第215話 久しぶりの
☆希望視点☆
夏休みに入って数日経った今日は、7月27日──
そう、私の17歳の誕生日である。
亜美ちゃんに、前もって夕也くんとデートする許可をもらって、夕也くんを誘ってOKももらっている。
こうして、夕也くんとの久しぶりのデートが実現した。
夜には、恒例の誕生日会もあるということなので、去年の再現の様になっている。
私は、朝からおめかしをして夕也くんの家に向かう。
朝食の準備をしていると、隣で亜美ちゃんが声を掛けてきた。
「気合い入れすぎじゃない?」
「そ、そうかな?」
たしかに、服とかメイクとか力入れ過ぎたかもしれない。
付き合ってた頃はもっと普通にしてたのに……。
でもでも、大逆転を狙うなら気合いは入れたほうが良いよね。
「夕食までには帰ってくるんだよ?」
「わかってるよ。 パーティーでしょ?」
「うん」
お腹を空かせて帰ってこないとね。
お昼は外で食べるとして、休憩ではあまりものを食べない様にしないと。
朝食を終えた私と夕也くんは、亜美ちゃんを残して家を出たのだった。
こういうのも実に久しぶりだ。
◆◇◆◇◆◇
「それにしても、亜美の奴は何考えてるんだろうなまったく」
「何って?」
「だから、俺が希望とデートするのを許したりだな」
と、夕也くんが言う。
それは私が亜美ちゃんから聞いている。
「うんとね、私と夕也くんが付き合ってた去年のクリスマスに、亜美ちゃんとのデートを私が許したでしょ? それのお返しなんだって」
「お返しねぇ……」
「だから、これから先は簡単には、私と夕也くんを2人っきりにはさせてくれないと思うんだよね」
これは間違いないと思う。 亜美ちゃんが甘いところを見せるのは、これが多分最後だろう。
これから先、夕也くんを奪い返そうと思うなら、亜美ちゃんの隙をついて行くしかないということだね。
「さて、んでどこ行く?」
「うんとね、付き合ってた頃に、次のデートはここにしようって思ってた場所があるんだよ。 別れちゃったから行けなかったんだけどね」
「う……なんかすまん」
夕也くんは頭を下げてくる。
まったく、もう謝らなくていいって言ったのに。
「もういいよ。 結果には納得してるんだから。 その上で奪い返しに行くだけだもん」
「お、おう……」
ふふふ、夕也くん困ってるなぁ。 まあ仕方ないよね。 どちらか1人の女の子を選んだっていうのに、未だに2人の女子に言い寄られるんだから。
ただ、私が亜美ちゃんから夕也くんを奪い返すのは、無理なんじゃないかなと思っている。
今の2人を見ていると、それぐらい仲良しだし付け入る隙も見当たらない。
何より、そんな2人を見ていると、私の方も幸せなのである。
だから、最悪今のままでも良いと思っているのだ。
もちろん最高なのは、もう一度夕也くんの恋人に戻ることだけど。
「とにかく、今日は私に1日付き合ってもらいますっ!」
「わかってるよ」
さて今日のデート予定地は、動物スペシャルである。
と言っても動物園じゃないよ。 サファリパークなのだっ。
動物園とはまた違って、近くで動物に触れあうこともできるそうだ。
それが終わったらペットショップを覗き、最後はドッグカフェで一休み。
楽しみだ。
そのプランを夕也くんに話してあげると、夕也くんも「楽しみだな」と言ってくれた。
ということで、サファリパークを目指す。
電車を途中で乗り換えて、バスに乗る必要がある。
ちょっとした遠出だね。
「希望は動物って好きなのか? ぬいぐるみとかみたいに可愛くデフォルメされたやつじゃないと可愛くないとか言うのかと思った」
「可愛いじゃない。 本物は本物の良さが、ぬいぐるみにはぬいぐるみの良さがあるものだよぅ」
「そうかぁ」
夕也くんはどうなんだろう? あんまり可愛い物とかは好きじゃないかな?
◆◇◆◇◆◇
ということで、やってまいりましたサファリパーク。
入園すると、すぐにカンガルーが飛び跳ねている光景が目に飛び込んでくる。
「はぅー、夕也くん! カンガルーさんだよぅ! ぴょんぴょんしてて可愛いよぅ!」
「お、おう、そうだな。 轢かれないように気を付けろよ?」
「うんー」
良く見るとカンガルー以外にも、中型の草食動物がたくさん歩き回っている。
皆大人しいなぁ。
さて、サファリパークと言えば、車に乗って自然のままの動物達を観賞するあれだよね。
少し先へ進むと門が有り、受付を済ませると、運転手兼ガイドさんが1人付いてくれる。
早速車に乗り込んで、サファリゾーンへ突入だ。
「サファリゾーンでは、出来るだけ自然に近い状態で動物を放し飼いにしています。 ですので、動物との距離が近いか遠いかは運次第ですね」
「そうなんですね」
人見知りの私は会話には参加できず、受け答えは全部夕也くんにお任せ状態。
私も頑張って克服しなきゃダメだと、頭ではわかってるんだけども……。
やっぱり無理だよぅ。
「あそこにバッファローの群れがいますねぇ」
「え? どこどこ!」
私は夕也くんを押し退けて、ガイドさんが指差す方向へと体を乗り出す。
そこにはバッファローさんが群れを成して行進していた。
「おおおお! 凄いよ夕也くん! 立派な角のバッファローさんが一杯だよ!」
「うぐぉぉ、希望の胸しか見えねぇ……」
下を見ると、私の胸に顔を押し付けられた夕也くんがもごもごと暴れていた。
「はぅ、ごめん。 あっちだよ」
「おう。 おおーすげーな。 かっこいいじゃねぇかバッファロー」
夕也くんもバッファローを見られたようだ。
良かったよ。
さらにガイドさんが車を進めると。
「おお、その奥にはサイだ」
「サイさん!」
「うごぉ……」
私は夕也くんを下敷きにして、身を乗り出す。
「おおー! カッコイイ!! ねぇ! 夕也くんも見て!」
「希望の尻しか見えねぇ……」
下を見ると、私の下敷きにされて、夕也くんがもごもごと暴れていた。
「はぅ、ごめん」
すぐにお尻を退けて、夕也くんを自由にしてあげる。
どうもテンションが上がると周りが見えなくなることがあるんだよね。
夕也くんは良く被害に遭っている。
「ふぅ……で、サイは?」
「あっちだよ」
「おお、いるなぁ。 ちょっと遠いか」
「そうだね」
この分なら、色んな動物さん達に会えそうだよ。
トラさんとかライオンさんも見れるだろうか?
「あっちには塩湖があるよ。 もしかしたらフラミンゴの群れが見れるかもしれないね」
「フ、フラミンゴさん!」
私は、ガイドさんが指差したほうに視線を向ける。
「夕也くん、フラミンゴさんいるかな?!」
「どうだろうなぁ。 自然のままで放飼いって事だし……」
「むーフラミンゴさんー」
私は、期待に胸を膨らませながら、じっと湖のある方を見つめる。
すると、視線の先にはピンクと紅のコントラストが美しい、フラミンゴの群れが現れた。
「はぅー! 凄いよぅ! 夕也くん! フラミンゴさんの群れだよぅ!」
「おう、凄いな。 こりゃ絶景だわ」
初めて生で見るフラミンゴさんの群れに、私は興奮しっぱなしだった。
テレビでみたりするのとは全然違うよぅ。
まだまだサファリパークで動物たちの観賞が続くよ。
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