第135話 将来
☆亜美視点☆
現在、宏ちゃんの誕生日祝いと、春くんの送別会を兼ねたパーティーをしている。
主役の宏ちゃんは、いつも通り蔑ろに扱われていて、ちょっと可哀想な気もする。
私が相手をしてあげるとしますか。
「宏ちゃん、今日は誕生日プレゼントとか用意出来なかったんだけど、何か欲しい物とかある?」
「いらないわよー」
と、隣に座っている奈々ちゃんが返事をする。
「勝手に決めんなっ!」
「そっか、いらないか。 わかったよ」
せっかくだから私も奈々ちゃんにノッておく。
あれ? 結局私も、宏ちゃんを蔑ろに扱ってしまった?
宏ちゃんのこれは、もはや才能の域に達してるね。
「まあ、いらないっちゃいらねーよ? これからも仲良くしてくれりゃ、それで良い」
キメ顔で、歯の浮く様な事を言う宏ちゃん。
私は大きく頷く。
「もちろんだよ」
尚、他の皆は聞いていなかった模様。
宏ちゃん、私は味方だからね……。
「亜美ちゃん、佐々木くんばかり構うから、夕也くんが嫉妬してるよ?」
「いや、してないが?」
「おやおや、それはそれは」
にやけながら、夕ちゃんの隣に移動する。
夕ちゃんは本当に可愛いなぁ。
「私は夕ちゃんだけだよ」
「へいへい」
顔を背けて、素っ気なく返す夕ちゃんを見て、私も希望ちゃんもクスクスと笑ってしまう。
本当に可愛い。
「そういえばさ、3人がしてるブレスレット何?」
遥ちゃんが私に訊いてくると、皆も「それ気になってた!」と、便乗してくる。
「これ? 絆ブレスレットっていうらしいよ? 大事な人とお揃いで着けて絆アップだよ!」
「へぇー……あんたらまだ深まる絆あるの?」
「あるよ。 絆無限大だよ! もちろん、私達皆ね」
この場にいる皆が、大事な人。
皆もそう思ってくれているはずだ。
「学生時代の友人は、一番大切だと言いますからね」
春くんは「皆さんに会えて、本当に良かったです」と、笑顔で言うのだった。
◆◇◆◇◆◇
パーティーは終わり、いつも通り残ってお片付けをする私と希望ちゃん、今日は奈々ちゃんも手伝ってくれている。
「本当、いつまでもこんな風に集まれる仲間でいたいもんよね」
「うん、そうだね」
卒業すれば、それぞれの進路に分かれてしまうだろうけど、私達はいつまでも仲間でいたい。
「大丈夫だよっ。 皆仲良しだもん」
希望ちゃんの言う通り、私達は仲良し。
大人になっても変わらない。
「そのブレスレット、皆で買うのも良いわね」
「おお、そだね!」
「今度の休み皆で市内に行くし、その時に買いに行こう」
なんて素敵な案なのだろう! 奈々ちゃん天才だよ!
「なんか賑やかだな?」
「皿洗い楽しいか?」
暇になったのか、夕ちゃんと宏ちゃんがキッチンに顔を出す。
別に皿洗いは楽しくない。
「ちょっと将来の話をね」
「「ねー」」
女子だけで勝手に盛り上がっていると「何だそれ」と、男子2人が不思議そうな顔をする。
「それより奈々美、そろそろ帰るぞ。 支度しろよ」
「でもまだ、片付け残ってるわよ?」
まだ皿洗いや、ゴミの後片付けが残ってはいるが──。
「大丈夫だよ。 後は私と希望ちゃんがやるから」
「そう? ごめんね?」
「良いよー」
奈々ちゃんは手を拭いて、バッグを肩に掛けると「また明日ね」と、手を振って宏ちゃんと帰った。
「春くんは?」
「リビングの片付けしてる」
家主の夕ちゃんが何もしていないのは、役に立たないからである。
これは、将来結婚したら大変だよ。
私、家事は分担したいんだけどなぁ。
と、結婚する前提で考える私なのであった。
全てが片付いた頃には22時前になっていた。
ちょっと遅くなっちゃった。
私と希望ちゃんは、リビングの2人に声を掛けて、家に戻る。
今井家を出た直後、希望ちゃんが声を掛けてきた。
「佐々木くん、何もいらないって言ってたけど、やっぱり何か上げた方が良いよね?」
「んー、そだね。 私達は誕生日に貰ったもんね」
私達ばかり貰ってばかりは悪いもんね。
「よし、土曜日に市内へ行った時に、何か買ってあげよう」
「うんうん、そうだね!」
希望ちゃんも大きく頷きながら、後ろをぴょこぴょことついてくる。
数メートル先の我が家に到着し、そのままお風呂へ直行。
希望ちゃんと2人で入浴タイム。
やっぱり、湯船に2人は狭いね。
「はぁ……疲れが取れるねぇ」
「亜美ちゃん、おっさんくさいよ……」
希望ちゃんが、すかさずツッコんでくる。
でも、実際疲れが取れるんだから仕方ない。
「亜美ちゃん、家庭教師お疲れ様」
「うん、ありがとう」
「佐々木くん、赤点クリアしてるといいね」
希望ちゃんも、何だかんだ言って宏ちゃんの事を心配しているようだ。
10年近く幼馴染やってるんだし、当たり前だよね。
「大丈夫。 宏ちゃんはあれで頭は良いから、やる気さえ出せば、赤点クリアなんて余裕なんだよ」
「普段からやる気出せば良いのにね」
本当にそう思う。 凄く勿体ない事である。
「そういえば、佐々木くんが『亜美ちゃんは教えるの上手い。 教師になるべきだ!』って言ってたけど」
「私にも言ってたね。 向いてるって。 でも私は仕事にはしたくないって答えたよ」
「そうなの?」
教師という仕事は、何も「勉強」だけを教える仕事ではない。
それに、かなりストレスも溜まる職業だと思う。
私には多分無理である。
「希望ちゃんは? 進路とか考えてる?」
「んー、ちょっとは考えてるけど、まだわからないんだよね」
「そうだよね」
私も漠然としか考えていない。
とりあえず大学行って、それなりの会社に勤めて、結婚出来たら仕事辞めて……。
「紗希ちゃんと遥ちゃんは、ちゃんと考えてるみたい」
それは初耳だ。 興味があるよ。
「聞きたいなぁ」
「んーとね、紗希ちゃんはデザイナー。 特にぬいぐるみなんかのデザインを手掛けたいんだって。 自分でデザインした可愛いぬいぐるみに埋もれるっていう野望があるみたい」
「紗希ちゃんらしい」
ということは、デザインが学べる大学を目指すのかな?
「遥ちゃんはスポーツインストラクターだって」
「遥ちゃんっぽい!」
遥ちゃん、スポーツ大好きだもんね。
ちゃんと考えてる人もいるんだね。
奈々ちゃんはどうなんだろう? 宏ちゃんや夕ちゃんは考えてるんだろうか?
「奈央ちゃんは、お父さんの跡を継ぐんだろうね」
「そうだね」
確か、大学で経済を学びながら、お父さんの補佐をして色々勉強することになるって言ってたね。
「皆は凄いね」
「だよね」
私も、少し真剣に考えてみた方が良いのかもしれない。
「亜美ちゃんは、やろうと思えば何でも出来るじゃない」
「そんな事ないってば……」
私の事を何だと思っているのだろう?
どこにでもいる、普通の人間なんだけど。
「私も何か見つけたいなぁ……」
その後も、私は希望ちゃんと2人で、将来について語り合うのだった。
「進路か……」
私は何をやりたいんだろう。
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