第48話 運命の赤い糸

 ☆夕也視点☆


 ミスコンの後で男共に囲まれてしまった亜美と希望ちゃんを助けた後、ほとぼりが冷めるまで少しの間、人気の無い場所まで移動して、時間を潰した。


「もうそろそろ、大丈夫か?」

「どうだろね」

「おっぱい見られた……おっぱい見られた……」


 ステージの上でポロリをしてしまった希望ちゃんは、先程からブツブツと何か呟いている。


「だ、大丈夫だ、俺は遠くにいたから見えてないぞ?」


 なんとかフォローにならないだろうか?


「はぅぅ……夕也くん以外の男の人に見られた」


 どうすりゃいいんですか?


「別にいいじゃん? もう二度と会うこともない人達に見られても」

「そ、そうかもしれないけどぉ」

「ほら、夕ちゃん見てあげたら?」

「なんでそうなるのぉ?!」




 何とか希望ちゃんを慰めて、皆のいるであろう俺達の拠点に戻った。

 そこには、奈央ちゃんと遥ちゃんの他に、宏太に連れ出された奈々美と紗希ちゃんも戻ってきており項垂れてる。


「あーおかえりー、大変だったわねぇ」

「ううーお疲れー」


 2人も相当揉みくちゃにされてたからな。 だいぶ疲れてるようだ。




 その後は、もうこの場所では目立ちすぎて泳げないだろうということになり、この日の海水浴はお開きとなった。


 終了後はホテルで専属マッサージ師によるマッサージを受けて疲れを癒したあと、夕食を取ることに。

 

 夕食は、この辺の海で獲れた海の幸を使った海鮮三昧だった。

 皆の腹が膨れた後は自由行動となった。

 

 俺はちょっと疲れていた所為なのかマッサージの効果なのかは知らないが、急に睡魔に襲われたので部屋で仮眠を取ることにした。

 

 まぁ、目が覚めたら深夜1時になっていたのだが……。





 ☆亜美視点☆


 夕食の後の自由時間、私はさすがに疲れていたので仮眠を取っていた……んだけど、目が覚めると深夜になってしまっていた。

 マッサージの効果なのかなぁ? 熟睡しちゃったようだ。


「うう……ん……えぇ、もう1時かぁ……」


 なんて勿体ない時間を過ごしてしまった事か。 

 私は起き上がって、伸びをする。


「せめてお風呂、入ろ」


 このホテルには大浴場があったはずだ。 誰か誘えば一緒に入ってくれるかもだけど、時間が時間だし1人で入ることにした。


 部屋を出て通路をちょっと歩くと、夕ちゃんに遭遇した。

 なんでこう、所々で夕ちゃんと遭遇するんだろう。


「夕ちゃん、こんばんわ」

「おう、どした? こんな時間に」

「あはは、それはお互い様だよ」

「そらそうだ」


 とりあえず2人並んで歩く。 

 こんな時間に散歩、なわけないよね。


「飯の後に仮眠したんだが……思いの外疲れてたのか熟睡しちまったみたいでな」

「起きたらこの時間だったと?」


 夕ちゃんはこくりと頷いた。


「私と同じだね」

「で、これから風呂にでも行こうかと」

「うん、それも同じだね」


 ということで、私達は大浴場の前までやってきたんだけど。

 入り口には大きな看板が置いてありそこには。

 

 清掃中……。


「どうしよっか?」

「んー、今日は諦め……」


 すると、ホテルのスタッフさんらしき人が声を掛けてくれた。


「お客様、こちらの浴場はこの時間帯は清掃中になっております。 ご入浴なさりたいのでしたら、予約制の家族用浴場が現在空いておりますが」


「あ、じゃあそちらで」


 私は迷わず応えた。


「それってもしかして?」

「そちらは混浴になっております」

「またかー!」


 ここまで来ると、神様のいたずらを疑わずにはいられないねぇ。




 フロントに話して、予約帳に記入し浴場の鍵を貰ってから、浴場へ向かった。

 私達は少し離れて服を脱いで浴場へ。

 

 浴場では先に夕ちゃんが浸かっていた。


「ふぅ……また混浴だねぇ」

「そうだなぁ……っておい! タオルは?! タオル巻かないのか?!」


 夕ちゃんの前で何も隠さずに立っていると、急に夕ちゃんが騒ぎ出した。


「うん? 私は別にいいよ? あのデートの日に、もう夕ちゃんには全部見られちゃってるもん」

「いや、俺が困るから! 頼むからタオルで隠して下さい!」

「んもぅ、しょうがないなぁ」


 私はタオルを巻いて色々隠し、そのまま夕ちゃんの隣に少しだけ離れて座った。


「くすっ、ヘタレさんだね、夕ちゃんは。 そんなんで、いざって時に希望ちゃんの事ちゃんとリードしてあげられる?」

「ほっとけ……」


 夕ちゃんの事をイジりながらボーッと色々考える。

 どうして私と夕ちゃんは、いつもこうやって一緒になっちゃうんだろ? 

 もしかしてそういう運命なの?


「……ね、夕ちゃんは運命って信じる?」

「は? 運命?」


 私は夕ちゃんの方に視線を向ける。

 夕ちゃんも私を見ていたので、自然と視線がぶつかる。


「どう? 信じる?」

「さあなぁ、わからん」


 もしかしたら、夕ちゃんとは運命の赤い糸で結ばれちゃってたりして……なんていうのは都合よく考えすぎかな?

 まあ、そんなものがあっても私自身が無茶苦茶にもつれさせちゃってるんだけど。

 それでも、神様のいたずらのように引き寄せられてしまう。

 今だってこんな夜中に、偶然夕ちゃんと遭って、一緒にお風呂入っちゃってるし。


「それがどうかしたのか?」

「んー……別になんでも」


 適当にはぐらかしておく。

 今更、夕ちゃんにそんなことを聞いてみても仕方の無いことだ。


「なぁ? もし俺が、あの時、希望ちゃんじゃなくて、もう1度亜美を選んでたらどうなってた?」

「うーん、わかんないね」


 たしか、希望ちゃんにも同じような事を聞かれたような気がするなぁ?


「そうか……」


 しばしの沈黙。


「でも、もしかしたら夕ちゃんとお付き合いしてたかもしれないね?」

「……」


 夕ちゃんの言葉は無かった。

 その後はお互い会話も無く時間は過ぎ、どちらともなく入浴を切り上げた。

 



 部屋に戻ってきて少しだけ考える。


「運命かぁ。 もし、夕ちゃんと私がそうなんだったらいつかは……いやいや! 何言ってるの! 希望ちゃんを不幸にするわけにはいかないよ」


 もうこの葛藤も何度目だろうか?

 早く夕ちゃんの事は忘れなきゃ。

 やっぱり宏ちゃんに頼るしかないのかもしれない──。

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