第55話 これからの3人
☆紗希視点☆
裕樹との電話で、裕樹の浮気疑惑を深め、やけくそになった私は半裸で今井君に迫っていた。
「今井君?」
「……」
私の半裸を見ても今井君からは反応が無い。
数秒ほどの沈黙の後、彼は口を開いた。
「紗希ちゃん、ちょっと冷静になりな?」
今井君はそう言うと、私が脱ぎ捨てた上着を拾い上げて、私に手渡してきた。
「慰めてくれないの?」
「他の方法でなら、いくらでも慰めてやるけどな……」
今井君は、「とりあえず服を着てくれ」と、視線を逸らしながら言う。
無反応なのかと思ったけど、やはり目のやり場に困ると言う事だろう。
私は仕方なく服を着直した。
「彼の事を信じろって、な?」
「でもさぁ……」
裕樹の奴、舞ちゃんの家でイチャイチャと……。
電話越しのから聞こえてきた会話を思い出すだけでムシャクシャする。
「何より、自分を大事にしろって。 自棄になって浮気したら後悔するぞ?」
「い、今井君……」
「自棄になるのは、まだ早い。 向こうに戻って話をしてからでも良いだろ?」
「うん……」
相談相手が今井君で良かった。
危く道を間違えてしまうところだったわ。 感謝。
「あ、ありがとう」
「おう」
ぽんぽんっと軽く頭を叩いてから、なでなでしてくれる。
あ、亜美ちゃんが良くやってもらってるやつだわ。
亜美ちゃん、これしてもらうと幸せそうな顔するのよね。
なんだか分かる気がする。
◆◇◆◇◆◇
私は今井君にもう一度お礼を言って、部屋を後にした。
裕樹、帰ったら問い詰めてやるんだから! 覚悟しときなさいよ!
☆夕也視点☆
紗希ちゃんを見送って、一息つく。
「はぁ、焦った。 かなりマジ入ってたな紗希ちゃん」
まさか本当に脱ぎだすとは思わなんだ。
しかし、本当に3月まで中学生だったのかよあの体……。
希望ちゃんに見られでもしたら修羅場ってただろうな。
そんなことを考えているとドアがノックされた。
来客の多い事で。
「希望です、入っていいですか? いいですよ! ありがと!」
ガチャッ
何か自己完結させて入室してきたよこの子。
希望ちゃんってこんなキャラだっけ?
つうか、紗希ちゃんが出てった後、カギかけ忘れてたぜ。 ニアミスだったな。
あと3分ずれてたら、俺と半裸の紗希ちゃんが向き合ってるとこ見られてたぜ。
「お邪魔するよー」
「こんな時間に何だ?」
「寝る前に彼氏の声が聞きたいなぁと思ったの」
そう言って、俺に抱き付いてくる。
「そう言えば、何で亜美とあんな勝負を? 希望ちゃんにはリスクしかなかっただろ?」
「ううん」
首を横に振り、話を続ける。
「勝つ自信があったから……というか確信してた」
「でも、危なかったじゃないか?」
亜美は後2点というところまで希望ちゃんを追い詰めていた。
「ね、おかしいと思わなかった? あんな簡単に逆転出来ちゃって」
「え?」
「亜美ちゃん、9点取った後は明らかに手を抜いてたよ」
「手を抜いてた? 勝つつもりは無かったのか?」
じゃあ、あいつはどうして?
「ううん、そうじゃないよ。 亜美ちゃんは亜美ちゃんで、前に進もうとしてるみたい」
「前に進む?」
「何があったかは知らないけどね」
どういう事だ?
「夕也くんの事、もう一度考え直してみるって」
「な…に…?」
何で今更? 宏太にフラれたからか? それとも何かあったのか?
「でも、私だってもう簡単に渡す気はないよ? 私が彼女だもん」
そう言うと、少し体を離してこちらを見上げる。
可愛らしい目が見つめてくる。
「夕也くん、んっ」
「はいはい」
希望ちゃんとのキスは告白の返事以来だ。
数秒程のキスの後、顔を離した希望ちゃんが少し顔を赤くして言う。
「今日は夕也くんの部屋で寝ようかなぁ……」
こんな可愛い子と同衾なんてしたら、理性を保てる自信なんかないぞ?
