第12話 旅行5
☆夕也視点☆
時刻は朝9時。
奈央ちゃんと愉快な仲間達は水族館へ来ていた。
周りに海などが無い立地ではあるが、中々海水魚の種類も豊富なようだ。
「紗希ちゃん、紗希ちゃん! あのお魚さん、小さくて可愛い!」
「おお! マジだ! 可愛い!」
前々から、この水族館を楽しみにしていた希望ちゃんと紗希ちゃんは、はしゃぎまくりだ。
「まるで小学生ね、あれは」
「まあいいじゃない、楽しんでるんだし」
亜美と奈々美は、我が子を眺めるような表情だ。
「わわっ!? サメだよサメ!」
「おお! でかいっ!」
本当に子供みたいだな。
二人はあちこちの水槽に張り付いては目を輝かせている。
「ね、夕ちゃん」
「あん?」
「希望ちゃん、可愛いと思ったでしょ?」
「元から可愛いだろ? 何を今更」
「うわ、真顔でそんな事言うの恥ずかしくない?」
「いや、別に」
亜美は「やっぱり夕ちゃんは……」とか何とか言いながら奈々美とヒソヒソ話をしだした。
何だってんだ。
◆◇◆◇◆◇
ゆっくりと館内を一通り回ったとこで、丁度い時間になっていたようだ。
「そろそろショーが始まるみたいだし行きましょう」
奈央ちゃんの案内で、ショーが行われるステージへ向かう事にした。
ステージの入口では薄手のレインコートを配っているようだ。
前の方は水しぶきが飛んでくるらしく、その為らしい。
前の方に陣取るつもりの希望ちゃん、紗希ちゃんは受け取っていた。
「うーん、私も前いこ」
亜美もレインコートを受け取って、希望ちゃんの隣に座った。
ふむ、俺はその後ろの列でいいか。
一応、レインコートも受け取っておく。
宏太はしれっと亜美の隣に座っていた。
「あれ、宏ちゃんはレインコートいらないの?」
「濡れることにビビってるようじゃまだまだだぜ?」
バカだこいつ。
「バカだわこいつ」
俺の隣に座った奈々美は遠慮無しに声を出していた。
「あ、見て見て! アシカちゃん出てきた!」
「おお、可愛い!」
希望ちゃん、紗希ちゃんは更に盛り上がっていた。
まずはアシカ達のショーからのようだ。
出てきたアシカ達は輪投げをしたり、フラフープをしたりと、中々芸達者なやつらだ。
何かする度に、例の二人ははしゃいでいた。
アシカ達が退場すると、次はイルカの出番のようだ。
「イルカさんだ!」
「おー!」
さすがにはしゃぎ過ぎでは?!
周りのチビッ子よりはしゃいでるように見えるぞ。
まず、出て来たイルカ達の紹介から始まった。
どうやら、まだ訓練中の見習い達らしい。
トレーナーの指示に反応して、それぞれ芸を披露するが、失敗したり指示を聞いてなかったりと上手くいかない。
だが、これはこれで可愛いということで、周りのお客さんからも好評だ。
チビッ子が応援までし始める。
続いて出てきたのはベテランイルカ達。 先程の見習い達とは違い、見事な芸を披露している。
輪っか潜りやら、立ち泳ぎなど、あらかたのパフォーマンスが終わると、恒例の「お客さんの中に彼らに指示を出して見たい人」のコーナーが始まる。
「はいっ!はいっ!」
「はーいっ!」
俺の前の列に座る二人の女の子が元気良く手を挙げている。
「じゃあ、そこのお姉さん二人に来てもらおうかな?」
「やった! 紗希ちゃんいこ!」
「おーっ! イルカさん待っててね!」
他人のフリしてよ。
希望ちゃんと紗希ちゃんの二人が案内されて、ステージへ移動する。
今はどうやら、トレーナーから指示の出し方を教わっているようだ。
「何か、こっちがドキドキするね」
「いや、あの子達は知らない子だから」
「えぇ……」
亜美が「うわ、夕ちゃんひどい」と言いたそうな目で俺を見ている。
「始まるみたいよ」
奈々美の声を聞いて、ステージへ視線を向ける。
希望ちゃんが緊張した面持ちで、両手を上げると、イルカ達が希望ちゃんの前へ集まってくる。
目がキラキラと輝いて見える。 めっちゃ嬉しそうだな。
希望ちゃんが片方の手を下ろして、もう片方の手を大きく振る。
