第11話 旅行4

 ☆夕也視点☆


 ──二日目の朝──


 色々あった旅行初日が終わって今日は2日目だ。

 窓を開けて空を見上げてみる。

 天気は雲一つない快晴、絶好の観光日和となった。

 時計を見たところまだ5時半。

 朝早いから誰も起きてないと思ったんだが、広間の方へ行くと俺より早く起きてる人影があった。


「あ、夕ちゃんおはよ」

「早いなお前……」

「うん、いつもこんなもんだよ」

「そうなのか。 良く寝れたか?」

「うん、おかげさまで」


 明るい笑顔をこちらへ向けてそう言う幼馴染。

 俺は何もしてないんだけどなぁ。


「ねぇ、夕ちゃん、今から朝風呂行くんだけど一緒に行く?」

「朝風呂かぁ、ありだな」


 さっぱりしたいとこだし──。


「OK、用意するから待っててくれ」

「うん」


 部屋から着替えとタオルを持って下に降りると、亜美が靴を履いて待っていた。


「んじゃいくか」

「うん、行こ」


 俺達は揃って別荘を出た。

 朝早いということもあって、周りはまだ人影も少ない。

 実に静かだ。


 しかし、宏太に告られて返事待たせてるやつが、他の男と一緒に朝風呂行くとか言うか普通?

 どれ、ちょっとイジって遊んでやるか。


「貸切り露天風呂かぁ。 なぁ、二人だし混浴でもするかぁ?」

「ん? いいよ。 一緒に入っても」

「……は?」


 おいおい、こいつ普通に「いいよ」って言ったぞ?

 もっと慌てた素振り見せたりとかしろよ。

 イジリ甲斐が無いじゃないか。


「じょ、冗談だぞ?」

「あ、そうなの? 別に良いんだけどなぁ」 


 何だこの余裕は。

 もしかして、俺の方がからかわれてるのか? 


 ◆◇◆◇◆◇


 ──露天風呂屋──


 そのまま談笑しながら温泉に到着した。

 奈央ちゃんの友人であることを告げて貸切露天の方へ足を向ける。


「それじゃ、また後でね」

「あぁ」


 男女に分かれて脱衣所へ入る。

 奈々美も言ってたな、昨日の俺の言葉が参考になったらしいって。

 あの、迷いが消えたような様子亜美のやつ、返事をどうするか決めたんだろうか?

 ……多分そうなんだろうな。


 浴場へ入り、かけ湯をしてからゆっくりと浸かる。


「朝風呂はまた格別だな」


 浸かって外の景色を眺めながら、しばらくボェーッとしてると、出入り口から人が入ってきた。

 ここは貸切だぞ? ということは宏太か?

 湯気で見えないがその人物が少しずつ近付いてきたのがわかった。


「おい、宏太か?」

「ううん、私だよ?」

「のわっ?! 亜美?!」

「どしたの? そんな慌てて」


 不意打ちにも程がある。

 まさか向こうからやってくるとは予想してなかった。

 ちゃんとタオル巻いてて良かった……あやうく亜美にビッグマグナムを見られるとこだったぜ。


「な、なんでこっちに来たんだよ?!」

「え? また後でねって言ったでしょ?」

「それって、風呂上がった後の話じゃねぇのかよ?!」

「そんなこと言った覚えないけどなぁ?」


 くすくすと小さく笑いながら、俺の慌てる様子を見て楽しんでいるのがわかった。

 くそ、俺が亜美に圧されてる?

 そんなバカな。


「大体、そっちから混浴に誘ってきたんだよ?」

「冗談だって言ったろ」

「んー、嫌なら女湯戻るけど?」


 ぬうう……ここで退いてなるものか。

 それすなわち、敗北を認める事と同義!!


「嫌じゃねぇよ……俺は別に、このまま混浴でいいが?」

「くすっ、じゃあ隣り座るね?」


 亜美もかけ湯をしてからゆっくりと入ってくる。

 濡れたタオルが体に張り付いて体のラインが丸わかりで非常に艶めかしい……。

 それに昨日も思ったが、こいつ脱ぐと結構ある。

 着やせするタイプなのか?

 紗希ちゃんの神の手によるとトップバスト87cmだっけ?

 あ、これは忘れたって言った手前、口に出しては言えないな。


「はぁー、気持ちいい~」


「ん~」と両手を組んで大きく伸びをする亜美。


 背筋が伸びる姿勢の所為で胸部がさらに強調される。

 しかも、脇チラとか言うレベルじゃねー! 脇モロ!

 わざとか?! 天然なのか?!

