第60話 街案内


 ☆夕也視点☆


 亜美と夜遅くまで話をして、眠くなったから寝たまでは良いが。


「すー……すー……」

「はぁ……」


 早朝4時頃にふと目を覚ますと、隣では亜美が気持ち良さそうに寝ていた。


「寝るなら帰れよな。 全く、お前は俺の恋人かっての」


 起き上って、床に布団を敷きもう一度寝ようと思ったが。


「ん?」

   

 亜美の腕と脚にがっちりとホールドされていた。

 今俺は、亜美の抱き枕状態だ。

 両腕が何とか自由ではあるが……。

 仕方ないので少し頭を撫でる。


「しかし可愛い……こうやって隣で寝てると、6月のデートを思い出すな……」

「んー……もうフルーツパフェ食べれないよぉ」

「夢の中でも食うのか」


 どんだけ好きだよ。


「むにゃ……夕ちゃん……」

「か、可愛い……あーいやいや、本当に寝てるかこいつ?」


 頭をこつんっと小突いてみる。


「あぅ……うん……ん? あれ、夕ちゃん? おはよー?」


 ふうむ、本当に寝ていたようだ。

 せっかく起こしたんだし、家に帰らせよう。


「なぁ、寝るなら家に戻って寝たらどうだ?」

「もういいじゃん……4時だし……それとも私と寝るのは嫌?」


 スマホで時間を確認しながら言う。


「別に嫌では……」

「あ、でも希望ちゃんに怒られるね? それは良くない……」

 

 俺の言葉は無視し。亜美はそう言っていそいそと起き上がった。


「また後でねぇ……ふわぁー」


 まだ眠たそうに欠伸をしながらベランダへ出て行く。

 半分寝てるし、手摺跨ぐ時に落ちたりしねぇだろうな。


「落ちるなよ?」

「平気平気ー……」


 手摺りを二つ跨ぐだけだが心配なので、最後まで見届ける。

 むっ! 跨ぐときにネグリジェの下部分が捲れて下着が!! 今日はピンクかぁ。

 良い物も見れて満足したので、もう一度布団に入って寝ることにした。

 


 ◆◇◆◇◆◇ 


 

 朝8時に再度起床し、4人で朝食を食べた後は少し休憩した後に外へ出て街案内をすることになった。

 昼は外食でもしようかという事になっている。

 10時には家を出て、街案内を開始した。

 いつも使う通学路の途中、いつもの十字路まで行くといつものように2人の男女が待っていた。


「おっす、待たせたな」

「おう、おはようさん」

「おはよー、奈々ちゃん、宏ちゃん」

「おはよう、2人共」

「ええ、おはよ」


 それぞれ挨拶を交わす。 これもいつも通りだ。

 奈々美が春人を見て早速絡みに行く。


「へぇ、君が噂の留学生君ね? ふんふん」


 品定めでもするかの様に、足先から頭までゆっくりと見ていく。


「何よ、めっちゃ美少年じゃない」

「俺には負けるけどな」


 宏太は偉そうに踏ん反り返りながら言った。

 悔しいのが、本当にイケメンな奴って事だ。


「あはは、宏ちゃんもイケメンだもんね」


 そこは亜美も認めているようだ。


「えーと?」


 春人はいきなり馴れ馴れしくされて困惑している。


「ごめんなさいね。 私は夕也達の幼馴染の、藍沢奈々美。 下の名前で呼んでくれていいわよ」

「俺も幼馴染の佐々木宏太だ」

「バカって呼んでくれていいわよ」


 途中で、遮って奈々美が言う。


「よろしくお願いします、奈々美さん、バカさん。 僕は昨日から夕也の家で世話になっている、北上春人です。 名前は、好きな方で呼んでください」


 さりげなくバカさんって呼んでたな。

 素直すぎだろ。


「こ、宏太で頼む」

「宏太さん?」

「痒くなるから呼び捨てで頼む」

「わかりました、宏太」

「んじゃ、お互いの紹介が終わったとこで、行くか」

「はい、お願いします」


 うーん、何か調子狂うなぁ。


 まずは、俺達が買い出しなどによく来るスーパーや百均ショップなどを案内し、通学路を歩きながら、他の便利な店等を見せる。


「ここが、喫茶『緑風みどりかぜ』だよ。 学校帰りによく寄るんだぁ」


 亜美御用達の喫茶店だ。

 凄く力説している。


「私はここのフルーツパフェが好きだから、奢ってくれたら大喜びだよ?」

「ははは、では今度奢りますよ」

「やった! 春くん大好き!」

「おほんっ! 次行くぞ亜美」


 ワザとらしく咳払いをしながら言ってやる。

 希望ちゃんは「くすくす」と小声で笑っている。

 うぐぐ、亜美に「好き」って言われるのは俺と宏太だけだったのにこの男、僅か1日でその域にまで達したというのか。


「亜美、夕也が嫉妬するから程々にしなさいよ」

「べ、別に妬嫉なんてしてないだろ?」

「おいおい、隠せてねーぞ?」

「うんうん、夕也くんわかりやすい」


 幼馴染達のジェットストリームアタックで攻められる。


「ねね、嫉妬してるの夕ちゃん?」


 スタッと、俺の横に並んで顔を覗き込んでくる。

 いちいち仕草が可愛い。


「だから嫉妬なんてしてねーって」

「ふふっ、本当?」

「あぁ」

「夕ちゃんたら、可愛いなぁもう!」


 それはお前だ!


