第65話 夏祭り 亜美・春人side

 ☆亜美視点☆


 私達は、自由行動でバラける前に、奈央ちゃん、紗希ちゃん、遥ちゃん、柏原君に春くんを紹介する事にした。


「げっ、北上さんとこの……」

「ん? 奈央ちゃんと春くん知り合い?」

「ま、まあ知り合い……」


 何だか歯切れが悪い奈央ちゃんだけど、春くんは特に何も言わないみたいだ。


「北上春人です、よろしくお願いします」


 深々と頭を下げて挨拶をする春くん。


「2週間ぐらい前から俺の家にホームステイしてるんだ」

「おお! ホームステイ! なんかかっこいい!」


 紗希ちゃんは、何だかよくわからないけどテンションが上がった。

 隣の柏原君も少し呆れてる。


「じゃあ、一旦解散しましょうか」


 奈々ちゃんがそう言うと、皆が肯く。


「じゃあ、花火のラストは皆でここに集まって見るという事で、解散!」


 奈々ちゃんの一言で解散したわけたけだど、夕ちゃん希望ちゃんペア以外は皆、同じ方向へ歩き出した。


「意味あるこれ?」


 遥ちゃんが口走る。


「あはは、じゃあ、私達は遅れて行こうか」

「そうねー」

「それがいいかもな」

「わかりました」


 私の提案に皆が賛同したので、奈々ちゃん、紗希ちゃん両カップルが人混みに消えるまで待機することにした。


「そう言えば、奈央ちゃんと春くんってどういう知り合い?」


 ちょっと気になったので聞いてみたところ、奈央ちゃんから驚きの答えが返ってきた。


「許婚ってやつ?」

「ですね」

「い、い、許婚ーっ?!」


 さすがにびっくりだよ!

 奈央ちゃん、そういう甘い話聞かないと思ったらそんな人がいたなんて!


「許婚とか、テレビドラマとかマンガの世界にしかないと思ってた」


 遥ちゃんも、ほんの少し驚いたように、目を丸くしている。


「あー、でもあれよ? 許婚って言っても当人同士がまだまだ小さい頃に、両親同士で勝手に決めたやつだから」

「マンガで良くあるやつじゃん!」


 遥ちゃん、意外とそういうマンガとか読むんだ。

 

「はい。 なので、お互いに恋愛感情的なものはありません。 アメリカに行ってからは、ごくたまに連絡を取る程度の仲でしたし」


 さ、冷めた関係だ。


「そうなんだ」

「それで、春人君はいつまでこちらに?」

「来年の2月末まで」


 奈央ちゃんは「ふぅん」と、あまり興味なさげに返した。

 さっきから何気に、春くんの前でも「素顔モード」なんだよね。

 それなりに昔から付き合いがあるのかな?



「私達、親の言いなりで結婚とかする気は無くて、お互いに自由恋愛しましょうって事にしてるの。 だから、亜美ちゃんは気にしなくて良いからね?」

「え? 何を?」

「こっちの話」


 奈央ちゃんも遥ちゃんも、呆れたように溜め息ついた。


「じゃあ、そろそろ行きましょ?」


 皆が出発してからそれなりの時間が経過している。

 確かに頃合いだ、という事で、売れ残り組4人は屋台回りを開始する事にした。



 ◆◇◆◇◆◇



 私達四人は人混みの中を並んで歩く。

 履き慣れないサンダルの所為で歩くのが遅くなってしまって申し訳ない。


 人混みを歩いていると、どうやらサンダルの後ろを誰かに踏まれてしまったらしい。

 バランスを崩して前に倒れそうになる。


「うわわ?!」

「亜美さん!」


 倒れそうになる私を見て、春くんが咄嗟に手を取り引き寄せてくれた。

 私はそのまま、春くんの胸に飛びこむ様な形になってしまう。


「あぅ、ありがとう春くん……」

「大丈夫ですか?」

「う、うん……おかげさまで」


 は、春くんって意外とガッチリしてるんだ。

 なよってしてる様に見えるのに……。


「2人とも、何を良い雰囲気になってるの? 置いてくわよ?」


 少し前を歩いている奈央ちゃんが、私達を振り返って言った。


「い、良い雰囲気って……私と春くんはそんなんじゃ……」

「ははは、行きましょう亜美さん」

「わわわ」


 春くんに手を引かれる。

 んー、春くんは、私の事どういう風に見てるんだろう?


