第13話 旅行6

 ☆亜美視点☆


 宏ちゃんと写真撮影などが出来るお店にやってきた。

 どうせ記念写真を撮るなら皆と撮りたいものだけど。


「ねぇ、宏ちゃん? せっかく記念撮影するなら、皆一緒がいいんだけど」

「ん? それもそうだよな。 呼んですぐに集まるか?」

「わかんないけど、皆に連絡してみるね」


 私は、奈々ちゃんのスマホに連絡してみた。 どうやら皆、商店街の出口付近に集まっているらしい。 やっぱり、皆を待たせてしまっているようだ。

 私は色々事情を説明をして、皆で来てほしいと伝えると、「すぐ行くから待ってて」と返事が返ってきた。


「すぐ行くって」

「そっか。 なぁ、皆来る前にさ、2人だけで撮りたいんだけど……」

「え? 二人で? うーん、いいよ? 撮ろ?」


 まあ、これぐらいはいいよね。

 お店の中に入ると、色々な衣装が置いてある。 好きな服を着て撮影できるらしい。 どうせなら普段着られないような服を着て撮影したいなぁ。

 と、一つのドレスに目が留まった。


「このドレス可愛いなぁ……これにしよっかなぁ」


 私は悩んだ末にそのドレスを手にして更衣室へ向かった。

 そういえば宏ちゃんは着替えるのかな?


 着慣れないドレスに着替えて更衣室を出ると、これまた見慣れないタキシードな宏ちゃんが待っていた。

 うわー、かっこいいんだけど、何か似合わないなぁ。 言ったら落ち込みそうだから言わない様にしよう。


「宏ちゃん、お待たせ」

「おう、それじゃ……」

「ん?」


 宏ちゃんは私の姿を見るや、硬直してしまった。

 な、なんか変かな? 私も似合ってなかったりしてる?!


