第58話 留学生

 ☆亜美視点☆


 昨日は遅くまで夕ちゃんの家の物置部屋のお片付けをしたため、私も希望ちゃんも、夕ちゃんの家にお泊まりした。

 希望ちゃんと夕ちゃんと一緒に寝かせてあげようと思ったけど、どうしても私と一緒が良いと言うので私と希望ちゃんで夕ちゃんの部屋に、夕ちゃんは片付いた元物置部屋で眠った。


 朝、私と希望ちゃんはいつも通り、朝食の準備をしているところだ。


「なんか緊張するね、どんな人なんだろう?」


 希望ちゃんは人見知りだからなぁ。 まともにお話とか出来るか心配だよ。


「良い人だと良いね」

「亜美ちゃん、もしイケメンさんだったらどうする?」

「どうもしないよー?」


 何を言ってるんだかこの子は。

 と、不意に昨日の青砥さんとの電話を思い出す。

 出逢いかぁ。 もしかしたらこれが私にとって新しい出逢いに──って、まさかねー。


「そうだよね、ただのイケメンさんじゃ亜美ちゃんは好きになったりしないもんね」

「そーそー」


 希望ちゃんは「そかそか」と言いながらベーコンエッグを作っている。


 しばらくすると夕ちゃんが降りて来た。

 朝ご飯はもう少しで出来るというか旨を伝えると「おぉー」と眠たそうに返事をして洗面所へ歩いていく。

 

「夕也くんは、緊張とかしないのかな?」

「男の子の同居人が増えるぐらいならしないんじゃない? 女の子だったらヘタレの夕ちゃんなら緊張するかもね」

「へ、ヘタレって……」

 

 実際にヘタレだから仕方ない。

 希望ちゃんも奥手だし、この2人が次の段階に進むにはもう少し時間が要りそうだ。


「そんなヘタレな夕也くんをその気にさせた亜美ちゃんは凄いねぇ?」

「あはは……」


 洗面所から戻ってきた夕ちゃんが「人の事をヘタレヘタレって言うな」と怒っていた。

 

 ◆◇◆◇◆◇


 朝食を食べながら3人で会話をする。

 明日からこの中にもう1人加わるのだと思うと楽しみだ。


「その男の子、名前はなんて言うの?」

「いや、まだ聞いてない」


 夕ちゃんは、そう言いながらベーコンエッグを口に運ぶ。


「まぁ、嫌でも昼にはわかるんだから別にいいだろ?」


 夕ちゃんはあまり楽しみじゃないのかな?


「ねぇ、夕也くんは嫌なのホームシェア?」

「あまり歓迎はしてないな。 せっかく1人でのんびりやってるのに、良く知りもしない同居人なんかいたら気を遣うだろ」

「それはそうかもしれないけど、仲良くしなきゃダメだよ夕也くん?」

「別にケンカしたり追い出したりなんてしねぇよ」


 夕ちゃんはコーヒーを飲み干して「ごちそうさま」と手を合わせた。

 食べるの早いなぁ。


「さて、昼までにリビングも掃除しとくか」

「食べたら手伝うから待って」

「私は皿洗いするね」


 ここは分担作業、私は夕ちゃんとリビングの掃除をすることにした。

 希望ちゃんも皿を洗い終わり次第手伝うとのこと。




 ──リビング掃除中──


「しかし、相談もなくいきなりだもんな。 迷惑な話だ」

「いきなりは困るよね」

「女の子だったら大変だったぞ」

「希望ちゃんも怒ってただろうね」

「お前は?」

「仲良くなりたいかなー」

「そうかよ」


 ふふ、怒ってほしいんだろうなとは思ったけど正解だったっぽいねぇ。


 私と夕ちゃんは2人でリビングの掃除を進める。

 掃除の基本は上から下。


 ブイーン……


 私が電気の傘など、上の埃を落としていると、掃除機の音が後ろから聞こえてきた。


「夕ちゃん! 掃除の基本は上から下へだよ!」

「え?」

「そうじゃないと、埃吸ってもまた上から降ってくるでしょ?」


 私は夕ちゃんが掃除機をかけた辺りの家具をはたきではたく。

 当然、埃が落ちてきて掃除機をかけた意味が無くなる。


「確かに!」

「わかったら上から掃除してね」

「おう」


 本当に家事が全然ダメなんだから。

 途中から希望ちゃんも加わり3人でサササッとリビングの掃除を終わらせた。


「お昼はどうするんだろう?」

「食べて来るって言ってたから、俺達の分だけで良いよ」

「了解」

「じゃ、簡単にそうめんでも作っちゃおうか」


 夏だなぁ。


 ◆◇◆◇◆◇

 

