第66話 夏祭り 亜美・春人side②

 ☆亜美視点☆


 占いの館を出てから少し歩くと、異様に盛り上がっている場所があるのに気付いた。

 どうやら腕相撲大会をやっていたらしいけど、女子高生がチャンピオンの男性を圧倒してしまったらしい。


「凄い女子高生もいるんですね」


 と、春くんは腕を組みながら感心している。

 私はその女子高生に何となく心当たりがあるんだけどなぁ。


「どんな筋骨隆々な女子高生なんでしょうね?」

「あははは……多分、奈々ちゃんだよ、その女子高生」

「え? 奈々美さん? そんな風に見えないですよ?」

「凄くパワー系女子だよ奈々ちゃん。 あ、私が言ってたって言わないでね? 頭こつんってされちゃう」

「は、はい」


 ◆◇◆◇◆◇


 私達は盛り上がっている腕相撲大会のスペースを後にして駅前広場の方へ戻ってきた。

 時間的にそろそろ、花火が上がり始める頃だ。


「ここで見ようか? どうせ最後は皆ここに集合するし」

「そうですね、少し人が多いですが」


 駅前広場にある噴水前のベンチに腰掛ける。


「お祭りどう?」

「日本のお祭りって感じですね。 アメリカのはとにかく何でも派手なので」

「あはは、そうなんだ? また向こうの事色々聞かせてね?」

「よく、アメリカの事訊いてきますけど、そんなに興味あるんですか?」

「そうだね、知らない事を知るのが好きなだけかも?」

「そうなんですね」


 ヒュー……ドン!


 話している途中で、花火の最初の一輪が夜空に咲き、続けて大輪が咲き乱れはじめる。


「日本の花火も久しぶりです。 やはり風情がありますね」

「アメリカの花火は?」

「綺麗ではありますが……」

「「とにかく何でも派手」」


 二人の声がハモった。


「あはは」

「今年は、日本で見れて良かったです」

「そかそか」


 ふと、占いの館での話を思い出す。


(貴方は、この彼女に惹かれていますね?)

(はい)


 あれは、本当に本当なんだろうか?

 出逢ってまだ二週間……。


(貴女もですよ? 彼に少しずつ惹かれています)


 私も無意識に春くんに惹かれていってるって事なの?


「綺麗ですね」


 考え込んでいると、春くんが花火を見て漏らした。


「そうだね。 花火はやっぱり綺麗だよね」

「亜美さんも綺麗ですよ」

「……ふぇ?」


 隣に座る春くんの方を見ると、私の顔を真剣に見つめる春くんと目が合った。

 ど、どうしてそんな顔を。

 私は恥ずかしくなってパッと視線を逸らしてしまった。

 このまま何事もなく行けば、私と春くんは将来幸せに暮らして……。


「いやいや……」

「亜美さん?」

「ううん、何でもないよっ」

「そうですか」


 何を考えてるの私は。

 チラッと春くんの方を見ると、既に花火の方を見ていた。

 い、意識し出すと、どんどん気になってくる!

 

 青砥さんの言葉を思い出す。


(普通に出逢って、普通に話したりしてる内に心の中に入って来て、気付いたら好きになって……。)


 うわわわ、何かドキドキしてきた! こんなの、夕ちゃんや宏ちゃんと一緒に居る時でもなった事ないよ!

 もしかして、占い師さんの言う通り、私は春くんの事を好きになり始めて?

 で、でも私は夕ちゃんの事が、あわわわわ……。


「亜美さん? 花火見てます?」

「はい! 見てます!」


 うわわわー! めっちゃ不審じゃん!

 お、落ち着こう!

 よし、落ち着いた!


「さ、さっきの占いの館での話なんだけど、本当に私に惹かれてるの?」

 

 な、何聞いてるのよ私~っ!

 そんなこと聞いて「はい、本当に惹かれてます」なんて言われたらどうするのよ?!


「そうですね。 亜美さんはとても良い人で、それにとても可愛いくて、惹かれるなという方が難しいですよ?」


 ほれ見たことかぁ!


