第14話 旅行7

 ☆夕也視点☆


 テーマパークへ来てからかなり時間が経ったようで、少しずつ周りが暗くなってきた。

 亜美も希望ちゃんも、少々遊び疲れたようで、フードコートで休憩中だ。

 そういえば……。


「亜美、その帽子」

「あ、やっとそこに触れる気になったの?」


 いや、面目無い。

 早い段階で気付いてはいたが、色々タイミングが無かった。


「夕也くん、減点30点だよ? 女の子のオシャレにはすぐ気付いて、すぐ褒める。 これは大事だよ」

「希望ちゃん、厳しいね」

「普通です」


 えー……。


「それ、やっぱり似合ってるな」

「だよね、白い帽子は絶対似合うと思ったもん」

「ありがと」

「商店街のとこで、宏太に買ってもらったのか?」

「ううん、自分で買ったよ。 宏ちゃんには、可愛い猫さんのガラス細工を買ってもらったの」

「えー、帰ったら見せてね!」


 宏太の奴、しっかりアピールしてやがるなぁ。


「夕ちゃん、この後はどこ行く?」

「そうだなぁ」


 と、考えを巡らせていると、希望ちゃんが観覧車に乗ろう言い出した。

 ふむ、暗くなって来たし丁度良いかもしれないな。

 亜美も賛成らしく、俺達は観覧車へ向かった。




「遠目に見てもかなり大きいとは思ったけど」

「近くで見ると凄く大きいね」

「一周18分だとよ」


 すげーなおい。

 西條グループ何者だよ。


「ね、亜美ちゃん。 私、夕也くんと二人で乗っていい?」

「え? あ、うん。 私は別に良いけど」

「三人で乗らないのか?」


 なんでだ? ここで亜美を置いていく理由があるか?

 一緒に夜景見りゃ良いじゃないか。


「いこ、夕也くん」

「あ、おい」

「いってらっしゃーい」


 列に並んで、順番を待っている間に希望ちゃんが話してくれる。


「多分、私が言い出さなくても、『二人で乗って来たら?』とか、言ってたよ」

「それはそうかも知れないけど」

「三人で見れないのは、私も残念だけど」


 と、話していると、順番が回ってきた。

 俺達はゴンドラに乗りこみ話しを続ける。


「こうでもしないとこの後、夕也くんと乗ってくれないし」

「え?」

「『え?』じゃないよ? 降りたらすぐ亜美ちゃんを誘ってあげて?」

「あ、あぁ」

「うん、よろしい」


 そういや奈々美が、「希望ちゃんも亜美と同じのを拗らせてる」って、言ってたな。

 なるほど確かに。 俺の譲り合いがここでも起きていrうわけか。

 亜美よりはマシって話だが。


「隣行くね?」


 そう言うと立ち上がり、俺の隣に移動してきた。

 亜美の誕生日プレゼントを買いに行った時もそうだが、随分と積極的になったな。

 ただ、相変わらず俺への告白の言葉は無い。

 本当に俺が好きなんだろうか?


「夕也くん、手握っていい?」

「え? いいけど?」


 んー、わからん。 

 しばらく沈黙が続く。


「さっき、亜美ちゃんにね、夕也くんの事好きか訊いてみたの」

「?」

「迷わずに好きだって応えてたよ」

「そうなのか」

「あれ、何か冷めてるね?」

「え、あ、いや」


 思い当たる節はあるからなぁ……誕生日のアレとか。


「でもあいつ、昨晩、宏太に告られたんだよ」

「えっ?! 佐々木くん、亜美ちゃんに告白したの?! 初耳」

「俺と奈々美には宏太から話しがあったんだよ」

「そうなんだ。 私も幼馴染なのになんかショックだよー」


 希望ちゃんはマジへこみしてしまった。


「それで? 亜美ちゃんは?」

「まだ、返事はしてないみたいだけど、どうするかは決めたらしい。 今朝、一緒に風呂入った時に確認した」

「そうなんだ。 佐々木くん、可哀想に……」

「いや、わからないだろ? 今日だって商店街一緒に回ってたし、OKするかもしれない」


 考えると少し胸が痛む。

 祝福しようと思ってはいるが、どこかで嫌だと思う自分がいる。


「私は、無いと思うけどな」


 希望ちゃんは平然と言う。

 確信してるかのような物言いだな?