「仲良いですね」

「えへへ、でしょ? でも、あまりやり過ぎると、希望ちゃんが怒るからこれぐらいで」

「え、別に怒らないけど?」


 などと、バカをやりながら歩いていると、見慣れた校舎の前に着いた。


「ここが月ノ木学園高等部、新学期から春人も通うとこだ」

「ここがですか」


 校舎内には入らずにグラウンドだけ見て、すぐに出てくる。

 どうせ新学期から嫌でも見ることになるしな。


「この辺はこんなもんだな。 次は駅前を案内した後で電車で隣街行くぞ」

「はい」


 俺達一行はゾロゾロと歩いて駅を目指す。


 んで、 駅前に着いたので、周辺を簡単に案内する事に。


「ここが駅前の商店街よ。 割と賑わってるわね。 もうすぐ夏祭りがあるんだけど、この辺一帯に出店やらが並んで、もっと賑わうわよ」

「おお、夏祭りですか」

「一緒に来ようね」

「楽しみです」


 亜美がさりげなく春人の手を握っている。

 おいおい! 何やってんだよ!


「うおっほん!」

「夕也くん、わかりやす過ぎるよ」

「本当、亜美はあんたの彼女じゃないんだし、どこの男とイチャつこうが勝手でしょ?」


 ど正論過ぎてぐうの音も出ない。

 し、しかし、何か納得いかない。


「夏祭りの日は向こうにある川から花火も上がるんだよ? 一緒に見ようね」

「花火ですか。 日本の花火は久しぶりに見ますね」


 昨日の様に楽しそうに春人と接している亜美。

 俺や宏太にしか見せた事の無い笑顔を、会って1日しか経っていない男に見せている幼馴染を見ながら、複雑な気持ちになった。


 俺達はそのまま電車に乗り、よく遊びに行く隣駅へと向かった。

 隣駅周辺は、学生が遊ぶにはもってこいなスポットが多い。


「ここはゲーセンで、あっちはカラオケだ」

「ふむふむ、どっちも行った事ないですね」

「だと思った。 今から行くか?」

「いえ、それよりあそこに見える物が気になります」


 春人が指差す方を見ると、そこにはバスケットゴールがある。

 俺と宏太がたまにストバスをやっているコートだ。


「ほう、春人はバスケ出来んのか?」


 宏太が興味ありげに訊いている。

 かく言う俺も興味がある。


「はい、向こうではストバスやってましたから」


 ほう、見た目はそんな風に見えないのになぁ。


「よし、じゃあ行くか」

「はい」


 俺達は、少し先に見えるバスケットコートへ向かった。

 コートでは丁度、3onの試合が終わったタイミングのようで、勝った方のリーダーが次の相手を探していた。


「っしゃ、俺達が相手になるぜ」


 宏太がそう言ってコートに入りストレッチを始める。

 俺と春人もそれに倣う。


「お、夕也と宏太かよ! 久しぶりだなおい、最近こねーから退屈してたんだぜ?」

「わりぃな、彼女出来ちまってよぉ」


 宏太が自慢げに奈々美を紹介している。

 まぁ、相手も奈々美の事は良く知ってるんだが。

 相手のリーダーとは良くここでストバスの対戦をしている。

 向こうが言うように、最近はご無沙汰だったが。


「そっちのは新顔だな」

「北上です。 アメリカでストバスをやってました」

「かぁーっ! 亜美ちゃんや奈々美様じゃなきゃ何とかなると思ったら、本場のストバス経験者かよ」


 いつもは大体3人目のメンバーを亜美か奈々美に頼むんだが、今日は春人がいるからこのメンバーだ。

 今日の亜美と奈々美はスカートだしな。


「さあ、始めようぜ」


 試合開始だ。

 ボールを受けた宏太はノータイムで、春人にボールを回す。 お手並み拝見ってか?


 春人は普段の落ち着いた雰囲気とは違い、少し好戦的な表情を見せている。

 なんだよ、良い顔できるんじゃないか。


 春人は低い姿勢でドリブルを開始し、相手ディフェンスとのマッチアップになる。

 レッグスルーで左右に切り返しながら隙を窺っている。


「(上手い……)」


 俺や宏太もストバスのトリッキーなプレーはある程度はこなせるが、どうしてもインドアの型にはまったバスケが染み付いている。

 一方の春人はドリブルの姿勢から何から何まで自然体だ。

 何をするか読めない。


「もらっ……」


 一見隙だらけに見える春人のドリブルに釣られたディフェンスがスティールに動く。

 春人はそれを見てビハインドパックで後退し、切り返したボールを手首のスナップだけで前方に投げた。


「トリッキーなプレーだな、おい」


 相手からは背中に回されたボールが消えたように感じたかもしれない。

 ボールを手放した春人はディフェンスの横を悠々とすり抜け、前方に投げたボールをキャッチ。

 そのままレイアップに繋げる。


「っと! させないぜ!」


 ちっ、シュートブロックか。


「春人、パスだ!」


 俺はマークを外してパスを要求した。

 が、春人は応じない。 ボールを持った手を下げる。

 ダブルクラッチかと思ったが、手をそのまま相手の背中の後ろまで回して、先程のように手首のスナップだけでボールを前方に飛ばした。


「なんてめちゃくちゃなプレーだよ」


 無茶な体勢から放ったシュートは綺麗にリングに吸い込まれた。


「おー! 春くん凄いっ! かっこいい!」

「やるじゃない彼」


 亜美が春人のプレーに魅了されている。

 確かにトリックプレーは見栄え良いからな。


 その後も春人の活躍で3onは勝利した。

 ふむ……ストバスもだが、普通にバスケもこなすな。


「春人」

「はい?」


 3onが終わった直後、俺から春人に話しかける。


「俺と1onで勝負しないか?」


 バスケプレーヤーとしてこいつと対戦して見たくなった。

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