第56話 浮気現場取り押さえ作戦
☆紗希視点☆
──今井家リビング(柏原裕樹浮気疑惑捜査本部)──
旅行から帰ってきた翌日。
私は今井君の家で本日の作戦会議中だ。
「尾行班のタレコミによると、お昼ぐらいに星が女性Mと待ち合わせて、出掛けたということよ」
「完全に浮気だね!」
「うーん……」
「どうだろう?」
相変わらず希望ちゃんは浮気派、亜美ちゃんと今井君は否定派だ。
「とにかく! 今日二人が帰ってくるタイミングを見計らって駅で待ち伏せ! 浮気現場を取り押さえるわよ!」
希望ちゃんは「おー! 浮気は許すなー」と、ノリノリになっている。
浮気に何かされたのかしら?
「情報は尾行班から逐一送られてくるわ」
「なんか凄く大掛かりだね?」
「普通に家にいる時で良くないか?」
と、穏健派の二人が言う。
どうやら、亜美ちゃんと夕也くんは思考回路が似てるみたいね。
「甘いよ二人とも。 こういうのは現場をきっちり押さえてビシッと問い詰めなきゃ」
「希望ちゃん、何処でそんな知識を」
「夕ちゃん、多分だけど映画とかドラマだと思うよ」
うむ、この件に関して希望ちゃんは心強いなぁ!
後でお礼におっぱい揉んであげよ。
ピロリンッ
「尾行班よりメッセージ来ました! 二人はオシャレな靴屋さんでお買い物を終えて、駅へ向かったようです!」
「つまり、帰って来ると?」
「多分」
「はぁ、そろそろ行くか?」
今井君の言葉に私は大きく頷いた。
目的地は駅! 改札から出て来た二人を捕まえて問い詰めるわ!
◆◇◆◇◆◇
──駅前広場──
駅前の広場へ到着した私達は、裕樹と舞ちゃん(裕樹の幼馴染ちゃん)の乗っている電車を待つ。
「だ、誰かついて来てほしいんだけど……」
いざとなると、さっきまでのテンションは何処かへ消え失せて不安になってきた。
「私が行くよ」
名乗り出てくれたのは亜美ちゃんだ。
ありがたい。
「夕ちゃんが行くとややこしくなるし、希望ちゃんは柏原君に噛み付きそうだし」
「初対面の人に噛み付きはしないよぉ」
でも、この中なら亜美ちゃんが適任なのは間違いない。
「ありがと亜美ちゃん、行こ!」
「うん」
私と亜美ちゃんで改札前へ移動する。
しばらく待っていると、下りの電車がやってきて停車したのが見えた。
タレコミによるとあの電車に裕樹と舞ちゃんが乗っているとの事。
いよいよだ!
「大丈夫だよ、紗希ちゃん。 私は柏原君の事、信用してもいいと思う」
「亜美ちゃん……」
改札を出て来る人の流れの中に、裕樹と舞ちゃんの姿を見つけた。
「裕樹っ!」
私は震える声で裕樹の名前を呼んだ。
「あれ? 紗希? どうしたの?」
「神崎さん、こんにちわ。 久しぶりだね?」
不思議そうな顔で私を見る裕樹と、余裕の挨拶をしてくる舞ちゃん。
この泥棒猫め!
「こんにちわ舞ちゃん」
私は平静を装い挨拶を返す。 尚、はらわたは煮えくり返っている。
「あの、初めまして、紗希ちゃんの友人の清水です」
「え? あ、はい初めまして、
呑気に挨拶を交わしている二人は置いといて、私は本題に斬り込む!
「裕樹、最近になって舞ちゃんと良く出掛けてるわよね?」
「えっ!? 何で知って?」
「そんなことはどうでもいいの! どういうことか説明してよ? 私に飽きた? 別れたいならハッキリ言って?」
「いや、そんな飽きたとか別れたいとは……」
「はぁ……だから言ったのに」
亜美ちゃんとの挨拶が終わったのか、裕樹の隣に立っている舞ちゃんが溜息混じりにそう言った。
「えっ?」
「絶対バレてややこしくなるから、ちゃんと神崎さんに話しておくべきだって何回も忠告したんだよ?」
え? 何?
「神崎さん、あのね……」
「いや、自分から言うよ」
何かを言いかけた舞ちゃんを遮って裕樹が話を続ける。
「これは、紗希が思ってるような事ではなくて」
「じゃあ何?」
「その、インターハイ頑張ってた紗希に……その」
「あ、なるほど……」
隣に立っている亜美ちゃんは何故か納得したように頷いてる。
「サ、サプライズプレゼントをね?」
……。
「へ?」
「裕君は、神崎さんにサプライズプレゼントがしたかったんだよ」
「そ、そなの?」
「そうなんだよ」
う、浮気してたわけじゃないの?
