第167話 亜美の料理教室
☆夕也視点☆
4月22日水曜日の部活終了後。
校門の前でバレーボール部が出てくるのを待つ俺と宏太。
「今日は渚ちゃんと麻美ちゃん、お前の家に行くのか?」
「あぁ、亜美のお料理教室の日だそうだ」
最近は不定期ではあるが、その2人が俺の家にやってきては亜美先生から料理を教わっている。
まぁ、賑やかで別に構わないのだが。
そんな風に宏太と話していると、バレー部の皆がやってきた。
「お待たせ―」
「おう、お疲れ」
「今日もおじゃまさせてもらいます、今井先輩」
「私もー!」
「きゃはは、今井君通い妻が増えて大変だねー?」
紗希ちゃんが冗談っぽく言うと、麻美ちゃんと渚ちゃんは「ち、違います」と抵抗するのだった。
「麻美も渚も、料理上手くなって食べてもらいたい人でもいるの?」
奈々美のそんな言葉に、渚ちゃんは「い、いませんっ」と狼狽えるのに対して麻美ちゃんは「夕也兄ぃ! と宏太兄ぃもついでに」と元気よく言う。
ついで扱いされた宏太は少し不満そうにしていたが、奈々美の手料理が食えるんだから文句は言うなと言いたいところである。
途中で皆と別れて、俺の家にやってくるメンバーだけが残った。
なんだこの美少女ハーレム。
通い妻がどうのとか紗希ちゃんも言ってたが、この状況は男としては、これ以上ない幸せな状況なのでは?
「夕也くん、顔がいやらしいよ」
希望にジト目で指摘される。
そ、そんな顔に出ていたのだろうか。
気を付けなければならないな。
「夕也兄ぃ、えろい事考えてたでしょー?」
「考えてない!」
「嘘ですねこれ……」
明らかに動揺しているのを、冷静に見抜いてくる渚ちゃんであった。
俺の家に着くと、4人の美少女は早速キッチンへ籠る。
こうなると、俺は途端に退屈になる。
1人でリビングでくつろぎながら、テレビでも視ることにする。
この時間は、ニュースタイムのようで、大体どのチャンネルもフラッシュニュースをやっている。
「うーん、大した番組もやってないなぁ」
暇暇の暇である。
かと言って、女子のキャッキャッ空間に割って入る勇気もないので、ボケーっとしているしかないわけで。
やることもないのでソファーに寝転がり、少し目でも瞑ることにした。
◆◇◆◇◆◇
「あれ? 夕ちゃん寝ちゃってる?」
「んー、一応起きてる」
少しの間目を瞑っていると、亜美がリビングへとやってきた。
料理教室はどうなっているのだろうか?
「離れて大丈夫なのか?」
「いくらなんでも、そこまでひどくないよあの2人。 希望ちゃんもいるしね」
確かその希望も生徒だよな。
まぁ、人並みには料理上手ではあるから、希望に見させておいても問題ないのだろう。
「で、お前は何しに来たんだ?」
「夕ちゃんの様子を見に来たの。 退屈してるんじゃないかなぁって」
「まあ、その通りだが」
「ふふ、ちょっとだけ話し相手になって上げようかなーと」
「ありがたいことですなー」
適当に応えておく。
こういう細かい気配りも出来るんだよなー、この幼馴染は。
「そういえばさ、私誕生日プレゼントでもう1個欲しい物があるんだけど?」
あー、この展開去年もあったけど、もう亜美の誕生日から12日も経っている。
期限切れだ。
「残念だが、もう期限切れだ」
「ええーっ、いいじゃんー」
すすーっと近付いてきて「んー」と目を瞑って寄ってくる亜美の顔に、クッションをプレゼントしてやる。
「ふがー」
「ぷっ……」
ふがふが言わせながら暴れる亜美を見て、笑いが込み上げてきた。
しばらくそのままで遊んでいると、疲れたのかピタリと動きが止まる。
クッションを退けてやると「むーっ」と目を吊り上げながらこちらを見つめる亜美。
ちょっと怒ってるんだろうか?
