第10話 旅行3
☆亜美視点☆
──奈央の別荘・亜美の部屋──
現在は夕方18時半。
プールで遊び終えた後は自由行動に。
泳ぎ疲れた私は、部屋に戻ってから小一時間仮眠をしていた。
起きてスマホを開くと宏ちゃんからメッセージが来ていた。
(温泉から出た後、ちょっと話がしたいから待っててほしい)
「話ってなんだろ? ここじゃダメなのかな?」
私はメッセージに返信してみた。
(返事遅くなっちゃってごめん! 話って別荘じゃだめなの?)
少しするとメッセージが返ってくる。
(できれば、皆がいない所で二人で話したいから)
「んーこれは、来る時が来ちゃったかな……?」
何となく、どんな話か察した。
(わかったよ、お風呂は私の方が出るの後になると思うから待ってて)
返信っと。
「はぁ、どうすればいいだろ」
正直、自分の心がわからない。
その後の夕食の時間は、あまり宏ちゃんと目を合わせないようにした。
まだ何も話してないのに気まずい。
◆◇◆◇◆◇
──入浴中──
食後は少ししてから皆と近くにある露天風呂へ。
お風呂からは、山と星が一望で来てとても良い雰囲気だ。
季節ごとに色んな景色が楽しめるだろうなぁ。
「亜美ちゃん、プールの時も思ったけど、脱ぐと凄いわねぇ。 触っていい?」
「紗希ちゃんの方が凄いし、いつも触ってるじゃない……」
紗希ちゃんがいつもの如く触ろうとしている。
私は警戒心を強めたが、紗希ちゃんのスピードは想像を上回っていた。
あっさりと背後を取られてしまった!
「服越しと生じゃ違うわよーん!」
「うわぁ?! 紗希ちゃんっ、やめてっ……」
「またやってるわ……」
奈々ちゃんが、額に手を当てながら呆れたような顔で見つめている。
その間も、私の胸は紗希ちゃんに好き放題触られている。
「奈々ちゃんーっ、見てないで助けてよぉ」
「ふふふー、口では嫌がってても、身体は正直なようねぇ」
「いやーん!」
そのまま紗希ちゃんの気の済むまで良い様にされてしまった、私は手近な岩にぐったりともたれかかった。
しばらく触って満足したのか、私から離れた後は、希望ちゃんに狙いを定めている。
紗希ちゃん、どうして私と希望ちゃんだけなんだろ?
「ふぅ……」
「お疲れ様、亜美ちゃん」
「奈央ちゃーん、紗希ちゃんって昔からあんな感じ?」
「そうねぇ。 でも気を許した相手にしかしないよ? あと、可愛い子限定」
「喜んでいいのかなそれ?」
紗希ちゃんに良い様にされて、同じくぐったりしていた希望ちゃんと背中の流しっこ等をして、露天風呂を堪能した私達は浴場を出てロビーに出てきていた。
先に出たであろう夕ちゃんと宏ちゃんは、先に戻ったのかな?
