第93話 西條邸訪問
☆亜美視点☆
今日は10月18日の金曜日。 部活の終了後、私と希望ちゃん奈々ちゃんと紗希ちゃんの4人は何故か、奈央ちゃんの家にお呼ばれした。
「こ、これが奈央ちゃんの家……」
目の前にある門がすでに大きい。 さらに、その門から家の扉まで数十mはあるようで、整備された石畳の道が真っ直ぐ伸びている。
門をくぐりその道を歩いて行くと、左側には大きな池がある。 良くは見えないが、鯉とか飼っているのかもしれない。
右側を見ると、舗装された道がそちらにも伸びていて、大きな建物が3つ並んでいる。
内2つは、シャッターの感じから車のガレージだという事がわかったが、もう1つは良く分からない。
大きさから行っても私の家より広そうではあるが。
「あれはジョセフとセリーヌの家よ」
「ジョ、ジョセフさんとセリーヌさん?」
希望ちゃんが奈央ちゃんの方を向いて驚きの声を上げる。
し、使用人さんにも住むところがあったりするのかな?
「見に行ってみる?」
「大丈夫なの? お邪魔じゃない?」
「大丈夫よ。 多分喜んで飛びついてくるわよ?」
「と、飛びついて?!」
ジョセフさんとセリーヌさんどんな人なの?! 興味はあるんだけど怖いよぉ。
希望ちゃんも、顔が強張っている。
奈々ちゃんはというと、興味津々で「行きましょうよ」と、奈央ちゃんに賛同している。
「おおー、ジョセフとセリーヌ元気かなぁ?」
「元気よ」
そっか、紗希ちゃんは何度も奈央ちゃん邸に来てるんだっけ。 ジョセフさんとセリーヌさん知ってるんだ。
私達は、奈央ちゃんに先導されて、ジョセフさんとセリーヌさんの家の前にやってきた。
目の前まで来て、その建物の大きさを再認識させられる。
し、使用人さんの家ですら清水家より広いなんて……。
奈央ちゃんは、特にノックすることも無くいきなり家の扉に手をかけて開けてみせた。
「うわわ、ノックは?」
「いらないわよそんなもの」
何故か「何言ってるのよ?」みたいな顔をされてしまう。 わ、私がおかしいの?
気になって希望ちゃんと奈々ちゃんの顔を見てみたら、同じように信じられない物を見るような顔で奈央ちゃんを見ている。
良かった、私は普通なんだ。
気にせずに家の中に入ってしまう奈央ちゃんと紗希ちゃん。 わけがわからない私達3人は顔を見合わせた後、その後に続いた。
入って靴を脱ごうと思ったのだが、奈央ちゃんと紗希ちゃんは脱がずに入っていったので、それに倣ってそのまま続いた。 土足OKなのね。
少し進んだところに扉があって、それを開けると──。
「うわわ……」
「え?」
「何この部屋」
そこは区分けされた部屋とかではなく、ただただ、広いだけの大きな部屋だった。 部屋の中を見渡すと、ボールや大きくて太いロープ、遠くには何に使うのかわからない丸太も立っているように見える。
あ、わかった。 これ、使用人さんの家じゃなくてペットの家だ。 お金持ちの人が出ているテレビとか漫画でよく見るよね。
「この家、ペットの家なんだね?」
「そうよ? 何だと思ってたの?」
「え? 使用人さんのお家じゃないの?」
希望ちゃんはこの部屋を見てもまだそんな事を言っていた。 奈々ちゃんも理解したようだけど、逆に頭を抱えている。
「ペットの家が私の家より広いって……」
「あぅ」
やっぱりそう思うよね。 犬さんか猫さんか知らないけど、私の家より大きい家に住んでて、きっと私より高い物を食べているに違いない。
「で、ジョセフ君とセリーヌちゃんは?」
私はキョロキョロと、部屋内を見渡してみると、遠くに2匹ほど動物が寝転んでいるのが目に止まった。
遠目でわからないけど、猫さんかな?
