第53話 希望VS亜美?

 ☆夕也視点☆


 初日の昨日は夕食の後に惰眠を貪ってしまったが、今日は大丈夫だ。 やはりマッサージが効いていたのだろう。

 紗希ちゃんの悩み相談に乗った後、せっかくなので希望ちゃんを誘い出して、夜の散歩に出掛けることにした。

 紗希ちゃんからは「おおー、相談に乗った後は、希望ちゃんの上に乗る気だ?」と茶化されてしまったが。


「恋人になってからは、なんだかんだ2人で出掛けるの初めてだよね?」

「そうだよなぁ」


 言ってもまだ1週間ほどしか経ってないけどな。

 希望ちゃん達がインターハイを終えてから、夏休みだと言うのにデートの1つもしてないな。


「これが、私と夕也くんの初デートになるのかな?」


 恋人になる前に2度ほどした様な気もするが、付き合い始めてからは確かに……。

 いや、こんな散歩が初デートじゃなんか寂しいな。


「デートはデートで今度ちゃんと行こうぜ?」

「うん」


 どちらからとも無く手を繋いで海岸沿いを歩く。


「そう言えば、亜美ちゃんは佐々木くんにフラれちゃったみたいだよ?」

「そうなのか」


 意外に宏太の奴も冷静だな。

 奈々美をポイっして亜美を取ると思ってたんだが。


「何かちょっと安心してない? 嬉しそうだね?」

「べ、別に普通たが?」


 何か顔に出てたのか?

 希望ちゃんはくすくす笑いながら「ま、別に良いけど」と小声で、呟いた。


「亜美ちゃん、どうするんだろうね?」

「どうって?」


 希望ちゃんは、空いている方の手を頬に当てて話を続ける。


「夕也くんは私に取られて、佐々木くんにはフラれて……新しい恋を探すのかな?」


 亜美が新しい恋を探すとか、それは想像出来ないな。

 なんせ、他の男には見向きもしない。

 

「夕也くん」


 スッと肩を寄せて密着してくる希望ちゃん。

 入浴後だからか、シャンプーの良い香りがする。


「亜美ちゃんに、好きな人出来たらどうする?」

「出来ねーだろ」

「あはは、私もそう思う」


 まあ、もし万が一でも「好きな人が出来たよ」なんて報告してきた時は……。


「亜美は誰にもやらん!」

「お父さんかな?!」


 急な俺の発言に希望ちゃんがびっくりしたようだ。


「冗談はさておき、そうだなぁ……まず、亜美を任せられる男かどうか品定めを」

「夕也くんって独占欲強い?」

「かもしれんな」

「そっかぁ、私も多分強い方だと……」


 そういうカップルって続くんだろうか?

