第27話 亜美と夕也のお泊まりデート

 ☆亜美視点☆


 本日6月29日の土曜日──。

 まだまだ梅雨が明けない中、今日はとても良い天気だ。

 私は朝早くに起きて、夕ちゃんの家に勝手に入り、朝食の準備をしている。

 まだ6時半だけど、夕ちゃんも珍しく自分で起きてきた。


 そう、今日は夕ちゃんとデート! でも、一つ問題が……実は今日のデートが泊まりだと言う凄く大事な事を、当の夕ちゃんに伝えるのを忘れていた。


「おはよ、夕ちゃん」

「おはよ……」


 まだ眠たいみたいだけど仕方ないかな?


「夕ちゃん、顔洗って来たら?」

「おーぅ……」


 私は苦笑いしながら、夕ちゃんの後ろ姿を見ていた。


 ◆◇◆◇◆◇


 朝食を食べながら、夕ちゃんと少しお話をする。


「亜美、今日行くとこって何処だ?」

「ちょっと遠いよ? 都内だもん」

「なんだ都内まで出るのかよ」

「うん、ごめんね言ってなくて。 あ、あのね……言ってないついでで悪いけど泊まりなんだ、デート」

「……はあ? 29、30って2日続けて別のデートって意味じゃなかったのか? そう言う事は早く言えよ?」


 お怒りはごもっともだ。

 希望ちゃんとお父さん、お母さんには言ってある。

 けど、肝心の夕ちゃんに伝えるのを忘れていた。


「も、もしかして明日は用事あった? それなら予約キャンセルして日帰りデートでも……」


 もしそうなら私が悪いんだもんね、仕方ない。


「バーカ、大丈夫だよ。 用事なんてねーし、あってもキャンセルするに決まってるだろ? 何よりお前とのデート優先だ。 ただ、泊まりになるなら色々準備がいるな……まあ、向こうで必要な物は買うか」


 私とした事が、自分の事ばかりで夕ちゃんの事、放ったらかしにしちゃってた。

 夕ちゃんの優しさに感謝しかない。


「本当にごめんね」

「良いよ。 せっかくだしデート楽しもうぜ?」


 夕ちゃんはいつだって優しい。 だから大好き。


「泊まりって、ホテルでも取ってあるのか? 金掛かるだろ?」

「うん、貯金結構使うね」

「貯金? まじかよ? じゃあ、俺もデート費用半分出すよ」

「いやいや、気にしないで? 私から誘ったデートだし」

「行くのは、俺とお前だろ? そっちこそ気にするな。 俺だって貯金使えばなんとかならぁ」


 本当に、どこまでも優しい男の子だ。

 私も頑固な方だけど、夕ちゃんもそうだ。 こういう時は引き下がってくれないことが多い。

 私としても出費が抑えられるのは嬉しいし、ここは甘えちゃおう。


「じゃあ、半分出してもらおうかな……。 結構な金額だよ? 今日予約してるプラン。 ホテル代もそれに入ってるの」

「プ、プラン? 何やるんだよ?」

「それは着いてからのお楽しみだよ。 予約の時間は17時からだから、それまで都内で遊ぼうね」

「大ボリュームのデートだな……というかもう、小旅行だろそれ。 んで、明日は?」

「明日はこっち帰ってきてゆっくりしよ?」

「あいよ」


 花嫁体験は夕ちゃんには内緒だ。

 夕ちゃんにもビシッとタキシード着てもらって記念撮影するつもりでいる。

 ドレスもプランもすごく奮発して高いのを選んでしまった。

 でも、せっかく行くならそれぐらいしないとね。


 私達は朝食を食べ終えて、少しゆっくりしてから家を出た。

 私達の住む街から都内に出るには、いくつか電車を乗り換える必要がある。

 電車に揺られ、歩き、また電車に揺られる。


「東京まで出るのは久しぶりだなー」

「そうだよねー」


 私達は乗り換えの間に会話をしながら歩いている。

 昔、今井家と清水家で遊びに行って以来かな?

 懐かしい、あの時はまだ希望ちゃんが清水家に来る前だったなぁ。


「昼と夜はどうするんだ?」

「お昼は時間見ながら何処かで食べよ? 夜は大丈夫だよ、ちゃんとプランの中に入ってるから」

「夕食付き? い、一体何のプランだ……ていうか、いくらお金掛けてんだ、たかがデートで……」


 たかがデート……かぁ。

 私にとってはそうじゃないんだよねぇ。


「夕ちゃん、本当にお金大丈夫?」

「あー、大丈夫だ」

「そっかそっか」


 まぁ、私が全部払うつもりだったから、足りなくなったりすることは無いし大丈夫だ。


「お前が選んだデートプランだし、心配ないよな」

「うん、安心安全だよ」


 乗換駅に到着して切符を買う。

 ここから電車で40分は揺られることになる。

 まだまだデートは始まったばかりである。


 よくよく考えてみると、恋人同士でもこれほどのデートはそうそうしないだろうなぁ。

 チラッと隣に座る夕ちゃんを見る。

 もうちょっと甘えても良いかなぁ?