宏ちゃんはどこかで待ってると思うんだけど……。
「女子は揃いましたわね? じゃあ、戻りますわよ?」
全員揃っているのを確認して、奈央ちゃんが声を上げる。
「あ、私、更衣ロッカーに忘れ物したかも……ごめん、みんな先帰ってて!」
私は嘘をついて皆から一旦離れる。
「あら、一人で大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
何とか皆と離れて、一人になることに成功した。
すぐに、スマホを出して宏ちゃんに連絡をし、居場所を聞き出した。
どうやら近くの自販機でコーヒーを買って飲んでいるようだ。
夕ちゃんは先に帰らせたらしい。
私は急ぎ宏ちゃんの元へ向かった。
◆◇◆◇◆◇
「あ、宏ちゃん、お待たせ」
「あ、あぁ。 大丈夫。 ごめんな急に」
「ううん。 それで話って?」
「あー、ちょっと歩きながらでいい?」
私は頷いて、宏ちゃんの隣に並んで歩きだした。
建物を出て、別荘のある方と逆の方へと歩いていく私達。
しばらく無言が続く。
なんか気まずい。
何か無理矢理にでも話題を作らなきゃ。
「ねぇ、今日楽しかったね」
「ん、あぁ、そうだな」
「明日の観光も楽しみだね」
明日は奈央ちゃんのオススメ観光スポット巡りが予定されている。
この近くには、水族館やテーマパークなどがあるらしい。
そんな話をしながら、しばらく歩いて行くと小さな湖が見えてきた。
静かで雰囲気のいい場所だ。
「こんな場所あったんだね」
「西條に聞いたんだよ」
「なるほどねー」
「なぁ、亜美ちゃん」
宏ちゃんに、真剣な顔で名前を呼ばれてさすがにドキッとした。
「何?」
私は、出来るだけ平静を装って返事をする。
「俺、小学生の頃から亜美ちゃんの事をずっと見てきてさ。 その……」
「う、うん」
「最初はこの気持ちがよくわかんなくて、亜美ちゃんと一緒に居ると楽しかったりドキドキして、もっと一緒に居たいとか思ったりしてな」
私は黙って宏ちゃんの紡ぐ言葉に耳を傾ける。
うん、ずっと知ってた。
気付いていた。
けど、気付いていないフリ続けてきた。
そう、宏ちゃんのに私に対する気持ち、それは紛れもなく──。
「俺、亜美ちゃんの事が好きなんだ。 誰よりも近くで亜美ちゃんを見ていたい。 亜美ちゃんと二人で、ずっとこの先も歩いていきたい。 幼馴染を卒業したいんだ。 俺の恋人になってほしい」
「こ、宏ちゃん……」
正直言って嬉しい。
今まで、色んな男の子に告白されたりしたけれど、その中で一番嬉しいと思った。
やっぱり宏ちゃんは私にとって特別な男の子なんだと実感させられる。
だけど、それでも今すぐに「はい」とは返事できそうにない。
もちろん、宏ちゃんの事は好きだ。
お昼に言った「付き合うなら夕ちゃんか宏ちゃん」っていうのも本当。
ただ、誕生日のあの時から、どうしても夕ちゃんのことを意識してしまう自分がいる。
今、私は間違いなく夕ちゃんに惹かれている。
希望ちゃんの幸せを願う一方で、自分も夕ちゃんと……と思ってしまっている。
最近、そんな自分の気持ちに気付いてしまった。
今、私はどうしたいんだろう? そんな事ばかり考えている。
こんな中途半端な気持ちで、宏ちゃんに返事なんて出来るわけない。
宏ちゃんはまだ真剣な表情で私の返事を待っている。
「んと……ちょっと、時間が欲しいかな。 すぐに結論が出せそうにないの」
「まぁ、そうだよな。 わかったよ。 待ってる」
少し頭の中を整理したい。
奈々ちゃんまだ起きてるかな?
「そろそろ、戻るか」
「うん……あの、ありがとうね。 告白嬉しかったよ? 今までの誰に告された時よりも」
「そっか。 実は速攻フラれるかと思ってたから、ちょっと安心してるんだ」
「そうなんだ? 他のよくわかんない男子ならまだしも、宏ちゃんを速攻フっちゃうなんてことはしないよ。 私にとって、大事な男の子だもん」
「そう言ってもらえると助かる。 良い返事期待していいかな?」
「どうだろう……ゆっくり考えてみるね」
私達はそんな会話をしながら別荘に戻った。
宏ちゃんと二人で戻ったところを奈央ちゃん、紗希ちゃんに見つかって「二人で夜な夜な消えるとか、どっかでえろいことでもしてたの?」とか言われてしまった。
どうしてそうなるの。
◆◇◆◇◆◇
──奈々美の部屋──
宏ちゃんと別れた私は、自分部屋には戻らずに奈々ちゃんの部屋の扉前にやってきた。
ノックをすると「開いてるわよ」と中から声がした。
まるで、私が来るのがわかっていたように。
「やっぱ来たわね」
「知ってたの? 今夜、宏ちゃんが私に告白すること」
「昼ご飯の後にあいつから直接聞いたわ」
「そっか」
「夕也にも話したって言ってたわね」
「え、夕ちゃんも知ってるの?」
プールでお話した時も、夕飯の時も、お風呂に向かってる道中でも、何も言ってなかった。
何も言ってくれなかったよ?
