第52話 紗希の悩み
☆紗希視点☆
夕飯を食べて、大浴場で疲れを癒した後、私は部屋で来客を待っている。
亜美ちゃんにあんな無茶苦茶な熱弁しといてなんだけど、私は私で悩んでるんだよねー。
「さてさて……1人で来るか2人で来るか」
コンコン──
「はーい」
ノックの音がしたので、在室をアピールしながらドアへ向かい、開ける。
「おす」
「お邪魔しますっ」
「最低バカ女もお邪魔します」
うーん! 3人は想定しなかったかなー?
希望ちゃんはわかるとして、何故亜美ちゃんまで?
「さっき話聞いてくれたからっていうのと、紗希ちゃん困ってるみたいだから」
「何か勝手について来た」
「私は監視だよ!」
「いや、せっかくだから相談にも乗ってよ……」
希望ちゃんは「もちろんっ」と、頷いてるけど大丈夫かなぁ?
「まあ、いいや。 入ってちょーだい」
私はドアを全開にして3人を招き入れた。
まず最初に口を開いたのは希望ちゃんだ。
「こほんっ、まず紗希ちゃんに聞きたいことが2つありますっ」
「え? ど、どぞ?」
なんか怒ってる?
目一杯怒ってもタレ目なところが可愛い。
「どうして夕也くんに相談しようと思ったの?」
「それはー……」
「あー、サーフィン教えてる時に、彼氏君の事で悩んでるって聞いたから、俺で良ければ相談に乗るって言ったんだ」
今井君が助け舟を出してくれた。
やっぱ優しいわ、この女たらし君。
「そうなんだ? じゃ、もし夕也くんが1人で来てたらどうするつもりでいたか聞きたいなぁ?」
「それはぁ、相談に乗ってもらった後は、私の上にも乗ってもらおうかなぁーなんて?」
「紗希ちゃんっ!」
「すいましぇん!」
「ま、まあまあ、とりあえず本題の話を聞かせて?」
さっきまで泣いてたとは思えない程に冷静な亜美ちゃんが、場を仕切る。
「簡単に言うと、裕樹に浮気されてるかもしれない、いや、ありゃもう浮気だわ!」
「落ち着いて落ち着いて……」
「本気にならないなら許すって昨日言ってなかった?」
希望ちゃん、よく覚えてるなぁ。
この子、エロい話も逐一メモってるし。
意外と油断ならないねぇ。
「やっぱり浮気されたらムカつくじゃん?!」
「そういうもんなのか?」
「そういうものだから、夕也くんはしちゃダメだよ?」
「おす」
希望ちゃんって結構、独占欲が強いのね。
これは意外な一面。
「それで、なんで発覚したんだ?」
「ちょっと待ってちょ」
私は素早くスマホを操作して、一枚の画像を出力した。
「これっ! インターハイで九州行ってる間に、知り合いから送られてきたの!」
その画像には、裕樹と仲良く歩く女子の姿が写っている。
私とは違って小柄で可愛らしい栗色ミディアムヘアの女子。
「ふむふむ」
「これは言い逃れできない、完璧な証拠画像だね! 有罪!」
「そっかなぁ……」
鼻息を荒くして浮気認定する希望ちゃんと、冷静に画像を見ている亜美ちゃん。
「今井君はどう思う?」
「ふむ、どこで撮られるか分からないから注意しないとな」
「夕也くん!」
「冗談だって!」
目の前てなんかイチャつき始めたんだけど。
こりゃ、亜美ちゃんが今井君を忘れたくなるのも無理ないわ。
「まあ、俺も亜美と同じだ。 まだ浮気とは断定出来ん」
「そ、そっか……」
「で、この女子は? 見覚えある?」
「あるある! ありまくりよ!」
「え? あるんだ?」
そりゃもうだって……。
「私と裕樹を取り合ったライバルだもの!」
「えーっ!? って驚くほどでもないか」
と、冷静になる亜美ちゃん。
この子、他人の色恋だと凄く落ち着いてるわね。
どして自分の時はあんな不器用になるんだい?