「夕ちゃん、手握っていい?」

「ん? あぁ、いいぞ」


 私は夕ちゃんと手を繋ぐ。

 どうせならデートっぽくしないとね。

 私の手を握り返して来てくれる夕ちゃん。 いつ握っても、大きな手で安心させてくれる。

 今日は目一杯楽しんじゃおう。


 電車に揺られること約40分。

 私達は、自分達が住む県を離れて、東京へやってきた。

 とは言え、まだ目的地には到着していない。

 まだ電車の旅が控えているのだ。

 時刻は9時半。

 お昼にはまだ早いし、朝食は食べて来たという事で、休憩という形で喫茶店へ入った。


「チョコレートパフェ一つお願いします」

「アイスコーヒーで」


 注文を終えて一息つく。


「パフェ好きだな?」

「女の子なら大体好きなんじゃない?」

「うーむ……そうか、そういや前に希望ちゃんも食ってたなぁ」

「そういうことだよ」


 私は運ばれてきたチョコレートパフェをゆっくりと食べる。

 ん~! 美味しい! 緑風さんのフルーツパフェの次ぐらいにランク付けしてあげよう!


「幸せそうだな、お前」

「ん~、幸せ~」


 夕ちゃんは、少し優しく微笑みながらコーヒーを飲む。

 こんな時間を、今日は独り占めできちゃうのかぁ。 いいのかなぁ、本当に。


「なぁ亜美」

「ん?」


 私はスプーンを銜えたまま夕ちゃんの方を見る。


「なんで急にデートしようなんて思ったんだ? しかもこんな大がかりな」

「えっ?」


 うーん、そんなこと聞かれるとは思ってなかったけど、考えてみれば当然の疑問だよねぇ。

 別にお付き合いしてるわけでもなければ、今までだって明確に「デート」と言えるようなことはしてこなかったわけだし。


 夕ちゃんは、私と希望ちゃんの体育祭の日の話を知らない。 当然、私の心の中に秘めた決意なんて知りもしないだろう。 正直返答に困る質問だ。 どう誤魔化したものか。

 少し悩んだけどここは、肝心なことは上手く隠して真実を。


「実はこの間ね、夕ちゃんの家であるチラシを見つけてさ」

「チラシ?」

「うん、今日行くとこでやってるイベントのチラシね。 男女でしか参加できないから、夕ちゃんを誘ったんだよ」

「んー、なるほどな」


 納得してくれたようだ。

 イベントの内容にも深くは突っ込んでこなかったし、空気を読んでくれたのかな?

 良かった。


 私達は喫茶店を出て、次の電車に乗るために駅へ向かう。


「電車ばかりでごめんね」

「しゃーないだろ」

「これで電車は最後だからね」

「おう」


 さらに電車に揺られて移動する。

 着いたらまずはどこに行こう? お昼までは時間あるし、遊んで時間つぶさないとね。


 しばらく電車に揺られて、私達はようやく目的地に着いた。

 取り敢えず、先にホテルの方へ行って部屋の鍵をもらい、荷物を置く。

 17時からだから16時前には入っておいてくださいって言われてたっけ……。

 着替えやメイクをしてくれるらしい。

 まだ6時間もある。 それだけあればなんでもできるなぁ。


「なぁ、別部屋じゃないのか?」

「うん、そうだよ? ベッドはツインだしいいでしょ?」

「本当にお前は……」

「どうせ、無頓着で無警戒ですよー!」


 私はベッドに寝転び、天井を見上げる。


「ねぇ、昼までショッピングでもしよ?」

「ん? おう。 何か買ってやろうか?」

「いらないよ、何も」


 今日は一杯貰う予定だし、物なんか買ってもらわなくもいい。


「そか」

「いこいこ」


 私達はホテルを出て、とりあえず近場のアクセサリーショップへ入った。

 んー、どれもお高い。

 今日のデート費用には入ってないからなぁ。


「亜美ってこういう宝飾好きだっけ?」

「ううん、あんま目立つようなキラキラしたのは好きじゃないけど」


 私はショーケースの中でもあんまり目立ってない指輪を指して。


「こういう目立たない感じのは好きだよ? 夕ちゃんがくれたネックレスも好き」

「そっか。 ふむふむ」

「いいよ、買わなくて?」

「あいよ。 まあ後学の為に聞いたまでだ」

「後学って?」

「こっちの話だ」


 んー? まいっか?

 あ、安いアクセサリーのコーナーがあるなぁ。

 ちょっと見てみよう。


「ふむふむ。 こっちのはリーズナブルだね」


 これぐらいの値段なら買っちゃってもいいかも?

