第59話 嫉妬

 ☆夕也視点☆


 現在、リビングにて4人でお互いの詳しい紹介を行っていた。


「俺達は月ノ木学園に通ってるんだが、春人もそこに通う予定なのか?」

「はい、同じ学校です」

「そうか、俺達はそこの1年だ。 同い年だよな確か?」


 一応確認すると「はい」と頷いた。


「俺は基本的に家事が出来ないから、この幼馴染達に世話になってるわけなんだが、春人は家事とかは?」

「僕もあまり得意では……」

「あはは、気にしなくて良いよ? 私と希望ちゃんに任せて」


 春人は「すいません」と、頭を下げる。

 本当に礼義正しい奴だな。


 続けて亜美が自分の事を話し始めた。


「私は夕ちゃんとは、産まれた時から一緒に育ってきた幼馴染なんだよ」

「それはまた凄いですね、仲良さそうに見えるはずだ」

「大抵の事は亜美に任せれば何とかなる、便利機能付きの幼馴染だ」

「人を道具みたいに!」


 ぷくっと頬を膨らませて、怒りをアピールする亜美。 その頬を両手で挟んで押してやると口から息が漏れて元に戻った。


 か、可愛い。


「本当に仲が良いんですね。 恋人同士ですか?」

「あ、いや違う」


 それを聞いた亜美の表情が一瞬曇るが、すぐにいつも通りに戻る。


「夕ちゃんの恋人なのはこっち」


 指差された希望ちゃんが、ビクッとなる。


「は、はいっ! 私は雪村希望と申します! 夕也くんとは清いお付き合いをさせて頂いております!」


 緊張し過ぎて、初めて彼女の両親に挨拶に行った彼氏みたいになってるんだが?


「えーと?」


 春人も困っているようだ。


「あの、希望ちゃん人見知りで、初対面の人と話したりする時は緊張して、大体こうなるんだよ」


 亜美がフォローを入れてくれる。 本当に便利機能付きだ。


「な、慣れてきたら大丈夫だと思いますっ!」


 まだダメだと言うのは良くわかった。


「ゆ、ゆっくり慣れて下さい」


 ふむ、ここまで話してみると、良い奴だということはわかった。

 面倒だとは思ったが、上手くやっていける気はする。


「軽く家の中を案内するか」


 そんな広い家では無いが、台所、洗面所、トイレ、風呂、春人が寝泊りすることになる部屋等を案内する。


「わざわざ、部屋の用意までしてもらって」

「昨日一晩でやったんだよ?」


 手伝ってくれた亜美が言う。

 希望ちゃんもコクッと頷いているが、言葉は発しない。

 まだ緊張しているようだ。


 リビングへ戻って来て会話を続ける。


「日本に居るのは半年だけなのか?」

「あー、はい。 来年の2月末迄です」

「そっかー、仲良くなれそうなのに短いなぁ」


 と、残念そうに言う亜美。

 その後も亜美は、アメリカの学校の事やらを訊いては楽しそうに話していた。


 ぬーん、何だか面白くないな。

 楽しく話している二人に割り込む様に、俺は口を開いた。


「明日、俺達が良く利用したり遊びに行く場所を一通り案内してやるよ」

「あ、いいね! 私もついてく」

「わ、私もっ」


 幼馴染二人が話に食いついた。


「是非お願いします」

「おぅ、それともう二人程、仲の良い奴らがいるからそいつらも紹介してやる」

「是非!」


 と、一通り話終えると、また亜美が楽しそうに話しかけ始めた。

 な、何だよ……亜美の奴、春人に惚れたのか?


「へー、そっちではそんな感じなんだー!」

「はい」


 くそ、何かモヤモヤする。

 俺は居ても立ってもいられず立ち上がる。


「夕也くん?」

「大体の話は終わったから、ちょっと昼寝してくるわ。 皆は自由にしててくれ」

「はーい。 え、じゃあアメリカでは違うんだ?」

「違いますねー」


 興味無しかよ。

 俺は足早にリビングを出て行き、自室へと向かった。




 ──夕也の部屋──


「確かに、見た目は美少年だし、話してみても良い奴だが……」


 亜美があんな風に、他の男と仲良く話してるのを見ると、何かイライラする。

 そんな事を思いながら、いつしか本当に眠ってしまった。


 ◆◇◆◇◆◇


 目を覚ますと、時刻は18時になっていた。

 

「結構寝ちまったか」


 体を起こして、軽く伸びをした後、部屋を出てリビングへ向かう。




 ──リビング──


 リビングでは、希望ちゃんが一人で雑誌を読んでいた。 亜美と春人の姿が見えない。


「あ、夕也くん、ぐっすりだったね?」

「お、おぅ……あの二人は?」

うちに行ったよ? 『清水家にも挨拶したいです』って言って。 本当についさっき」

「亜美の奴、やけに春人にべったりだな。 惚れたのかよ」

「あー? 夕也くん嫉妬してる?」

「な、何を……」


 俺が嫉妬?


