第70話 距離
☆奈々美視点☆
本日9月5日は私、藍沢奈々美の16歳の誕生日。
私は別に良いって言ったのに、皆が騒ぎたいだけなのか知らないけどパーティーを開こうということになった。
数日前、遥の誕生日パーティーをやった気もするけど。
「奈々ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「おめでとう!!」
パーティーに集まった皆から祝いの言葉を貰う。
何だかんだ言っても、やっぱり嬉しいものだ。
嬉し泣きしそうになるのを堪えて「ありがとう」と、返した。
今日の会場は、宏太の家になっている。
いつも、夕也の家ばかりじゃ申し訳ないという、皆の意見が出た結果こうなった。
「さすがに、これだけいると狭いぞ?」
「そうね」
リビングには9人もの人間が集まっており、かなり狭い。
あまりの狭さに嫌気が差したのか、奈央が声を上げた。
「狭いから、奈々美は佐々木君の膝の上にでも座りなさいよー」
「い、嫌よ人前でそんな!」
その様子を頭の中で思い浮かべるだけで、火が出るかと思うぐらい恥ずいわ!
「えー? 人前でイチャつくの恥ずかしい?」
不思議そうな顔で、ケーキを頬張りながらそう言うのは紗希だ。
「あんたのとこは、おかしいのよ」
「そっかなー? 希望ちゃん達はどなの?」
「えっ? さすがに人前では……」
私でも恥ずかしいんだから、希望なんかは恥ずかし過ぎて、頭おかしくなるんじゃないかと思う。
案の定と言うか、夕也の上に座る想像をした希望は、頭から湯気を出している。
「可愛いねー、希望ちゃんは! よし、久しぶりに揉んであげよー!」
「はぅぅっ!」
またやってるわね。
希望は壁を背にして背後を取られまいと抵抗しているが、前からあっさりと揉みしだかれている。
「ほれほれ! 今井君に毎日揉まれてるんでしょー!?」
「揉まれてないよーぅ! いやーん、助けてー」
助けを求められている、彼氏の夕也はというと、めちゃくちゃ羨ましそうに見ている。
あれは、自分も揉みたいと思ってる顔だ。
「賑やかですね」
「うん、そうだね」
夕也と希望から離れた場所に座る亜美と春人が、その光景を見て笑いながら話している。
それにしても気になる。
新学期が始まってから、亜美と夕也に妙な距離がある様な気がする。
距離っていうのも、物理的にと、心の両方だ。
何があったのかしら?
気になる点ならもう一つ。
春人と亜美の距離だ。 春人が亜美と一緒にいる事が多い。
こっちは、春人が亜美にすり寄ってるように感じる。
亜美の方も、特に嫌がる様子はなく普通に接しているけど……。
これは、どうにもややこしい事になりそうだわ。
「隙あり!」
そんな事を考えていると、背後から紗希の声が聞こえた。
「しまっ──」
気付いた時には既に遅かった。
油断していたわ! 希望と
希望の方を見ると、恍惚とした表情で夕也にぐったりともたれ掛かっている。
紗希の超絶揉みテクでやられてしまったようね。
「おおー、やっぱあんたのは揉み応えあるわね」
「やめなさいよ、もう」
「相変わらず反応はつまらないけど。 あんた90の大台に乗ったわね?」
「とんでもない手してるわね……」
亜美が「うわわ、先越されちゃったよ!」と、あまり悔しくは無さそうに言っている。
「つまらないけど、これならどうかしらねー? 奈央! 遥! 作戦Nよ!」
げっ、このパターンは!?
「うおい! ちょっと待て! 西條! 蒼井! 俺はまだ死にたくない!」
「そこまでしないわよバカ!」.
