第212話 荒療治
☆希望視点☆
「はぅー! 終わったぁ……」
今日は期末試験の最終日で、たった今最後の科目が終了した。
今回も手応えは良し。 上位には食い込めている自身があるよぅ。
「お疲れ希望ちゃん。 部活行こ」
「うん。 紗希ちゃんも行こ?」
「あ、ちょいと待って。 裕樹に電話したいから」
そっか。 虹高も今日で試験終わりなんだね。
皆で集まって勉強会だってしたし、きっと柏原くんも大丈夫だ。
紗希ちゃんが電話を終えるのを待って、私達は体育館へと移動した。
◆◇◆◇◆◇
更衣室で着替えながら雑談を続ける。
「いやー、やっぱ部活が一番良いわー。 なんで試験なんてあるのかしらねー」
「あはは」
「紗希ちゃんだって成績は良い方じゃない」
確か紗希ちゃんはクラスでも6番とか7番、学年でも上位30人ぐらいには大体入ってたと思う。
「成績とかじゃなくて、勉強っていうのが楽しくないのよねー」
「うぅっ」
亜美ちゃんは勉強が楽しいと思ってる人だから、ちょっと困ったような顔をして紗希ちゃんを見ている。
「お、B組発見」
「あ、A組」
奈々美ちゃん達である。
皆で「試験お疲れ~」と言いながら着替え始める。
「はー、あとは結果待って夏休み突入ね」
「そうだね。 奈央ちゃん、夏はアメリカへ行くの?」
「それなんだけど、春人君の方が来日するそうよ」
「おおお!」
「あら、本当?」
「ええ。 この間電話でそう言ってたわ」
春人くんが日本に遊びに来るらしい。 3月にアメリカへ戻ってからまだ4ヶ月だけど、随分会ってないような感覚だよ。
「楽しみねー」
「そうだね」
本当に楽しみだ。
「そうだ希望ちゃん。 今週末とかどう?」
「はぅ?」
何の話だろう? よくわかんない。
「もう、希望ちゃんの人見知り克服計画!」
「あー……」
「何それ? 面白そうじゃない。 私も混ぜなさいよその計画」
と、奈々美ちゃんも乗り気になってしまった。
絶対面白がってるだけだよこれ。
それにしても今週末かぁ。
「わ、わかった。 今週末で」
「OK! 奈々ちゃんも来るんだよね?」
「どっか行くの? 良いわよ、ついてくわ!」
はぅ……未来の為に、頑張って克服するよぅ。
「頑張ってねー希望ちゃん」
「あんまり無茶はするんじゃないよ?」
と、優しく声を掛けてくれるのは紗希ちゃんと遥ちゃん。
私は小さく頷き「うん」と応えた。
◆◇◆◇◆◇
で、7月11日土曜日──
私は、亜美ちゃんと奈々美ちゃんの3人で駅前に来ていた。
「ねぇ。 ところでどこへ行くのよ?」
と、今日はカジュアルに決めている奈々美ちゃんが訊いてきた。
そういえば、奈々美ちゃんにはどこに行くか伝えてなかった。
今日はボーイッシュな服装な亜美ちゃんが、奈々美ちゃんに応える。
「ライブハウスだよ?」
「ライブハウス? 亜美が通ってたって言う?」
「そそ」
「へぇ。 これまた荒療治ね」
「私もそう思ったけど、希望ちゃんがやる気みたいで」
「う、うん……」
「あらら、何焦ってんのよーあんた」
「ベ、別に焦ってるわけじゃ……治すなら早い方が良いかなって」
先延ばしにしてたら、いつまで経っても前に進まなさそうだから、どこかで荒療治でも何でも前に進みたかったんだよね。
「で、亜美は今日は演奏しないの?」
「うん。 残念ながらマイギター置いてきちゃったからね」
「本当に残念だわ」
「聴きたかったなー」
亜美ちゃんのギターの弾き語り、本当に上手で好きなんだよねぇ。
聴きたかったよぅ。
「で、ホームはこっちなのね」
「うん」
「いつもはあっちだけど、今日はこっちなんだ」