 お昼も食べて後は、おじさんたちの帰りを待つだけとなった。

 希望ちゃんは少し緊張しているのか、体が強張っている。


「希望ちゃん、大丈夫だよ? 誰も取って食べないよ?」

「わ、わかってるけどぉ」

「相変わらず人見知りなとこは治らないんだなぁ?」

「この間、柏原くんと青砥さんに会った時はそうでもなかったような気もするけど?」

「そもそも、会話にあんまり参加してなかったような気がするぞ」

「あ、バレた?」


 留学生くんが来てもすぐに馴染めなさそうだなぁこの子は。

 時刻は13時を回った頃、おじさん達が帰って来た。

 

「お、亜美ちゃんも希望ちゃんもちょっと大人っぽくなったかな?」

「本当ねぇ。 特に、亜美ちゃんはなんだか大人の女の雰囲気が漂ってるわ。 夕也と何かあったかしら?」


 な、なんでそんなことわかるんだろう? エスパー?


「あはは……」

「どうぞ北上支社長、お入り下さい」


 そう呼ばれて姿を見せた男性は、一見若そうに見える男性だった。

 高校生の子供がいるにしては若く見えるなぁ。

 短い黒髪をセンターに分けた真面目そうな男性だった。


「失礼します」

「……」


 夕ちゃんも黙って頭を下げる。


「春人、挨拶しなさい」


 その男性の後ろから現れたのは私達と同じくらいの年齢の男の子。

 色素の薄い銀髪の髪を後ろで束ねて括っている。

 髪は伸ばしてるのかな?

 琥珀色の綺麗な瞳をしていて、憂いを帯びたような寂しげな表情をしている。

 これがデフォルトの表情なのだろうか?

 とても優しそうではある。

 そして、よく見なくてもわかるぐらいの美少年だ。


「初めまして、北上春人きたがみはるとです」


 その後、私達も、自己紹介を始める事に。


「今井家の長男の夕也です」

「ふむ、息子さん1人だと聞いていたのだが?」


 と、私と希望ちゃんの方を見て言う。


「彼女たちは、隣の家に住んでいる息子と仲の良い子たちですよ。 私達が家を空けている間、息子の世話をお願いしているので、今日は一緒に挨拶してもらおうと」


 おじさんに視線で促される。


「ご紹介に預かりました、隣家に住んでいます清水亜美です」

「お、同じく雪村希望です……」

「んん? 苗字が違う?」


 初対面の人には良く聞かれる事だ。

 説明したほうがいいのかと迷っているとおじさんが助け舟を出してくれた。


「彼女達は色々事情がありまして、あまり触れないでいただけると」

「失礼しました。 お嬢さん方すまない」

「いえ、そんな」

「しっかりしたお嬢さんだ。 清水さんと言いましたか? うちの春人の嫁に欲しいくらいですな」


 そんなことを言われてしまう。

 私はとりあえず話に合わせてにこっと微笑んでおいた。


「父さん、初対面の方に何を言ってるんですか」

「ははは、すまないすまない」


 な、なんだか思ったよりフランクな人なのかなこの北上父。


「今日から半年ほどですが、こちらでお世話になります。 改めてよろしくお願いします」


 北上君に深々と頭を下げられたので、私達も倣って頭を下げる。

 この後、少しお話をした後、おじさん達は仕事があると言って慌ただしくアメリカへ戻って行った。


「今井君、今日からご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

「あ、あぁ、もうちょっと砕けて話せないか? あと、名前は夕也でいいよ」

「すいません、話し方は幼い頃からしつけられているので……呼び方は夕也でいいですか?」

「構わない」

「私の事も下の名前で呼んでくれていいよ?」

「わ、私も……」


 やっぱり緊張してるなぁ、希望ちゃんは。


「わかりました、亜美さん、希望さん」


 あ、呼び捨てじゃないんだ。


「僕の事も名前で呼んでください」

「よろしくな、春人」

「春くん、よろしくね」

「は、春くん?」


 あ、いきなりフレンドリーすぎたかな?


「こいつはそういう奴だから気にしなくていいよ」

「ゆ、夕ちゃんっ!」

「は、はぁ……」

「ごにょごにょごにょ……」


 希望ちゃんもたぶんよろしく的なことを言ったんだと思うけど……。


「え? 聞こえなかったのですが……」

「この子はそういう子だから気にしなくていいよ」

「は、はぅ……」

「は、はぁ……」


 こうして、新しい友達が増えた。 

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