第26話 決意

 ☆亜美視点☆


 今日は球技大会。

 この前、体育祭が終わったとこなのに。

 おそらくだけど、受験のある3年生に考慮されたスケジュールなんだろう。

 ただ、学園祭だけは秋に予定されている。


 さて、1年は女子、男子ともバスケ3on3から始まる。

 ルールは1ピリオド5分の2ピリオド制。

 21点ルールは不採用で時間一杯までやって、得点が多い方が勝ち。

 これをA~D組の4チームで総当たり戦だ。

 得点は2ポイントライン内からのシュートは1点、それ以外は全て2点。

 フリースローは1点。

 ボールのコントロール権が切り替わった時点で攻守交代となる。

 

 まずはA組と私達B組の試合だ。


「ねぇ、亜美ちゃんと奈々美ってバスケも出来たりするの?」


 D組スパイの紗希ちゃんが訊いてくる。

 でも、紗希ちゃんソフトボール組だって言ってたような?


「亜美と奈々美はかなりやるぞ。 その辺の女バスと比べても劣らないんじゃないか?」


 と、夕ちゃんから説明が入る。

 何度か夕ちゃんとストバスやりに行ったことがあるけど、その時褒められたっけ?


「B組は化け物ばっかでうんざりするわねー」


 紗希ちゃんはそう言うとD組のバスケメンバーに情報を流していた。

 士気が下がったように見えるけど……?


 私達は、コートに入りリーダー同士でじゃんけんをする。


「オフェンスで」


 私達はオフェンスを選択。

 まあ、どっちでもいいんだけど。


 ボールが私の手元に来る。

 じゃあ、まあ……。


「やりますか」


 私は軽くドリブルをしながら前進する。

 作戦など立てていない、個人技でやろうというのが私達3人の作戦だ。


 ダンダン……

 

 私は姿勢を低くして突破を試みる。


「おっと! いくら清水さんでも簡単には行かせないわよ!」


 すぐにディフェンスが動きについて来た。 

 いい反応してるなぁ。

 

「……じゃあこれはっ?」


 私は一度左へボールを移動、体重を左へ移動してそのまま左から抜き去るように見せかける。

 相手もそれに反応し体重を左に傾けた隙に今度は大きく右側へボールを切り返し右から抜き去った。


「速っ?!」


「夕也くん、解説して! 亜美ちゃん何したの?!」


 希望ちゃんが夕ちゃんにプレーの解説を要求しているのが聞こえる。


「んっ?! あ、ありゃフロントチェンジ、クロスオーバーとも言うドリブルだよ。 左右の切り返しで相手を抜く基本的なドリブル技だけど、あれだけのキレのはそうそうお目に掛かれないな」

「そうなんだぁ」


 私は軽く2ポイントラインまで攻め込んでシュートの体勢に入る。

 お、今度は長身の子がシュートコースを阻んできた。

 おっきいなー……シュートコース無さそう。

 だーけーどー?

 

「よっ!」


 私は気にせずにシュートを放った。


「夕也くん! あれは何?!」

「あれはフェイドアウェイシュート。 身長差のあるディフェンスにシュートをブロックされない様にちょっと斜め後方に飛びのきながら撃つシュートなんだけど、見た目以上に難しいんだよアレ」 


 ボールは、相手のディフェンスを超えて、綺麗な放物線を描きながらリングに吸い込まれる。


「ナイス亜美、さすが」

「見事なフェイドアウェイですわ」


 奈々ちゃん、奈央ちゃんとハイタッチを交わす。

 さて、攻守の切り替えで今度はディフェンスだ。

 相手チームさんは、上手くパスを回しながらディフェンスを掻い潜り、レイアップシュートで1点を取ってきた。

 良いチームプレイだねぇ。

 バスケ部じゃなくても、上手い人はいるものだ。

 攻守交代。 オフェンスだよ。

 私にボールが回ってくると、先程と同じ様にドリブルで突破を試みる。

 

「ん?」


 ダブルチームだ。

 一人では止められないと判断したのか、ディフェンス二人で私を止めに来た。

 奈央ちゃんの方に視線を向ける、ダメだ、奈央ちゃんにはマークが付いてる。

 逆に言うと、奈々ちゃんがフリーだ。

 その奈々ちゃんはというと、ゴール下まで入り込んでいるが、前のディフェンスが邪魔でパスが出せない。

 もう少しボールを出しやすい位置に来てほしいんだけど。


 私は、フェイントを掛けながら隙を探す。

 ふと、奈々ちゃんを見ると、人差し指を上に向けて合図を送ってきているようだった。

 え? アリウ-プ? 派手なプレーが好きだなぁ、OK、奈々ちゃん!