 屋台を見ながら歩いていると、焼そば屋台を見つけた。


「私、あそこで焼そば買ってくるけど、皆は?」

「僕も行きます」


 と、春くん。

 奈央ちゃんと遥ちゃんはイカ焼きを食べるという事らしいので、待っててもらう事に。


「あ、八百屋のおじさん! 焼そば2人前下さーい!」

「お、今度は亜美ちゃんかい? さっき奈々美ちゃん達が来たが、夕坊は一緒じゃないのかい?」


 テキパキと焼そばを作りながら話しかけてくる八百屋のおじさん。


「うん、夕ちゃんは希望ちゃんとデート中」

「へぇ、夕坊と希望ちゃんがかー。 奈々美ちゃんと佐々木の坊主も良い関係らしいじゃないか。 青春してるねぇ」

「あはは、私は5人の中で売れ残っちゃった」

「がははは、てっきり、亜美ちゃんと夕坊がくっ付くと思ってたがなぁ」

「いやいや……残念ながら」

「んで、そっちのアンちゃんが亜美ちゃんの彼氏候補ってわけだ?」

「え? いやいや! 違うよぉ! 春くんはお友達!」


 と、全力で否定するのも春くんに悪いよね。


「そうかい、アンちゃん頑張んな! 亜美ちゃんはここいらじゃ一番のべっぴんさんだからな!」

「は、はい、頑張ります」

「は、春くん?! おじさんも焚き付けないでよぉ!」


 おじさんは「すまんすまん」と、笑いながら2人前の焼そばを手渡してきた。

 どうやらサービスで大盛りにしてくれたようだ。


「これからも、うちの八百屋をご贔屓に!」

「はぁい!」


 商売上手だなぁ。

 私達は、焼そばを片手に奈央ちゃん達の元へ──。


「あれ? 居ない?」

「居ませんね」


 別れた場所に戻って来たが、待っている筈の奈央ちゃんと遥ちゃんが居ない。

 先にイカ焼き買いに行ったのかな?


「電話してみるね?」

「はい」


 私は小さな手提げ袋からスマホを取り出して奈央ちゃんに連絡をしてみる。


「あ、もしもし奈央ちゃん、今どこ?」

「今は遥とヨーヨー釣りやってるわよー」

「ヨーヨー釣りだね」

「あー、このまま2:2で良くない? そちら、良い雰囲気だったし」

「またそんなこと言ってー!」

「あはは、それじゃ亜美ちゃん頑張ってー、春人君にもよろしく」

「ちょっ──」

「どうしました?」

「切れた……」


 はぁ、奈央ちゃんも遥ちゃんも何を言ってるんだか。

 私と春くんが良い雰囲気? どうしてそうなるかなぁ。


「仕方ないね、2人で回ろっか?」

「は、はぁ」


 いまいち状況がわかっていない春くんは、困った様に頷いた。 


 ◆◇◆◇◆◇


 私達は、焼そばを啜りながら、金魚すくいや、くじ引き屋で遊んだ。

 

「次は何処行こうか?」

「あそこの射的屋さんにいるの、亜美さんのご友人の方では?」

「あ、本当だ」


 射的屋さんには、紗希ちゃんと柏原君がいた。

 何かの景品を狙っているようだ。


「紗希ちゃんっ」

「おー、亜美ちゃん! やほー」

「やほー、何を取ろうとしてるの?」

「あれっ! なんだけど、裕樹が凄く下手でねー」

「悪かったね!」


 紗希ちゃんが指差した方を見ると、見覚えのあるボケーッとしたバカ面の2等身なネコのぬいぐるみが。

 えーと、確か──。


「バ──」

「ボケねこ」


 相変らず訂正早っ!?


「かれこれ15分くらいやってんのよ、こいつ」

「そうなんだ? よーし、私もやってみよ」


 私もおじさんにお金を渡してコルク銃を受け取る。

 

「あの、猫さんのぬいぐるみにしよ」


 もちろんボケねこさんじゃないやつ。


 パンッ!


「あれっ、当たらない!!」

「亜美ちゃんも下手だ!」


 く、悔しい!


「亜美さん、ちょっと失礼します」


 と、春くんが私の背後に周り、手と腰を支えるように掴んでくる。


「は、春くん?!」

「おー? 北上君、意外と積極的!」


 いやいやいやいや!


「亜美さん、もうちょっと前のめりになって」

「は、はい」


 姿勢から狙い方まで、色々とレクチャーしてくれる春くん。

 正に手取り足取り腰取りだ。


「どうぞ」

「う、うん」


 パンッ!


 撃ったコルクは、狙い通り猫さんのぬいぐるみに直撃。

 当たり所も良かったのか、ぽてんっと倒れてくれた。


「やった! ありがとう春くん!」

「良かったですね」


 嬉しくて振り返ると、同じ様に嬉しそうに優しく微笑む春くんの姿があった。


「っ!」


 な、何今の? ちょっとドキッてした……。


「亜美ちゃん凄いね! 裕樹も見習ってよ!」

「頑張ってるよー! 北上君、教えてくれー!」

「良いですよ」


 そう言って、私に教えたように、柏原君にもレクチャーを始めた。

 な、何だ……誰にでも優しいだけか。

 ちょっとときめいちゃったじゃない。


「ねーねー、彼、良い男じゃん? 今井君より良いんじゃない?」

「そ、そんなことないもん」

「いやいや、新しい出逢い見つけたねー?」

「ち、違うってば……」


 皆して私と春くんをくっ付けようとして……何なの一体。



 ◆◇◆◇◆◇



 春くんのレクチャーを受けた柏原君が、ボケねこさんをゲットするのを見届けて、私達はまた歩き出した。

 並んで歩いていると、屋台の並びから外れた目立たない場所に、小さなテントを見つける。


「あ、あそこ、占いだって」

「占いですか?」


 面白そうだ。


「行ってみよ?」

「はい」


 私と春くんは、小さな占いの館にお邪魔した。


「いらっしゃい、何を占いますか?」


 椅子に座るや否や、占い師さんが聞いてきた。

 うーん、こういうのって大体がインチキだよね?