 てかこいつ、いつの間にこんな女っぽくなりやがったんだよ。


「んんー? 夕ちゃん、目付きがえっちだよ?」

「うぐ?!」

「もうっ!」


 バシャッと顔にお湯を掛けられる。


「わ、悪かったな! しょうがねぇだろ?!」

「ん~? 何がしょうがないのぉ?」


 ずいっと体を寄せてくる亜美。

 

 うう、谷間に視線が吸い寄せられる。 なんて恐ろしい破壊力だ。

 本当に、天然なのか狙ってるのかわからん!


「そりゃ……お前みたいな、可愛くて色々と魅力的な女の子と混浴なんてしたらそりゃ……お前よぉ」

「ほうほう! 夕ちゃんには私の事がそう見えてるんだ? ふぅん」


 亜美は元の位置に戻ってご機嫌に、鼻歌なんか歌い出した。

 ここは話題を変えなければ…このままでは亜美にからかわれっ放しだ。


「なぁ、宏太への返事はもう決めたのか?」

「うん、もう決めたよ」


 即答だった。


「そうか。 決めたか」

「気になる?」


 こちらに視線を移して質問してくる。

 はっきり言って気にはなるが、ここで俺が先にその答えを聞いてしまっていいのだろうか?

 いや、ダメだろ……一番に聞かなきゃいけない奴は宏太だ。

 まぁ、こいつが自分から話す分には聞いてやらんでもないが?


「別に」


 出来るだけ素っ気なく返したつもりだが、亜美にはどう映っただろうか?


「そっか。 気にならないか」


 そう言って俺から視線を外す亜美。

 今の亜美を見れば、自分の中で納得のいく選択ができたのだろうというのはなんとなくわかる。

 もう何も心配はいらないだろう。

 もし付き合うことを選んでいても祝福してやろう。


「しかし、こんなとこ誰かに見られたら大変だなぁ」

「あはは、言い訳できないよね。 でも、この時間は誰にも邪魔されたくないかなぁ」


 天井を見上げながらそう言った亜美の顔は今日の天気のように晴れやかだった。

 やっぱり可愛いよなぁ……。


「この後の観光、楽しみだね?」

「そうだな」


 2人だけの露天風呂を堪能した俺達は、ゆっくりと別荘へ戻った。

 温泉の番頭のおばさんに「お楽しみでしたね」とか言われたが、何もしてないんだよなぁ。

 というか何で混浴バレてるんだ? こええ……。


 ◆◇◆◇◆◇

 

──別荘広間──


 風呂から戻ってきたが、まだ誰も起きていないという現実。

 6時半なら誰かしら起きててもいいと思うんだが。


「夕ちゃん、コーヒー飲む?」

「ん? あぁ頼む」

「はぁい」


 亜美のやつ、奈央ちゃんの別荘に既に馴染んでいるなぁ。

 慣れた手つきでパッパッとコーヒーを淹れている。


「はい、どうぞ」


 亜美は、二人分のコーヒーを持ってきて向かいに座る。


「お前、コーヒーなんて飲めたか?」

「失礼なぁ! ミルクとお砂糖一杯入れれば飲めるよ!」


 それはもう、ミルクと砂糖が一杯入った、コーヒーのような何かなのではないだろうか?


「んー、甘いー」


 ほわぁん、と音が出そうなぐらい気の抜けた表情で、その飲み物を飲んでいる。


「コーヒーを飲めよ」

「え、飲んでるけど?」


 ダメだコイツ。


「ほら、これがコーヒーだ」


 俺の手元にあるカップを亜美に渡してやる。


「ごくっ……うわわ、苦っ……」


 物凄いしかめっ面になった。


「それがいいんだろー?」

「こんなの飲み物じゃないよ」


 涙目になりながら俺にカップを返してくる。


「ふんっ、嗜好品の良さがわからんやつめ」

「わかんなくても良いもん」


 などとやっていると、三人目の起床者が降りてきた。


「こんな時間から騒がしいと思ったら、亜美ちゃんと今井か」

「あ、遥ちゃんおはよう」

「はようー亜美ちゃん」

「うっす」

「今井も、うっす」


 起きてきたのは遥ちゃん。

 何故か学校指定のジャージでやってきた。

 それで寝てたのだろうか?


