第214話 いざ夏休みへ

 ☆亜美視点☆


 期末試験終了から数日が過ぎ、試験結果が全て返って来た。

 私は……いつも通りである。


「む、むきーですわー!」

「あはは」


 奈央ちゃんも今回は全教科満点を出してきた為、勝負は付かずといったところである。

 ケアレスミスが目立つ奈央ちゃんだけど、今回はミスも無かったようだ。


「相変わらず2人は凄いね」


 希望ちゃんが、私達の結果を見て呟くと、奈々ちゃんは──。


「化け物しかいないんだから本当に……」

「人間だよ!(ですわよ!)」


 2人でハモるのだった。

 さて、今回一番問題になっているのは私達の結果では無くて……。


「紗希ちゃん、柏原君の方は?」

「い、今電話する……」


 おそらく、向こうも試験結果が出ている筈。

 紗希ちゃんは緊張で震える手で、柏原君に電話をかける。

 

「あ、もしもし。 試験の結果出た? うん……うん……」


 私もドキドキする。

 ちゃんと役に立てていただろうか?


「うん……じゃあ、成績は上がったのね? 後はおじ様とおば様がどう言うかって感じ?」


 話の流れから、試験の結果自体は問題無かったようだ。

 後は、それを受けて柏原君のご両親がどう判断するかという事らしい。

 とりあえず第一関門は突破。

 私に出来る事は、多分もう無いだろう。

 肩の荷が下りた気分だよ。


「うん、じゃあまた連絡頂戴ね。 うんまたね」


 そう言って通話を終える紗希ちゃん。

「ふぅ」と息をついて、紗希ちゃんがこちらに笑顔を向けてきた。


「ありがとう亜美ちゃん。 なんとか試験は上手くいったよ」

「うん。 あとはご両親の説得だよね?」

「そうみたい。 大丈夫かなぁ」


 心配そうな紗希ちゃんなのだった。

 どんなご両親かは知らないけれど、柏原君は約束を守ったのだからご両親も守るのが礼儀である。


「結果がわかったら、亜美ちゃんにも連絡するね」

「うん」


 良い連絡が聞けるといいのだけれど。


「はいはい。 その話はおしまい。 部活に集中するわよ?」

「そうねー。 来月はインターハイだし」


 奈々ちゃんが話を締める。

 そう、来月はもうインターハイ……それが終わると私達は世界戦も待っている。

 しばらくはバレーボール漬けになるかもしれないね。


「んじゃ、今日も練習頑張るかー」

「おー」



 ◆◇◆◇◆◇



 夜は夕ちゃんの家でいつも通り夕食。

 そういえばバスケ部はインターハイ出場決めてるんだっけ。


「夕ちゃんも来月はインターハイ?」

「ああ、そうだぞ」

「えへへー一緒だねー」

「今年は日程どうなってたっけ?」


 希望ちゃんが訊いてくる。


「もう、日程は覚えておかなきゃダメじゃーん。 今年は2日に大阪に出発。 3日に開会式だよ」

「メモメモ」


 ほ、本当に忘れてたのこの子……。

 まったくもう……。


「バスケ部は?」

「うちは9日に開会式だな」

「ええー、日にちズレるのー?」

「しゃーねーだろ」


 むう、私だけ残って夕ちゃんと一緒に帰ってこようかなぁ。

 大阪観光もしてみたいし。

 でも滞在費が嵩むし現実的じゃないねぇ……。 残念だよ。


「9日はまだ大阪にいるんだろ?」

「うん。 8日に閉会式で9日はゆっくりして10日に帰ってくるの」

「じゃあ、9日は大阪観光しようぜ?」

「うん!」

「いいなぁ……」


 と、横で話を聞いていた希望ちゃんが、本当に羨ましそうな声をしながら言った。

 何を勘違いしてるんだろうこの子は


「皆で観光するんだよ?」

「はぅ?」

「だよね、夕ちゃん?」

「そうだが?」

「そ、そっか。 てっきり夕也くんと亜美ちゃんだけかと……」

「そんなわけないでしょー」

「あ、あはは……」


 まったく希望ちゃんったら。