 どれどれ、私と春くんの事でも占ってもらって、化けの皮剥いじゃおう。


「私と彼がこの先上手く行くかどうかを視てほしいんですけど」


 付き合ってすらいないのにこの先も何もない。 上手くいきますよなんて言い出したらそれはインチキである。


「……?」


 春くんは不思議そうな顔をしているが、特に何も言わないようだ。


「では2人共、どちらかの手の平を上に向けてこちらへ」


 言われた通りに片方の手を手の平を上にして差し出した。

 占い師さんは、二人の手の平の上に手を重ねて眼を閉じる。 とりあえずそれっぽい事をして、客を信じさせようとするやつだ。


「……本当に、2人の未来を占うということで良いんですね?」

「はい」


 何の確認だろう?


「出逢ってまだ日が浅いようですが?」


 お? 当てずっぽうにしては中々。 でも、これは相手の反応を見て探りを入れるテクニック。 引っかからないよ。 敢えてダンマリを決め込む。


「そうですか……ふむ、簡単に視たところですが、数年後、2人が幸せに暮らしている姿が、微かにですが視えました」


 あらあら、 これはこれは早くも化けの皮が剥がれそうだ。

 と、思った時──。


「ですが、少々複雑ですねぇ」

「複雑、ですか?」


 ここまで、一言も発しなかった春くんが食い付いた。

 

「貴女、もう片方の手を同じように……」


 私は言われたように、もう片方の手を出した。 先程と同じように、手を上に重ねて何かをやっている。


「なるほど、これは言っても良いのかわからないのですが……」


 ちらりと、春くんの方を見てそう言う占い師さん。

 私も春くんの方を見ると、春くんは特に何も言わずコクリと頷いた。


「言っても大丈夫ですよ」


 まぁ、どうせ大した事は言わないでしょ。


「それでは。 貴女、心の中にこの彼とは別の男性がいますよね?」

「!?」

「ほぅ……」


 嘘っ!? 当てずっぽうにしては当たり過ぎてるよ?! この人、も、もしかして本物?!


「それも、心底から愛していると言える程の男性が」


 ま、間違いないよ! この人インチキじゃない!


「は、はい、います」


 そう思った私は、正直に答えさせられていた。


「運命の糸が、とても複雑に絡まってますね。 もうグチャグチャのグチャですよ貴女」

「えぇ……」


 まぁ大体私の所為だけど、まだこの先グチャるんだ……。


「そこの彼、心の中の男性、貴女ととても親しい女性、そして貴女の4人の運命の糸がもうグチャグチャに絡み合っています」

「先程、僕達が幸せに暮らしている姿が視えると仰っていたのは?」

「貴方達の未来の一つであり、貴女の未来の内の一つと言った所でしょうか」


 み、未来の内の一つ……。

 私、春くんと結ばれる可能性があるってこと?


「貴方は、この彼女に惹かれていますね?」


 えっ? 嘘?!


「はい」

「えーっ!? 春くん、それ本当?」

「まぁ、はい少し……」


 これは、びっくりだよ! どうしてこうなった? 出逢って2週間だよ私達。


「貴女もですよ? 彼に少しずつ惹かれています」

「え? 私も?」

「はい、今のまま何事も無く行けば、先程言った『二人が幸せに暮らす未来」に辿り着くでしょう」

「え、えと……」


 それはつまり、私は春くんとお付き合い──もしくは結婚までしてるかもしれないっていうこと?


「2人の未来は占いましたよ? これで、終わりです」


 まだ聞きたい事が……。

 私と夕ちゃんが結ばれる未来はあるの? それとも夕ちゃんは希望ちゃんと?

 私の表情を見て何か察したのか、占い師さんは小さく頷いて口を開く。


「貴方は先に出て下さい」


 そう言って春くんの方を見る占い師さん。 春くんは、特に何も言わずに出て行った。


「別料金ですよこれは。 貴女に助言です。 貴女には、大きな選択が近いうちにやってきます」

「大きな選択?」

「そこで、貴女と周りの人との運命が激しく絡み合っているのが視えました。 貴女の選択次第で、周囲の人の未来にも影響が出るでしょう」


 きっとそれは、夕ちゃんと希望ちゃんの事だ。


「その時、貴女は貴女の気持ちに正直な選択をして下さい。 それが、貴女にとって一番幸せな未来に繋がっています」

「私の気持ちに正直な選択……」


 私はその言葉を胸に深く刻み込んだ。


「ありがとうございました」


 私は深々と頭を下げてお礼をし、占いの館を後にした。


「しかし、あれほど複雑なのを視たのは、初めてですねぇ……一番幸せな未来に辿り着けるといいですね」

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