第15話 旅行8

 ☆亜美視点☆


 私は夕ちゃんを引き摺って観覧車の列に並んだ。

 ちょっと重いから自分で歩いてほしい。


 さっきの感じから見て、観覧車の中で何かあったのは間違いなさそうだけど、夕ちゃんと希望ちゃんが乗ってたゴンドラがちょっと揺れてたのは気になるなぁ。


 ま、まさかとは思うけど18分でそういうことしちゃったとか? 

 いやいやいや、あまりそう言うの詳しくないけど観覧車の中ではさすがに。

 うん、おっぱい云々は、多分事故か何かだと思う!


 私は自分を納得させて、観覧車に乗り込んだ。

 夕ちゃんの隣に座って早速尋問を開始する。


「さぁ、夕ちゃん! 希望ちゃんとの密室18分間で何があったのか聞かせてもらうよ?」


「いや、マジ勘弁してくれ……」


 両手を合わせて懇願してくる夕ちゃんに、私も少しばかり罪悪感を覚える。

 そんなに私に話すのが嫌なことがあったのかな?

 二人の応援をしている身としては気になるんだけど。

 まぁ見た感じ険悪って感じじゃなかったし心配はいらなさそうだけど。

 でも……。


「ダメ! まず、胸を揉んだのは?」

「あれは事故だ」


 やっぱりそうなんだ。

 少しほっとした自分がいる。

 これは、希望ちゃんのことを心配してたからであって、私が個人的に気にしてたというわけではないんだよ。

 うん、そういうことにしよう。


 じゃあ、どうして希望ちゃん泣いてたんだろう?


「希望ちゃんが目を赤くしてたのは泣いてたからでしょ?」

「それは……」

「まさか、事故で胸を揉んだ勢いで、そのまま襲っちゃったんじゃないよね? まさか十数分足らずで……その……ごにょごにょ」

「してねーよ! 俺を何だと思ってんだよ!」

「じゃあ、なんで泣いてたの?」

「言わねぇ……」


 どうしてよぉ! こうなったら意地でも聞き出してやるもん!


「私には、何でも話してほしいなぁ?」


 ちらっちらっ


 ちょっとズルいけど夕ちゃんは私のこういう行動に凄く弱い。

 ちょっと太ももとかもチラチラ見せたりして。

 ん? これって、ちょっと大胆に見せすぎ? これ、夕ちゃんに襲われちゃっても文句言えない?


「何やっても言わねぇぞ」

「えぇ……」


 わ、私の涙目上目遣い+色仕掛けの作戦が効かない?!

 これは、相当なことがあったに違いないなぁ……?


「んー、じゃあ、言わなくていいから、どんなことしたか実践してみてよ? いかがわしい事じゃないなら出来るでしょ?」

「無理だって」

「うわぁ、実践出来ない様なナニかを?」

「違うから」

「それって、やっぱりいかがわしい事?」

「もういい加減にしてくれ……」


 ふと、夕ちゃんの顔を見ると、少しイライラしたような顔をしていた。

 あ、あれ? ちょっとしつこすぎたかな?

 夕ちゃん、外の景色を見ながら私の顔を見ようとしなくなっちゃった。

 大好きな夕ちゃんに、そんな風な態度を取られると胸が痛む。


 私はこういうとこあるんだよね。

 自分でもわかってる……私の悪い癖なんだけど、相手が嫌がってるのに調子に乗っちゃって怒らせちゃうこと。

 夕ちゃんにも何度もこういうことしたことはあったけど、今までこんな風に怒ったことなかった。

 今回はよっぽど怒ってるんだろう。

 そんなに私に言いたくない事なのかと思うとさらに胸が痛くなる。

 どうすれば機嫌直してくれるかな。


 そうだ、話題を変えて様子を見てみよう。

 丁度良い、宏ちゃんの告白はお断りするって伝えよう。

 それで、機嫌が直るかはわからないけど、私としても勘違いされたままは嫌だし。


「あの、話変わるんだけど……その、宏ちゃんへの返事の話なんだけどね?」


 チラッと夕ちゃんの方を見てみる。

 窓に映る夕ちゃんの表情は相変わらず不機嫌そうだ。


「お断りするよ、私」


 一瞬、本当に一瞬だけど、夕ちゃんがピクッと反応した。


「明日、家に帰る前に返事する」

「……」

「夕ちゃんには、言っておきたくて。 夕ちゃん、私が宏ちゃんを受け入れるって思ってるみたいだったから」


 相変らず表情は変わらない。

 かなり怒ってるみたいだ。

 このまま、夕ちゃんに嫌われたら私どうしよう?


「俺が、言ったからか?」

「え?」


 窓に映る表情は変わらないし、こっちを見てもくれないけど、話は聞いてくれているみたいだ。


「だから、俺が、そういう風になってほしくないって言ったから断るのか?」


 ああ、そういうことか。


「それは、参考にしただけだよ。 ちゃんと、自分で考えて決めたよ」

「そうか、なら良いけど」


 それだけ言うと、また黙ってしまった。

 もう、話題が無い。

 話は聞いてもらえるみたいだし、ちゃんと謝れば許してくれるかな?