宏ちゃんから話を聞いて、夕ちゃんはどう思ったんだろう?
「で、返事はしたの?」
「まだ、少し待ってもらうことにした。 すぐには返事できなくて」
「まあ、そうでしょうね」
そういえば、奈々ちゃんは宏ちゃんの事好きだったよね?
それも幼稚園の頃ぐらいからずっと。
うぅ、こんなとこにも複雑な関係が。
「あの、奈々ちゃんって宏ちゃんの事」
「ん? えぇ、好きよ」
「そ、そうだよね」
「でも、私に遠慮はいらないわよ? むしろ、私を盾にして宏太ををフるようなことしたら怒るわよ」
「あぅ……心得ました」
奈々ちゃんの事は心配ないみたいだ。
私が宏ちゃんとお付き合いすることになっても、ちゃんと祝福してくれると思う。
「で、何を悩んでるのよ」
「夕ちゃんの事で……」
「あんた、別に何とも思ってないって言ってたじゃない」
よ、よく覚えてるなぁ。
「あ、あれは!」
「まぁ、知ってたけどね。 あんたが夕也に惚れてることも、希望の幸せを願う気持ちと、夕也への気持ちの間で板挟みになってることも」
頬杖を突きながら、私の心の中を読み取っていく。
奈々ちゃんは、なんでもお見通しなんだな。
私の顔を見ながら溜め息をつく奈々ちゃん。
「まあ、希望との事に関しては、私からは何も言える事ないけどさ。 それはあんた達二人の問題だし」
「うん……」
「夕也の事に関してだけど……そうねぇ、もし、宏太と付き合ったら」
「うん」
「あいつなら、夕也の事を綺麗さっぱり忘れさせてくれるんじゃない? きっと、あんたの事を大事にしてくれるし、幸せにもしてくれるわよ」
「夕ちゃんの事を、忘れる……?」
そうすれば、こんな風に悩まずに希望ちゃんと夕ちゃんの事を応援できるようになるのかな?
「まあ、私が出来るアドバイスとしては、前にも言った通りよ」
「前? 後悔だけはしないように……だっけ?」
「そそ」
「……うん、ありがとう。 参考にするよ」
「そう? 私はさ、あんたの味方だから。 何でも相談しなさいよ?」
「うん、相談に乗ってくれてありがと。 今日はもう戻るね、おやすみ」
「ええ、おやすみ……あー、そうだ、夕也まだ起きてると思うわよ」
本当になんでもお見通しなんだなぁ、奈々ちゃんは。
私は軽く頷いて部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇
──夕也の部屋──
そのまま今度は、夕ちゃんの部屋の前に立つ。
ノックをすると扉を開けて夕ちゃんが顔を出した。
「亜美か」
「うん、入っていい?」
「あぁ」
ちょっと素っ気ないのは、私が宏ちゃんに告白されたことを知っているからだろうか。
私は夕ちゃんの部屋に入って、ベッドに座っている夕ちゃんの隣に腰かけた。
「……」
「……」
お互いに無言の時間が続く。
夕ちゃんは、私が告白されたことを知っている。
私は、夕ちゃんが私の事を好きなんじゃないかと、何となくだけど思っている。
宏ちゃんの時みたいに確信が無いのは、わかりづらい態度や反応が多いからだ。
とぼけているのか、天然なのかわからないけど。
夕ちゃんは、私と宏ちゃんがどうなったのか、気にならないのかな?
