第94話 それぞれの恋
☆亜美視点☆
奈央ちゃんの部屋へ初めて来た私達。 何の話があるのかと思ったが奈央ちゃんの口から出てきた言葉は──。
「皆がどうやって、恋に落ちたのか聞かせてほしいの」
私達は一瞬、何を言ってるのかわからなくて顔を見合わせる。
どうやって恋に落ちたか?
「どうしてそんな事を?」
とりあえず、この質問をした理由を訊いてみる。 質問に質問を返すのは良くないと思うけど。
「んー……私、恋が出来ない女なんじゃないかって不安になってねー。 今まで男性を本気で好きになったこともないし」
そう言うと奈央ちゃんは、少し暗い表情を見せる。
確かに、奈央ちゃんから浮いた話を聞いたことは無い。 可愛いし、お嬢様モードの時は凄くお淑やかだから、男子生徒からは結構モテているはずなのだけど……。
「ほら、今井君とか春人君とかが近くにいるのにときめかないって、私異常なんじゃないかと思っちゃってねー」
夕ちゃんも春くんも確かにモテる男の子だし、無意識に女の子の心を鷲掴みしちゃうような台詞をバンバン連発しちゃう悪癖──いやいや、癖があるからねー。
大抵の女の子はそれで落ちちゃうみたい。 その代表格が、隣に座っている希望ちゃんなわけだけど。
私の視線に気付いたのか、チラリとこっちを見て首を小さく傾げる。
「何?」
「何でもないよ」
「そう?」
それだけ言うと、希望ちゃんが最初に話し始めた。
「参考になるかわからないけど、私は弱ってる時に優しい声を掛けてもらったからかなー? きゅんってなったよ」
顔を赤くして、いやいやするみたいに横にぶんぶん振っている。 可愛いなぁ。
でも、やっぱり夕ちゃんの甘い言葉の毒牙──いやいや、誘惑に負けたのね。
「優しい声を掛けられてときめいたかー。 確かに今井君はそういう事を平気でやるタイプよねー。 私も何回か歯の浮くような台詞言われたけど、そうはならなかったなー……」
と、思い出すように天井を見上げて言う奈央ちゃん。
「やっぱり心が壊れてるのかしら?」
「単に、好みのタイプじゃないんじゃないの? 萌えポイントが違うとか」
「そうなのかなー?」
「私は、夕也くんが好みのタイプなのかはわからないけど」
あー、好きになった人が好みのタイプっていうやつだ。 私も多分そのタイプの人間だ。
「私は気付いたら好きになってたわね。 亜美もでしょ?」
「そうだね。 いつどこでどんな風にっていうのは無いかな」
「やっぱりそういう人が多いのかなー?」
一概には言えないけど、私や奈々ちゃんみたいに、特定の異性と当たり前の様に同じ時間を過ごしてきた人には多いかもしれない。
友人としての感情と、恋愛感情の境目がわからなくなっている事が多いからかな?
「私は、いつも1人でボーッと本読んでるのが気になってねー。 ほら、裕樹って中学の頃目立たなかったっしょ?」
目立たないも何も、写真を見せてもらっても思い出せない。 男子の間ではシャドウ君なんて呼ばれてたらしいけど。
「最初は、何で誰とも遊ばないのかなーとか思って見てたんだけど、あんまりにも気になったから声を掛けてみたのよ」
あー、私が希望ちゃんに初めて声を掛けた時と似てる。
希望ちゃんも、小学校に入学した時はいつも1人だった。 それが気になって仕方なかったから、私が声を掛けたんだっけ。
「んで、話してみるとさ、根は結構明るい奴だったのよ。 それからちょくちょく話したりしてる内に、なんか惚れてたわけ」
「やっぱり、気付いたらパターンなのねー」
奈央ちゃんは「そんなものなのかなー?」と、近くにあったクッションを抱きながら天井を仰ぐ。
「これは受け売りなんだけど、出逢いは無理に探すものじゃないんだって」
青砥さんの言葉である。 私が夕ちゃんの事を忘れようかどうかで悩んだ時に、偶然知り合った彼女に教えられたこと。
「無理に探すものじゃない?」
「うん。 気付いたら出逢ってて、気付いたら好きになってるぐらいが丁度良いんだって」
「……うーん、私にも出逢いあるかしら?」
出逢いの有る無しは人それぞれだと思う。
一生掛かっても、素敵な人に出逢えない人だって沢山いるはずだ。
「奈央ちゃんなら、きっと素敵な人と出逢うよ」
「そうだよっ」
私の言葉に希望ちゃんも賛同する。 無責任かも知れないけど……。
「案外、もう出逢ってるかもよ? 気付かないだけで」
「ありそー」
奈々ちゃんの言うことも有り得そうだ。
奈央ちゃんは仰向けに寝転がり、クッションを真上に投げてキャッチする。
「もう少し待ってみようかなー」
「そうそう、焦る事ないよー」
起き上がった奈央ちゃんを、背後から優しく抱きしめる紗希ちゃん。 長年付き合いのある幼馴染の2人は、私と奈々ちゃんみたいな関係だね。
そんな2人を微笑ましく眺めていると、不意に希望ちゃんのスマホが鳴り出した。
「もしもし? あ、夕也くん」
夕ちゃんからの電話らしい。 何で私に掛けてくれないかなぁ!
