第166話 夕也の誕生日

 ☆夕也視点☆


 先日、亜美から誕生日会をやりたいという話を聞かされた。

 何でも幼馴染5人と麻美ちゃんだけでやるらしい。

 別にどっちでも良いが、皆がやってくれるというなら断る事も無いと思い承諾した。


 学校でそんな話をすると──。


「えー、私も騒ぎたいー!」


 と、紗希ちゃんが不満そうに言うのだった。


 そうこうしている間に、誕生日の前日となった土曜日。

 俺は自分の誕生日という事で、自分へのプレゼントを買う為に市内にあるスポーツ用品店へ来たのだが。


「おっさん、正月に予約しといたバッシュ買いに来たぞ!」


 ようやく金も貯まり、新しいバッシュが買えるだけの余裕も出来た。

 

「夕坊か、あれならこの間売っちまったよ」

「……え?」


 売ったって、あれは俺が予約してた物だぞ?

 まさか、定価以上出した奴がいるのか?


「くそー、せっかく金貯まったのによー」

「まあ、そうガッカリすんな夕坊。 明日、誕生日だろ?」

「あん? そうだが?」


 それがどうしたというのだろうか?

 もしかして──。


「違うバッシュを安く売ってくれるのか?!」

「売らないぞ?」


 違うのか……。

 しかし、どうするかなぁ?

 せっかく金貯めて来たのに、目当ての物が無いんじゃなぁ。


「はぁ」

「買っていったのは女の子だったなぁ」

「どっかの女バスかぁ」

「どうだろうなぁ?」


 他のバッシュは買う気も起きず、仕方なく俺は諦めて帰ることにした。


 ◆◇◆◇◆◇


 そして翌日──


「夕ちゃん! 誕生日おめでとう!」

「お、おう」


 その日は日曜日という事もあり、昼間っから誕生日会を開いている。

 と言っても、お菓子やらケーキを並べて駄弁っているだけなんだが。


「夕也兄ぃ、おめでとう!」

「サンキュー」


 最近は良く顔を合わせるようになった麻美ちゃんから、祝いの言葉をもらった。


「そういえば夕也、昨日バッシュ買えなかったんだってな?」

「あぁ。 金貯まったから予約しておいたやつを買いに行ったんだがな? 売っちまったとか言うんだよ」

「バッシュ? あー、なるほど」


 何故か奈々美が納得したように、頷いている。

 そしてこんな事を言い出した。


「ちょっと早いけど、プレゼント渡しましょうよ」


 誕生日プレゼントか?

 まあ、貰える物は貰うが。


「よーし、まずは私とお姉ちゃんからね」


 そう言って、麻美ちゃんが元気良く出して来たのはサングラスだった。

 俺にサングラスって似合うのか?

 とりあえず受け取ってかけてみる。


「どーだ?」

「ぷっ……」


 奈々美が吹き出しそうになるのを、我慢するかの様に口を抑える。

 やっぱり似合わないか。

 俺はそのサングラスを上にずらす。


「おー、それでいいじゃん。 眼にかけるより額にかける方がかっこいいわよ」


 なるほど、そういうことならこのスタイルでいくか。


「次は私からね」


 と、亜美が取り出したのは……。


「それは!?」

「あはは……ごめんなさい。 夕ちゃんのバッシュを買ったのは私なの」


 俺への誕生日プレゼントにする為に、密かにお金を貯めていたらしい。

 そうか、バッシュを買ったのは亜美だったのか。

 そういや、おっさんが「明日、誕生日だろ?」とか意味深な事言ってたな。

 おっさんもグルだったって事か。


「ありがとよ。 大事に使う」

「うんっ」

「こほんっ! 次は私ね」


 横から割り込む様に入ってきたのは希望。

 その希望は、大きな袋を持って来ていた。

 何だ一体。


「どうぞ」

「お、おう」


 袋の中を見るとそれは──。


「スポーツバッグか」

「うん、夕也くんの使ってるやつ、中学時代から使ってるでしょ?」

「そうだな。 買い替えたいと思ってはいたんだ。 助かるぜ」


 これらは本当にありがたいプレゼントだ。

 皆には、何かお返しした方が良いかもしれないな。


「悪いが、俺からは何も無いんだ」

「おう、気にするな。 期待してなかったからな」


 まあ、宏太の懐事情が厳しいという事は、ちゃんと理解している。


「で、奈央ちゃん達からも預かってるんだよ」


 そう言って、亜美が取り出してきたのは──。


「ブルーレイディスクプレーヤー!? しかも、最新のやつだろこれ?」


 さ、さすがと言わざるを得ない。

 恐るべし西條家の令嬢。

 学校で会ったら、感謝しまくらねばなるまい。

 こんな高価な物を貰った以上は、かなりのお返しが──。


「奈央ちゃん曰く『お返しはいりません』だそうだよ」


 どうやら先手を打たれた。

 俺の性格を、良くご存知のようだ。

 仕方ない、感謝の言葉だけに留めておこう。


「皆、サンキューな」

「どういたしまして」

「ささ、パーティーの続きしよ」


 その後、夕飯の時間まで騒ぎまくるのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 その夜。

 俺は亜美と希望に、何かお返しがしたいと申し出た。

 どちらも、かなり高額なプレゼントを用意してくれたのだから、それなりのお返しが必要だろう。

 2人は顔を見合わせたあと、口を揃えて言った。


「3人でデート」


 ホワイトデーは結局3人で行けなかったため、その時の分も一緒に、という事らしい。

 さすがに断るわけにもいかないので、承諾することにした。

 日程は次の休みである。


「楽しみだねぇ」

「うんうん」


 最近はどうも、どちらか一方がというより、3人で一緒にというケースが増えている。

 というか、昔からそうだったな。

 どちらか1人と出かけたのは、去年が初めてだった。

 また以前のように戻っただけなんだろう。

 それにしても、最近は平和だな。

 本当に2人は、俺の奪い合いをしているんだろうか?

 それとも、全てを俺の選択に委ねているのか?

 だとしたら、いつまでも待たせておくわけにはいかない。

 男らしく、どちらかを決めなければならない。

 俺は、どっちと歩いていきたいのだろう?


 

 ◆◇◆◇◆◇



 翌日──


「3人とも、あのプレゼントありがとうな! めっちゃ嬉しい」

「いえ、どういたしまして。 あれを選んだのは、紗希ですのよ」

「いやー、今井君はそーいうの観たりするかと思ってね」

「何の話してんのさ紗希……」

「映画よ映画」


 絶対嘘だな。

 とにかく、もう一度お礼を言っておくことにしたのだった。


「今度さ、今井君の家で映画の観賞会しよーよ?」

「あら、良いですわね」

「そうだね。 それがお返しって事にしておこう」


 3人で勝手に話が進んでいるが、まあそれぐらいなら良いだろう。

 皆で集まって、映画を観るのも悪くはない。


「楽しそうな話してるね?」


 後ろから、亜美が声をかけてきた。


「お前もその時は、一緒に映画観るんだぞ?」

「あ、私も良いんだ? やった!」


 その後、いつ集まるか等を話し合って、次の日曜日にしようというか事になった。

 土曜日は亜美、希望とのデートのようなもの、日曜日は皆で映画観賞。

 この週末もまた、忙しくなりそうだ。

 だが、それもこれも全部、楽しくなるとわかっている以上、週末が待ち遠しくなるのであった。

 ちなみに、あのプレーヤーの値段を聞いたところ、とてつもなく高い物だという事が判明した。

 だ、大事に使わねば。



 

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