第71話 奈々美と宏太

 ☆奈々美視点☆

 

 私の誕生日パーティーは続いている。

 夕也に話を聞くチャンスを伺ってみたけど、これだけ人がいたら無理ねぇ。

 明日の放課後に緑風に誘うのがいいかしら?


「そう言えば、今日は亜美ちゃんの揉んでない!」

「うわわ?! やり過ごせると思ってたのに」


 と、紗希にターゲットされた亜美が身構える。

 ただ、今まであーやって身構えたところで、紗希の胸揉みから逃れたのを一度も見たことが無い。

 紗希の神の手からは逃れられない。 私も含めて、ここにいる紗希以外の女子全員がだ。


「いやーん!」

「おおー! 亜美ちゃんも2cmアップの89! このデカ乳!」

「うわーん!」

「今井君に揉まれたのが効いてるんだなぁ?」

「か、関係無いよぉ!」


 寧ろ紗希の方が揉んでるでしょうね。

 そんな話の流れに食い付いた存在がいた。


「夕也、亜美さんの胸を触った事があるんですか?」


 春人だ。 そういえば、春人は知らないんだった。

 亜美と夕也は、一度そういう関係になったということを。


 それにしても、春人の表情が妙に真剣だ。

 夕也を睨んでいるようにも見えなくはない。


「あ、そっか! 春人君は知らないんだっけ?」

「?」


 奈央が「むふふー」と、怪しい表情を浮かべている。

 あ、この流れはまずい気がする。


「亜美ちゃんと今井君ね、そういう事をした仲なのよ」


 チラッと春人を見ると、驚いた様な表情に変わっていた。


「奈央のバカ。 そんな事は軽々しく言うもんじゃないの」


 紗希も珍しく怒りを露わにしているが、しっかりと亜美の胸は揉んでいる。

 というか、あんたが発端でしょうが。


「い、良いよ別に? もう過ぎた事だし。 ね? 夕ちゃん?」

「そうだな。 って言っても二ヶ月ちょっと前の話だけどな」


 と、言うと、チラッと春人の方へ勝ち誇るような表情を向ける。

 どうやら、この二人の間でも何かあったようだ。

 それも明日聞き出してやろう。

 

「奈央! 遥! 作戦Aよ!」

「ふぇっ?!」


 紗希が亜美を羽交い締めにする。

 もはや見慣れた光景だが、奈央と遥が捕えたのは夕也ではなく……。


「あ、あの?! 皆さん! 待って下さい?!」

「は、春くん! ダメだよ? ダメだからね?!」


 春人だった。

 これは止めに入った方が良さそうね。


「こら──」


 と、声を上げ掛けた時、亜美の前にサッと現れて春人の腕を掴む影が一人。


「ゆ、夕ちゃん!」

「ほら、春人はまだそういうノリには慣れてないんだから勘弁してやれよ」


 夕也がいち早く止めに入り、三人を咎める。

 実行役三人は「しゅんっ」と小さくなり反省している。

 毎回反省してる癖に懲りないのね。


「夕也、ありがとうございます。 助かりました」

「助かったのは私の方だよ。 ありがとう、夕ちゃん」

「二人とも気を付けろよ?」


 そう言うと、また希望の隣の席へ戻っていく夕也。

 ふーん……。


 ◆◇◆◇◆◇


 その後はプレゼントお渡し会になり、皆からプレゼントを貰った。


 亜美、希望、夕也、春人からはブランド物の財布。

 奈央、紗希、遥からは冬に使ってくれと、暖かそうなコート。 西條ブランドらしい。


 そして、宏太からは。


「これ、安物だけどよ」


 小さな箱をぽんっと手渡される。


「えっ、その箱……」


 隣で見ていた亜美が目を見開き、驚きの声を上げる。

 私は、その箱を開けた。


「……」


 声も出ない。

 中には、指輪が入っていた。

 確かに、高そうな宝石とかは誂えられていない。

 リングの部分だって、金銀や白金ではない。

 一目見れば、安物だとわかる代物だ。

 それでも……。


「嬉しい……」

「あー、その……ちゃんとしたのは、その内な? 今はこれで我慢してくれ」

「し、しょうがないわねぇ! 我慢したげるわよ!」


 取り敢えず強がってみる。 気を抜いたら泣きそうだもの。

 私は、宏太にそれをはめてもらう。

 もちろん、左手薬指だ。

 恐らくは安い金属にメッキを施したであろうリングに、小さな真珠が一つ乗っただけの指輪が、私にはどんな高価な物よりも綺麗に見えた。


「おおー! 奈々美お幸せに!」

「ま、まだ早いってば!」

「ヒューヒュー! おアツイねー!」


 周りが騒がしく囃立てる。

 でも、不思議と嫌ではない。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 パーティーが終わり、私、亜美、希望でリビングの後片付けを終わらせる。

 片付け終わると、亜美達は待たせていた夕也、春人を連れて帰って行った。


 帰る間際に亜美と希望が揃ってサムズアップしていたのは「頑張れ」という意味なのだろう。


「よし!」

「どうした?」


 私が気合いを入れたのを見て、不思議そうにこちらを見る宏太。


「ねぇ、今日、おじさんとおばさんは?」

「帰って来ないって言ってたな。 いつも通り明日の朝じゃないか?」


 つまり、今晩は大丈夫ということね。


「シャワー、借りていいかしら?」

「向かいなんだから帰ってから浴びれば良いだろ?」


 こいつ! さっきの質問からシャワー借りるって話をどうして繋げられないのかしら!?

