第118話 弥生とキャミィ

 ☆希望視点☆

 

 2セット目は序盤から、お互い激しいスパイクの応酬になった。

 特に紗希ちゃんが凄い。

 亜美ちゃん並みのジャンプを披露して、立華サイドを驚かせた。

 月学の点取屋本領発揮で、亜美ちゃんが後衛下がってる間も火力が落ちない。

 ただ、立華も負けていなくて、オポジットのはずの月島さんが、トスを上げるようになってから、キャミィさんのスパイクのタイミングが合ってきた。

 亜美ちゃん曰く「2人の息が合ってるんだと思う」という事らしい。

 月島さんがトスを上げる時は、当然月島さんは攻撃に参加出来ないから、楽ではあるんだけど……。


「止まんないわねー、あれ」

「手が痛いよぅ」


 奈々美ちゃんと亜美ちゃんが、愚痴る。

 キャミィさんはブロックがあろうが無かろうが、全力で打ってくる。

 勢いを殺せずにブロックアウトの山を築いている。


 そしてまた、月島さんとキャミィさんの連携がやってきた。


「ブロック! せーの!」


 奈々ちゃんと亜美ちゃんが、並んでブロックに飛ぶ。

 強力なスパイクは、奈々美ちゃんの手に当たり大きく上に跳ねる。


「間に合う!」


 打ち上がったボールを見て、走れば間に合うと思った私は、咄嗟に走り出した。


「はぅーっ!」


 ちょっと届かない! でもっ!


「跳べば届くっ!」


 手を伸ばして身を投げ出し、ダイビングレシーブする。

 後ろを見ている余裕は無い。

 上がったとこに誰か居てっ!

 そう願って、何とかボールを上げる。


「ボール!」


 すぐにボールの行方を目で追うと、私を信じていた奈央ちゃんが、コート外まで出て待っていた。


「ナイスファイトですわ!」


 そしてまさかの、その位置からのジャンピングトスを見せる奈央ちゃん。

 高い高いトスが、狙ったかのようにネット際に運ばれる。


「希望ちゃんも奈央ちゃんも、凄すぎっ!」


 そう言って亜美ちゃんが大きく跳んだ。

 多分、今日一番高いジャンプだ。

 

「亜美ちゃんの方が凄いってば……」


 信じられない高さから、信じられない角度のスパイクを打つ亜美ちゃん。

 そのスパイクは、床に叩きつけられると、高く跳ね上がった。


「うおおお! なんだ今の高さ!」

「人間ってあんな跳べるのかよ!?」


 観客の驚き騒ぐ声があちこちから聞こえてきた。

 私も、あれだけ跳んだ亜美ちゃんは初めて見た。

 本当に底が知れないよぅ。


「ナイス亜美ー!」

「うぇい!」


 奈々美ちゃんと亜美ちゃんのハイタッチは今日何度目だろうか?


「希望ちゃんもナイスレシーブ! うぇい!」

「う、うぇい」


 流れで私ともハイタッチを交わす亜美ちゃん。


「アミ! スゴスギやで! ヤヨイ!」

「わかっとる言うねん。 ほんま魔王様やで」

「魔王じゃないよ!」

 

 亜美ちゃんの地獄耳も、底が知れない。

 2セット目はこのプレーで勢いに乗って何とか確保したものの、3セット目はキャミィさんのフリーダム過ぎる攻撃に良いようにやられて落としてしまう。


 セットカウント2ー1で迎える第4セット。


「流石に5セット目はやりたくないわね」


 紗希ちゃんの言う通り、あのキャミィさんの動きに振り回されて5セットはやりなくないかな。


「んじゃ、ここで決めちゃいましょ。 ドンドン回しなさいよ奈央」

「ほーい」


 あ、お嬢様モード切れて素顔モードになってる。

 プレーには特に影響はないけど、こっちの方が可愛いから好き。


「私もまだ跳べるからねー」

 

 亜美ちゃんが、小さく跳ね上ながらそう言う。

 

「私も、どんなサーブスパイクにも飛び付くよっ!」

「頼みますわよ、うちのスーパーリベロ!」

「うんっ!」

「じゃあ私はそろそろ、あのノッポちゃんのスパイク止めるかなぁ!」


 うちのスーパーブロッカー遥ちゃんもやる気満々だよ。


「じゃあ、ここで決めるって事で!」

「おーっ!!」


 気合いを入れて4セット目を開始する。

 遥ちゃんサーブから。

 ここまでいくつかサービスエースも出ている遥ちゃん。


「っあ!」


 今日一と言っても良い弾丸サーブに、相手チーム反応出来ず!