「そそそ、そうなんだぁ……あ、あははは」


 取り敢えず笑っておく。


「亜美さんの方はどうなんですか? 占い師さんが言ってたことは本当なんですか?」

「えぇーと……」


 意識し出しているんだということは認めざるを得ないかも……。


「は、春くんも優しいし、かっこいいし……惹かれるなって言う方が難しい……よ?」


 は、恥ずかしい!

 顔が熱いよぉ! やばいやばい、どうしよ?

 私って実は惚れっぽい女だったのかな?!


「そうですか」

「う、うん」


 お互い、しばらく無言のままで、花火の音だけが耳に届いてくる。

 チラチラと、隣に座る春くんの顔を見ては視線を逸らす。

 花火の光に照らされる、春くんの綺麗な顔見るたびにドキドキしてくる。

 こ、これは恋?!

 ふと、春くんと目が合ってしまった。


 ドキドキ……。


 しばらく見つめ合った後、私は無意識に目を閉じていた。

 呼吸の音で、春くんの顔が近付いてくるのがわかる。 

 もう、どうにでも──。


(亜美、愛してる……)

(うん、私も……)


 夕ちゃん──。

 6月のあの激しい夜の事を思い出し我に帰る。


「──っ!」


 私は咄嗟に顔を背けた。

 あ、危なかった……。

 

「あ、あの、す、すいません。 僕ちょっと調子に乗っちゃいましたね。 亜美さんは夕也の事が好きだって知っていたのですが……」


 春くんは苦笑いを浮かべながら頭を下げた。


「う、ううん、私も雰囲気に流されちゃって、ごめんなさい」


 お互いペコペコと頭を下げ合う。


 春くんに惹かれ始めてるのはもう疑いようもない。

 今はっきりと、彼を一人の男性と意識してしまっていた。


 でも、それよりも心の中に居る夕ちゃんの存在が大きかった。

 今の私は、春くんを受け入れるわけにはいかない。


「あ、いたいた! 亜美ちゃん、春人くん!」

「おう」

「夕ちゃん、希望ちゃん」

「二人とも、お祭りはどうでしたか?」

「あぁ、まぁ有意義だったぞ? なぁ、希望?」

「うん、ボケねこさんもゲットしたし」


 紗希ちゃんが柏原君に取らせてたやつだ。

 夕ちゃんが取って上げたのかな?

 それに今……。


「夕ちゃん、さっき希望ちゃんの事……」

「ん? あぁ、せっかく恋人になったんだし、ちゃん付けはやめようかなと思ってな。 希望はやめてくれないけど」

「夕也くんは夕也くんだもん」

「そうかいそうかい」

「また一段と仲良くなったみたいですね」


 夕ちゃんと希望ちゃんは確実に前に進んでいるみたいだ。

 嬉しいような悔しいような……複雑な気持ちだ。

 それもこれも全部自分が悪いんだけど。


 と、考えていると、ぽんぽんっと希望ちゃんが肩を叩いて耳元で小声で囁く。


「さっき……春人くんとキスしてた?」


 み、見られてた?!


「してない……未遂でなんとか回避した……」

「そっか、びっくりしたよ……」

「ゆ、夕ちゃんは……?」

「気付いてなかったみたい……」

 

 ほっ……良かった。

 って、何安心してるんだか……。


「そこ、何コソコソ話してるんだ?」

「な、何でもないよ!」

「うんうん!」


 夕ちゃんは少し訝しんだ顔をしていたけど、すぐに普段通りに戻って「そうか」と納得した。

 

「他の皆はまだか?」

「うん、まだだね。 どっかでイチャついてるんじゃないかな?」


 私達が途中で鉢合わせたのは紗希ちゃんと柏原君のペアだけだった。


「そう言えば何でお前達も二人なんだ? 四人だったろ?」

「途中ではぐれてしまったんですよ。 亜美さんが連絡を取ったのですが、そのまま2:2で回ろうと言う話になったようです」

「うんうん」


 本当は二人にハメられたんだけど、そういうことにしておこう。

 危うく奈央ちゃん達の作戦通り「良い雰囲気」になりかけたけど……あれ? もうなってた?