 でも大阪観光かー。 それはそれで楽しみだよ。

 そういえば、夏休みは旅行の計画とか、奈央ちゃん言ってなかったなぁ。

 どこにも行く予定はないのだろうか? また今度訊いてみよう。

 夏祭りは夕ちゃんと一緒に回りたい。 去年は回れなかったもんね。

 今年の夏も楽しみが一杯だ。


「夕ちゃんと恋人になって初めての夏休み。 一杯楽しもうねー」

「お、おう」

「うぅー」


 とりあえず希望ちゃんに見せつけておくのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 夏休み前日──

 

 ようするに終業式である。

 暑い中、体育館に集められて学園長の長いお話を聞かされている。

 本当にこれだけは迷惑だと思う。


 その長い話を聞き終えて、教室絵戻ってくるとHRで夏休みの注意等を聞かされる。

 毎年毎年ご苦労な事だよ。

 HRが終わるとようやく夏休みが始まる。

 といっても、インターハイまでは毎日練習があるんだけどね。

 今年は私達も追いかけられる身。

 手を抜くわけにはいかない。

 今年は1年生達も活躍してもらわないとね。


「清水先輩。 ちょっとスパイク見てもらえません?」

「ん、良いよぉ」


 渚ちゃんが声を掛けてきたので快くOKする。

 1年生レギュラーの彼女もやる気満々。

 それもそのはずで、ようやく姉である弥生ちゃんと会えるのだ。

 試合で対戦出来るかはわからないけど……。

 月学と立華は逆のブロックになるので、決勝まで勝ち上がらないと勝負は出来ない。

 もちろんどこにも負ける気は無いけど。


「んじゃー私がブロックするー!」

「おー、止めれるもんなら止めてみぃや」

「なにをぉ!」


 麻美ちゃんも1年生レギュラーに抜擢されてやる気十分。

 今年の1年生は、この2人が引っ張っていってくれている。

 バレーの実力も、全国に通用するはずだ。

 っと、麻美ちゃんは私達と一緒に全中に行った経験があったね、

 スポット参戦だったけど活躍していたよ。


「はっ!」

「うぇーい!」


 パンッ!


「よぉし!」

「な、なんでやぁ」


 この勝負は麻美ちゃんの勝ちに終わった。

 麻美ちゃんは相手の攻撃に対しての嗅覚がとにかく凄い。

 というより、空中でしっかり相手を見て、狙いを読むのが上手いのだ。

 さらには、わざとコースを開けてそこに打たせるという駆け引きまでしてくる上に、ゲスブロックまでやってのけるため、アタッカーにとってはとてもいやなブロッカーだ。

 ブロッカーとして純粋な高さで勝負する遥ちゃんとは、また違ったタイプのブロッカーである。

 守備を固めたい時は遥ちゃんとの2枚ブロックも可能となった。


「ふふふー。 渚、お主もまだまだうよのぉ」

「ぐぬぬ」

「渚ちゃん、麻美ちゃんは特殊なブロッカーだから」

「そ、そやかて……」

「精進したまへ」


 麻美ちゃんは「おほほほほ」とかいう高笑いを上げながらコートを出ていくのだった。

 あ、煽るねぇ麻美ちゃん。


「く、悔しい……」

「ま、まぁ……1回の勝負ですべてが決まるわけじゃないから」

「は、はい」


 なんとか渚ちゃんをフォローして立ち直らせる。

 渚ちゃんにスパイクの技術的な事を教えるなら、私より奈々ちゃんの方が適任なんだけどなぁ。

 同じタイプのアタッカーだし。

 私はどっちかって言うと高さと技術で勝負するタイプだからねぇ。


「まだまだ練習が足りないんやな……スパイク100本打ち込みやってきます!」

「ほ、ほどほどにねぇ」


 うーん、2人は良いライバルって感じで、お互い切磋琢磨して上達していく。

 これからが楽しみな2人だ。


 そして、夏休みがやって来た。

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