第136話 皆で遊ぼう!

 ☆夕也視点☆


 2月8日の土曜日──


 今日は皆で、市内まで遊びに行くという予定になっている。

 昼前に駅に集合し、市内でお昼を食べてから遊び倒すというスケジュールだ。

 

 朝飯を食べて、昼前まで時間を潰すために、パソコンでネットサーフィンをしている。


「……まあ、そんな評価が妥当だろうな」


 エゴサしてみたのだが、さすがに全国制覇しただけあり、多少話題にはなっていた。

 が、佐田さんと比べて数段劣るという認識をされているらしい。

 自分でも、まだあの人を超えてはいないと思っている。

 

「あー、えっちなサイト見てるー」


 モニターを凝視していると、いつの間にか部屋に入ってきていた亜美が、急に声を掛けてきた。


「見てねーよ。 どんな目してるんだよ」

「とても可愛らしい目をしてると思うよ?」


 首を傾げながら、上手いことを言う。


「あーそうだな。 本当に、可愛らしい目してるよチクショー」

「ありがとー。 で、何見てるの?」

「別に何も」


 俺はサッとブラウザを閉じる。


「むぅ、怪しい」

「本当に、大したものは見てなかったぜ」


 それを聞いた亜美は「そっか」と、納得してベッドに腰掛ける。

 俺の勉強机の方に視線を向けて、何故か嬉しそうな顔で微笑んだ。

 亜美の視線の先に目をやると、そこには写真立てがある。


「また出してきたんだよ」

「そっかそっか」


 ベッドから立ち上がり、その写真立ての方へ向かい手に取る。


「幸せそうだよね、私」

「幸せだっただろ、実際」


 その後フラれたけど。


「うん、凄く幸せだったねー」


 写真立てを机に置いて、またベッドに腰掛ける。

 こいつは何しに来たんだ?

 それより──。


「希望はどうした?」

「希望ちゃんは、今日はどの服着て行こうかで悩み中だよ」

「友達と出掛けるだけで、何悩むんだよ……」

「女の子は色々大変なんだよ」

「さよか」

「左様」


 せっかく亜美が来たので、亜美と話すことで時間を潰す。

 少しすると、春人とコーディネートが決まった希望もやって来て、4人で昼前まで時間を潰した。



 ◆◇◆◇◆◇


 程良い時間に家を出て、宏太、奈々美と合流し、集合時間5分前に駅に到着する。 

 どうやらまだ他の3人は来ていないようだ。


「奈々ちゃん、今日はカッコイイね」

「でしょー? ボーイッシュに決めてみたわ」

「似合ってんな」


 奈々美のファッションセンスも中々。

 奈々美はこういうカッコイイ服とかも普通に着こなせるのが凄い所である。

 可愛い服やセクシーな服も似合う。


「亜美と希望も可愛いわよ」

「「ありがと!」」


 女子達は本当にこういう褒め合い好きだな。

 俺と宏太はというと、お互い何も言う事は無い。

 朝会っても「よぉ」で終わる。


「皆さん、おしゃれですね」

「ただ遊びに行くだけなのにな」


 そんな事言ってたら、奈々美に怒られそうだぞ。


「皆お待たせ―」

「たせー」

「おーっす」


 と、思っていたら、すぐに奈央ちゃん達もやってきた。

 全員揃ったところで、市内までの切符を買い電車に乗り込む。

 9人も一緒に乗ると、かなり場所を占拠する。

 他の乗客に迷惑かけないようにせんとな。

 皆、あまり騒がず静かに座席に着いている。 やればできるんじゃないか。

 ちなみに俺は立っているぞ。


「夕ちゃん偉いねぇ」

「普通だろ」


 数駅ぐらいなら、座らなくても構わない。

 