「か、可愛すぎる……犯罪的だ……」

「え? あ、そ、そう? 良かったぁ、似合ってないのかと思ったよ」

「いやいやいやいや! 女神を見ているような気がする」

「それは言い過ぎだよ」


 ちょっと照れちゃったりして……。


「皆に見られるの恥ずかしいし、早く撮影してもらって着替えよ? ね?」

「お、おう、そうだな。 確かにこれは見られたら恥ずかしい」


 私達は、撮影待ちの列に並んで順番を待ちながら少し話しをする。


「宏ちゃんはなんで、タキシードにしたの?」

「えっ?! あ、その……亜美ちゃんが白いドレス選んだのが見えたからだな……」

「合わせてくれたんだ? ありがと」

「そ、そうなんだよなぁ」

「なんか、結婚式の新郎新婦みたいだね?」

「!?」


 なんか自分で言ってちょっと恥ずかしくなった。 そう思うと、ちょっと宏ちゃんを意識しちゃう。

 宏ちゃんとの結婚式風写真かぁ。 えへへ、結構悪くないかもしれない。

 話しをしながら、少し待っていると順番がやってきた。

 部屋に入り、撮影スペースに立って、カメラマンさんの説明を聞きながら立ち位置の調整をする。 機材とかも本格的だ。

 せっかくだから何かポーズでも取ろうかと思った時。


「君達は恋人同士? 腕とか組んでみたらどうです? 結構そういうカップル多いよ」


 そうきたかぁ。


「あ、いや、俺達は……」

「いいよ、宏ちゃん」


 私は両腕を宏ちゃんの左腕に絡めて、宏ちゃんに密着した。


「せっかく結婚式風な衣装なんだし、これぐらいやらないとね?」

「あ、あぁ……」

「じゃあ、撮るよー!」


 撮影を終えた後は服を着替えて、皆の到着を待って、揃ったところで集合写真を撮ってもらった。

 カメラマンさんに「あれ、さっきのカップル?」とか訊かれてちょっと焦ったけど……。

 私はしれっと夕ちゃんの隣をキープして、腕を組んで、夕ちゃんの腕にくっつくような姿勢で撮影してもらった。

 カメラマンさんは不思議そうに首を傾げていたけど。 どっちも私の大事な男性ひとだもん、仕方ないよ。

 現像は夕方以降に終るらしく、その後で開店時間ならいつでも受け取り可ということらしい。

 明日帰る前寄って受け取る事になった。


 ◆◇◆◇◆◇


 私達はそのまま、商店街を出て近くのレストランで昼食を摂った。

 希望ちゃんに夕ちゃんと2人でデートはどうだったか訊いてみたところ、普通だったらしい。

 せっかく2人きりにしてあげたのに、夕ちゃんも希望ちゃんも何やってるんだか……。


 昼食後は奈央ちゃんが車を呼んで一路、西條グループ経営のテーマパークへ向かうことになった。

 テーマパーク内で自由行動となるらしい。 どうしよっかなぁ。

 ちらっと夕ちゃんを見ると、既に希望ちゃんがキープしてしまっているようだ。 むう……。


「亜美ちゃんも一緒に回ろ?」


 考え込んでいると希望ちゃんが声を掛けてくれたので、お言葉に甘えてお邪魔することにした。


「じゃあ、お邪魔しよっかなぁ」

「邪魔なんかじゃないよ?!」

「あはは、ありがとう」

「何、遠慮してんだよ」

「そうだよね」


 せっかくだしここはこの2人と一緒に行動して、二人のフォローをしてやろうではないですか。

 私ったらいいお姉ちゃんだなぁ。


 ◆◇◆◇◆◇


 20分程、車に揺られて目的地へ到着した。

 テーマパークに到着すると奈央ちゃんが門の前のスタッフの元へ歩いていき、何やら話している。 スタッフの人がなんか慌てふためいて頭を下げているのが見えている。

 そりゃ、経営者様のご令嬢がやってきたらそうなるよね。

 話を通してくれたらしく、入園料は無料、さらに一日フリーパスまでもらえた。 さすがは奈央ちゃん。


 入園後はそれぞれ別れての、自由行動。

 私は、夕ちゃんと希望ちゃんから少し離れて歩く。


「亜美ちゃんも、夕也くんと並んで歩けば良いのに?」


 希望ちゃんは、振り返ってそんなことを言い出す。


「ほら、あまり横に広がると、他のお客さんに迷惑だし」

「こんなに広いんだし気にしなくていいと思うよ?」


 むぅ、この子は私の気も知らないで!


「本人がこれで良いって言うなら良いだろ?」

「そそ!」


 夕ちゃんナイス!


「でも……」


 何か後ろめたそうな表情で、こちらを見る希望ちゃん。

 私の事なら気にしなくて良いのに。


「俺と仲良く歩いてるのを、あまり見られたくないんだろ? 特に誰かさんには」

「え、そうなの?」


 んー? もしかして宏ちゃんの事言ってる? なるほどなるほど。

 夕ちゃんは、私が宏ちゃんの告白を受け入れると思ってるんだ。 さっきは、宏ちゃんと二人で回ってたし、そう思うのも仕方ないけど。

 でも、夕ちゃんに勘違いされたままって言うのは、あまり面白くないなぁ。

 明日には、宏ちゃんに返事をするんだし、夕ちゃんには話してもいいのかもしれない。 チャンスがあればそうしよう。


「ねえ? まずは何処から行く?」


 希望ちゃんが夕ちゃんにどのアトラクションに行くか訊いている。

 良いよ良いよ! 夕ちゃん、雰囲気の良さそうなアトラクションをチョイスだよ!


「やっぱ、こういうとこ来たら絶叫系行かないとな!」


 おーい! 夕ちゃん、それはミスチョイスだよ! 希望ちゃん、そういう系ダメなんだから!


「はぅ、絶叫マシンは私ダメなんだぁ」


 ほらぁ! 夕ちゃんのバカ!


「亜美ちゃんと、二人で乗ってきて? 私、下で待ってるよ」


 えー……。


 ◆◇◆◇◆◇


「何でこうなったの?」


 数分後、私が何故か夕ちゃんと一緒にジェットコースターに乗っていた。

 これじゃ、私が希望ちゃんにフォローされちゃってるみたいじゃない?

 でも、仕方ないから、ここは目一杯アトラクションを楽しませてもらおう。

 ジェットコースターが頂点まで登り、次の瞬間、急降下を始めた。


「わわ!? ねぇ? 角度おかしくないこれ?! きゃーっ!」

「うお! なんじゃあのカーブ! なんかグネグネしてるぞ!」


 ぐわんぐわんと、ありえないレベルのカーブやら登り下りが連続でやってくる。

 やり過ぎだよ! 奈央ちゃんにクレーム出すよぉ!


 ◆◇◆◇◆◇


「た、楽しかったけど、スリルありすぎるよこのマシーン……」

「なぁ、この看板、心臓が普通な人も注意してねって書いてあるぞ」

「心臓弱い人は、これ乗っちゃダメだね。 魂持って行かれるよ」


 マシーンから降りた私と夕ちゃんはそれぞれの感想を述べる。

 あ、ちょっと足がふらつく……。


「っと……大丈夫か、亜美? フラついてるぞ?」

「あ、うん。 ちょっと三半規管やられちゃったかも……」

「はは、さすがにこれはなぁ」


 さっきまで走っていたコースを下から眺める。

 うん、やっぱりやり過ぎ。

 このまましばらく、夕ちゃんに支えてもらいいながら歩こうかなぁ?


「お疲れ二人とも、下から見てたけど、これ凄いね?」


 希望ちゃんの元へと戻ってくると、希望ちゃんが駆け寄ってきた。


「あ、亜美ちゃん大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。 ちょっとフラフラするだけだから、すぐに元に戻ると思う」


 夕ちゃんの腕にしがみ付きながら歩く私を、希望ちゃんが心配してくれた。


「良い雰囲気だね二人とも」


 って、私と夕ちゃんが良い雰囲気になってどうするのよ?! 違う違う! こうじゃない!

