第116話 激闘再び

 ☆亜美視点☆

 

 私達は1月4日から開催されている、春高バレー全国大会に出場している。

 月ノ木学園は順調に勝ち上がり──。


 ◆◇◆◇◆◇


 1月9日(木)

 私達は東京にある総合体育館のロッカールームで、春高の決勝戦前最後のミーティング中。

 2年生キャプテンが話している。


「案の定、決勝の相手は京都立華よ。 去年のインターハイは準決勝で3セット制だったけど、今日は決勝」


 決勝戦は3セット先取の5セット制。

 もつれれば、去年のインターハイより長い戦いになる。

 スタミナ管理も大切である。


「今年は月島さんの他に助っ人留学生のキャミィさんがいるわ。 県大会までは情報を出さないように、スポットで使ってたみたいだけど、全国大会ではスタメンに入ってるわ」


 ここまでの試合は全部観てきた。

 宏ちゃんより高い身長で、ブロックは高いしスパイクも高い。

 弥生ちゃんだけでも手強いのに、凄いのが増えたね。


「1年生に任せっきりで悪いけど……気合い入れて行くわよ!」

「おーっ!」


 全員で士気を高めて、ロッカールームを出るのだった。


 コートに出ると、月ノ木祭以来に弥生ちゃんと再会した。


「来よったな、魔王」

「魔王はやめてよぅ」


 ネットを挟んで声を掛け合う。

 この大会が終われば次に会うのは3月の強化合宿だ。


「オー! コノヒトがヤヨイのライバル?」


 弥生ちゃんの隣に、もの凄く背の高い人が並んで立った。

 私は、顔を上げて見上げる。


「この人がキャミィさん?」


 うわぁ、同じ高さに立ってみると凄く高い……。

 この人のブロックを抜けるだろうか?


「そやで。 こっちは清水亜美ちゃんや」

「ヨロシクやでぇ」

「よろしくお願いします。 日本語上手ですね?」

「ウチが叩き込んだったんや」


 通りで、口調が弥生ちゃんと同じなわけだ。 あ、でも京都の人って皆こうなのかな?