 よし!


「あ、あの、夕ちゃん! さっきはごめんなさい!」


 思いっきり頭を下げて謝る。

 夕ちゃんの顔は見えないから、どんな顔してるかわからないけど。


「その、夕ちゃんが嫌ならもう聞かない。 ああいうの、私の悪い癖だよね? わかってるんだけどつい」

「……」

「本当にっ、ごめんなさい……ぐすっ……」

「え? おい?」

「ぐすっ……こ、こんなことで、夕ちゃんに嫌われたりしたら私……」


 そう考えただけで、涙がボロボロと流れ出した。

 どうしよう止まらない。

 嫌われたくないよぉ。


「あ、あのなぁ、そんなことで嫌いになるかよ。 そりゃ、ちょっとイラッとは来たけど。 泣くなよ」

「だってっ……」

「もう怒ってないから、な?」

「ほんとぉ……? ぐすっ」

「あぁ」

「良かったぁ……」


 なんとか許してもらえた。 

 よ、良かったよぉ。


「わっ?!」


 安心してほっとしたその時、急に夕ちゃんに抱き寄せられた。


「あ、あの、夕ちゃん?」


 そのまま頭を撫でられる。

 私、このなでなでが好きなんだよねぇ。

 夕ちゃんの腕の中、凄く落ち着く。


「希望ちゃんにも、こうしてたんだよ」

「そっか」


 そうなんだ。

 恥ずかしかったから言いたくなかったのかな?

 そりゃ、実践してなんて言われても困るよね。

 しばらくの間、私は夕ちゃんに頭を撫でてもらっていた。


「希望ちゃんとはもうちょっと続きがあるんだが……」

「?」


 この続きって何だろう?

 気になるけど、聞いちゃっていいのかな?

 また怒られたりしないかな?


「たぶん、亜美は嫌がると思うからここで終わっとくけど」

「私が嫌がること?」

「嫌がることっていうか何というか」

「?」


 なんだろう? 良くわからないけど続きって言うのは凄く気になる。


「いいよ? 気になるし、その続きしてみてよ?」

「怒んなよ?」

「う、うん」


 一度、夕ちゃんの胸から引き剥がされる。

 何するんだろう?

 顔を上げて夕ちゃんの顔を見る。

 え? 近い?! というか近づいてくる!?

 これって、続きってつまりキス?!


「ま、まっ・・んんっ?!」


 えぇ~!? ちょっと考えればわかったことじゃん!

 あー、でも幸せ。

 前は私が無理矢理奪ったみたいな感じだったもんね。

 あれが最後のつもりだったのに。


「んふぁ……はぁ……」

「こういうことだ」

「う、うん……」


 そりゃ、人に言いたくはないよね。

 観覧車から降りてきたときの微妙な距離感はこういうことか。

 つまり、夕ちゃんと希望ちゃんキスしたんだ。


「ごめんな、最後だって言ってたのに」

「う、ううん、私がしてって言ったんだし。 これはノーカンってことで」

「はは……なんだよそれ」

「だってぇ!」


 ぽかぽかと夕ちゃんの頭を叩く。

 照れ隠しみたいなものだ。


「でも、希望ちゃんとキスしたんだね?」

「雰囲気に流されただけだって、希望ちゃんは言ってたけどな」

「でも、大きな進歩だよ」


 私の苦労が報われる日も近そうだ。


「これはまだ当分時間がかかりそうだな」

「そう? もうちょっとだと思うんだけどなぁ。 キスまでしたなら、もう付き合っちゃえばいいのに」

「それなら、亜美と俺だってキスしたぞ」

「私は、誰とも付き合わないよ?」

「やっぱ当分先になりそうだわ」


 さっきから何を言ってるんだろう?