 私はまだ、フラつきながらも夕ちゃんから離れて歩く。


「お、おい大丈夫か?」

「平気だよ、ほら」


 あー、フラフラするー。


「もぅ、しょうがないな亜美ちゃんは。 はい、私に掴まって」

「希望ちゃん、ありがとー」


 私は希望ちゃんに支えてもらいながらしばらく歩いた。


 希望ちゃんがコーヒーカップに乗りたいというので、そこへ向かった。

 私は、さっきのジェットコースターでちょっと疲れたので、休ませてもらうことにする。

 というのは建前で、本当は夕ちゃんと希望ちゃんを二人きりにさせて仲を進展させようという私の作戦なのだ!

 今度こそ、夕ちゃんと希望ちゃんが良い雰囲気になるはず!

 しばらくしてアトラクションが動き出すと、一台のカップが異様な速度で回り出した。


「あー! 夕ちゃんのバカ! 雰囲気も何もないよあれじゃ!」


 やっぱり、夕ちゃん達のカップだった。

 夕ちゃんが中央のハンドルをグルグル回して、絶叫マシンも顔負けという勢いでカップが回転している。

 希望ちゃんは目を回して楽しむどころじゃなさそうだ。 もっとゆっくり回して上げて!


 戻ってきた希望ちゃんは、さっきまでの私と同じぐらいフラついていた。


「夕ちゃん、責任取って希望ちゃんが回復するまで、支えてあげること! わかった?」

「はい、わかりました」

「よろしい」

「ごめんなさい、夕也くん」

「いや、俺の方こそ」


 ま、まぁこれはこれで、結果オーライという事でいいのかな?


 ◆◇◆◇◆◇


 次に私達が向かったのは、定番のお化け屋敷。

 私はこういうの平気だけど、希望ちゃんは大の苦手だ。 怖がって、夕ちゃんにベタベタと抱き付く姿が、容易にイメージできる。


「ほ、本当に私も入らなきゃダメ?」

「ダメ。 三人だし怖くないでしょ? 怖いなら夕ちゃんにべったりくっ付いてればいいんだよ」

「はぅー……」


 どうやら観念したらしく、渋々と言った感じで付いてきた。

 お化け屋敷の中は思った以上に本格的だ。 ジェットコースターの例もあるし、このお化け屋敷も要注意かもしれない。

 どうやら、廃病院をモデルにしているらしく、診察室とか手術室がある。


「きゃあああ?! もういやー! 来ないでぇ!」


 何か物音がしたり、出て来たりする度に希望ちゃんが悲鳴を上げて、夕ちゃんに抱き付く様子が見える。

 良いね良いね! 効果抜群!


「亜美は怖くないのか? 抱き付いても良いぞ?」

「私は大丈夫だから抱き付きませーん。 希望ちゃんの事だけお願い」

「そうか……」


 え、どうしてがっかりしてるの? 私にも抱き付いて欲しいのかな? もう、しょうがないなぁ、 じゃあちょっとだけ。


「うわわ、怖い」

「お前演技下手か?! ここのお化けさん達に教えてもらえ!」

「あはは、抱き付きー」

「いやー! こっち来ないでー! きゃあああっ?!」


 希望ちゃん、怖がり過ぎだよ。

 私は、しばらく夕ちゃんに抱き付いて歩いたけど、希望ちゃんの相手が大変そうだったので、すぐに離れた。


 ◆◇◆◇◆◇


 お化け屋敷から出ると、さすがの夕ちゃんもお疲れの様子だったので、夕ちゃんには休憩しもらって、私と希望ちゃんでもう一度コーヒーカップに乗る事にした。


「はぅー、お恥ずかしいところを……」

「ずっと叫びながら、夕ちゃんに抱き付いてたもんね」

「はぅぅ」


 カップがゆっくり回り出す。


「ねぇ、亜美ちゃんは、夕也くんの事好きなの?」


 不意にそんな質問を投げ掛けてくる希望ちゃん。

 夕ちゃんの事が好きかどうか、そんなの決まってる。


「うん、好きだよ」

「じゃあそれなのに、どうして私の応援ばかりするの?」


 む、いきなり核心をついてきたか。

 それは、私が希望ちゃんに幸せになってほしいと思ってるからなんだけど、正直に応えてもきっと怒るだろうしなぁ。


「んと、希望ちゃんの方が、夕ちゃんに合ってると思うから……かなぁ?」

「そうかなぁ? 私は、亜美ちゃんの方が合ってると思うよ?」


 むぅ、食い下がるなぁ。

 どうしよう。


「はぁ……」


 希望ちゃんの溜め息が聞こえてきたので、希望ちゃんの方を見ると、諦めたような顔をしてこっちを見ている。


「これは、まだ当分時間がかかるかも」


 んん? 何の話し?

 その後はカップが止まるまで、会話は無かった。

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