 私はビハインドバックを駆使しながら、少し後ろに下がり、ボールを高く放り投げた。


「ビハインドバックで後退とは、亜美の奴また難度の高いこと軽々と……」

「夕也くん、あれ凄いの?」

「背面でボールの左右の切り返しをやるテクニックなんだが、慣れてないとあんな風にはできないな。 相手の手の届かない位置でボールをコントロールするから奪われにくいテクニックだよ」

「へぇ、亜美ちゃんなんでも出来ちゃうんだね」


 放り投げた投げたボールはリングと奈々ちゃんの間に飛んで行く。


「よいしょっ!」

 

 奈々ちゃんは、高くジャンプしながら空中でキャッチ。

 そのまま片手でダンクを叩き込む。


「アリウープとはまた派手な」

「おお! ゴリラダンク!」

「宏太! 後で覚えてなさいよ!」

「あ、はい」

「夕也くん、アリ何とかって?」

「アリウープな。 味方からの高い位置のパスなんかを、空中でキャッチして、そのまま着地せずにダンクを叩き込む豪快なプレーだ」

「奈々美ちゃん凄い!」


 希望ちゃんが初心者で目線質問して、夕ちゃんが解説するコーナーが出来上がってるよ?!

 それいる?!


 次の相手のオフェンスは、奈央ちゃんが華麗なスティールを決めてターンオーバー。

 私達の三回目のオフェンスだ。

 チラッと奈央ちゃんを見ると、ボールくれくれオーラが出ていたのでパスを回してあげた。


「ふふふ、行きますわよ!」


 言うや否や、力強いドリブルで一気に切り込む。

 一人目のディフェンスを、レッグスルーからのフロントチェンジで翻弄して抜き去ると、次いでフォローに来た2人目をロールターンで鮮やかに抜き去る。

 綺麗なドリブルだ。

 そのままレイアップシュートの体勢に入るが、長身の子がシュートをブロックしに跳ぶ。


「甘いですわね!」

「えっ?!」


 奈央ちゃんはシュートに行った左手を一旦下げて、ボールを右手に持ち替える。

 そのままリングの下を横切り、レイバックシュートに切り替えた。

 ボールは、綺麗にリングに吸い込まれる。

 見事な三人抜きだ。


「解説の夕也くん!?」

「お、おう? まずは、ドリブルだな。 自分の股の下を通してボールを左右に切り返すテクニックがレッグスルー。 ボールと一緒に体をターンさせて、ディフェンスを抜くのがロールターンだ」

「ほうほう」

「で、シュートの方なんだけど、まずはレイアップだな。 ボールを持って飛んで、リングの上にボールを置いてくるようなシュートだ。 とあるマンガの影響で庶民シュートとか呼ばれてたやつだ」

「うんうん、良く見るやつだね!」

「ただ、さっきのはディフェンスがシュートブロックに跳んだから奈央ちゃんのシュートが落とされそうになったんだ。 そこで奈央ちゃんが見せたのが、ダブルクラッチ。 レイアップシュートとかの時にブロックを交わすために空中で、ボールの持ち手を左右切り替えるテクニックな。 奈央ちゃんはそのままリング下を潜って後方にボールをシュートするレイバックシュートに繋いだわけだ」

「奈央ちゃん凄いね!」


 奈々ちゃんも奈央ちゃんも、実際凄いと思う。

 私は夕ちゃんと1on1で遊ぶ時のにわかだからなぁ……。

 その後の試合も、私達は個人技で他のクラスを圧倒して女子パス3onで優勝した。


 