「彼との関係は?」
今井君が聞いてくる。
「今井君と亜美ちゃんや希望ちゃんみたいな幼馴染」
「んー」
亜美ちゃんが、人差し指を唇に当てて考えている。
希望ちゃんはもう断定している。
「今井君は?」
「いや、幼馴染なら2人で出かけることもあるだろ?」
「うーん、たしかにね。 私と夕ちゃんが希望ちゃんに内緒で出かけるみたいな?」
「それは浮気だよ亜美ちゃん」
「えーっ?」
要するに浮気のラインは人それぞれってことね。
「ふむ、これはこの画像突き付けて、本人に聞くのが手取り早くないか?」
「それが恐くて出来ないから悩んでるんだけどなぁ」
「あぁ、そうだよな」
もし、これを突き付けて問いただした時に開き直られて「お前はもういらない」とか言われたら……。
「んじゃ、女子の方に聞くとか?」
「あんま仲良くはないんだよねぇ」
「そうだろうねぇ」
しばらくの間、沈黙。
「俺は彼を信用しても良いと思うぞ」
「私もそう思うよ」
裕樹に実際に会ったことのある2人がそう言う。
「そっかな……」
「1人で行くのが怖いなら俺ついていくぞ?」
「え、いいの?」
「別に構わないぞ」
「私達も行くよ? ね? 亜美ちゃん」
「うん」
「おー……ありがとぉ」
相談してよかった。
1人だとやっぱり怖いし。
「じゃあ、旅行から帰ったらお願いしようかな」
「おう」
「うんうん」
「お任せだよ!」
心強いなぁもう!
「ところで、柏原君って月中出身だよね?」
「うん、そうだよ」
亜美ちゃんが訊ねてきた。
2年の修学旅行中に交際を始めたのだ。
そういえば、バレー部の皆には彼氏出来たことは報告したけど会わせたことは無かったなぁ。
あの頃は裕樹全然自分に自信持ってなかったから、紹介しようとしても嫌がってたのよねぇ。
「私、7月に柏原君に会ったけど、あんな男子いたかなぁって」
「そうなんだよなぁ」
「私は写真でしか見たことないけど確かに」
「目立たない奴だったからねぇ」
私はスマホの画像の中から古い日付の物を探す。
「あんなさわやかイケメン君が目立たないなんてないでしょ? 絶対噂になってるよ?」
「はいこれが、中学時代に裕樹」
「どれどれ?」
……。
「嘘……これのび〇君?」
「どうみてもの〇太くんだね」
「あ、こいつ、シャドウ君じゃねぇか」
「え? なにそれ」
「男子の間じゃこいつのことをシャドウ君って呼んでたんだよ。 大人しくて影が薄くて無害な奴っていう共通認識があってな。 誰も見向きもしなかったんだが」
「そうなのよねぇ、だから私、すごく気になっちゃって、たまに話しかけたり世話焼いたりしてて、気付いたら惚れちゃってたわけ」
「そ、そうなんだ……2人って全然合わなさそうだと思ったけどそんな馴れ初めが」
「ふふ、私、裕樹は素材は良い物持ってるって見抜いてたもの! 高校上がる時に私がプロデュースして高校デビューさせたの」
我ながら素晴らしいプロデュース能力だと思うわ。
「はぇー、変わるもんだねぇ」
「だよな」
「これがこれだもんねぇ……」
「この幼馴染っていう女の子は?」
「あー、彼女は私立中学受験してそっち行っちゃったから皆知らないのはしゃーないね」
「ライバルだったってことは彼女も柏原君好きだっんだよね?」
「うん、激しい奪い合いだったよぉ……同中のアドバンテージがなきゃ危なかったねぇ」
まあ、惚れちゃってからはかなり頑張ったもんねぇ。
「そうなんだ、でも、幼馴染に勝っちゃうなんてすごいね」
「あはは……まあね。 でも、多分彼女はまだ諦めてないんじゃないかな? だからこそ不安なの」
「なるほどな」
今更奪われてたまるもんですか! 裕樹は誰にも渡さないんだからね!!
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