第213話 彼女はいるのか?
☆遥視点☆
本日は7月11日の土曜日。
亜美ちゃん達は希望ちゃんの人見知り克服作戦とかいうのを決行するために出掛けているらしい。
私は暇なので、奈央、紗希とつるんで喫茶店で駄弁り中。
話題は──。
「明日でしょ? ジムの日」
「そ、そうだけど?」
紗希に確認される。
そう、明日は週課のスポーツジムへ行く日。
多分神山さん……私の憧れの先輩と会うことになる。
「ちゃんと訊くのよ? 『好きです! 彼女いますか?』って」
「なんでしれっと告白まで混ぜてんの?!」
本当に紗希は楽しんでるとしか思えないな。
奈央はというと、別にどうでも良いみたいな雰囲気を出している。
それはそれで薄情な気も。
「紗希ぃ。 遥のしたいようにさせておきなさい。 後悔するも幸せをつかむも遥次第よー」
「まーそうなんだけどね」
「……むうー」
後悔するって何? だって最初から実らない恋でしょこんなの。
ていうか恋なのこれ?
「遥、ハナっから諦めてるって顔してる」
「別にそんな事は……」
「ほっときなさいって紗希。 遥の自由でしょー」
奈央はあまり首を突っ込む気は無いようである。
というか、今回の件に関しては下手な事を言って私が傷付いた時に責任を持てないってところかもしれない。
そういうところはしっかり考えている子だ。
「私は可能性あると思うんだけどなぁー」
「はいはい」
紗希の言葉を適当に流して、メロンソーダを飲む。
でも実際、彼女がいるのかどうかは気になる。
玉砕……当たって砕けるってやつか。 それもまぁ悪くないかもしれない。
サクッっと訊いて彼女がいるとわかってしまえば、もう悩まなくて済むし気も楽になる。
そこで話題が途切れてしまったので、何か話題を探していると。
「そだー、北上君っていつ日本に来るの?」
紗希が話題を見つけてくれた。 そういえば夏休みに遊びに来るって話だったな。
「8月中旬に入ってからって言ってましたわ。 去年と同じぐらいじゃないかしら?」
「なるほどね」
去年も夏休みに急に留学してきたんだったっけな。
「そこから夏休みの間ずっといるの?」
「ギリギリ滞在するみたい」
「2週間ぐらいかぁ」
「今年はどっか行くのかい?」
今のところ、奈央からそういう話は聞いていないのだけど。
「うーん。 5月に潮干狩り行って先月修学旅行で京都行ったでしょ?」
「そうねー」
「皆の財布の中身考えるとどうかなーって」
まあ、私もこの2か月でだいぶ出費してしまった事だしね。
「まぁ日帰りで遊びに行くぐらいならいいんじゃない?」
と、紗希。
まぁそれぐらいなら私も余裕がある。
「そうね。 それぐらいかしらね。 また夏祭もあるし」
そうか夏祭りか……。
ん? あれ? もしかして夏祭て私1人になるんじゃないのか?!
希望ちゃんは何だかんだ言って今井達と回りそうだぞぉ?
「どしたの遥? 青ざめちゃって」
「な、なんでもないっす」
「あはは、何それ」
ど、どうしたものか。
◆◇◆◇◆◇
というわけで、日曜日になりましたとさ。
「行ってきまーす」
私はジムへ向かうために家を出る。
今日は神山さん来ているだろうか?
「って、何考えてんだ私」
頭を振って邪念を捨てる。
今日は上半身鍛えようかなぁ。
無理矢理思考を別方向に持って行く。
「彼女がいるかどうかぐらいは確認してもいいか……」
結局考えはそっちへと向いてしまうのだった。
ダメダだねぇまったく。
結局頭の整理がつかないままで、スポーツジムまでやって来た私。
自動ドアを潜り、更衣室でウェアに着替える。
「よし……今日は軽く背筋トレーニングでもやるか」
そう決めて更衣室から出る。
「蒼井さん、こんにちは」
「あ、神山さんこんにちは」
「蒼井さんもラットプル?」
「あ、はい」
どうやら神山さんも背筋トレーニングのようだ。
私もマシンに座る。
「っし、やるかぁ」
ゆっくりとトレーニングを開始した。
「ふー……はー」
「蒼井っさんはっ凄いよねーっ!」
「そうっですかっねー」
お互いトレーニング中に会話を交わす。
一体何が凄いんだろうか。
「中々ここまでやれる女性っていないよ」
「あー趣味なんでっ」
「気持ちいいよねっ。 汗流すのはっ」
「はいっそうっすねっ」
完全に同じ趣味を持つ者同士の会話。
そこには甘い雰囲気だとかそういうものは一切ない。
きっと「いいトレーニング仲間」とかそんな感じなのだろう。
この関係はこの関係で心地良いものだし、このままの関係で良いような気もする。
「ふー……」
関係は別に今のままで良いけど、彼女がいるかどうかぐらいは訊いても良いかもしれない。
ただそれを訊くと、気があるみたいに勘違いされるしなー。
「……」
「蒼井さんってっ彼氏いるのっ?」
「へ?」
力が抜けて腕が下がる。
「(なんでそっちから訊いてくんのー!?)」
そんな事を訊きながらも、神山さんは淡々とトレーニングを続ける。
もしかしなくても他意は無いのではないだろうか?
そうだよ。 私に気があるなんてそんな事あるはずないじゃん。
こんな筋トレバカの男みたいな女に。
「い、いませんよっと」
平然を装いトレーニングを再開する。
しかし、それならなんでそんな事を訊いてくるんだろう?
「そうなの? GW明けから急にイメチェンしたからさー」
「あーこれっすか……」
エクステで伸ばされた髪を指して言うと、神山さんは「そうそう」と頷いた。
運動する時は鬱陶しいので、後ろでまとめてポニーテールというやつにしている。
今までずっとベリーショートだったから、髪を梳いたりゴムで括ったりするのが上手く出来なくて、最初は苦労したもんだ。
「これねー友人に無理矢理やられたんっすよー。 女の子っぽくしなさーいと言って。 迷惑な話ですよまったくー」
「そうなんだ? いやー、でも結構似合ってると思うけどっ。 結構モテるでしょ……ふー」
「あー……たしかに男子からの視線がなんか変わったのは変わったっすねー」
「やっぱり」
「元々は女子からしかモテなかったんですがね」
と、半笑いで言うと、「わかる。 かっこよかったもんね」と返されてしまった。
っていうか、今の流れなら彼女いないのかを訊き返しても自然な流れなのでは?
よ、よし。
「か、神山さんはどうなんです?」
「彼女ってこと?」
「はい」
「どう思う?」
「うわ、それはズルくないですか?」
お互いトレーニングの手を止めて会話を続ける。
セット間の休憩中である。
「ははは。 いないんだよねー彼女。 トレーニングバカの男なんて誰も相手しないよ」
と、こちらはこちらで、明るく笑い飛ばしながら言い放つ。
い、いないのか。 ふぅん……いやだから何ってことは無いけども。
と思った時、親友の言葉を思い出す。
「後悔するも幸せをつかむも遥次第よー」
後悔って言われても、わかんないんだよ。
今まで経験したこと無いし。
「どうしたの?」
「いえ……」
き、今日は神山さんに彼女がいないことが分かっただけでも良しとしようじゃないか。
うんうん。
「ふー……」
「はー……」
無言でトレーニングを再開する私達。
気になる事が1つわかって、何となく気が楽になるのであった。
いや、だから何ってことは無いんだけど……。
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