「そうか」

「夕也くん、ちょっと心配になってたでしょ?」

「あ、あのなぁ」


 目の前で希望ちゃんにイジられてちょっと困惑している夕ちゃん。

 そんな夕ちゃん達のやり取りを見ていると、続々と皆が戻ってきた。

 どうやら、最後で皆合流したようだ。


「お待たせ―」

「おかえり皆」


 それぞれのカップルが手を繋いだり、腕を組んだりしている。

 このお祭り中、仲が進展したのは夕ちゃん達だけではなかったようだ。

 奈々ちゃんと宏ちゃんがすっごいラブラブしてる!


「どど、どうしたの奈々ちゃん?! チョップは? キックは?」

「な、何もないのにしないわよ!」


 一体何があったんだろう!


「そろそろ花火もフィナーレの大仕掛けだよ」


 遥ちゃんが話しを遮って言う。 

 なぜか奈央ちゃんを肩車している遥ちゃん。

 まるで歳の離れた姉妹だ。


「たーまやー!」


 子供のようにはしゃぐ奈央ちゃん。

 もうこの二人をカップリングしちゃえば良いような気がしてきた。


 フィナーレの大仕掛けは短時間に大量の花火がバンバン打ち上がる、今花火大会の華。


「おお……派手なアメリカの花火でもこのレベルはそうそう無いですよ」

「だろ?」


 その圧巻のフィナーレを見て感嘆の声を上げる春くんと、その隣に立つ夕ちゃん。

 さらにその隣には希望ちゃんが夕ちゃんに寄り添うように立っている。


「亜美……」


 私の隣に立っていた奈々ちゃんが小声で私に呼びかける。


「うん?」

「途中で奈央と遥に会った時聞いたんだけど……あんた、春人と抱き合って良い雰囲気になってたって本当?」


 もぅ……奈央ちゃんも遥ちゃんも余計な事を。

 夕ちゃん達にまで言ってたりしないよね?


「抱き合ってたって言うのは語弊が……サンダル踏まれて転びそうになったのを支えてくれただけだよ」

「そうそれならいいけど?」


 何が良いのかは知らないけど、納得したようだ。


「でも、良い雰囲気にはなっちゃったかも……」

「は?」

「実は──」



 ◆◇◆◇◆◇



「……明日緑風ね? 詳しく聞かせてもらうわ」

「はい……」


 呆れたような顔をしている奈々ちゃん。

 ちょっと怒ってるようにも見える。


 ちょんちょん……。


 不意に反対側から肩を叩かれる感触があった。

 忙しいなぁもう……。

 

 振り返ると希望ちゃんが夕ちゃんの方を指差して小声で何か言っている。

 こ・う・た・い……交替?

 夕ちゃんの隣を替わってあげるって事?


「私は別に良いよ……」


 この子は何言ってるんだか……せっかく夕ちゃんとまた一歩前進したって言うのに。


「良いから、はいっ」

「うわわ……」


 無理矢理腕を引っ張られて位置を交替させられた。


「もう……」

「ふふふ」


 ちょっと前の私がやってたようなことを、今は希望ちゃんにやられてる。

 仕方ない……お言葉に甘えよう。


「夕ちゃんも大変だね? あんな彼女持っちゃって」

「まぁな」


 私は自然と夕ちゃんの手を握っていた。

 凄く安心する。

 春くんと一緒に居る時とは全然違って、心から安らげる。

 もうこれは恋なんてものを、とっくの昔に通り過ぎてしまっているような……そんな感じがする。


「良い雰囲気ですね?」


 私が立っている反対側から、春くんの声が聞こえてきた。


「だろ?」

「でしょ?」

「嫉妬しちゃうなぁ」


 それぞれの反応を返す私達。

 近い内に来るらしい、私にとっての「大きな選択」っていうのが、いつ、どんなものとしてやってくるかはわからないけど。

 その時、私の心に正直になって選ぼう。

 占い師さんの言ってたこと全てを信用するわけではないけど……私の一番幸せになれる道がそこにあるというのは信じてみたい。


 私も幸せになりたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る