すると、それを見たイルカ達が一斉に潜って泳ぎ出し、順番にジャンプを披露していく。
「希望ちゃんすごいね!」
イルカが凄いんだぞ。
と、言い掛けたが、空気を呼んで「そうだなぁ」と応えておいた。
今度は紗希ちゃんが前に出てきて、先程の希望ちゃんの様に、イルカを集める。
紗希ちゃんは、人差し指を高く挙げて、クルクルと回し始める。
すると、イルカ達もその場でクルクルと回り出した。
「おー、紗希やるじゃん」
と、遥ちゃんが感心している。
だから、イルカが凄いんだぞ。
二人のトレーナー体験が終わると、プールの方に顔を出して、腰を下げる様に促されている。
トレーナーの合図で、二人のほっぺにイルカ達が順番にキスをしていく。
どうやらこれもパフォーマンスらしい。
戻ってきた2人は満足しきった表情をしていた。
「それじゃあ! 遊んでくれたお姉さん達に、お別れの挨拶!」
と、言う声が聞こえて来たかと思うと、希望ちゃんと紗希ちゃんの座っている席の前まで一斉にやってきた。
バシャンバシャン!
「きゃっ?!」
「おー?!」
ヒレをバシャバシャさせる者も居れば、逆さまになり、おヒレを振る者、中にはおヒレで水をかけてくる者まで様々な別れの挨拶を見せてくれた。
「ありがとうございましたー!」
これにて、ショーは終了ということらしい。
「レインコート着ておいて良かったー」
「だなー。 まさか、レインコート着てなかった間抜けとかいないだろうな?」
「いるわけないじゃん、そんな間抜け」
亜美は、多分そんなつもりでは言ってないだろうけど、俺と奈々美は完全に宏太をバカにしていた。
「……水も滴るなんとやらだろ?」
「佐々木君、ポジティブ過ぎない?」
奈央ちゃんにも呆れられていた。
「希望ちゃん、良かったね!」
「うん、楽しかったよ。 良い思い出になるよぉ」
ずっと楽しみにしていたらしいからな。
しかし、いつもとは全然違う希望ちゃんを見れたな。
あんな風に、ハイテンションではしゃいだりできるんだ。
◆◇◆◇◆◇
ステージから出た俺達は、水族館の出入り口前まで来ていた。
たしかこの後は、商店街とやらだったか?
「あれ? 希望と紗希は?」
奈々美が、声を上げる。
周りを見てみると確かにいない。
まさか、迷子か?
高校生にもなって?
「あ、あそこにいるよ? グッズコーナーかな?」
「あー、みたいだな。 俺が行ってくる」
俺は、色々なグッズに目を輝かせる2人の元へ向かう。
「二人とも、次行くぞー?」
「ちょいと待って!」
紗希ちゃんは、色々なグッズを手に取っては値札を見て落ち込んでいる。
希望ちゃんも、同じ様だった。
はぁ、しょうがない。
「俺が買ってあげるから、二人とも好きなの選べ」
「え、いいの?」
「わ、私もいいの?!」
「おう、希望ちゃんも紗希ちゃんも」
二人は遠慮なしにデカいイルカのぬいぐるみを手に取って。
「これっ!」と、突き付けて来るのであった。
これは、今月かなり辛いな。
痛い出費ではあるが、喜ぶ2人の顔が見れたので良しとしよう。
「ありがと、今井君。 私、ちょと惚れそうかも」
「さ、紗希ちゃんは彼氏いるでしょ?!」
「浮気もいいかも?」
「ほら、皆待たせてるんだから急ぐ」
「ツレないなー」
デカいイルカを背負った二人を引き連れて、皆のもとへ戻る。
これを持ったまま観光はし辛そう、ということで、一旦二人のイルカを別荘に置きに戻る。
ついでに、ずぶ濡れの間抜けも着替えさせた後、商店街とやらへ向かうことにした。
◆◇◆◇◆◇
商店街とやらは想像した以上に広いようだ。
これなら昼までは楽に時間が潰せるだろう。
商店街では、自由行動にしようという提案が奈々美から出され、皆も賛成という事で自由行動になった。
「夕ちゃん、夕ちゃん」
後ろから亜美に声を掛けられる。
「どうした? 一緒に見て回るか?」
「ううん、そうじゃなくて。 はい、これ」
と、お金を渡される。
お駄賃か?