「わりぃわりぃ。 でも、本当に期限切れだ」
「しょうがないなぁ……ほっぺでいいよ」
「ダメー」
「夕ちゃんの意地悪ぅ!」
ぽかぽかと胸を叩いて来る亜美の頭を撫でる。
「これで勘弁してくれ」
「むぅ、わかったよぅ」
亜美も何とかこれで納得してくれたのか、すーっと俺から離れていく。
「まだ、夕ちゃんはお悩み中ってことか」
「そういう事だ。 待たせて悪いな」
「わかってはいたよ。 夕ちゃんだもの」
俺の事を良く分かっている亜美、俺がとことん悩む事ぐらい承知の上なのだ。
亜美はゆっくりと立ち上がり「さて、キッチン見てくるねー」と言ってリビングを後にした。
気長に待ってくれる2人だが、あまり長引くと愛想を尽かされるかもしれないな。
本当に自分の気持ちに整理がつかない。
そんなこんなで待っていると、「ご飯出来たよ」と亜美に呼ばれたのでダイニングへと向かう。
今日は家庭料理の定番、肉じゃがらしい。
亜美と希望がたまに作ってくれるが、あれは絶品である。
今日は亜美監修の下、麻美ちゃんと渚ちゃんが協力して作ったものらしい。
希望は補助的な役割だったようだ。
「おお、美味そうだな」
「亜美姉に教わったからね」
「味付けは私達が自分達で考えてやったんですよ」
「ほう」
ということは、いつもの味とは少し違うという事だな。
楽しみである。
「じゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
早速、後輩合作の肉じゃがをいただくとする。
「はむ……んん」
ちょっと味が濃いか? 辛くは無いが。
「夕也兄ぃ、ど、どう?」
「ん? 美味いぞ。 亜美の味付けよりちょっと濃い目だが」
「うん、そうだね」
「あ、それは実家の味を思い出しながら味付けしたら」
渚ちゃんがそう言った。
なるほど、実家の京都の味ってことか。
これはこれで、味がガツンとしていて、ジャガイモにも味がしみ込んでいるし美味い。
「美味しいよ、2人とも」
「「あ、ありがとうございます先生!」」
「せ、先生って……普通に先輩でいいよぉ」
亜美は少し照れたような顔で、頭を掻きながらそう言う。
「2人とも料理は苦手って言ってたけど、普通に出来るんだね」
「というより、物覚えが早いんだよ。 初日は本当に包丁の使い方も怪しかったもん」
亜美曰く、本当にダメダメでどうしようかと思ったぐらいらしい。
渚ちゃんに至っては、よくこれで1人暮らしをしようと思ったものだと言うレベルだったのだとか。
わずか数回教えた程度で、これだけできるようになったのだと言う。
「じ、実は毎日練習したんですよ、包丁の使い方とか」
「おおー、努力するタイプなんだ渚―」
「そ、そうやね。 私はどっちかて言うと不器用で、努力で何とかするタイプ」
「うんうん、良い事だよ。 日々精進するように」
「はい、先生!」
「先輩でいいってばぁ……」
「あははは」
皆の笑い声が部屋の中響く。
いつもより更に賑やかになったなぁ。
「清水先輩、まだまだ一杯教えてくださいね。 料理もバレーボールも」
渚ちゃんが、亜美に頭を下げてそんな事を言う。
亜美は、慌てて両手を振りながら「そんな、かしこまらなくてもいいよ」と言った。
「私に任せてよ。 バレーも料理もどんどん教えていくよ。 ただスパルタだからね」
「「望むところです!」」
2人はキリッとした表情で力強くそう言った。
「頼もしいね、亜美ちゃん」
「うん」
どんどん仲間の輪が広がっていくなーと、思いつつ、味の濃い肉じゃがを食べるのだった。
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