「ジョセフー! セリーヌー!」
奈央ちゃんが大声で名前を呼ぶと、その2匹はピクッと顔を上げて耳をピクピクと動かす。
「おいでー!」
奈央ちゃんがそう言うと、すくっと立ち上がり小走りこちらへ向かってくる。 凄い、ちゃんとしつけも行き届いてるんだ。
少しずつ近づいてくるその影を見て違和感を覚える。 私の知ってる猫さん達ではありえないサイズをしているのである。
「はぅぅっ?!」
「ちょ、ちょっとあれって……」
黄色い体毛に、所々黒い毛が生えたその2匹は、猫さんではなく──。
「ト、トラさん?!」
「はぅー……」
「希望っ?!」
「ありゃりゃ」
希望ちゃんは虎だと認識した瞬間に失神してしまったようだ。 奈々ちゃんに支えられて何とか床に倒れ込むことは避けられた。
「おーよーしよしよしよし」
奈央ちゃんは〇〇ゴロウさんみたいな声を出しながら、トラの顎の下あたりをくすぐる様に撫でている。 トラさんも大人しくされるがままになっており、とても幸せそうな顔をしている。
「こっちのちょっと小さい方がオスのジョセフ、大きいのがセリーヌよ。 人懐っこいし、ちゃんと躾けてあるから噛みついたりはしないわよ?」
紗希ちゃんを見ると背中をなでなでしながら「ジョセフ、久しぶりー」と顔をすりすりし出した。
私も恐る恐る、セリーヌちゃんの頭を撫でてみる。
なでなで……。
すると、セリーヌちゃんは目を細めて気持ちよさそうな顔を見せ、私の顔にすり寄ってきてすりすりしてきた。
「か、可愛い!!」
「大人しいわね」
奈々ちゃんもジョセフ君の頭を撫でて、お返しにほっぺを舐められている。
失神している希望ちゃんも、ついでに舐められて目を覚ました。
「は、はぅぅ?!」
「大丈夫よ希望ちゃん? この子たち人間に噛みついたりしないから」
紗希ちゃんに言われて、ビクつきながらもそーっとジョセフ君に触れる希望ちゃん。 すると、私の時のように顔をすりすりされてビクッっとなったが、怖くはないとわかったのかすぐに体から力を抜いた。
「か、可愛いね」
「でしょー?」
私達はすっかり2頭にメロメロにされてしまった。
しばらく愛でていると、奈央ちゃんがこの子達の事を教えてくれた。
「この子達は5年前に、うちが経営してる動物園で産まれた子達でね。 産まれてすぐに母親が育児放棄しちゃって大変だったのよ。 それを聞いた私が家で引き取って、専属スタッフを連れてきて一緒に育ててきたのよ」
「スタッフさんは?」
「数ヶ月で動物園に戻ってもらったわ。 すぐにエサも食べるようになったし、健康面も問題無さそうだってことだったから。 困った時だけ呼ぶことにしてるわ」
「ふぅん……知らなかったわねー」
友達の事でも全然知らない事って多いんだと思わされる。
「一応、近親交配しない様にジョセフのほうは去勢手術してあるのよ」
「ジョセフ君はニューハーフなのね」
「言い方」
どう言えばいいのよぉ……。
「さて、私の部屋行く? それともここで話聞いてくれる?」
私達は顔を見合わせたあと、コクンッと頷き代表して私が口を開く。
「トラさんは名残惜しいけど、奈央ちゃんの部屋も見たい」
「りょうかーい。 ジョセフ、セリーヌ、また後で夕食持ってくるわね」
そう言って2頭の頭をわしゃわしゃっと撫でた後、両手を広げて前方に振ると2頭は奈央ちゃんから離れて最初にいた辺りへ向かって歩いて行った。
私達も「ばいばーい」と手を振り、トラさんハウスを後にした。
◆◇◆◇◆◇
奈央ちゃん邸におじゃまして、広くて長い通路を歩き奈央ちゃんの部屋へやってきた。 途中すれ違うメイドさんや執事さんが一様に頭を下げてきて対応に困ったけど。
「どーぞー」
「おじゃましまーす」
私達は奈央ちゃんの部屋に初めて足を踏み入れた。
まず目に入るのはなんといってもこの広い部屋。
私の家の1階の壁を取り払って1部屋にしてもまだ足りないのではないだろうか?
床にはふかふかの絨毯が敷き詰められており天井からは煌びやかなシャンデリアが垂れ下がっている。
大きな窓にはレースのカーテンがかかっていて、窓の外にはテラスが見える。 壁にはよくわからないけど高そうな絵、その近くにはこれまた高そうなドレッサーが置いてある。 奥にはクローゼットも見えているし、天蓋付きの豪華なベッドまである。
お嬢様の部屋って感じだ。
「す、凄い……」
「こんな部屋が現実に存在するのね……」
「はぅぅ……どの家具も高そう」
「あはは、最初来た時はやっぱりそうなるわよねぇ。 私もそーだったよー」
「はい、これクッションね。 座って座って」
人数分のクッションをポイポイッと投げて渡してくる奈央ちゃん。 何気なくキャッチして下に置く。
「このクッションはいくら?」
「3万円」
「はぅっ」
座りかけていた希望ちゃんが慌てて立ち上がった。 さすがの反射神経である。
3万円のクッションって……。
「気にせず座ってー。 安物だし」
「え、えぇ……」
しばらく躊躇ったが、気にせず座っている紗希ちゃんを見て意を決して座る。
「おおー、快適だよー」
「本当ね。 さすが3万円」
「これが3万円の座り心地……」
「変わんないでしょ?」
と、不思議そうに首を傾げて言う奈央ちゃん。 そして「それじゃあ」と、前置きをした後で、今日、私達を呼んだ理由を話し始めた。
「皆がどうやって、恋に落ちたのか聞かせてほしいの」
奈央ちゃんは、真剣な表情をしてそう言った。
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