「はぅ、ごめん。 すぐ行くね」
はっ、となった私は自分のスマホを取り出して、時間を確認する。 時間は19時を回っていた。
ゆ、夕ちゃんと春くんの夕飯作りに行かなきゃ!
「亜美ちゃん、帰ろ!」
「うん!」
2人ともお腹空かせて待ってる筈だ。 時間も時間だからか、奈々ちゃんも立ち上がり帰り支度を始める。
「私は泊まってくわ」
「やったー」
紗希ちゃんが泊まると言った途端に、子供の様に喜ぶ奈央ちゃん。 可愛い!
「あ、車で送らせるからちょっと待ってね」
スマホを操作して、何処かに電話を掛ける奈央ちゃんを待つ事数秒。
「私の友人達を家まで送って差し上げて。 えぇ、それでは門の前に車を出しておいて下さい。 おっけーだよー」
「キャラチェンジはやっ!」
電話中と電話を切った直後のキャラのギャップが激し過ぎて、奈々ちゃんがツッコミを入れる。
奈央ちゃんに門まで送ってもらい、車で家まで送ってもらうのだった。
◆◇◆◇◆◇
家に戻って私服に着替えた後、慌てて夕ちゃんの家に向かった私達。
急いで夕飯の支度をして、夕ちゃんと春くんに夕飯を食べさせて上げられたのは20時を回っていた。
「死ぬかと思った」
「死にませんよ……」
夕飯を突つきながら、私と希望ちゃんに文句を垂れる。
ぺこぺこと謝る希望ちゃん。
「お腹空いたら即席麺とかレトルトのカレーあるでしょ? あと、いい加減自炊出来る様になろうよ」
「亜美は、俺が即席麺やレトルトカレーばかり食って、不健康になれば良いと思ってるんだな?」
「そんなこと言ってないでしょ?」
夕ちゃんは「お前の事なんか知らん、俺には希望がいる」と言って、まるで自炊しようという気が無いようだ。
春くんも希望ちゃんも、そんな夕ちゃんを見て苦笑いしている。
「甘やかし過ぎたかなぁ」
「あはは、私は別に良いんだけど。 その、夕也くんに一生夕飯作ってあげても……はぅ」
自分で言って自分で赤くなる希望ちゃん。 私は夕ちゃんともし結婚したら、家事は分担してやりたいと思ってるんだけどなぁ。
「いやー、将来安泰だな」
「精々、愛想尽かれないようにね」
「大丈夫だよなぁ、希望」
「大丈夫だよっ」
全くこの2人は……。 せっかく夕ちゃんを誘惑できても、全然崩れない。 今も目の前で「あーん」とかやりながらイチャついている。
見ている方が恥ずかしいというやつだ。 そっちがその気なら!
「春くん、あーん」
「えっ?」
私は自分の皿から唐揚げを摘んで、春くんの口元に運ぶ。
一瞬戸惑っていた春くんも、しつこく待っていると観念して口を開けた。
「美味しい?」
「は、はい」
その光景を見た希望ちゃんは、何故か怒り眉になって私を睨んでいた。
食後は、いつものように希望ちゃんと一緒にお皿を洗い、片付けを終えた後はやはりいつものように、夕ちゃんと春人君に挨拶をして自宅に戻るのであった。
夕ちゃんは、いつどんな風に希望ちゃんを好きになったんだろう? 今度機会があれば聞いてみようかな?
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