 この場面でサービスエースは勢いに乗る。


「ナイサー遥! もう1本行っとく?」

「頑張るけど、無茶振りすんなよなー」


 遥ちゃんはボールを受け取り、助走距離を取る。

 ゆっくり助走に入って、ジャンピングサーブ。

 今度のはリベロに拾われる。


「残念!」

「ほら、返ってくるわよ!」


 セッターがトスを上げて、月島さんが跳ぶ。

 

「クロス締めて!」

「はーいっ!」


 スパイクをストレートに打たせる。


「それやったら!」


 月島さんはプッシュスパイクでしっかりとライン上に決めてくる。

 こういう細かいところはやっぱり上手い。

 さすが亜美ちゃんがライバルと認めるだけあるね。


「おっけーおっけー! サービスエース取れてるし、このまま行くわよ」


 奈々美ちゃんが誰よりも声を出してくれている。

 私達のリーダー的存在だね。


「1本で切るよっ! 希望ちゃん、レセプションお願いね」


 亜美ちゃんが振り向いて、私に言う。

 私は小さく頷き、飛んでくるサーブに集中する。


 立華のキャプテンさんのサーブが飛んでくる。

 インかアウトか際どいサーブだ。

 こういう時「迷ったら拾う」が私の方針だ。

 私はうちのスパイカー達を信じている。


「はいっ!」

「相変わらず、良い判断ですわね!」


 絶好の位置にボールが上がり、奈央ちゃんが舌舐めずりをする。

 誰を使おうか考えているのだろう。

 こう時の奈央ちゃんは、本当に楽しそうだ。


「やっぱりここは──」

 

 指でサインを出して、ふわっと跳び上がりジャンピングバックトスを上げる。

 低目のトス、クイック攻撃だ。

 そしてそこにいるのは──。


「っ!」


 さすがの亜美ちゃんが、ブロックをかわして完璧に決めた。


「ここ集中っ! ブレイクするよ!」


 そう言った亜美ちゃんは、サーバーになるのでコート外へ出る。

 私も前衛に移動する事になるので、一旦先輩と交代でベンチへ下がる。

 ベンチで皆の応援!

 亜美ちゃんはジャンプフローターを選択。

 フラフラと無回転のボールが、キャミィさんのほうへと飛んでいく。

 レシーブが苦手なキャミィさんを、ピンポイントで狙ったサーブだ。

 

「ノー!」


 フローターサーブは飛距離が伸びたり縮んだりと、落下地点が予測し辛い。

 私も大嫌いである。


「キャミィ、とにかく上に上げるんや」

「ウエ!」


 勢い良く腕を上に振り上げるキャミィさん。

 素人あるある!

 ボールは、上どころか遥か後方に飛んでいってしまった。


「オウ……ゴメンナサイ……」

「かまへんかまへん! 取り返すだけやでキャミィ」

「ガンバルで!」


 月島さんとキャミィさん仲良いんだなぁ。


「もう1本行くよー!」

「亜美ちゃんナイサー!」


 亜美ちゃんが助走に入り、今度は威力のあるジャンプサーブを打つ。

 それをセッターに拾わせる事に成功した。

 亜美ちゃんの事だから、多分狙ってやっているのだろう。

 セッターがレセプションしたという事は──。


「ほらいくで! 自分で取り返しや!」

「OK!」


 やっぱり月島さんからキャミィさんだ。

 奈々美ちゃんと紗希ちゃんがブロックに跳ぶ。


「ヘイ!」


 ノリノリのキャミィさんが全力でスパイクを打つ。

 ボールがブロックを突き抜けてコートに突き刺さる。

 ベンチで見てても凄い。

 あれをちゃんとディグ出来ればもっと楽になるんだけど。


「切り替えるよー! リードしてるんだから焦らずに行こう」

「おー!」


 4セット目。

 ここでこの試合を決められるかが大事だよ。

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