第69話 幼馴染の付き合い

 ☆夕也視点☆


 風呂から上がり、今日はもう寝ようかと思ったところでスマホに誰かからメールが届いた。


 ピロリンッ


「ん? 亜美からか」


(今からそっち行って良い?)


 最近多いな。 一体どうしたんだあいつ?


 取り敢えず「別いいぞ」とだけ返信しておいた。

 しかし、希望の事もあるしそろそろやめさせないといけないな。


 コンコン……


 最近恒例となってきたベランダ間の行き来。 昔は夜になるとしょっちゅうやってたな。

 窓を開けて客人を迎え入れる。


「おじゃましまーす」

「おう、で、どうした?」

「うん、ちょっとねー」

「?」


 亜美は部屋に入ってくると、そのままベッドに座った。


「ね? 夕ちゃんは私の事、今はどう思ってる?」


 小首を傾げながら、少し目を潤ませて訊いてくる幼馴染。

 ええぃ、可愛い奴め……。


「いきなりどうしたよ?」

「気になって……」


 祭りの時に希望に言われた事を思い出す。


(夕也くんにとって私は、まだ二番目だよね?)


 希望は今はそれでも良いと言ってくれているが、いつまでも二番目というわけにはいかない事は、俺もわかっている。

 だからまず呼び方から変えてみたんだ。


 だが……。


「好き……だぞ」

「本当?」

「あぁ、でもな……」

「ううん、いいの二番目でも三番目でも」

「そ、そうか」


 希望と同じようなことを言う奴だな。

 本当に似た者同士だ……いや、希望が亜美に似てしまったのかもしれない。


「ありがとう」


 満面の笑みを浮かべる亜美。


「で、なんでそんなことを確認しに来たんだよ?」

「んー、ちょっとね」

「ちょっとってなぁ」


 良く分からん奴だな……って前からか。


「で、お前はどうなんだよ?」

「私?」

「お前は今、俺の事どう思ってるんだ?」

「知りたい?」


 にへら~っとした顔でそう訊いてくる。


「俺が言ったんだから、お前も言えよ」

「えへへ、愛してるよ」


 微笑みながらそう言って、ストンッとベッドに座ってしまった。

 ……愛してるか。


 ベッドに座り、まだまだ居座るつもりなのだろうか? 

 丁度良い、これからはあんまり来ないように言い聞かせてやろう。

 俺だって、希望の事を大事にしていこうと決めたとこだし。


「なぁ、亜美」

「ん? なぁに?」


 小首を傾げてこっちを見る。

 あぁ、クッソ可愛いなチクショー。

 じゃねぇ! ここは心を鬼にして!


「ちょっと最近、俺の部屋に来すぎじゃないか?」

「え、ダメ?」

「ダ、ダメじゃないが……もうちょっと控えてくれないか?」

「希望ちゃんの事があるから?」

「まぁ、そうだ」

「うーん、わかった……しょうがないね。 じゃあ、もう来ない様にするね?」

「いや、来るなとは言ってないぞ? たまに来るぐらいは構わない。 幼馴染の範疇での付き合いなら問題ないから」

「なるほど」

 

 亜美は「そかそか、ありがと」と言ってスタッと立ち上がりベランダへ出た。

 

「わかったよー、幼馴染の範疇の付き合いね」

「あぁ」

「らじゃだよぉ、明日、朝ご飯作りに来るね」


 亜美は手を振って部屋に戻っていった。


 亜美とは、幼馴染としての付き合いを心掛けていくべきだろう。

 俺も上手い具合に調節してやれるようにならないとな……。


「さて、寝──」


 コンコン……


 ようと思ったら今度は部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「寝かせないつもりかよ……」


 仕方ないのでドアを開けて、来客者を確認する。

 まあ、こいつしかいないわな。


「亜美さん、帰りましたか?」


 そこには春人が立っていた。

 こいつが、俺の部屋に来るのはかなりレアだな。


「まさか、ずっとそこで待ってたのか?」

「ええ、まぁ。 遅くなるようなら後日にしようと思ったんですが」

「はぁ……まぁ、入りな」


 そう促すと春人は「お邪魔します」と、丁寧に断りを入れてか入室してきた。


「んで、何用だ?」

「まあその……少し」


 なんだこいつもか?


「生憎だがな、俺は至ってノーマルだぞ。 男はごめんだ」

「え?」


 何だ違うのか。 てっきり「僕の事をどう思いますか?」とか、恐ろしい事を訊かれるのかと。


「確認したい事というのはですね、僕が亜美さんに告白しても良いのかということでして」

「何?」

「僕、亜美さんの事好きになってしまったんですよ……」


 涼しい顔をしてそう言い放つ春人。

 真剣な眼差しで、俺を見つめる。


「……好きになった? たった2週間程でか?」

「はい。 この2週間、彼女と話していると、とても楽しかった。 時折見せる愛らしい笑顔を見るたびにドキッとさせられました」


 結局はこいつも、その辺の男子と同じで外見でしか亜美を見ていないのか……。


「亜美さんとは幼馴染として付き合っていく、先程そう言ってましたよね? だから別に構わないですよね?」


「亜美さんを僕が貰っても」と、俺に言い放つ。


「好きにしろよ……ただ、俺は春人の力にはならないぞ?」


 どうせそんな生半可な想いは亜美には届かないだろう。

 俺が何かしなくても勝手に自爆する。


「はい、それで良いですよ」


 ただ、2週間見てきて悪い奴ではないことはわかっている。

 もし万が一亜美が彼女になれば、大事にしてくれるだろうが……。


「結局は亜美さん次第なのですが……」


 そう、結局は亜美が春人と歩いて行くかどうかを決めるのだ。

 もし亜美がそれを望むなら、その時は応援してやろう。


 ◆◇◆◇◆◇


 春人は、言うだけ言って満足したのか、一言だけ謝った後に自室へと戻って行った。


 俺は勉強机に立ててある写真を手に取った。

 亜美と撮った、結婚式体験デートでの一枚。

 幸せそうに微笑みながら、俺と腕を組む亜美が写っている。


「……」

 

 幼馴染としての距離を保つ事にした以上、この写真は未練でしかないのかもしれない。

 そう思い俺は、写真立てを机の引き出しにしまった。




 ☆亜美視点☆


 部屋へ戻って来た私は、机の上に飾ってある写真を見ていた。


「むぅ……夕ちゃんに釘を刺されてしまった」


 確かにこの夏休み、夜中に夕ちゃんの部屋に入り浸る事も多くなっていた。

 大体、お互いに「好き」とか「愛してる」なんて言い合う幼馴染なんか、何処にいるというのだろうか?


「はぁ……」


 自分の思うように生きてみようって決めたは良いけど、いきなり夕ちゃんの方から一線を引いてきたなぁ。

 夕ちゃん的にはどれぐらいの距離がベストなのか、探り探りでいってみるしかない。


 それにしても、あの占い良く当たる。

 このまま何事もなく行けば私と春くんは幸せに暮らす事になる。

 別にそれが嫌だってわけじゃないけれど、今はどうしても夕ちゃん贔屓で考えてしまう。


「このタイミングで、夕ちゃんとの距離が開くイベントが起きるなんて」


 私は写真立てを手に持ち、幸せそうな私の顔をじっと眺めた。

 こんな笑顔を引き出せるのは、夕ちゃんだけだと思う。


「何にせよ、明日からは夕ちゃんとの接し方に気を付けよう。 近付き過ぎず遠過ぎずのベストな距離を見つけるぞ、おー!」


 一人で気合いを入れるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る