 しょうがないから、もう一歩踏み込む。


「おじさん達が帰って来ないなら、今晩は二人きりねぇ」


 チラチラ…


「……あ」


 やっと気付いたようだ。

 さすがの宏太も少し困ったような顔をしている。


「シャワー、借りていいかしら?」

「あ、あぁ……」


 それを聞いて私は浴室へ向かった。



◆◇◆◇◆◇



 シャワーを浴び終えた私は、現在宏太の寝室へ来ている。

 い、いよいよなのね……緊張してきた!

 亜美は良くこんなドキドキに耐えられたわね。


「な、なぁ? まだ良いんじゃないか、こういうの? 付き合い出してまだ日が浅いんだしよ?」

「お、女の子が勇気を出して誘ってるのに、男が怖気付くな!」


 私は宏太に抱き付き、そのまま押し倒す。

 あれ? こういうの、普通逆よね?


 私は一旦宏太から離れて立ち上がる。


「な? やっぱり早いと思うだろ?」


 何か勘違いをしているようだが、私はそんな宏太を無視して言った。


「やり直し! あんたが私を押し倒しなさい!」

「おーい!」


 もしかして嫌がられてる?


「私とするの……嫌?」

「あーいや、嫌というかだなぁ……何の準備も無いんだわ」

「準備ならしてあるわ!」


 私は、亜美から貰ったこんどーさんをポケットから出す。


「なんで持ってんのお前!?」

「ヤる気だったからに決まってんでしょうが! 文句ある!?」

「痴女かお前は!?」


 最近は良い雰囲気だったのに、いざって時に何でいつも通りになるのよ! 私の事を愛してるからこれをくれたんじゃないの?


「ねぇ、この指輪、その程度の気持ちでプレゼントしてくれたわけ?」


 左手薬指の指輪を見せて宏太に気持ちの確認をする。


「や、安物ではあるが、そんな軽い気持ちでは無いぞ?」

「でしょ? だったらさ」


 宏太は少し俯いて、覚悟を決めたように言った。


「……わ、わかった。 俺も男だ」


 そう言うと、ベッドに座り私の手を掴む。

 そのまま、強く引っ張られた私は宏太の胸に飛び込む様な形で倒れ込んだ。

 

 更に宏太は体を反転させ、私をベッドに寝かせて、その上に覆い被さる。


 ちょっとえっちな少女マンガで見たようなやつ!


「奈々美、本当に良いんだな?」

「良いわよ」

「わかった……」


 私達は、ゆっくりと目を閉じてキスを交わした……。





◆◇◆◇◆◇





「あんたさ、意外と優しいのね?」

「うっせー!」


 事を終えた私達は、布団の中で会話している。


「私達、結構順調にいってるわよね」

「意外となぁ」

「付き合い出すまでに時間が掛かっただけで、付き合い出したらあっという間にここまで来たわね」

「……悪かったな、長い時間待たせて」

「別に気にしてないわよ?」


 その待っていた時間が、無駄にはならなかったんだと、今しがた証明されたわけだし。


「しかし、一晩で四回戦したっていうあいつらはすげぇな」


 亜美と夕也ねぇ。

 確かに一回でも割と疲れるわよこれ。 四回とかどんだけよ?


「亜美と夕也で、気になる事があるんだけどさ」

「お前もか?」


 宏太も気付いていたのかしら?


「夕也が何か変なんだよなぁ」

「まあ、大丈夫みたいだけどね。 亜美からちょっと話は聞けたわ。 とは言え、ちょっと困ってるみたいだし助けてあげようとは思うけど」

「そうか……でも、あまり亜美ちゃんにばかり肩入れすんなよ? 夕也には今、雪村がいるんだ」

「わかってる」


 私はずっと亜美を側で見てきたわけだし、あの子にはちゃんと好きな人と幸せになってほしい。

 あの子が夕也を好きなら、私はそんな亜美を応援するし、春人が好きになったって言うならそれを応援するまでよ。


「てか、えっちした後の会話が他の男女の話ってどうなんだ?」

「確かにね」


 私達は、揃いも揃って世話焼きらしい。

 その後はしばらく、お互いの感想なんかを話して、日が変わる前には、自分の家に戻った。


 ◆◇◆◇◆◇


「ちゃんと報告しとかないとね」


 スマホを出して、グループチャットを開く。

 私は「v」とだけ入力して送信した。

 直ぐに既読が付き亜美と希望から「おめでとう!」と、祝いの返事が届いたのだった。


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