第104話 聖夜デート

 ☆希望視点☆


 亜美ちゃんと夕也くんが仲直りしないまま日にちが過ぎて、今日は終業式。

 夕也くん達バスケ部は、今日がウィンターカップ全国大会の開会式の為、学校へは来ていない。

 私達バレー部はというと春高も間近に迫っており、練習に集中しなければならない……んだけど、私と亜美ちゃん、奈々美ちゃんは応援団として東京に行く事に決めている。

 先輩達は呆れていたけど、特に何も言われなかった。

 そもそも休み中の練習は自由参加である。 文句なんて言わせない。


 終業式の後、私達はバスに乗り込み、一路東京へ向かった。


「ねぇ、組み合わせ表見せてもらった?」

「うん」


 奈々美ちゃんと私は、組み合わせ表のコピーをもらっている。 月学の試合日程を確認中である。

 亜美ちゃんは……あれ以来夕也くんとあまり仲良くしていないようだ。

 一体どうするつもりなのだろう?


「月学は明日の午前中に試合ね」

「うん。 午後からは自由時間ぽいね。 デートできそう」

「試合に負けてそんなテンションじゃなかったりして?」

「勝つよっ!」


 皆頑張ってるもん。


「……」


 そんな私達の会話に入る事もなく、亜美ちゃんはただただ窓の外を眺めていた。


 ◆◇◆◇◆◇


 ホテルに着く頃には、夕方になっていた。

 応援団は各班毎に鍵を受け取り、ロビーで解散。

 私達3人は、一度部屋へ行き荷物を置いた。


「ふぅ……バスの移動は疲れるわね」

「そうだね……」


 長時間、バスに乗っているのはさすがに疲れちゃう。

 亜美ちゃんは無言でベッドに入り、既に寝る態勢になっていた。


「亜美ちゃん、夕也くんに会いに行かないの?」

「うん……今日はいい」


 そう言うと、布団を深々と被ってしまった。

 早く夕也くんと仲直りしたくないのかな?

 仕方ないので、私と奈々美ちゃんだけで出掛ける事にした。


 ロビーへ行くと、夕也くん達が先に待っていた。


「おう、長旅ご苦労」

「本当に疲れたよぅ」

「夏の九州遠征に比べれば大した事ないだろ?」


 佐々木くんがそんな事を言う。

 まあ、そうなんだけど。


「亜美さんは?」

「疲れて寝てるわよ」


 その通りではあるんだけど、今までの亜美ちゃんならそれでも無理して来ていたはず。

 いつまでこんな状態でいるつもりだろう?


 私達は5人で外へ出て、ご飯を食べ行った。

 夕食後はホテルに戻り、ミーティングがあるらしい夕也くん達とはロビーで別れた。


「ただいま……って、亜美ちゃん?」

「どうしたのよ希望?」

「亜美ちゃんがいないの」

「あー、何か食べに出たんでしょ」

「あ、そっか」


 単純に考えるとそれしかないよね。

 その後、亜美ちゃんが部屋に戻ってきたのは、日が変わる直前だった。

 何時間もどこに行っていたんだろう?

 気になって聞いてみたら「観光」と言う返事がきたけど本当かな?


「さてと、お風呂お風呂」


 帰ってくるや、すぐにお風呂へ向かおうとする亜美ちゃん。


「んじゃ、行きますか」

「うん」

「え? 2人ともまだなの?」

「あんたを待ってたんでしょうが」


 奈々美ちゃんが亜美ちゃんの頭を小突くと「あぅ」と声を上げて頭を押さえるのだった。


 ◆◇◆◇◆◇


 カポーン……


 この時間の大浴場には他には誰もいなかった。

 3人の貸し切りだ。


「ふぅ……」


 私は2人に挟まれるような形で浸かっている。

 はぅー、2人とも大きいなぁ……。

 私もある方だけど、亜美ちゃんと奈々美ちゃんには敵わないよぅ。


「どしたの希望ちゃん? 人の胸を凝視しちゃって」

「大きいなぁっと思って……」

「大きさだけが全てじゃないでしょ」

「そだよ」


 強者の余裕にしか聞こえない。

 

「2人は明日デートでしょ? 体、綺麗にしないとねぇ」

「はぅ」

「何、希望は明日しないの?」

「わ、わからない……」


 別に約束とかもしてないし……でも、そういう雰囲気になったら明日はしても……。


「こんどーさん貸そうか? 持ってないでしょ?」

「……はい」


 亜美ちゃんは、ニコッと微笑んで「頑張って」と言ってくれた。

 恋敵に塩を送ってどうするんだろう?

 良くわからない……って私も人のこと言えないか。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日、我らが月学男子バスケ部は1回戦を突破して、まずは一安心といったところだ。

 夕也くん達は、次の対戦相手の試合を見てから帰るとの事なので、私は一足先に帰ってデートの準備した。

 

 14時頃に、夕也くんから「いつでも行ける」と連絡があり、私は亜美ちゃんと奈々美ちゃんに声を掛けてから部屋をを出て、ロビーで夕也くんと合流した。


「お待たせ」

「おう、今日も可愛いな」

「もう……」

「ははは、さて行くか」

「うんっ」


 私は夕也くんの腕に自分の腕を絡めて抱き付き、目一杯に甘える。

 クリスマスイブデートの始まりだ。


「さて、まずは何しようかね」

「私、観たい映画があるの」

「映画か。 そういえば、4月に2人で観たな」

「そうだね。 あの時はまさか、私が夕也くんの恋人になれるなんて思ってなかったよ」

「俺もだ」


 本当に夢のようだ。

 私の想いは届かないと、そう思っていたぐらいなのに。


 映画館に入って2人で映画を観るのは2回目。

 夕也くんは「ホラー映画もあるぞ」と意地悪を言ってきたけど……。

 結局は私が観たい恋愛映画に付き合ってもらっている。

 隣に座る夕也くんの手を握ると、夕也くんも握り返してくれる。

 他のお客さんの目を盗んでちゅっちゅとキスしたりもした。

 み、見られてないよね?