 ☆希望視点☆


 亜美ちゃん達のバスケットボールが終わったので、次はグラウンドに出てソフトボールだ。

 私はソフトボール初体験だから凄く緊張する。

 男子のソフトボールはグラウンドの反対側を使ってやるようだ。

 夕也くんと離れちゃった。

 亜美ちゃん達は、男子じゃなくて女子ソフトの応援に来てくれた。


「希望ちゃん、大丈夫? あ、バットはそうじゃなくて、こう持つんだよ」


 亜美ちゃんが、色々と丁寧に教えてくれた。

 

「が、頑張る!」


 ルールは5回まで、その他は普通のソフトボールルールらしい。

 その辺りも亜美ちゃんから予習済みだ。

 

 試合開始!

 私達B組は守備から。

 私はショートっていうポジションを任された。


 カキーン!


「うわわっ! いきなり飛んできた!」


 これはフライっていうやつかな?!

 亜美ちゃん曰く、落下点に入って、グローブでキャッチ!

 あ、捕れた! やった!


「雪村さん、ナイスー!」

「やたーっ」


 上手くできると何か嬉しいよ!

 私はピッチャーさんにボールを返して、守備位置に戻る。


「希望ちゃーんっ! がんばれーっ!」


 亜美ちゃんの応援が聞こえて来て、やる気も出る。

 よーし頑張るぞー!

 

 カキーンッ!


「うわわわ!?」


 何かまた飛んできたよ!? 速い打球!

 ライナーって言うんだっけ?

 気付いたら、体が反応してボールに飛びついていた。

 リベロの癖って怖い。


 パシッ!


 ボールは綺麗にグローブに収まった。

 だ、ダイビングキャッチしちゃった?!

 周りから歓声が上がる。


「雪村さん、ファインプレー! 本当に初めて?」

「う、うん。 初めてだよ」


 三人目の打者は空振りの三振で、1回表が終了した。

 ウラの攻撃だけど、私は9番だからこの回出番無し。

 一人がヒットで出塁したけど、得点には至らなかった。


 2回表の守備。

 私はゴロを1回処理しただけで、後は二者三振。

 ピッチャーさん上手だなー。 

 2回ウラの攻撃で、私に打順が回って来た。

 2アウト2、3塁のチャンスだ。


「希望ーっ、ガツンッと大きいの打ちなさーい!」


 奈々美ちゃんが応援してくれるが、さすがにそれ無理じゃないかなぁ。

 でも、ここは何とかヒット打って得点に繋げたいところだ。

 私は亜美ちゃんから教えてもらったスイングを確認するために、三回程素振りをしてみる。


 ブン……ブン……ブン……


 こんな感じかなぁ?

 バッターボックスに入って構える。

 うわ、ピッチャーさん結構近いんだ。

 ピッチャーさんが投球フォームに入り、球を投げて来た。

 む、なんか打てる気がする!


 ブンッ!

 スカッ!


「はぅ?!」


 思い切りフルスイングした結果、思い切り空振りした!

 これは恥ずかしい!


「希望ちゃん、最後までしっかりボール見て!」


 亜美ちゃんからアドバイスを貰った。

 なるほど、よし!

 二球目が投げられる。

 真ん中高め。


 最後までしっかりボールを……見る!


 ボールはキャッチャーミットに収まった。

 はぅ……これじゃただ見てただけじゃん!

 振らないと当たらないに決まってるよ……。


「希望ちゃん、頑張れー! 打てるよー!」

「よし! 打つよー!」


 三球目はド真ん中だ!

 最後までしっかりボール見て、振る!


 カキーンッ!

 あ、当たった!?


 ボールはセカンドの頭を超えてセンター前に落ちる

 私は1塁でストップ。

 3塁ランナーはホームに帰ったけど、1塁のランナーは3塁まで。

 

 わ、私が初得点?! 何か楽しいよ!

 その後もヒットが続いて0ー3で2回ウラが終わる。

 

 私は、その後もなんか良くわかんないけど守備に打撃に活躍しちゃって、A組との試合に0-6で勝利した。

 

「何よあんた、初めてにしちゃ出来過ぎじゃないの」

「ビ、ビギナーズラックだよ多分」

「ううん、希望ちゃんは結構運動神経が良いんだよ。 後、動体視力もね」


 と、亜美ちゃんから言われる。

 そうなのかなぁ?