「その、さすがにまだ早いような?」
「はぅっ! わ、私そんなつもりで言ったわけじゃ!」
そうなのか?! 俺恥ずかしい奴じゃね?
「その、たまに亜美ちゃんが夕也くんの家に泊まるでしょ? 私も1回、夕也くんと一緒に寝てみたいなぁと?」
はぁ、可愛らしい!
「わかった。 その代わり、襲われても知らないぞ?」
「はぅぅ……」
不安そうな顔をしながら、恐る恐るベッドに入る希望ちゃん。
俺も後に続く。
「なんだか、ドキドキするよぅ」
「確かになぁ」
2人で寝るには少し狭いベッドだが。
身を寄せ合って寝ればなんとかなる。
俺の理性頑張れよ。
と、考えていると、早くも隣から可愛らしい寝息が聞こえてきた。
「すげぇ寝付き良いんだな……」
まさか、希望ちゃんとこんな風になるとはな。
隣で眠る希望ちゃんの頭を優しく撫でながら考える。
あの、気弱で泣き虫で恐がりで、いつも俺達の後ろに隠れてついてくるだけだった希望ちゃんが、今では俺の恋人か。 本当に先の事はどうなるかわからんなぁ。
そう思いながら目を閉じた。
◆◇◆◇◆◇
「夕ちゃん! 希望ちゃんが部屋にいないん……だけ……ど?」
「んー……おはよー……亜美ちゃん」
「んあー……おはよう」
あーそう言えば、カギ開けっ放しだったっけ?
「うわわ? えーと、昨夜はお楽しみでしたね?」
「はぅ、何もしてないよぅ!?」
「えぇ……」
亜美がチラッとこっちを見たので俺はコクコクと頷いて無実をアピールした。
「はぁ、夕ちゃんのヘタレさん」
「ぐっ」
なんで襲わなかったのに呆れられてるんだ! 「可愛い彼女が隣で無防備で寝ているのに、堪えて良く我慢した! 感動した!」って褒め称えろよ。
「あ、あはは……」
「それより、もうすぐ朝ご飯だよ? 皆のとこ行こ?」
この旅行も、その朝食が終われば後は帰るだけか。
何だかんだ、色々あったな今回の旅行も。
俺達3人は一緒に朝食へ向かう。
「ねぇ、希望ちゃんは、夕ちゃんとしたいと思わないの?」
「な、何をかな?!」
亜美の質問。 まさかこいつ。
「それはアレだよアレ」
にやにやしながら指でジェスチャーする亜美。
おいおい……どこで覚えたそれ。
「はぅ……ま、まだ付き合い始めたばかりだし早いかなぁなんて……」
「奥手だねー、相変わらず」
「亜美ちゃんが特殊なだけだよぅ」
「あはは、言えてるね」
隣でそんなやり取りをしている仲良しの姉妹を見ていると微笑ましくなる。
内容は生々しいが。
「夕ちゃん」
「おん?」
不意に声を掛けられた。
割と真剣な表情だ。
こういう時のこいつは爆弾発言をぶっ込んでくる傾向がある。
「希望ちゃんはすっごくえっちな子だから、ガンガン行っていいよ!」
「亜美ちゃんっ?!」
「ははは……」
むっつりスケベなのは知ってる。
希望ちゃんが亜美の頭をポカポカしている。
「あはは、痛い痛い……ね、希望ちゃん」
「んん?」
「もし……もし、私が前に進む覚悟が出来たら、その時は……」
「うん、奪いに来るのは自由だよ? 簡単には渡さないけどね」
俺は黙って2人の会話を聞いていた。
「私はもう待たないし、奪わせもしないよ」
「あはは……強くなったなぁ希望ちゃん」
亜美が前に進もうとしている……か。
先の事はどうなるかわからない。
俺も亜美も、同じことを言ったっけ?
どうなるんだろうな……この先、俺達3人は。
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