 映画を見終えて、時計を見ると時間は17時になっていた。

 夕也くんが、18時にレストランを予約してくれている様なので、あまり遠くには行けないということもあり、近場でショッピングをする事にした。


「こうやって2人でデートするのは何回目だっけ?」

「付き合いだしてからは結構してるよな」

「そうだよね」


 2人で色んなお店を冷やかしながら、そんな会話を楽しむ。


「そうだ、何かクリスマスプレゼント買ってやろうか」

「えっ、良いの?」

「あぁ」

「じゃあね、ぬいぐるみ!」

「可愛い奴だなぁ、希望は」


 私は可愛いクマのぬいぐるみを一つ買ってもらった。

 私から夕也くんに何かプレゼントしようかと訊いてみたら──。


「んー、希望が欲しいなー」

「はぅっ?!」


 冗談か本気かわからないのやめてほしいよぅ。

 ……でも、そろそろ覚悟を決めた方が良いかもしれない。 いつまでもお預けじゃあ、夕也くんも嫌だろうし。


 その後は夕也くんが予約したレストランで、夕食を食べる。 何だか凄く高そうなレストランで、コース料理がどんどん出てきた。 夕也くん、お金大丈夫かな?


 お腹一杯になってレストランを出ると、時間は19時を回っていた。

 そろそろデートも終わりかなぁ……。


「さて、そろそろ戻るか? 明日は試合無いけどな」


 夕也くんがそう言う。

 でも私は、ホテルへ戻ろうとする夕也くんの腕に抱き付いて、勇気を振り絞る。

 今日はもっと一緒に居たい。


「……今日は……良いよ?」



 ◆◇◆◇◆◇



 シャー……


 私達は適当なラブホテルに入った。

 シャワー浴びながら、これから夕也くんとすることを考える。

 大丈夫。 紗希ちゃんから色々教わって、練習できることは練習だってした。

 

「……はぅーっ」


 でも、いざとなるとやはり怖い。 亜美ちゃんと奈々美ちゃんは、緊張しなかったのかな?


 キュッキュッ……


 シャワーを止めて大きく深呼吸をして緊張を解したあとで気合いを入れる。

 

「よしっ」


 私は意を決して、バスルームから出た。

 体を拭いて、乾いたバスタオルを体に巻く。


「夕也くん、その……今まで我慢させてごめんね?」


 本当によく我慢してくれたなぁって、思う。

 まあ1回亜美ちゃんと浮気したみたいだけど……。 それでも私の恋人でいてくれた。


「まあ、ゆっくり進もうって言ってたしな」

「うん」


 夕也くんの胸に飛び込み、キスをしながらベッドに横になる。

 バスタオルをはだけさせられて丸見えにされちゃった!


「綺麗だな……」

「はぅぅ……」


 この日私と夕也くんは初めて結ばれた。



 ◆◇◆◇◆◇



「はぅ……」


 終わった後も恥ずかしくて、私は布団を頭から被って隠れる。


「恥ずかしがりすぎだろ……」

「だ、だってぇっ」


 私、あんな大きな声出して乱れちゃって……。 思い出しただけで顔から火が出そうになる。

 恥ずかしすぎて死んでしまいそうになる。

 私は照れ隠しで、夕也くんの頭をぽかぽかと叩く。

 

「……もぅ、意地悪な夕也くん嫌いっ!」


 ぷいっとそっぽを向いた。 すると後ろから夕也くんが抱き締めてきて「ごめんごめん」と謝って来たので、「しょうがないなぁ……」と、振り向いてキスをして、何故か流れで2回戦に突入するのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ホテルへの帰り道、幸せ一杯の中でふと気になったことを聞いてみる。

 あんなに愛し合った後で、こんなことを聞くと怒られるかもしれないけれど、このままにはしておけない。


「亜美ちゃんとはどうなってるの?」

「あのなぁ……」


 そりゃ怒るよね。 デート中に他の女の子のこと聞くなんておかしいもんね。 

 それでもやっぱり、放ってはおけない。

 夕也くんがまだ、亜美ちゃんの事が気になるって言うなら、まだ勝負は付いていないのだから。


「はぁ……」


 大きく溜め息をつく夕也くん。 ちょっと考えるような素振りを見せた後、もう一度溜め息をついて話し始めた。


「実は昨日、あいつから電話があってな」

「え、そうなの? 何時ぐらいに?」

「23時ぐらいかな」


 亜美ちゃんが観光を終えて、部屋に戻ってくるちょっと前だ。 本当に観光だったんだろうか?


「なんて?」

「25日に会って話がしたいってよ」


 明日かぁ。 イブは私に譲ってくれたってとこなんだろうか?

 最近ずっと夕也くんと話してなかったけど、明日会ってどういう話をするつもりなのかな?

 まだ戦線復帰を考えてるなら、油断は禁物だね。

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