 

 その後の、C組との試合にも勝ったけど、D組の遥ちゃん、紗希ちゃんのバッテリーに手も足も出ずに完敗。

 女子ソフトボールは二位の成績で終わった。


 男子ソフトボールは、夕也くんと佐々木くんの活躍があり、優勝したみたいだけど、男女混合ドッジボールは三位だったらしい。

 結果、総合一位をD組に取られてしまった。

 紗希ちゃんが「体育祭での借りは返した」と踏ん反り返っていたのは少し笑った。



 ◆◇◆◇◆◇



 夕飯の後お風呂に入ろうとすると、亜美ちゃんが「一緒に良い?」と言ってきた。

 こういう時は、大抵何か話しがある時だ。

 思い当たるのは、体育祭の時に亜美ちゃんに突きつけた夕也くんの問題。

 亜美ちゃんの中で、何か答えが見つかったのかもしれない。

 私達は、2人で浸かるには少し狭い浴槽で向かい合う。


「……」

「……」


 しばしの無言の後、亜美ちゃんが口を開いた。


「んとね、来週の29日から30日なんだけど」

「うん?」


 あれ、夕也くんの話じゃない?


「あのね、夕ちゃんと二人っきりでお出掛けしたくてね?」


 良かった、夕也くんの話だった。

 29日から30日、土日両方デート? 欲張りさんだなー。

 亜美ちゃん、その気になったって事かな?


「その、夕ちゃんはまだ誘ってないんだけど、希望ちゃんは、良い?」


 夕也くんと二人で出掛けることに対しての許可を求めてるのかな?

 

「別に、私と夕也くんは付き合ってるわけじゃないし、わざわざ許可なんかいらないよ?」

「そ、そだよね? 泊まりだけど、いいよね。 後で電話で誘ってみる」


 と、泊まりっ?! 一晩一緒?! たまに夕也くんの家に泊まってくることはあるけど……。

 んー、これは最大の恋敵ライバルが遂に目を覚ましたかなぁ?

 焚き付けておいてなんだけど、正直言って勝てる気がしないなぁ。

 これは、一気に仕掛けてきたね。

 あ、そのデート内容ってもしかして……。


「ねえ、亜美ちゃん? 昨日のチラシのやつでしょ? 花嫁体験だっけ?」

「うん。 そうだよ」

「やっぱり誘うんじゃない。 これは亜美ちゃんの中で、何か答えが出たって事で良いのかな?」


 亜美ちゃんは少しだけ考えた後に小さく頷いた。


「うん、そんな感じ」

「そっか、私、絶対負けないからね!」


 私は亜美ちゃんの手を握り、再度宣戦布告をする。

 夕也くんと恋人になるのは私だもん。

 

「うん……」


 亜美ちゃんは小さく応えて、私の手を握り返して来たのだった。





 ☆亜美視点☆


 私は今、夕ちゃんに電話を掛けている。

 希望ちゃんからはOKが出たから、あとは夕ちゃんだけだ。

 断られたらどうしよう?

 先走って予約入れちゃったよ。

 だって、急がないと空きが無くなったら困るし。


「あ、もしもし夕ちゃん?」

『おう、どしたー?』

「んとね、来週の土日なんだけど、良かったら2人で出掛けない?」

『来週の土日……29日か30日? 大丈夫だけど2人でか? 希望ちゃんは?』

「デートだから二人きりでだよ」

『デート? 珍しいな。 わかった。 どっか行きたいとことかあるか?』

「うん、実はもう予約してあるんだ。 ちょっと遠いけど」

『そうか、出発時間とかはまた今度話しするか』

「うん。 じゃあ、おやすみ夕ちゃん。 また明日、朝ご飯作りに行くね」

『サンキュー。 んじゃな、おやすみ』


 私は電話を切って、ベッドに寝転がる。

 良かった、何とかデートの約束が取れて。

 花嫁体験かぁ、ちょっと奮発していいドレス選んだから、楽しみだな。

 

「うん、心は決まった」

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