センターから動かない?

 じっと、黛妹さんの方を凝視している。

 今度は何をやってくれるのだろう。

 と、思いながらボールに目を向ける。

 そして黛妹さんがトスをする寸前に、麻美ちゃんはレフト側へ移動した。

 黛妹さんのトスは、麻美ちゃんが移動した方向へ飛んでいく。


「(読み切った?!)」

「うぇいうぇい!」


 パァンッ!


 またもや麻美ちゃんのブロックが炸裂。

 これには黛姉妹も唖然としている。


「よしよし」

「ちょっとアンタ、どうやってんのよ?」

「ちょっと凄すぎだよ麻美ちゃん」


 自陣で縁を組んで、種明かしをしてもらうと。


「視線だよー。 あの人は、こっちの動きを見た後で、トスを上げる味方の位置を確認してからトスを上げるの。 一瞬だけどねー」

「凄い……ボールばかり見てて、そんなの見てなかったよ」

「私も普段はあまり見ないかな」

「何にしても、ナイスプレーですわ。 このままセット取りましょう」

「おー!」

 

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