 そう言えばさっき、希望ちゃんも同じようなこと漏らしてたっけ。

 観覧車が下に着くまでまだ少しあるし、もう少し夕ちゃんにくっついてよ……。



 ◆◇◆◇◆◇



 散々遊び倒した私達は、テーマパークから奈央ちゃんの別荘へと帰ってきた。

 夕飯を食べて、現在は露天風呂に入浴中。

 明日、帰る前にもう一回だけ来よっと。

 みんな遊び疲れたのかぐったりさんだ。


「希望ちゃん」


 私は、小声で希望ちゃんに話しかけた。

 話しの中身はもちろん……。


「夕ちゃんとキスしたんだって? おめでとー」

「っ?! やっぱり夕也くんから聞きだしたんだ?」

「苦労したよ」

「うう、ねぇ、夕也くんってファーストキスいつか知ってる? 私なのかな?」


 あ、やっぱりそこ気になるんだ。

 どうしよ、嘘ついてもいつかバレるよね。

 ここは正直に言うしかないか。


「私が相手だったと思うよ?」

「あぁ、やっぱり小さい頃にあるんだ?」

「あー、小さい頃というか、つい数週間前に私が奪いました」

「えっ?!」


 それは驚くよね。

 自分の事応援してる人が、自分の好きな男の子の初キス奪ってたなんて。


「そうなんだ。 これは意外と……」

「?」


 露天風呂から上がって就寝の準備をする。

 この旅行中、色々あったなぁ。

 明日には帰るんだ。

 また皆で旅行したいな。

 あー眠い……寝よ寝よ。

 明日は向こうに着いたら……宏ちゃんに……。

 私は想像以上疲れていたのかそのまま眠ってしまった。


 翌朝、記念撮影してもらった写真を受け取り、皆に隠れてこっそりと宏ちゃんと撮った写真も受け取った後、帰路についた。


 ◆◇◆◇◆◇


 お昼前には、私たちの住む街へと戻ってきたわけだけど、私は皆にお願いして、宏ちゃんと2人にさせてもらった。

 宏ちゃんも察したのか少し緊張しているようだった。

 正直言うと、宏ちゃんフるというのは心苦しい。 大好きだし、大切な人だと思ってる。

 でも、今の私は夕ちゃんにどうしようもなく惹かれている。

 きっと私のこの恋は、最終的には辛い思いをする事にだろう。

 それでも、夕ちゃんを好きでいたい。


「返事、待たせてごめんね」

「いや、思ったより早いぐらいだよ」


 しばらく沈黙が続く。

 どう、切り出そう。


「ズバっと言ってくれて構わないぜ」

「宏ちゃん……」


 どんな返事でも受け止める、そう言ってくれた。

 だから私は今の気持ちをす全てぶつけることにした。


「ごめんなさい宏ちゃん。 私、宏ちゃんの彼女にはなれない。 宏ちゃんの事は大好きだし、最初はお付き合いしてもいいかな? って思いもしたの。 だけどね」


 宏ちゃんは、何も言わずに私の言葉をただ聞いてくれている。

 これ以上聞きたくもないはずなのに。


「だけど、もっと好きな人がいるの。 今は、その人の事を好きでいたいの。 だから、ごめんなさい」

「はぁ……やっぱダメか」


 宏ちゃんは大きな溜め息を吐いて、そう言った。


「夕也だよな? それ」

「うん」

「ま、わかってたけどな」


 やっぱりそうだよね。 

 私が好きになる男の子って、宏ちゃんか夕ちゃんしかいないんだもん。


「でも、夕ちゃんと恋仲になることは、多分ないと思う」

「なんでだ? 亜美ちゃんが告ればすぐにでも……」

「告白もしない」

「好き、なんだよな?」

「夕ちゃんの事が本当に大好きな女の子がいるの、知ってる?」

「雪村の事か?」

「うん、そう。 私は、希望ちゃんの恋を応援するって、随分前に決めたの」

「だから告白もしないし、付き合いもしないって?」

「そういうこと」


 宏ちゃんは少し険しい顔をしたけどすぐ、普通に戻って……。


「それってよ、亜美ちゃんがその……すげー辛いやつじゃないのか?」

「そうかもしれないね」

「わかんねーよ! 好きな人の隣に居たいって思わないのか?」

「思ってるよ……思ってるけど、私より希望ちゃんに幸せになってほしいから」

「雪村に幸せにって……」


 宏ちゃんは少し考え込むような仕草をして頭を振った。


「その辺は俺には良くわからないから……亜美ちゃんがそれでいいなら、俺は何も言わない」

「うん」

「なぁ、俺も亜美ちゃんの事好きで居続けて良いか?」


 宏ちゃん……。


「辛くないの? 私は夕ちゃんを見てるんだよ?」

「構わねぇよ」

「宏ちゃんには、きっと私なんかよりいい人がいるよ?」

「そうかもしれないけど、それでもだ」


 本当に私の事が好きなんだ。

 バカだなぁ、すぐ側に美人で素敵な女の子がいるのに。


「宏ちゃんがそれでも良いなら」

「ありがとう」

「もしかしたら私、途中で辛くなって一人で立てなくなっちゃうかもしれない。 その時は、宏ちゃんが支えてくれる?」

「余裕だ。 もし、そうなったら、その時は任せろ。 バッチリ支えてやるよ」

「あはは……私達って、揃いも揃って」

「バカだよなぁ」


 私は自分の気持ちを全て宏ちゃんに伝え終えて少しだけ気が楽になった。

 出来れば頼らないようにしたいけど、辛い時は支えてくれるって言ってくれて嬉しかった。

 何かが違っていれば、きっと私は今日、宏ちゃんと交際を始めてたんだろうなぁ。

 この後、少しだけ宏ちゃんと話をして、この日は別れた。


 ◆◇◆◇◆◇


「宏太、元気出しなさいよ!」

「のわ! 奈々美!? お前盗み聞きしてやがったな?」

「まあ、悪いと思ったけどね。 かっこよかったわよ?」

「はいはい……」

「亜美の事、諦めないのね」

「まあ……な」

「亜美が倒れそうになったら、ちゃんと支えてあげなさいよ?」

「あぁ……そん時が来たらな」

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