第43話 してあげられること

 

 ☆希望視点☆


 私達は今日から3日間、奈央ちゃん主催の海水浴旅行をすることになっている。


 例によって、駅前集合。

 現在、夕也くんの家で、夕也くんの準備が終わるのを1人で待っている。


 一昨日、亜美ちゃんとちょっとしたイザコザがあり、その日以来、亜美ちゃんは夕也くんの家に来なくなってしまった。


 今日も、先に1人で駅前に向かってしまった。


「待たせたな」

「ううん、行こ」


 出かける準備を終えた夕也くんと一緒に家を出て、集合場所の駅を目指した。


 歩きながら、夕也くんとお話しをする。

 話題は、今回の旅行についてだ。


「しかし、この間九州まで行ったのに、また旅行か」

「そうだよね。 旅行ばかりしてるよね」

「旅行しかネタがないのか?」


 何のことかはよく分からないけど。


「海は去年も行ったよね」

「行ったな。 去年の水着はワンピース型で露出少なめだったよな? 今年は?」

「ち、ちょっと頑張ってみたよ?」


 実際は凄く頑張ったけど。

 マイクロビキニはちょっと攻め過ぎたかなぁ?


「へー、期待してるぞ」

「う、うん」


 そんな話も一段落して、話題はこの場にいない亜美ちゃんの事に。


「あれから亜美はどうだ?」

「うーん、家では普通だよ?」

「そうなのか?」

「うん。 でも、やっぱり私と夕也くんが2人で居る時には、あんまり絡みたくないみたいだよ」


 明らかに私達に絡むのを避けている節がある。

 どうしたものか……。


「まあ、この旅行でちょっとリフレッシュすれば、意外と元に戻るかもしれないし。 とりあえず旅行楽しもうぜ」

「うんっ」


◆◇◆◇◆◇


 駅前に着いたところ、まだ、紗希ちゃんと遥ちゃんが来ていないようなので、切符を買って少し待つことにした。

 ちらりと亜美ちゃんの方に視線を向けてみると、スマホで何かしているのかこっちには気付いてない様子だった。

 よし、話しかけよう。


「亜美ちゃん」

「ん? どしたの?」

「海、楽しみだねっ」

「昨日も言ってたよそれ」


 そだっけ?!


「そ、それぐらい楽しみなんだよ!」

「あはは、そかそか。 うん、楽しみだね」


 夕也くんが入ってこないとやっぱり普通だ。


「夕ちゃんに水着見せるの楽しみだねぇ?」

「うぅ……」


 夕也くんどんな反応するだろ。


「希望、新しい水着買ったの?」


 後ろから奈々美ちゃんに声をけられた。

 佐々木くんと話してたと思ったけど、聞いてたんだ。


「どんな水着なのよ? んー?」

「凄くえっちなやつ買ってたよ?」

「亜美ちゃーん!」


 ポカポカと頭を叩く。 もちろん本気では叩いてないよ?


「あはは、痛い痛い」


 夕也くんと私が一緒じゃなければ、ちゃんといつもの仲良し姉妹だ。


「ごめーん」

「お待たせ!」


 息を切らせて紗希ちゃんと遥ちゃんがやってきた。

 どうやら遥ちゃんの日課のランニングのせいで遅れたらしい。


 私達は電車に乗り込んで、楽しい海水浴旅行がスタートした。

 今回のスケジュールも奈央ちゃんが考えてくれているようだ。


「まずは、今日はホテルに着いたらお昼ご飯を食べます」


 ちなみに向こうで電車を降りると、また迎えの車が来ているらしい。

 お昼にちょうどいい時間にホテルに着くようだ。


「その後は早速、ビーチへ行きますわよ! 今日は昼からビーチでイベントがあるらしいですよ? ミスマーメイドコンテストという水着美女コンテストみたいですわ」


 私には縁がなさそうだよ。


「へー、私参加しようかしら? 亜美もどう?」

「うーん、いいよ? 参加しよ?」


 珍しく亜美ちゃんがノリノリだ。

 あんまりそう言うのに好んで参加はしないんだけど、どういう風の吹き回しだろ?


「希望ちゃんも出よう?」

「えぇっ?! むむ、無理だよぉ!」

「大丈夫だよー、ね、夕ちゃんも見たいよね? 可愛い彼女の頑張ってる姿」


 あれ? 自分から夕也くんに絡んでいった?

 もう大丈夫なのかな? でもこの感じなんか……。


「ん、そうだなぁ。 亜美が頑張ってる姿も見られるみたいだし楽しみだなぁ」

「私が頑張るってるとこなんか見ても仕方ないでしょ……」

「私が頑張ってる姿は見る価値ないって言うのかしらぁ?」

「いやいやいや! 奈々美が頑張ってる姿を見るのも楽しみです!」


 慌ててフォローを入れる夕也くんが面白い。


「それで、希望ちゃんも出るよね?」

「んもぅ……出ればいいんでしょ? 出ますよぉ!」


 んー、上手く乗せられてしまった感がある。

 あんな水着でミスコンに出るとか、恥ずかしくて死んじゃうのでは?

 今から想像しただけで眩暈がする。


「ふふふー、私も参加しちゃおう」


 おお、紗希ちゃんも出るんだ。

 こんなナイスバディ-な3人が出る水着美女コンテストなんて、私きっと目立たないよね?


 海で遊んだあと、夕方からはホテルで専属のマッサージ師さんに体をほぐしてもらえるそうだ。

 明日は明日でいろんなマリンスポーツに挑戦するらしい。

 楽しみだよ!


「紗希ちゃんの彼氏さんも呼べばよかったのに?」


 亜美ちゃんが珍しいことを言ってる。


「んー、誘っても来るかどうかわからないわよ? あいつにはあいつの付き合いもあるし」

「そうなんだ」


 亜美ちゃんは「残念だねぇ?」と、言ってそれ以降はその話はしなかった。


 そうだ、この感じ……。 高校に上がる前の、「自分の色恋には無頓着な亜美ちゃん」っぽいんだ。

 結局それは、そういう自分をだけだったみたいだけど。

 今、そんな風になる理由は1つしかない。 そうすることで夕也くんへの想いを、なんとか抑え込もうとしているんだ。

 ダメだよ。 それ以上無理しないで亜美ちゃん。

 心が、壊れちゃう。


 私のそんな心配をよそに、亜美ちゃんは作り笑顔で夕也くんと話をしている。

 亜美ちゃんに対して、私がしてあげられることって何かないのかな……?

 私が辛い時にはいつも助けてくれた亜美ちゃんを、今度は私が助けてあげられないだろうか?


 ううん、無理だよ。 だって。


 その私が、亜美ちゃんに辛い思いをさせてる張本人なんだから──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る