「私も嫉妬しちゃうなぁ」

「え?」

「夕也くんが、嫉妬してるのを見て私も嫉妬してるのっ!」


 希望ちゃんは、そう言うとソファーから立ち上がって、俺に抱き付いてきた。


「夕也くんの彼女は誰ですか?」


 ちょっとご機嫌斜めな感じで聞いてくる。


「希望ちゃんだろ?」

「そうだよっ! んっ!」

「んんっ?!」


 この後めちゃくちゃチュッチュした。


 ◆◇◆◇◆◇


 夕食を食べに戻ってきた亜美と春人は、昼見た時より更に仲が良くなっているように見えた。

 夕食中も亜美は、俺の事など眼中に無いかのように、終始春人との話に夢中になっていた。

 食後、皿などを片付けて希望ちゃんと亜美は家に戻り、俺と春人の二人になった。


 ◆◇◆◇◆◇


 ──リビングで春人と話し中──


「亜美さん、可愛くて良い娘ですね」

「そうだな」


 そんなことは俺が一番よく知ってら。

 なんなら亜美の全てを知ってるわ!


「亜美さん、夕也の事が好きだって言ってましたよ? デートでの記念写真を大事そうに抱えて」


 記念写真……6月に行った結婚式体験デートのやつか。


「でもな、そのデートをした日に、俺はあいつにフラれたんだ」

「言ってましたね。 でも、好きだと言ってました」

「だから何だよ? 俺は今、希望ちゃんっていう可愛い彼女がいるんだ。 あいつの事は……」


 何とも思ってないとは、言えなかった。

 大体、あいつはどうしてそんな話をペラペラと……。


「はぁ、風呂入ってくる」

「はい」


 風呂に入って色々と考えてみる。 今日のあいつは終始春人にべったりだった。

 良い奴だとは思う。

 もしかしたら亜美は、本当に一目惚れをしたのかもしれない。

 だとしたら俺は……応援してやるべきなんじゃないのか?

 嫉妬なんかせずに力になってやるのが、幼馴染の役目じゃないのか?

 

 ◆◇◆◇◆◇


 風呂から出て部屋に戻り、寝ようかと思った時、ベランダの窓をコンコンと叩く音がした。

 ベランダは隣の家の亜美の部屋のベランダと、少し離れているだけで、普通に手摺を越えて行き来出来る。 

 昔はよく、そこから出入りしたもんだ。

 カーテンを開けると、窓の外に亜美が立っていた。


「えへへ、久しぶりにこっちから来ちゃった」

「『来ちゃった』じゃねーよ。 どうした?」

「今日は春くんとばかり話してて、夕ちゃんと全然お話ししてないなぁって思って」


 そう言いながら、部屋に入ってくる。


「ごめんね? 寝るとこだった?」

「別に?」

「そっか、じゃあお話ししよ?」

「あ、あぁ」


 話しか……いい機会だ、早速亜美の気持ちを確認するか。


「なぁ、春人に一目惚れでもしたのか?」


 さすがに直球過ぎたか。

 と、亜美の顔を見ると、にやーっとした表情をしている。


「な、なんだ?」

「んー? 希望ちゃんから聞いたんだけど、私が春くんとばかり話してるの見て、夕ちゃん嫉妬してたんだって?」


 亜美は「可愛いなぁ、もう」と嬉しそうに言う。


「質問の答えだけど、一目惚れはしてないよ」

「そ、そうか」

「でもまぁ、良い人だしね。 これからわかんないよ? もしかしたら好きになっちゃうかも? そしたら、夕ちゃんはどうする?」


 意地悪な顔で意地悪な質問をしてくる奴だな。

 先程まで風呂で考えていたことを口にする。


「お前が本当に春人を好きになった時は、俺も応援してやるよ」

「そ、そうなんだ。 ふぅん……ダメって言わないんだ……」


 最後何か言ったように聞こえたがよく聞き取れなかった。

 春人の話はそこで打ち切り、他の話題を始め、お互いが眠くなるまで話し続けた。

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