「早いね? あ、何か飲む?」

「あ、いいよ別に。 これから日課のランニングしてくるから」

「ほぉ、日課なのか」


 やっぱりアスリート系なだけあって、毎朝走ったりしてるんだな。


「いってらっしゃい」

「あーい、いってきまー」


 そういうと遥ちゃんは、元気よく別荘から出て行った。


「元気だねー、遥ちゃん」

「そうだなぁ。 亜美は日課で走ったりしないのか?」

「部活で走るぐらいだよ」

「そうなのか」



 ◆◇◆◇◆◇



 そうやって二人で世間話等していると、続々と起床者が降りてきた。

 7時過ぎには全員起床。


「んにゃ~……おふぁよぉ~……」

「え、誰これ?」


 奈々美は自分の後ろから現れた女子をだれか認識できてないようだ 

 確かにいつもとだいぶキャラが違うが。

 いつもの綺麗な黒髪はボサボサで目はまだ半分寝てる。

 あの、日本美人はどこへやら。


「誰って、紗希よそれ。 寝起きはいつもそんな感じ」


 紗希ちゃんと最も親しい友人の奈央ちゃんがそう言う。


「まるで別人じゃないの?!」

「ほ、本当だね……」


 希望ちゃんも普段見慣れない紗希ちゃんに驚いてるようだ。


「てか、男子の目もあるんだから髪とかちゃんとしてから降りてきなさいよ」


 奈々美は「はいはい、こっちこっち」と言いながら、紗希ちゃんを洗面所へと連れて行く。

 面倒見の良い奴だな。


「ところで、朝食まで時間があるし、皆で朝風呂に行かない?」


 奈央ちゃんの言葉に俺と亜美、この場に居ない奈々美と紗希ちゃん以外が賛同する。


「あれ、亜美ちゃんと夕也くんは行かないの?」


 希望ちゃんが不思議そうに訊いて来た。

 まあ、そう思うよな。


「その二人、私が起きてくる前には起きてたし、案外朝早くに二人だけで行ったんじゃないか?」


 と、遥ちゃんの一言で周りが「あらあら」とか「はぅぅっ」だとかそれぞれの反応を見せる。


「えと……うん、先に二人で行っちゃったから、私は別にいいよ」


 少しだけ悩んだ様子を見せた亜美だったがここは正直に話した。

 ただし当然、混浴したことは伏せて。


「そうなの。 おっけー」

「夕也、お前風呂で亜美ちゃんに何もしてねぇだろうな?」

「してねぇよ! 男女別々に入ってんだからよ」

「それもそうか。 もし混浴でもしてたら……お前、わかってんだろうな?」


 な、なんだっていうんだ……。

 サッと俺の真横まで来て恐ろしい言葉を放った。


「あの亜美ちゃんそっくりの女優の新作……視せてやらねぇぞ?」

「そ、それは困る」


 お気に入りのあの娘の新作!? 楽しみにしてるんだぞ!

 混浴がバレるわけにはいかねぇ!!


「はははははは! そんな、混浴なんてするわけないだろ! 思春期の男女が!」 

「そうだよな! ははははは!」

「ははははは!」

「二人とも大丈夫?」


 亜美にめっちゃ心配された。

 皆を見送った後は、また亜美と二人になってしまった。


「さっき、宏ちゃんに何言われたの?」

「へっ? いや、そんな大したことは」

「ほんとに? テンション変になってたけど?」

「いつもあんな感じだろ?」


 さすがに、亜美にバレるわけにはいかないよなぁ。

 亜美に似た女の子が出てる秘蔵の円盤を、宏太の家でたまに視せてもらってるなんて……。

 いや、似てるが亜美の方が可愛いんだ。


「?」


 亜美は不思議そうな顔で俺を見ていた。



 ◆◇◆◇◆◇



 朝風呂から皆が帰ってきた後は、軽く朝食を食べながら今日の予定を確認する。


「えーっと、まず午前中に水族館へ行くわね。 10時にショーやるみたいだから、それを見てから次の場所へ行くわ」


「ショー楽しみ」

「何のショーかしら?」


 希望ちゃんと紗希ちゃんが目を輝かせている。

 奈央ちゃん曰く、ドルフィンショーとアシカショーという定番のラインナップらしい。


「その後は近くに大きな商店街の通りがあるから、そこでショッピング。 お土産なんかも売ってるわよ」


 なるほど。

 まぁ、買って帰る相手なんていないんだが。

 亜美と希望ちゃんが何か欲しがったら買ってやるか。


「そこらで、お昼に丁度いい時間になってるだろうから昼食を摂るわね。 昼食後は、車に乗ってちょっと走ったとこにある、我が西條グループが経営するテーマパークで遊び倒すのよ!」


「おお」

「ここでも西條グループ……」

「奈央ちゃん凄いっ」

「ふふふんっ」


 また調子に乗っているようだ。

 椅子の上に立ち上がって、お子様ボディを目一杯反らして威張っている。

 お嬢様が椅子の上に立つのはいかんだろ。


「盛りだくさんだね。 楽しみ」


 亜美も楽しみにしているようだ。

 今日もに晴れて本当に良かった。

 奈央ちゃんは、雨天時のプランも考えてあったようだが、やはり数段お楽しみ度が落ちるらしい。


 朝食を終え、奈央ちゃんが運転手さんを呼び出した。

 旅行2日目の観光タイム始まりだ。

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