 それにしてもあの高さ……まずは様子見だね。


 コートにバラけて試合開始を待つ。

 フォーメーションは私達の基本系。

 前衛レフトに奈々美ちゃん、センターに私、ライトに遥ちゃん、後衛レフトには紗希ちゃん、センター希望ちゃん、ライトに奈央ちゃんである。


 相手は私の前にキャミィさん……ぶつけてきたね。

 んで、レフトに弥生ちゃん、。 ポジションはオポジット……エースポジションだ。


 立華からのサーブ。

 それを希望ちゃんが拾って、奈央ちゃんがトスを上げる……私達の黄金パターンだ。


「奈々美! 挨拶してきなさい!」


 奈央ちゃんから上がったトスに、奈々ちゃんが跳びつく。


「かもーん留学生!」

「せーの!」


 奈々ちゃんのジャンプに、キャミィさんと2年生選手がブロックに跳ぶ。

 やっぱり高い……。

 私はそのブロックの高さをしっかりと目と脳に焼き付ける。


「っ!」


 奈々ちゃんは、キャミィさんのブロックを物ともしないパワースパイクを叩き込み、1点をもぎ取る。


「よっし!」


 小さくガッツポーズを取る我が校のエース。


「亜美ちゃん、どうです?」

「んー。 高いけど、空中戦はあまり得意じゃなさそう? あと、多分全力で跳べば上から抜けるかな?」

「あの高さを上から抜けるとか……つくづく魔王ねー亜美ちゃん」


 紗希ちゃんが、少し呆れたように言う。


「全力ならだよ……全力ジャンプは疲れるからあまりやりたくないかな」

「了解ですわ。 ここぞという時以外は通常のトスを上げましょう。 今日は奈々美も紗希も良い感じだし、バンバン使ってくから気を抜かないで下さい」

「はいはーい」

「おけー」


 今日の方針はある程度固まったようだ。

 去年のインターハイみたいな、私一辺倒の攻撃ではなく、奈々ちゃんと紗希ちゃんも使っていくオーソドックスなパターン。

 誰を使うかは司令塔の奈央ちゃんが、コートの状況によって逐一決めてくれる。


 さて、うちの遥ちゃんのサーブだよ。

 インターハイ以降、コントロールを重視して鍛えてきた遥ちゃん。

 おかげで、パワーのあるサーブの成功率も上がっている。

 サーブは相手リベロに拾われて、トスが上がる。

 キャミィさんが助走に入っていたのを見逃さない。


 キャミィさんの前に移動して、奈々ちゃんと合わせてブロック!


「せーの!」

「らぁっ!」


 キャミィさんのスパイクは小細工無しのパワースパイクだった。

 想像以上の高さから放たれた角度のあるスパイクは、私の手の平ではなく肘に当たり、そのままネット際に落ちる。


「ごめんっ、今のは拾えた」


 あまりの威力に呆気に取られて、目の前に落ちるボールに手を出せなかった。


「どんまいですわ。 初見ですし無理もないですわね」

「うん……」


 それにしても凄いパワー。

 奈々ちゃんのスパイクみたいだ。

 技術じゃなくて、パワーに特化したプレーヤーなのかも?


「一本で切るよ!」


 切り替えて次のプレーに集中。

 希望ちゃんのレセプションが上がるのを確認して、助走に入る。


「今度は亜美ちゃんっ!」


 うわ、高いトス。

 控えてって言った矢先に、全力ジャンプを要求してくる。

 挨拶を返してこいってことかな?

 仕方ない!

 助走から、大きく跳び上がる。

 ボールの最高到達点で、思いっきり右腕を振り抜く。

 キャミィさんの手が見えてはいるが、ボールも私の手もその上である。


「はっ!」

「?!」


 着地して、目の前にいるキャミィさんを見上げると、信じられない物を見たような顔で私を凝視している。


「……スゴイやん! ヤヨイ! アミ、スゴイやん!」

「わかってるわい!」


 何だが急にはしゃぎだした。

 元気な人なんだなぁ。


「ウチ、ニッポンにキテ、ウエからヌカレタのハジメテや!」

「そ、そなんだ」


 そりゃ、あの高さを上から抜くスパイカーなんて、そうそういないよね。

 私も全力で跳んでなんとかだもん。


「しかし、キャミィでも止められんかぁ。 ほんま堪忍やで……」


 ローテーション中に、弥生ちゃんがそう溢していた。

 んで、次は私のサーブだよ。

 サービスエースでブレイクしたいけど、立華は中々それを許してはくれない。

 なら、相手の攻撃力を削ぎたいとこなんだけど、弥生ちゃんの他にキャミィさんというスパイカーが加わって、それも中々難しい。


「よし」


 ここは、キャミィさんのレセプションがどんな感じか探っちゃおう。

 身長とパワーだけで、それ以外の技術はからっきしなんてプレーヤーは割と多い。


「っ!」


 キャミィさんの手前に落とすようフローターサーブを打つ。


「ノー!?」

「どきや!」


 慌てて弥生ちゃんがレセプションに入る。


「オポジットの弥生ちゃんがレセプションに?」


 なるほど、キャミィさんはレシーブ苦手なのか。

 数プレーで、随分と情報が手に入った。

 スパイクとブロックに注意すれば、そんなに怖いプレーヤーでは……。


 パァン!


「えっ?!」


 弥生ちゃんが上げたボールを、キャミィさんがツーで打ってきた。

 誰も警戒していなかったため、反応も出来ずに1点を返された。

 前言撤回だよ。

 この人、フリーダム過ぎて何やってくるかわかんない、要注意プレーヤーだよ。

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