第117話 素人
キャミィさんのプレーがまったく予想できないという状況の中、弥生ちゃんもしっかり攻撃に加わってきて中々苦戦中の第1セット。
13-17とリードを許してしまっている。
このままズルズルとやられしまうのは良くない。
「皆、月島さんの攻撃はブロックでルート絞って。 絶対に上げて見せるから」
希望ちゃんが声を出す。
「希望ちゃん。 OK」
皆が頷く。
「コースは指示を出すから」
「じゃあ、弥生のスパイクは任せるわよ」
「うん」
まずは弥生ちゃんを止めないとね。
それにしにてもキャミィさんだ。
さっきからバックローアタックもブロードもやりたい放題。
去年の弥生ちゃんのゾーン状態の時みたいに、動き回っていて動きが読めない。
「遥ナイサー!」
遥ちゃんのサーブは際どいコースに飛んでいくが、リベロのダイビングレシーブで阻まれる。
キャミィさんの動きに注意して……。
目の前に立つキャミィさんを視界に入れる。
ええ……後方に走り出しちゃった。
「バックローかな……」
ボールが上がる。
うわ、弥生ちゃんに上がった!
私はブロックの為に走る。
「亜美ちゃん、ブロック遅らせてください!」
後ろから奈央ちゃんのそんな気が聞こえてきた。
一瞬、弥生ちゃんのジャンプに合わせて飛びそうになったが、奈央ちゃんの指示を信用して遅らせて飛ぶ。
「西條さん、よう見えとるなぁ?」
そう言った弥生ちゃんの後ろから、突如キャミィさんの姿が現れた。
時間差攻撃!
奈央ちゃんさすが!
「ドォンッ!」
「落とすよ!」
掛け声とともにキャミィさんの強烈なスパイクが放たれる。
私は、手の平を下に向けて叩き落とす。
「よし!」
ここまでやってみて、キャミィさんの弱点が少しわかった。
最初のようなパワーが出るのはタイミングがドンピシャで合った時だけ。
一発目が、たまたま上手い具合にタイミングが合って良いスパイクが来た所為で、勘違いしたけど……。
「皆、ちょっと」
皆で輪になって集まった時に私の推測を話す。
「キャミィさん……多分バレーボール歴の浅い初心者かもしれない」
「そりゃ動きがわからないわけだわ」
それだけ言ってコートにばらける。
トスにタイミング合わせられないのも、予想できない動きも、バレーボールをまだよく理解していないからだ。
おそらく、チームのメンバーですら何やるかわかってないんじゃないだろうか。
とりあえずブレイクできて点差が縮んだ。
「遥、もう一本!」
もう一度、遥ちゃんのサーブ。
それもリベロに拾われる。
キャミィさんは、少し下がってから助走を始める。
トスが上がったのは、弥生ちゃんの方。
奈々ちゃんの隣へ移動する。
「ストレート締めて!」
「はいよっ!」
「せーの!」
希望ちゃんの指示通りにストレートのコースを締めて、クロスへ誘導する。
「喰らいや!」
弥生ちゃんは、要求取りクロスに強力なスパイクを打ってきた。
去年は同じ状況でパワーに負けてたけど……希望ちゃん、お願い!