「だって、亜美ちゃんは夕也くんが一番好きなんだよ?」


 確かにキスはされたが……それこそ、どうなのか分からない。


「ところで……ねー? さっきは聞き流したけど」


 と、希望ちゃんが話題を変えてきた。

 はて、俺、何か言ったっけ?


「今朝、亜美ちゃんとにお風呂に行って、に入ったの?」


「……」


 うおー?! 確かにそれっぽい事をさっき言ったかもしれん?!


「あ、いや、あの」

「ねぇ、混浴したの?」


 これは、言い訳出来ないか?

 冷や汗がたらたらと流れてくるのがわかる。

 これが宏太バレたら、俺はお気に入りのあの子の新作を視せてもらえない……だが、もはや打つ手は無さそうだ。

 仕方ない、希望ちゃんなら皆には黙ってくれるだろう。

 俺は希望ちゃんの良心を信じる。


「はい……混浴しました」


 希望ちゃんは、無言でスマホを取り出して高速で何かメッセージを打っている。


「あああ、やめて下さい! それだけはご勘弁を!」


 すると、希望ちゃんは手をピタリと止めて、俺の方を向きニコッと微笑んだ。

 た、助かった。 やはり希望ちゃんは優しい子だ。

 しかし、笑顔可愛いなぁ。


 タタタタッ!


 高速でメッセージ入力を再開した。

 まずい、お気に入りのあの子の新作が!?

 ええい、かくなる上は無理矢理スマホを奪い取ってやる!


「こら、やめなさい! スマホを貸しなさい!」

「ダメ! 皆とシェアするんだから!」

「やめて! 頼むから! 希望様!」


 スマホを奪おうとする俺と、奪われまいとする希望ちゃんの激しい攻防の所為でゴンドラがグラグラと揺れだした。


「ちょっと、夕也くん! 落ち着いて! 揺れる! 揺れるぅ!」

「ええい、寄越しなさい!」


 ガシッと、希望ちゃんの手首を掴んだ瞬間に、俺はバランスを崩してしまった。


「うおっ?!」

「きゃっ?!」


 希望ちゃんを押し倒すような形で倒れ込む。

 何とか、希望ちゃんが床に頭をぶつけないように、腕を希望ちゃんの頭と床の間に滑り込ませる。


「あいたた……」

「ごっ、ごめん希望ちゃん! 大丈夫か?!」


 顔を上げると目の前には可愛い希望ちゃんの顔がドアップであった。

 鼻をくすぐるシャンプーの香りと、申し訳程度の香水の香りを嗅いで、一瞬頭が麻痺してしまっていた。

 希望ちゃんは目を見開き、じっと俺の顔を見つめいる。


「ご、ごめん! すぐに退くから!」


 フリーな方の手に力を入れて体を起こそうとする。

 ふにっ


「ひっ……」

「へっ?」


 何か柔らかい物を触ってるようだ。

 しかも、なんだ今の甘ったるい声は……。

 ふにふに、もみもみ


「ちょっ……そこは」


 自分の手のある場所に目をやってみる。


「……」


 希望ちゃんの胸を思いっきり鷲掴みしていた。

 これが噂のラッキースケベというやつかー。


 もみもみ


「……」


 いやいや、そうじゃねぇだろ!

 これは土下座じゃ済まされないやつだ。

 いや、その前に退いてあげないと。

 俺は希望ちゃんの胸を掴んでいた手を退けて、今度こそ床に手をついて体を起こす。


「あ、あれ?」


 体を起こそうとした時、希望ちゃんの細い腕が俺の背中に回される。

 このまま、希望ちゃんごと持ち上げて起き上がれなくはないのだが……。

 希望ちゃんの瞳が何かを訴えるように俺を見つめている。


「夕也くん……」


 希望ちゃんがゆっくりと目を閉じていく。


「あ、あの、希望ちゃん?」


 呼びかけても腕は解いてもらえないし、目も開けてくれない。


「おーい?」


 困った。

 これでは起き上がれないぞ?

 などと思案していると……。


「……してくれないんだ」

「え? して……? え?」


 希望ちゃんは、目を開けて不満そうな口調で言う。

 その後、背中に回された腕も解かれた。


「もういい……」

「あ、あぁ……?」


 目には少し涙を溜めている。

 もしかして、さっきのはキスを催促していたんだろうか?

