第67話 恋と愛
☆亜美視点☆
──亜美の部屋──
夏休み大きなイベントである夏祭りが終わった。
部屋でカレンダーを眺めて、もうじき新学期だということを実感しているところである。
10月には大きな行事として、学園祭である
個人的な話としては、9月中旬に、春高バレーの地区予選があるね。
まずはここに勝って県大会行きを決めなければならない。
確かバスケ部も7日からウィンターカップの予選が始まるとか言ってたっけ?
夕ちゃんと宏ちゃん、今度は全国大会まで行けると良いな。
「さーてと、お風呂入って頭の中でも整理しよっかな……」
明日、奈々ちゃんに色々訊かれそうだし、自分の中で今出せる答えを見つけておかないと。
私は部屋を出て、浴室へと向かった。
◆◇◆◇◆◇
チャポーン……
「ふぅ……」
しかし、今日一日でまた色々あった。
何より驚いたのは、春くんが私に好意を抱いているという事実。
私と春くんは、出逢って二週間程という、実に短い時間しか経っていない。
確かに、良く部屋に行ってはアメリカでの事を色々聞かせてもらったり、趣味の話をしたりして仲良くはしていたけど。
その時間の中で、春くんからすれば、私に惹かれる何かがあったのかもしれない。
「てか、私もだよね」
そう私もだ。
この2週間、春くんと接している内に無意識に惹かれていたようだ。
今まで、夕ちゃんや宏ちゃん以外の男の子にそういう感情を抱いたことは無かったし、これからも無いだろうと思ってた。
これが、青砥さんの言っていた「好きな人を忘れるぐらいの新しい出逢い」になるのかもしれない。
「あの時、雰囲気に流されたとはいえ、キスしそうになっちゃったしね」
夕ちゃんの事が頭に浮かんだから、咄嗟に顔を背けたけど、もし夕ちゃんの事が浮かばなかったらきっと……。
そうよ! 大体私は、夕ちゃんが好きなんじゃない。
私の心の中にはちゃんと夕ちゃんがいる。
「で、でも、夕ちゃんがいくら好きでも、夕ちゃんには希望ちゃんがいて……夕ちゃんをフッたのも私の方で」
色々思い出すと、ずんっと心が重くなった。
そうなんだよねぇ……私が夕ちゃんと幸せになるって事は、希望ちゃんを不幸にするって事なんだよね。
そんな事、私に出来るかな?
それが、いくら自分にとって一番幸せになれる道だとしてもだ。
「私の気持ちに正直になって選んだ道が、私の一番幸せな未来に繋がっている……」
占い師さんはそう言っていた。
春くんと歩む未来が私の一番幸せな未来? それとも──。
「はぁ、『先の事はわからない』かぁ」
本当にそうだね。
結局のところ、いずれ来るっていう「時」に、心から一緒に歩みたいと思える
「そこが大事なところってことよね」
春くんなのか、それともまた別の誰かなのか。
「今悩んでも仕方いのかな? きっとその時になれば、私は私なりの答えを見つけてるんだよね?」
どうなるかわからないけど、今は悩むより自分の思うように生きてみよう。
私は、お湯をバシャッと顔にかけて気持ちを切り替える。
「うん、悩むの終わり!」
◆◇◆◇◆◇
翌日の昼15時頃、奈々ちゃんに呼ばれて、喫茶緑風へやってきた。
私が出掛けるのを目聡く見つけた希望ちゃんも、「一緒に行く!」と言ってついてきて、現在は奈々ちゃんの隣に座っている。
「で、春人とはどうなってるのよ」
「それだよ! 昨日、私達と合流する前にキスしそうになってたし」
私が話しを始める前から二人はヒートアップしてしまっている。
私は、一先ずフルーツパフェを口に運び、話を始めた。
「春くんの事は、確かに異性として意識してるところがあると思うの」
「えぇっ?!」
希望ちゃんが大きな声を上げて大袈裟気味に驚いている。
「夕也の事はどうすんのよ?」
「うん、一応ちゃんと考えてはいるよ」
「えぇっ?!」
希望ちゃんはまたまた大きな声を上げて驚いている。
そんなに驚かなくても……。
「ちょっと欲張り過ぎねぇ」
「わかってるけどさぁ……んむんむ、美味しぃ~」
「亜美ちゃん、何か余裕だね?」
「そういうわけじゃないけど、今悩んでも仕方ないなーって結論が出てね」
「どういうことよ?」
「うんとねぇ──」
私は占い師さんとの話を二人に話した。
「へぇ、そんな占い屋さんあったんだぁ」
「気付かなかったわねぇ」
まぁ、あんまり目立たない所にポツンとあったからねぇ。
「で、その占い師さんによると、大事な選択をしなきゃいけない日が近い内に来て、その時の気持ちに正直な選択をすれば幸せになれるって?」
「らしいよ?」
「その占い師の言葉信じてんの?」
奈々ちゃんは「インチキ臭いわねぇ」と言いながらコーヒーを口に含む。
「うーん、私も完全に信頼してるわけじゃないんだけど、でも結構当たってたからねぇ」
「例えば?」