 んー……。

 やっぱいいや。


 私達は一通り店を冷やかしたあと、次のお店を探す。

 夕ちゃんは退屈しないかなぁ?


「夕ちゃんは何か見たいものある?」

「ん? そうだな、靴見ていいか? 今のやつだいぶ履き潰しちまった」


 私は夕ちゃんの足元を見る。

 確かにもうボロボロだぁ。


「よし、靴屋さんを探すよぉ」

「わりぃな」

「いいのいいの! 二人のデートなんだから」

「あー、あと、泊まりになるなら着替えとか日用品も買わないとな」

「そうだね。 ホテルのは割高そうだったし」


 取り敢えずうろうろしてみて、その辺が売ってそうなお店を探す。

 しばらく歩くと、何でも売ってるドラッグストアを発見したので入ることにした。


 夕ちゃんは、日用品コーナーを見に行ったので、私はその辺をブラブラと歩く。

 本当に何でも売ってる。 日用品、スナック菓子からカップ麺にジュース。

 子供の玩具みたいな物まで。


 私はその中のあるコーナーで足を止める


「んー、色々あるんだね、こんどーさんの種類って」


 超極薄とか大丈夫なんだろうか?

 破れたりしない?


「亜美、何見てんだお前は」

「何って、こんどーさんだよ?」

「恥ずかしげもなく?!」

「何が恥ずかしいの? 夕ちゃんだっていつ必要になるか分からないんだし、持っておかないとダメだよ?」

「いつってなぁ……」

「例えば、今晩……とか?」


 私はちょっと俯いて、もじもじと恥じらいつつ上目遣いで言ってみる。

 これが夕ちゃんに効果抜群な事を知っている。


「バッ?! お前っ?!」


 慌ててる慌ててる。

 可愛いなぁ、夕ちゃん。


「あはは、なんちゃって!」

「こんの! 人をおちょくるなよな!」

「ごめんごめん、つい。 でも、ちゃんと持ってたほうが良いのは事実だよ?」

「そういうお前はどうなんだよ? 持ってるのか? ん?」


 夕ちゃんは「どうだ? 持ってないだろ?」みたいな顔でこちらを見ている。

 そんな夕ちゃんに、私は真顔で応えた。


「持ってるよ? 今日も持ってきてるし」


 高校に入る前から、私は超薄のやつを持ってる。 どういうのが良いのかは知らないけど一応。

 中学生だったし、買う時はちょっと恥ずかしかったけど、男の子が絶対に持ってるとは限らないしね。

 現に、夕ちゃんは未だに持ってないみたいだし。


「ふぁ?!」

「そりゃ、男の子と泊まりだもん? 一応念の為にね?」

「ぱくぱく」


 夕ちゃんは現実逃避を始めてしまった。

 そんなに意外かな?

 自分の身は自分で守るものでしょ?


「ち、ちなみに使ったことは?!」

「さすがにないよー」


 使う相手なんて、夕ちゃんか宏ちゃんぐらいだし。

 そんなのあるわけないじゃん。


「行こ? 靴屋さん探さないと」

「あ、あぁ」


 夕ちゃんはまだショックを受けているようだ。

 からかい甲斐のある男の子だなぁ。


 ◆◇◆◇◆◇


 靴屋さんで、夕ちゃんの靴を買い、近くの定食屋さんでお昼を食べる。

 食べながら、夕ちゃんはさっきの話を蒸し返してきた。


「さっきの話だけど、本当に持ってんのか?」

「疑り深いなー? ホテル戻ったら見せようか?」

「いや、いい……」

「ふふっ、夕ちゃんって意外とヘタレだよね?」

「そんなことは無い!」


 なんか言い切っちゃったよ、この人は。

 私の中ではヘタレちゃん認定してるんだけどなぁ。


「そーなんだー? 今までに何回も夕ちゃんの家に泊まったけど、手を出されたことないよ? 私には興味ない?」


 いたずらっぽく聞いてみる。

 すると夕ちゃんは、真剣な顔で言った。


「興味があるか無いかと言われたら、そりゃあるよ。 亜美は可愛いし、魅力的だからな」

「ありがと、照れるなー」

「でも、やっぱりお前の事は大事にしたいというか」

「うんうん」

「だから、その場の勢いとか雰囲気に流されてとかじゃなくて、ちゃんとした手順でだな?」

「うん、私もそうだよ」


 そこは、私も同じ。

 夕ちゃんとは、ちゃんとそういう仲になって、ゆっくりと進んでいきたい。 そう、思う。

 夕ちゃんと同じ考えであることが嬉しい。


「とにかく、無闇にそういうことはしない方が良いと思ってるだけだ、以上」

「うん、わかった」


 私はそこに「でもね?」と、付け加える。


「私は……今夜、夕ちゃんとそうなるつもりで、このデートに来てるんだよ?」


 夕ちゃんを真剣に見据えて、私は今日の最終目標を、暴露した。

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