 何にせよ俺が泣かせてしまったみたいだし、ここはちゃんと謝らないとな。


 俺は希望ちゃんを起こしてひたすら謝った。

 希望ちゃんは顔を赤くしながらも全部許してくれた。

 本当に優しい子だ。

 外を見るとそろそろ天辺が近づいてくる。


「希望ちゃん、外見て見なよ」

「うん? わぁ……凄い! 星空みたいだよ、夕也くん」

「そうだな」

「……あの、さっきはごめんねっ。 イジワルしちゃって! あと、私もちょっと雰囲気に流されちゃったところがあって……」


 混浴をみんなにバラそうとしたことと、キスか何かを催促してきたことだろうか?


「希望ちゃんが謝ることは無いだろ?」

「でもっ、あっ……」


 俺は希望ちゃんを引き寄せて抱き締めてあげた。

 そのまま、頭を撫でてやると希望ちゃんは、強張った体の力を抜いて体重を預けてきた。


「希望ちゃんは何も悪くないよ」

「夕也くん……優しくされると、また私、雰囲気に……」


 希望ちゃんは潤んだ瞳で俺を見つめてくる。

 何でこんなに可愛いんだろうなこの子は。


 どちらからともなく顔を近づけていき、その距離が0になる。


「……」

「……」


 しかし、ここまでしても告白してこないのは、以前奈々美が言っていた通り、亜美の事があるからなのだろうか?

 もう、俺の事を好きだって言ってるのと変わらないと思うんだが、希望ちゃんの中ではちゃんと線引きしているんだろうか?

 亜美といい、希望ちゃんといい……。

 この微妙かつ複雑な関係はいつまで続くんだろうか?

 奈々美は、時間がかかると思うけど急かすなって言ってたな。

 俺が出来ることは、その時が来るまでにどちらを選ぶかを決める事だけか。


「んっ……」


 かなり長い間キスをしていたような気がする。

 希望ちゃんは顔を赤くして下を向いてしまった。

 さすがに俺も恥ずかしいから、外の景色を見るふりをして顔を逸らす。

 心臓がバクバクしているのはバレてそうだが……。




 ☆希望視点☆


 はぅぅぅ! 夕也くんと、キ、キキ、キスしちゃったーっ!?

 どどど、どうしよーっ!? 恥ずかしくて顔見れないよぉっ!

 完全に雰囲気に流されちゃった……。

 お、おっぱいも揉まれたしっ! ちょっとくすぐったかったけど気持ちよかったなぁ……いやいや、あれは事故だけど。


 ちらっと上目づかいで、夕也くんの顔を見てみる。


 あ、顔背けてる。

 やっぱり恥ずかしいんだ。

 心臓がバクバクして顔も熱い……。

 亜美ちゃんの事が無ければ、この雰囲気に便乗して一気に告白までするんだけど、それはまだまだ先になりそうだった。


 そういえば、私にとってはファーストキスだったわけだけど、夕也くんにとってはどうなんだろう?


 まあ、何番目でもいいや。

 幸せなのは変わりないし。


 私達はお互い目も合わせず、会話も無く……ただただ観覧車が一周するのを待ち続けた。


 ◆◇◆◇◆◇


「あ、帰ってきた帰ってきた」

「た、ただいまぁ」

「……」

「んん? なんか距離感微妙じゃない? というか、希望ちゃん目赤いよ? 夕ちゃんに泣かされた?!」

「ち、違うの! おっぱい揉まれたりとかしてないから!」


 あ……。


 亜美ちゃんが夕也くんをジト目で睨んでいる。

 ごめんなさい、夕也君くん……やっちゃった。

 夕也くん、白くなってるぅぅぅ!?


「あの、あの! つ、次は亜美ちゃんと夕也くんでどうぞ!」

「ええ……私は、おっぱい揉んでくる男の子と、狭い密室で18分も閉じ込められるの嫌だよ?」


 わああああ! 夕也くんが灰になっちゃったぁ!

 ご、ごめんね! と、アイコンタクトで何とか謝ると夕也くんは気にしなくていいよっとアイコンタクトで返してくれる。


「ふぅん、なるほど……わかったよ、夕ちゃん、いこ?」

「あ、あ、いいのか?」

「うん、18分間掛けて洗いざらい吐かせてあげるからねぇ」

「うわあああああ」


 亜美ちゃんに引き摺られる様にして観覧車の方へ戻っていく夕也くん。

 本当にごめんなさい……。

 私はベンチに腰かけて二人が帰って来るのを待つことにした。


「キスしちゃったんだよね……」


 人差し指で唇をなぞり、そう呟いた。

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