「さっきの、希望ちゃんのぬいぐるみ代返すよ。 夕ちゃん今月ピンチでしょ?」
俺の懐事情を察したようだ。
正直助かる。
「希望ちゃん、喜んでたよ。 ありがとね」
「あぁ、亜美もサンキューな? どうだ、一緒に?」
「ううん、宏ちゃんと先に約束しちゃってるから。 ごめんね? そうだ、希望ちゃん誘ったら?」
宏太とか。
やっぱり、告白を受ける事に決めたんだろうか?
「そ、そうか。 頑張れよ」
「ん?」
何故か「何言ってるの?」みたいな顔をされてしまった。
なんか間違えたか?。
よし、希望ちゃんを誘うか。
☆亜美視点☆
夕ちゃんにお金を返した後、私は宏ちゃんと合流して、商店街を回り始めた。
正直なところ、夕ちゃんと回りたかったんだけど、希望ちゃんの為にここは我慢。
もちろん、宏ちゃんと一緒が嫌なわけじゃないんだけど、ここであまり仲良く接しちゃうと良い返事を期待させちゃうのが辛い。
お付き合いするのを断り辛くなるのだけは避けたいところだ。
なら、そもそも一緒に回るのをOKするなって話なんだけど、放っておくと宏ちゃん1人になりそうだしなぁ。
「亜美ちゃん、何か見たい物ある?」
「え? うーん、そうだねー。 帽子かなぁ?」
昨日夕ちゃんが言ってた、白い帽子を探してみようかな。
「帽子かー、売ってそうな店があったら入ろう」
「うん」
そういえば、宏ちゃんと2人きりで何かすることって、あまりなかったし、ちょっと新鮮な感じ。
周りを見ながら歩いていると、気になるお店を見つけた。
「あ、宏ちゃん。 このお店入っていい?」
私が指したのは綺麗なガラス細工が置いてあるお店。
「お、綺麗だな」
「ね?」
2人して店内に入る。
小さくて可愛いガラス細工が沢山あって目移りする。
「どれか買ってあげようか?」
「え? 悪いよ」
「遠慮すんなって。 好感度稼いどかないと」
「あははっ、何それ」
残念ながら、稼いでも仕方ないんだよね。
「しょうがないなぁ。 じゃあ、何か買わせてあげる」
「へいへい、好きな物を選んでくだい姫様」
「はーい」
私は、ゆっくりと店内を見ながら、いいのが無いか探す。
あれでもない、これでもないと見ていると1つの商品に目が留まった。
手の平サイズの可愛い猫さんだ!
「これがいいな」
私はそれを手に取って宏ちゃんに見せる。
「亜美ちゃん猫好きだっけ?」
「うんうん、大好き」
「OKOK。 それ買ってあげよう!」
「やた! 宏ちゃん大好き」
なんか、宏ちゃんがガッツポーズしてる。
しまった! 私余計なこと言っちゃった!
「これで亜美ちゃんの好感度アップだなぁ」
「あ、あはは……」
しないんだけどね。
私は猫さんのガラス細工を持って会計に並ぶ。
「宏ちゃんありがとう。 大事にするよ」
「あぁ」
お店を出て、さらに商店街を回る。
お目当ての帽子とかが売ってそうな店はないかなぁ。
「あ、あそこにいるの奈々ちゃんと奈央ちゃん?」
「みたいだな」
「帽子売ってるとこなかったか聞いてみよ?」
「お、おお。 でも、やけに帽子に拘るな?」
「え? う、うん」
私は、奈々ちゃん達に声を掛けて、帽子が売ってるところが無かったか訊いてみた。
すると、もうちょっと奥に入ったとこで1件見たらしい。
「ありがとう! 宏ちゃんいこ」
「あ、あぁ。 奈々美も西條もまた後でな」
「はいはい」
私達は奈々ちゃんに教えてもらった店を目指して歩き出した。
「亜美ちゃんって結局、佐々木君と今井君のどっちが好きなの?」
「さぁね。 どっちもでしょ」
「贅沢~」
奈々ちゃん達から離れて、二人から聞いた話を頼りにその辺りを見回すと……。
「あれじゃねぇか?」
「あ、多分そうだよ」
帽子ばかりが置いてあるお店を発見した。
私達は、その帽子屋さんに入って物色を始める。
「ん~、レディース用の帽子はどこかなぁ……あった!」
女性用にデザインされた帽子が置かれたコーナーに足を踏み入れる。
どれもいいなぁ。
お目当ては・・。
「これかなぁ」
白いつば広の帽子を手に取った。 ピンクのリボンが付いてて可愛い。
これにしよ。
私はお目当ての帽子を持って会計へ向かう。
そう言えば、宏ちゃんは何してるんだろう?