「で、でも、それなら二人で出掛けなくても良くない?」
「それは多分だけど……柏原君は女の子のセンスに頼りたかったんじゃないかな?」
亜美ちゃんの予想が当たっていたようで、舞ちゃんが頷く。
「もうバレちゃったんだし、プレゼント全部渡しちゃえば?」
「ぜ、全部?」
「わかった……うちにおいで」
「あの、私達も行っていいのかな?」
「どうぞ」
亜美ちゃんは、遠くに隠れていた今井君と希望ちゃんを手招きで呼んだ。
私達は6人でゾロゾロと並びながら、裕樹の家に向かっているところである。
「なんでこんなに人がいるんだ……」
「ふ、不安だったのよ! 悪いかしら?」
「全般的に裕君が悪いよ? 私はちゃんと忠告したもの」
舞ちゃんに説教される裕樹。
うん、裕樹が悪い。
「悪いな、俺達まで」
「いえ、紗希が迷惑をかけて申し訳ない」
「だから、あんたが悪いの」
わかってるのかしら。
「そういえば、この間電話してした時、電話口から『イケそうだから続きしよ』とか聞こえたのは?」
これを聞いておかなければならない。
1回ぐらいなら、私も許す。
今井君と寸前まで行った負い目もあるし。
「あれは、私の家で弟とゲームしてたんだよ。 もうちょっとでクリア出来そうなとこで、神崎さんから電話が掛かってきたの」
「ゲーム?!」
うわー……私恥ずかしいやつだ!
そうとは知らず自棄起こして今井君と寝そうになってたなんて。
ご、ごめんなさい裕樹ぃ!
「な、言ったろ?」
ぽんっと肩を叩いて小声でそう言ったのは今井君。
彼にも本当に感謝だね!
今、皆いるからしないけど、いなくなったらもっかいキスしたげよかな!
「神崎さん、色々心配かけたみたいでごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて謝る舞ちゃんに、頭を上げるように言う。
「舞ちゃんって裕樹の事まだ……好きなんじゃ?」
「ううん、もう裕君の事はそんな風には見てないかな」
「……え?」
それは意外な応えだった。
あの頃、激しい戦いに勝って裕樹を手に入れた私に泣きついて「私、裕君意外の男の子なんて考えられない! 返してよ!」って言ってたぐらいなのに。
「あの……」
黙って話を聞いていた亜美ちゃんが不意に口を開いた。
「その話、後で個人的に聞きたいんですけど、連絡先交換しませんか?」
え、これまた意外な組み合わせだ。
二人はスマホを出して、お互いに連絡先の交換を始めた。
「ありがとう、また後で連絡しますね?」
「はい……うわー有名人の清水さんの連絡先教えてもらっちゃったー」
それを聞いた亜美ちゃんは、少し苦笑いをしながら「私、虹高でも有名人なんだ」と呟いた。
いや、全国的に有名人だよ、亜美ちゃん。
駅から十分程歩いて、裕樹の家に到着した。
私は通い慣れた家だからなんとも思わないが、今井君達はちょっと驚いた表情をしている。
「結構広いお家だねぇ」
「はぅ、家の3倍ぐらいない?」
「だな」
リビングで待っててほしいと言われたので、言われた通りにリビングで待機する。
少し待っていると、色々な箱やらを持って裕樹が降りてきた。
「こ、これ全部?」
大小合わせて三つの箱と袋がある。
な、何? 玉手箱?
「紗希ちゃん、驚いてるし、サプライズ成功ですね」
希望ちゃんが、両手を胸の前でパンッと合わせてそう言った。
皆も「確かに」と頷く。
いや、これはびっくりするでしょっ。
高そうな箱だよこれ。
「あ、あの……見ていいの?!」
「どうぞ、よく分からないから舞に選んでもらったんだけど」
私は遠慮なく、一番大きな箱から開ける。
箱の中から出てきたのは、可愛いピンク色の生地に、色とりどりの模様が付いた浴衣だった。
「嘘……」
「凄っ!」
「これ高いよ絶対」
私と同時に、亜美ちゃんと希望ちゃんも驚きの声を上げる。
な、何これ! 嬉し過ぎて死にそうなんだけど!
更に、小さい箱には、浴衣に合わせたようなサンダル、小袋には髪留めが入っていた。
「うわぁ、ね、夕也くん! 私にも買って」
「さ、さすがに俺の財力では……」
希望ちゃんの無茶振りに素で返す今井君。
でも仕方ない、普通の高校生の財力じゃまず無理だ。
「裕君ね、夏祭りにそれを着て欲しいんだって」
「ま、舞!」
なるほど、そうだったんだ。
私はそれぞれを丁寧に箱に戻す。
「うん、これ着る! 一緒に回ろ!」
「う、うん」
結局、浮気騒動は全部私一人の空回りだった。
今井君や亜美ちゃんの言う通り、ちゃんと信じて上げられなかった自分が情けない。
これを機に、私も舞ちゃんと連絡先を交換して、昔の因縁は取り除き、仲直りした。
お茶を一杯だけもらって、私達月学組は裕樹の家を後にした。
夏祭りが楽しみだ。
☆亜美視点☆
紗希ちゃんの彼氏さんの浮気騒動が解決して、一旦我が家へ戻って来た私は、早速、青砥さんにメールを送ってみた。
内容は「電話でお話ししたい事があります。 よろしいでしょうか?」だ。
ちょっと堅苦しいかな?
すぐに「いいですよ」と返事が来た。
「あの、もしもし清水です。 突然すいません」
どうしても青砥さんに聞きたいことがある──。
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