 お互い縛り合って自由が無くなるのが嫌になったりしてダメになるなんてことは……。


「お互いの自由を尊重しような?」

「うん。 あ、でも浮気はダメだよ?」


 こんな可愛らしい彼女が居て浮気とかしたらバチが当たる。


「返事は?」

「はい、浮気しません」

「ふふっ、よろしい。 あ、でも亜美ちゃんとなら目瞑るよ? 亜美ちゃんは特別」


 本当に歪んだ姉妹愛だな……。

 亜美よりちょっとマシなだけで、根本的にやってる事は同じ「譲り合い」だ。

 今、亜美が「夕ちゃんが欲しい」って言ったら「いいよ!」とか言いそうだ。


「どうしたの夕也くん?」

「何でもない」

「そう?」


 そうやって2人で歩きながら夜の浜辺へとやってきた。

 昼間は海水浴客で賑わうビーチだが、さすがにこの時間はそんなに人は見当たらない。

 全くいないというわけではないようだが……。


「はぅぅ、カップルだらけだ……」

「そうみたいだなぁ」


 数組ほど男女が居てイチャついたりしている。

 さすがにこの中に入って希望ちゃんとイチャつく勇気はねぇな。


「夜の海って暗くて怖いね」

「なんか不気味だよな」

「はぅ……意識したらどんどん怖くなってきた」

「ホテル戻るか?」

「うん、そうしよ」


 散歩を早々に切り上げて、ホテルへ戻ることにした。


「今度のデート、いつしよっか?」

「夏休みの最後の方で夏祭りがあるだろ? それでどうだ?」


 俺達の街は夏の終わりに地域を上げての夏祭りがある。

 割と賑わっていて、花火大会なども開かれる祭りだ。

 それが終わるともう新学期だなぁと思わせられるのだ。


「それまではお預けかぁ」

「待てないか?」

「ううん、大丈夫だよ。 じゃあ、その日が初デートと言うことで。 浴衣着て行こうかなぁ」


 希望ちゃんの浴衣姿、楽しみだな。

 可愛いんだろうなぁ。


「亜美ちゃんも浴衣持ってるけど着るのかな?」

「せっかくのデートだから当然2人で回るぞ?」

「えぇ……亜美ちゃん可哀想」

「バレー部の彼氏いないグループで回るだろ?」


 今やバレー部1年の女子6人のうち半分が彼氏持ちになってしまった。

 売れ残りの亜美、奈央ちゃん、遥ちゃんで祭りを回ることになるんだろうなぁ。


「そうかなぁ……」


 それに、俺と希望ちゃんが近くでイチャイチャしてたら、また噴火するかもしれん。

 それは避けなければならない。


 そうこうしてる内にホテルへと戻ってきた。

 短い散歩だったな。

 ロビーまで来た所で、亜美と遭遇した。

 本当によく遭うなぁ。


「あ、デートだ?」

「違うよ、ただの散歩だよ」

「うむ」


 亜美は「ふーん、そっかそっか」とにやにやした顔で頷いた。


「ねぇ、希望ちゃん、ちょっと話があるんだけど良い?」

「え? うん、良いけど」

「夕ちゃんごめんね? 後で夕ちゃんの部屋に行かせるからね」

「あ、いや。 自分の部屋に戻ってもらってくれ」


 亜美に「ヘタレ」と、怒られてしまった。

 希望ちゃんだってそこまではまだ考えてないだろうし良いだろ別に……。


 俺は亜美と希望ちゃんと別れて部屋に戻ることにした。

 一体2人はなんの話をしているんだろうか?

 気になるが知る術はない。


◆◇◆◇◆◇


 部屋でしばらくボーッとしていると、来客があった。

 希望ちゃんかと思ってドアを開けると、何故か紗希ちゃんが立っていた。

 相談は終わったはずだが?


「やほー」

「や、やほー? じゃなくてどうした? まだ何か悩んでんのか?」

「いやー? お昼言った通り浮気でもと思って」


 ガチャッ


 俺はドアを閉めた。

 冗談じゃなかったのかよ。

 彼氏が浮気してるかもしれないと不安になっていたはずでは?


「冗談じゃん……」


 ドアの向こうからそんな声が聞こえる。

 ちょっと落ち込んでるように聞こえたのは気のせいか?


「んじゃ、なんだ?」

「亜美ちゃんと希望ちゃん、ケンカしてるよ?」

「……は?」


 あの2人が? ケンカ?

 俺は紗希ちゃんの後について現場へ向かった。


 カッコンカッコン……

 小気味の良い音が鳴り響く部屋に連れてこられた。


「はい、7-4ね」

「はぅ、亜美ちゃん強いぃ」


 2人は卓球をやっていた。


「どこがケンカなのかね?」


 温泉卓球やってるだけじゃないか。


「夕也、ちょうどいいとこに来たわね」

「いや、2人がケンカしてるって聞いてだな」

「そうねー、面白いケンカよこれ? 勝った方は景品貰えるのよ」

「景品?」

「ほらほら、9-4だよ希望ちゃん? いいのかなぁ?」

「はぅぅ、負けちゃうぅ……」


 11点先取の1セットマッチか?

 もう希望ちゃんは崖っぷちだな。


「で? 景品ってなんだ?」

「あんたと一緒に夏祭り回る権利だって」

「……はぁ?」


 何だよそれ。 俺は希望ちゃんと回る約束をして……。


「まさか、ふっかけたのは?」

「希望よ」


 なんでだ?

 それを受けた亜美もなんでだ?


「亜美ちゃんも『幸せになれる最低女』になる覚悟が出来たのかなぁ?」

「なんだそれ?」

「ううん、こっちの話だよん」


 んー、わけわからん。

 対決の方に目を向けると、得点は9-6と希望ちゃんが盛り返してきている。

 なんだ、割とやるな。


「希望ちゃん、しぶといねぇっ!」

「負けたくないもんっ!」


 9-7

 わからなくなってきたがそれでも希望ちゃんは崖っぷちだ。


「希望ちゃんってば、土壇場で集中力上がってきわねぇ」

「そうねぇ、正直言って亜美が圧勝すると思ってたんだけど」


 ふむ……何やらせても完璧な亜美は当然この手のスポーツも普通以上にこなせてしまう。

 そこに喰らいついて行けるとは、希望ちゃんの運動神経もバカにならんな。


「9-9! 追いついたよ!」

「うぅっ、勢いに乗ってるなぁ希望ちゃん」


 そろそろ決着がつきそうだ。

 先にマッチポイントを取ったのは。


「9-10」


 希望ちゃん逆転。


「おお! 正妻の意地だ!」

「希望、すごい気迫だわ!」

「どうなるんだこの試合……」


 ◆◇◆◇◆◇ 


 そして、試合終了後の両者がこちらである。


「ふふふ、真の彼女は負けないんだよ亜美ちゃん!」

「うぅ……負けたぁ……」

「お疲れさん2人とも」

「えへへー、夕也くんとのデート権死守したよ!」

「お、おう」

「はあー、せっかくお風呂入ったのに汗かいちゃった……もっかい入ってこよー」

「あ、私もー」


 そう言って2人はまた大浴場の方へ向かった。

 結局なんだったんだ?


「なんで、希望ちゃんは勝負をふっかけたんだ?」

「さぁ?」


 謎だなぁ。

 希望ちゃんからしたらリスクマッチでしかないだろうに……それを受けた亜美の心境もわからんが。

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