お店に入ってすぐにはぐれちゃったけど……。
お会計を済ませて宏ちゃんを探して店内をぐるりと回ってみる。
あ、いた。
「宏ちゃん、何してるの?」
「あ、ああ……それがな」
宏ちゃんは下の方に視線を落とす。 私もそれに倣って視線を下げてみると、そこには小学生低学年ぐらいの女の子が涙を流しながら立っていた。
「幼女誘拐は感心しないよ宏ちゃん」
「違うから! どして俺の扱いっていつもそんなんなの?!」
「ご、ごめん……奈々ちゃんの影響かな」
「あいつめ!」
「ねぇ、お母さん達とはぐれちゃったの?」
「うん……」
「そっかぁ……よし、お姉ちゃん達が探してあげよう!」
放っておくわけにもいかないもんね。
「よっしゃ。 お嬢ちゃん、肩車してあげるから、高い所から探しな?」
「うんっ!」
宏ちゃんが女の子を肩車して歩き出す。
宏ちゃん身長高いし、これなら、かなり目立つ。
ご両親の方からも見つけやすそうだ。
宏ちゃんさすが!
「えーと、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、こいびとどうし?」
あ、やっぱりそう見えるんだ。
まあそうだよね。
「ううん、違うよ。 凄く仲の良いお友達」
「即否定なのか……」
なんか横から聞こえてきたけど、まあいいや。
「おともだちなの?」
「うん、そうだよ。 幼馴染ってわかる?」
「おさななじみ! わかるよ! けーくん!」
けーくん? あぁ、きっとこの子にも幼馴染の仲の良い子がいるんだ。
「わたし、おおきくなったら、けーくんのおよめさんになるの!」
「おー、そっかぁ! じゃあ、喧嘩とかせずに仲良くね」
「うん」
うう、まぶしいなぁ。
悩みを知らない純粋なこの目が羨ましい。
そう言えば、私も覚えがあるなぁ。
「おおきくなったら、ゆうちゃんと、こうちゃんとケッコンする!」
小さい頃って、皆そうなのかな?
女の子を連れて30分ぐらい、時々気になったお店に入ったりしながら歩いた。
「あ! ママとパパ!」
「お? 見つけたか? どっちだ?」
「あっち!」
「ぐぇ!?」
両手で思いっきり宏ちゃんの顔を方向転換させる女の子。
宏ちゃんの首、今グキッて鳴ってたけど大丈夫かな?
しばらく歩くと、両親らしき二人が走ってきた。
宏ちゃんはそれを見て、女の子を下ろしてあげる。
「ありがとうございますっ!」
両親に深々と頭を下げられる。
「いえいえ、見つかって良かったです。 それに楽しかったですし」
なんとか、頭を上げてもらう。
「ほら、お礼を言いなさい」
「お姉ちゃん、お兄ちゃんありがとー!」
「おう。 もう迷子になるなよ?」
「うんっ」
私達は手を振る女の子と、その両親と別れた。
ふと、時計を見ると結構な時間になっている。
もうちょっと見たかったけど、そろそろ戻らないと皆を待たせることになりそうだ。
「宏ちゃん、そろそろ……」
「なあ、あそこだけ寄ってかないか?」
「うん?」
指さす方向を見るとそこは、記念撮影とか出来るお店のようだった。
時間もあまりないけど、思い出に一枚撮ってもらうのも悪くないかな?
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