 市内に到着した俺達は、紗希ちゃんと希望がボケねこショップに行こうとするのを引っ張って、最初の目的地へ向かう。


 ◆◇◆◇◆◇


 最初の目的地はボウリング場だ。

 3人で1チーム作り、各チームのスコアの合計点で勝負しようという事になった。

 チーム分けは公平にクジで決める。

 尚、亜美を引いたチームは自動的にプラス300点みたいなものだ。

 こいつは、プロ顔負けレベルでパーフェクトを出すのだ。


「やった、夕ちゃんと奈々ちゃんと一緒だよ」

「うわ、最強じゃねーか」

「勝てるわけないじゃーん」


 周りから文句の声が上がる。

 俺と奈々美はアベレージ180ハイスコア220ぐらい。

 割と高い方である。

 ただ……。


「いやいや、あんた達も大概でしょ」


 奈々美が言ったのは、宏太、紗希ちゃん、遥ちゃんチームである。

 この3人は、皆アベレージ200を超えていて、本当に素人高校生かと疑うほど上手い。

 宏太と紗希ちゃんはどちらもパーフェクト経験がある。

 で、残ったチームであるが……。


「春人君と一緒よ!」

「頑張りますけど、ボウリングはあまり……」

「はぅ、足引っ張ったらごめんなさい」


 凸凹チームである。

 奈央ちゃんは、亜美に負けず劣らずのチートボウラーである。

 逆に希望は、凡ボウラーでハイスコアが140ぐらい。

 未知数な春人は自己申告でアベレージ150ハイスコア170だと言う。

 バスケ以外はダメなのかもしれん。


「亜美、お願い」


 ここで、スーパーコンピューター亜美の出番である。

 皆のアベレージとハイスコアを元に、亜美がハンデキャップの計算を脳内でしてくれる。


「人間なんだけどなぁ……」


 計算の結果、俺達のチームは初期点0。

 宏太チームに50点、春人チームに110点の初期点が与えられた。

 割と大雑把なハンデに、奈々美が疑問の声を上げる。


「これで良い勝負になるわけ?」

「亜美コンを信じろ」

「ファミコンみたいに言わないでよぉ」


 ファミコンを知っている事に、かなり驚いた。

 まあ、どうでも良いけど。


「よーし、とりあえず始めよう」


 それぞれのチームがそれぞれのレーンに分かれてゲーム開始。


「トップは亜美な」

「はーい。 ストライク出したらチューしてね」

「しねーよバカ」


 亜美は「残念」と、本当に残念そうに言いながら、投球に入る。


「キスぐらいしてあげなさいよ」


 隣に座る奈々美が、亜美の投球を見ながら俺に言う。


「まだ、そういうわけにはいかねんだわ」

「難儀ねー」


 亜美とイチャつく為に、希望と別れたわけじゃない。

 2人の事を、ちゃんと考える為に別れたのだ。

 考えのまとまらない今の段階で、そういう浮ついたことをするわけにはいかない。


「ストライク取ったよ!」

「おう、お前がやると当たり前過ぎてつまらん」

「あぅ……褒めてよぉ」

「凄い凄い」


 奈々美もつまらなさそうに言うのだった。


「んじゃ、次は私ね」


 勢いよく立ち上がった奈々美が、ボールを手に持って投球フォームに入る。


「奈々美の奴は、ピンをへし折らないだろうな?」

「折れないでしょ……」


 亜美が「何を怖い事言ってるの?」みたいな顔で俺を見ている。


 奈々美がボールを投げる。

 奈々美の投げたボールは、信じられない速度で転がっていく。


 バコォォーン!!


「ひぇっ、へし折れたんじゃない?」

「大丈夫みたいだな」


 奈々美はパワータイプのボウラーで、勢い任せにボールを投げる。

 その威力たるや、周りの客がその音を聞いて一様に振り向く程である。


「残ったかー」


 コース取りが甘いので取りこぼしも多い。

 2投目も、構わずパワーボールを投げるが、カスリもしなかった。


「どんまいだよ奈々ちゃん」

「ごめんごめん」


 謝りながら戻ってくる奈々美。


「夕也、頑張んなさいよ。 ストライク取ったらチューしてあげるわ」

「言ったな? 見てろよお前」

「ずるいー! 何で奈々ちゃんは良いのぉ?!」


 亜美がぶーぶーと、文句を言っているが無視して投球する。


「外れろー、外れろー」


 亜美はチームメイトである俺に、何故か呪いをかけてくる。

 どんだけだよ。


「よっ」


 投球したボールは上手い具合にポケットへ向かいフックする。


「外れろぉっ!」

「何でだよ!?」


 亜美の呪詛も虚しく、ストライクを取る。


「やるじゃん。 よし、約束通りチューしてあげるわ」

「ダメダメ!」


 亜美は。素早く俺と奈々美の間に立ち塞がると、両手を広げる。


「冗談よ冗談」

「うぅっ! 奈々ちゃんが意地悪だぁ!」


 嘘泣きを始める亜美だが、無視して次の投球を促す。

 亜美は、恨めしそうにこちらを見ながら投球し、当たり前のようにストライクを取って帰ってくるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る