「そだねぇ、私と春くんが出逢って間もない事とか、私の心の中に夕ちゃんがいるって事とかをズビシッ! と、当ててたよ?」
「へぇ、凄いねぇ!」
目を見開いて感心している希望ちゃん。
私もあれには驚いたけど。 あれが当てずっぽうで言ったことなんだったとしたら、もうお手上げだよ。
「ふぅん……で? 今のとこはどうなのよ?」
「今のとこ?」
「夕也なのか春人なのか」
あー、どっちが良いかって事か。
「夕ちゃんに決まってるじゃん」
「迷い無し?!」
「そうなのね」
「断然夕ちゃんだよ」
考えるまでもない。
「春くんへの気持ちはまだまだ、恋にもなってない段階だと思うの。 キスしそうになったのだって、雰囲気に流されてって言うのが多分に含まれてたと思うし」
あの時は占い師さんに言われた春くんとの未来とか、春くんに「綺麗」だなんて言われて、少し舞い上がってたっていうのは否めない。
「夕也の事は……って、聞くまでもないわよね」
「うん、『愛』だね」
「恋と愛じゃ、随分差があるね」
と、希望ちゃん。
そう、恋と愛では全然違う。
もちろん、逆転しちゃう可能性だってあるけど、少なくとも今は夕ちゃんが好き。
「春くんと一緒にいた時は、何ていうかドキドキしたんだよ」
「それは『恋』だね。 私も小学生の頃に経験あるよ」
希望ちゃんがそう言う。 今でこそ、そうでもないけど、夕ちゃんに惚れ始めた頃はいつもドキドキしていたのだという。
私は夕ちゃんといても、そう言う風になったことはあまりない。
ずっと一緒だったし、「恋」に気付く前に「愛」になっていた。
「夕ちゃんといるとね、凄く安らぐの」
「亜美の気持ちの安らぐ場所、ってことね」
「夕也くんの側は私の居場所だよ!」
「あはは、そうだね」
そう、夕ちゃんの隣は今、希望ちゃんの居場所だ。
「もしかして、私と奪い合う気になった?」
「まだそれはなんとも……選択の時にはそれも含めて、きっと答えが出てるんだと思うよ?」
「そっか」
「ふふっ」
奈々ちゃんが小さく笑った。
どうしたんだろ?
「あんた、今凄く良い顔してるわよ」
「そ、そう?」
「ええ、今度こそ後悔すんじゃないわよ?」
「夕也くんは簡単に渡さないからね?」
良く言うよこの子は。
私に気を遣って、夕ちゃんと二人にしようとしたり、私と夕ちゃんがベランダで密会してるのに気付いてるのに放置している。
その気になれば簡単に奪えちゃう自信あるよ私。
「そうなった時は覚悟しといてね?」
「はぅっ……」
とは言ったものの、その奪うという決断をするには、希望ちゃんの幸せを壊すという覚悟が私にもいるわけだけど。
小学6年生のあの時、不幸のどん底にまで落ちてしまったかのような表情の希望ちゃんを見た時から、私のはこの子を助けてあげたい、笑顔を取り戻したい、幸せにしてあげたいと思うようになった。
「まぁ、私はあんたを応援するわよ。 困ったらいつでも相談しなさい」
「うん、ありがと奈々ちゃん」
「わ、私は内心複雑だよ」
また「
「この話は終わりにしましょうか」
コーヒーの残りを飲み干した奈々ちゃんが話を締める。
「そういえば、もうすぐ奈々ちゃんの誕生日だよね? パーティーする?」
そう、9月5日は奈々ちゃんの誕生日。
「良いわよ別に……」
「えぇーしようよぉ」
「はぁ、しょうがないわねぇ……じゃあ、お願いしようかしら」
「うんうん、お任せだよ!」
楽しみだなぁ。
「と、ところであの、さ……亜美にお願いがあんだけど」
奈々ちゃんが珍しく顔を赤くしてちょっと恥ずかしそうにお願いしてくる。
「何?」
「その……こんどーさん貸してくんない?」
「はぅっ……」
「自分で買いなよぉ……」
「か、買いに行くの恥ずかしいじゃない!」
「私は恥ずかしい思いして買ったんだけどな!」
初めて買いに行ったの中学生3年生の時だよ私。 会計に持って行く時、凄く恥ずかしかったの覚えてるよ。
「お願い! あいつが持ってるとは限らないから!」
まぁ、夕ちゃんも持ってなかったしねぇ。
「わかったよ、今あるの全部上げるから、今度私が買いに行く時は一緒に来てよね?」
「約束するわ! ありがとう親友!」
「渡すの誕生日の日で良い?」
「ええ、た、誕生日にするつもりだから……」
「約束してるの?」
希望ちゃんが目を輝かせながら訊いている。
このむっつりさんはもう……。
「してはないけど……誘ってみるつもり」
「そかそか、頑張ってね奈々ちゃん」
「え、えぇ……あの、やっぱ痛かった?」
「本当に最初だけだよ」
私は先輩として色々とアドバイスしてあげた。
何故か希望ちゃんも真剣に聞いてたけど、あなたは紗希ちゃんから色々聞いてるでしょ……。
この日はそれで解散となった。
皆は前に進んでる。 私も頑張らなきゃね。
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