「っ! はいっ!」
希望ちゃんは今年こそ、しっかりとレシーブを上げて見せた。
「さっすが希望ちゃん!」
私は助走を開始する。
奈央ちゃんのトスが上がった。
「これは、全力ジャンプ要求!」
希望ちゃんの頑張りに私もちゃんと応えないとね。
助走を終えて、全力で床を蹴る。
最初の1発目以来の──。
「全力ジャンプ!」
目の前に弥生ちゃんとキャミィさんの2枚ブロックが見える。
けど──。
「ワオ……」
「またかいな!」
「っあ!」
ブロックの上から空いている場所を狙い打つ。
完璧なスパイクは相手コートに突き刺さる。
「ほんまに高すぎやねん……」
「やねん……」
「よぉし!」
これで1点差だよ。
このまま追いつくよ。
「遥ちゃんもう1本!」
「あいよぉっ!」
良いサーブが飛んでいく。
遥ちゃんのサーブ成功率が凄く上がってる。
それだけで、うちの火力は跳ね上がるよ。
「返ってくるよ!」
ネット際に詰めてブロックの準備をする。
もちろんキャミィさんの動きにも要注意である。
キャミィさんは助走に入っている。
トスがキャミィさんに上がる。 タイミングさえ合わなければ怖くないんだけど。
「ハイッ!」
「せーの!」
奈々美ちゃんと一緒に跳ぶ。
キャミィさんのスパイクはタイミングがバッチリ合っている。
強烈なのが来る。
「っぁ!」
キャミィさんのスパイクを手の平で落とそうとした時、私の手の後ろに奈々ちゃんの手が重なる。
おかげで私はスパイクの威力に耐える事が出来た。
手の平を下に向けてボールを相手コートに叩き落とした。
「奈々ちゃんっ!」
振り向いて奈々ちゃんとハイタッチを交わす。
なんとか同点で追いついた。
その後は、更に1ブレイクして逆転。
そのままの勢いで1セット目をもぎ取る。
◆◇◆◇◆◇
「ふぅ……さすがに疲れるわ」
「それにしても、助っ人ちゃんは素人かぁ。 わけわかんない動きするわけだわ」
紗希ちゃんが汗を拭き、水分補給をしながらそう言う。
「でも、身体能力は高いよ。 タイミングの合った時のスパイクは奈々ちゃん並だもん」
「あれが、バレーボール覚えたら脅威ね」
本当にその通りだと思う。 世界にはあんな人がごろごろいるのかもしれない。
少しずつ興味が湧いてきたよ。
「とにかく、月島さんはもちろんの事、キャミィさんにも注意しつつ攻めていきますわよ」
「うん」
うちのメンバーは夏の大会でわかった自分の弱点を克服して、皆レベルアップしている。
遥ちゃんのサーブもだし、希望ちゃんのレシーブも。
奈々ちゃんだってスパイクの威力を磨いてきた。
奈央ちゃんのトスも精密さが増してる。
そして、紗希ちゃん。 今回一番レベルアップしているのは彼女かもしれない。
去年はジャンプの最高到達点を上げるために一生懸命だった。
今なら、私と張り合えるかもしれない。
「紗希、そろそろあんたにもバンバン行きますわよ」
「来なさいー。 亜美ちゃんや奈々美だけじゃないってとこ見せてやるわよ」
「うんうん」
うちの隠れたエース紗希ちゃん。
第2セットから大暴れしてもらおう。
2セット目は遥ちゃんからのサーブ。
1セット目からその威力は衰えていない。
矢のように飛んでいくボールをセッターにレシーブさせることに成功する。
正セッターを崩せたのはチャンスだ。
「ウチが上げる!」
弥生ちゃんが? オポジットなのに?
「ほい!」
綺麗なトスを上げる弥生ちゃん。
それに飛びつくのは──。
「ナイスやでっ」
「キャミィさん!」
キャミィさんが跳んでいる。
慌てて私もブロックに跳ぶ。
「ヤヨイのトスがイチバンや!」
うわわ、タイミングが完璧だよ!?
強烈なスパイクが私の手の平に当たり、勢いを殺せずコート外まで飛んで行ってしまった。
「痛ーい……」
手の平がジンジンするよぉ。
「大丈夫?」
奈々ちゃんが心配そうに訊いてくる。
「うん、大丈夫」
手を振ってアピールする。
今度は相手のサーブを奈央ちゃんがレセプション。 それを私が上げる。
「紗希!」
「来た来たー!」
嬉しそうに跳ぶ紗希ちゃん。 バックローアタックだ。
紗希ちゃんは私の全力と遜色ないジャンプでアタックラインの後ろから打つ。
そのスパイクを、見事にダウンザラインで決める。
これを狙って出来るコントロールも紗希ちゃんの武器だ。
「はいドォン!」
ポーズを決めてご機嫌な紗希ちゃん。
2セット目もいい感じの出だしだ。
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