要するに、市内や隣町と剥は逆方向なのである。
あんまり行かないから新鮮だよ。
電車に乗り目的駅に着くと、亜美ちゃんはスタスタと歩き始める。
何だか細い路地を通って行って、ちょっと表通りから外れていく。
な、なんだか怖いよぉ。
「ここだよ」
「へぇ、いい雰囲気ね。 今日はなんか対バンやってるみたいじゃん」
「うん。 店長に聞いてるよ。 色んなバンドが参加してるみたい」
「た、対バンって?」
なんかタイマンみたいだよぅ。
「色んなバンドが1つのライブ中に替わりばんこに演奏するんだよ」
「ぶ、物騒なものじゃないんだね?」
「あんた、何想像してたのよ……」
奈々美ちゃんが、溜め息をつきながら呆れている。
私はてっきり、色んなバンドが楽器で戦うのかとばかり思っていた。
言ったらバカにされそうだから絶対に言わないよ。
私達は、亜美ちゃんに続いて入店した。
ド、ドキドキするよぅ。
「~~♪」
「はぅぅ?!」
店に入ると、凄い大音量の演奏が聞こえてきて少し驚いてしまった。
本格的なライブとかを見るのは初めてだよ。
「盛り上がってるわね」
「そうだね。 どう? 希望ちゃん……って、もうキョドってるし」
「はぅっ! はぅっ!」
こんなに迫力があるものだったなんて、聞いてないよぅ。
亜美ちゃんの演奏と全然違うぅ。
「おお、我らが天使が降臨なされたぞぉ」
亜美ちゃんの存在に気付いたお客さんが、亜美ちゃんに声を掛ける。
ここでも人気者なんだね。 それにしても天使って……。
「ご無沙汰してます。 今日はこっちサイドで」
「なんだー、亜美ちゃんはステージに上がらないのかい。 残念だなー」
と、本当に残念そうなおじさん。
年上のおじさんとも普通に話せるのは凄いなぁ。
よぅし、私も頑張るぞ。
「そっちのお2人は?」
「あ、妹の希望ちゃんと親友の奈々美ちゃんです」
「初めまして、藍沢奈々美です」
「美人さんだねー。 こういうとこには良く来るの?」
「いえ、今日初めてです」
な、奈々美ちゃんも初対面のおじさんと普通に話してる。
どうしてそんな事ができるのぉ。
「ほら希望ちゃんも挨拶」
と、亜美ちゃんに促されて前に立たされる。
この時点で私の緊張メーターは振り切っている。
「う、うぁの! ゆきみゅらにゅぞみうぇすっ! はぅっ?! 噛んじゃった!」
盛大にやらかしてしまった。 もう恥ずかしくて、亜美ちゃんの後ろへ隠れるように移動する。
ダ、ダメだー。 いきなり難易度が高すぎたよぅ。
荒療治が過ぎたようだ。
「はははは! 可愛いねぇ」
「この子、ちょっと人見知りで臆病な子なんですよ。 今日はそれを克服するために来たんですけど……ダメみたいですね」
「はぅーっ……」
このままじゃダメだとは分かっているけど、さすがにいきなり知らないおじさんはハードルが高すぎるよ。 同年代の女子ならまだしもぉ。
「ははは、頑張りなお嬢ちゃん。 今日はライブ楽しんでいくといい」
「ひゃいっ」
やっぱり噛むのだった。
私、こんなことで人見知りを克服できるんだろうか……先行きが不安になってきた。
「いぇーい!」
「ヒューヒュー」
亜美ちゃんと奈々美ちゃんは、既にノリノリでライブを楽しんでいる。
私はと言うと、近くの人に話しかけられるたびにビクッっとなっては噛み噛みの挨拶を返すのに精一杯で、ライブを楽しむどころじゃなかったよぅ。
今度はもうちょっとハードルを下げられないか、亜美ちゃんに相談してみよう。
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