「佐々木、抵抗しても無駄無駄! 可愛い彼女のデカ乳揉んで死ねるなら本望だろー!」
遥の奴ノリノリじゃないのよ。 宏太も必死に抵抗しているが、脇を奈央にくすぐられて力が入らないのか、遥の力に敵わないようだ。
「えーい! 宏太、好きなだけ揉みなさい! 私が許す!」
私が観念してそう言うと、皆から「おぉ……」という声が上がった。
「すまん奈々美!」
◆◇◆◇◆◇
現在、私の前には頭にタンコブを作った3人の愚者どもが、土下座してペコペコ謝っている。
「何で私達が殴られてるのよ!」
奈央が何故かキレている。
「当たり前だよ、奈央ちゃん……」
希望が顔を引き攣らせながらそう言うと、奈央は「納得いかなーい!」と叫び始めた。
「亜美さん、皆さんいつもあんな感じなんですか?」
「う、うん……紗希ちゃん達はいつもあんな感じ」
「奈央さんは昔からあんな感じでしたが……変わってないんですね」
「へぇ、昔の奈央知ってるんだ」
紗希が話しに食い付く。
春人が奈央と許婚だってのは聞いたけど、付き合い長いのね。
奈央は、「余計な事を話したらおじ様に言い付けるわよ」と春人を脅している。
「まぁ、私は奈央と幼稚園ぐらいからの付き合いだし大体知ってるけど」
紗希と奈央は本当に長い付き合いね……って、私ら五人もそっか。
「遥って、奈央紗希と合流したの小学生の頃からだっけ?」
「そうだよ。 いやー、この二人に会った時は世の中とんでもないのがいるなぁと思ったもんよ」
「何それどういう意味ー?」
奈央が遥の背中に抱き付いてコアラみたいになっている。 子供みたいでちょっと可愛い。
まあ、見た目は子供っぽいけど。
「私さぁ、幼稚園の頃から運動得意で、駆けっことかも誰にも負けたことなかったんだけど、あんたらに会って自信失くしかけたぞぉ」
と、冗談っぽくいうが多分本当だろう。
奈央は亜美に次ぐ化け物スペックだし、紗希もかなり高スペックな女の子だ。
よくもまぁ、こんな化け物ばかり集まったわねぇ、うちのバレー部1年。
キ〇キの世代もびっくりよ。
「奈央や紗希以上の奴なんていないだろうと思って、中学上がったら魔王がいるしさぁ」
「魔王はやめてよぉ……」
インターハイで弥生に付けられた「魔王」のあだ名が定着しつつあるようだ。
「あ、飲み物無くなったわね。 私取ってくるわ」
「あー、こらこら、奈々ちゃんは今日の主役なんだからぁ。 私が取ってくるよ」
立ち上がろうとした私を静止して、亜美が立ち上がる。
亜美と2人になるチャンスね? 聞きたいこともあるし丁度良いわ。
「んじゃ、一緒に行きましょ」
「もう、主役は座ってればいいのに」
「良いのよ別に」
私と亜美は2人でキッチンへ向かった。
「そだ、せっかく2人になったし……奈々ちゃん、はいこれ」
亜美は小さな箱を鞄から取り出して私に手渡してくる。
「こんどーさんだよ。 あ、もしかしてワザと2人になる機会を作ったの? もぅ、せっかちさんだねぇ。 今夜頑張ってね! あ、約束は守ってね」
幼馴染は「このこのー」と肘で小突いてくる。
「が、頑張るわよ……約束ってあんたが新しいの買いに行く時ついて行くってやつよね? OKよ」
私はこんどーさんをポケットに入れて、本題に入る。
「ねぇ、夕也となんかあった?」
「ん?」
先程までの悪戯っぽい笑みが消えて、真面目な顔に戻る。
どうやら図星の様だ。
「ケンカ?」
「ううん、そういうわけじゃないの」
首を横に振ってそう言う。
「じゃあ何よ?」
「うんとね、もうちょっとお互いの距離を考えようって話になってね」
「お互いの距離?」
亜美は、夕也との間で交わされた会話の内容を話してくれた。
「ふぅん……まあ、希望の事を考えるなら至極当然な話よね」
今までがおかしかったのだ、と言われればその通りなのだけど。
亜美が前向きになって来たと思ったら、今度は夕也が後ろ向いちゃうの? 意味わかんないわね。
「希望にはこの事は言った?」
「ううん、私からは特に何も」
希望には知らせない方が良いのかしらね。
変な気を遣いそうだし。
「で、今の距離感がベストだと思うの?」
「うーん……まだ、もう少し詰めても大丈夫かなぁとは」
今の距離感に納得はしてないってことね。
「よし、困ってる親友を助けてあげましょう」
「え? なんかよくわかんないけどありがとう!」
目をうるうるとさせながら感謝の意を表してくる。
「困った時はお互い様でしょ」
「今度、私も奈々ちゃんの事助けるよぉ」
「そん時は頼りにしてるわよ」
私と亜美は、飲み物を持ってリビングへと戻った。
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