「夕ちゃん」
黙ってても仕方がないから、私から切り出すことにした。
「おう、どうした?」
「知ってたんだよね? 今夜、宏ちゃんが私に告白する事」
「……知ったのは、昼飯の後だ。 あいつが部屋に来て教えてくれた」
奈々ちゃんの言ってたのは本当だったのね。
「夕ちゃん、どうしてプールでお話した時、何も言ってくれなかったの?」
「いや、言えるわけないだろ」
即答されてしまった。
「これは宏太とお前の問題だから、俺から言うわけにはいかないだろ? これでも、変な事言わないように結構必死だったんだぞ」
「そうなの?」
そう言えばプールで──。
「なぁ、亜美」
「何?」
「もし……」
あの時は不自然にはぐらかされたけど、本当はもしかして?
「で、返事はまだなのか?」
「うん、まだしてないの。 ちょっと色々悩んでる事があってね。 中途半端な気持ちじゃ返事できないなぁと思って」
「悩み?」
「うん、悩み」
よし、ちょっと探り入れてみようかな?
「ねぇ、夕ちゃんはどう思う? 私と宏ちゃんがお付き合いしたとして、上手くいくと思う?」
「さぁな……付き合ってみないとわからないんじゃないか? でも、あいつなら亜美を大事にできるだろうし、安心して任せられるよ」
夕ちゃんも、奈々ちゃんと同じように思ってるんだ。
宏ちゃんっていつもは雑な扱いされてるけど、ちゃんと2人からの評価は高いんだよね。
もちろん、私だって高く評価してる。
2人の言う通り、私の事をきっと大事にしてくれる。
うん、こうなってくるとこれはもう、私の気持ち次第だ。
今の私の中の優先順位は希望ちゃんの幸せが何よりも最優先になっていて、自分は気持ちは二の次になっている。
希望ちゃんの幸せには、夕ちゃんの存在は不可欠だ。
私が宏ちゃんとお付き合いすれば、夕ちゃんは私の事を諦めて希望ちゃんだけを見られるんじゃないの?
これはちょっと自惚れすぎかな?
「俺個人としてはだけどな」
考えを巡らせていると、夕ちゃんが話し始めた。
「うん?」
「……宏太とお前にはだな」
「うん」
「そういう風になってほしくないって言うか……いやもちろん、そんなのはお前が決めることだから。俺がとやかく言うことじゃないけど」
今、夕ちゃんは、私と宏ちゃんに恋人になってほしくないって言ったの?
「そ、それはどして?」
「え? それはその……あれだ、もうちょっと幼馴染5人で色んな事したいって言うかだな。 ほら、付き合い出したらやっぱり、二人きりで居たかったりするだろ?」
明らかにたじろいでる。
別に、私と宏ちゃんが恋人になっても、5人の仲は変わらないと思うんだけどなぁ。
ふふっ、これは嘘だなぁ? 夕ちゃん可愛い。
「そっかぁ、嫌なんだぁ?」
今、私はどんな顔してるんだろう?
きっと嬉しそうな顔してるんだろうなぁ。
夕ちゃんに反対されただけでこんなに気持ちが楽になるなんて。
どうやら、私が思ってる以上に、私は夕ちゃんに惹かれているらしい。
これからも、希望ちゃんと夕ちゃんの事はもちろん応援する。
でも、どうなっても、夕ちゃんの事を好きな私でいたい。
この旅行が終わったら、ちゃんと宏ちゃんにお断りをしよう。
私の今の気持ちを全部伝えて。
「うんうん、そっかそっか」
「お、おう……で、でもちゃんと考えろよ?」
「うん、わかってる。 真剣に考えるよ」
迷いが晴れた私は夕ちゃんに「おやすみ」を言って部屋を出た。
部屋を出ると、丁度階段を上がってきた奈々ちゃんと鉢合わせた。
「あ、奈々ちゃん、まだ起きてたんだ?」
「え? うん。 何どうしたのよ?」
「何って?」
「なんかご機嫌というか吹っ切れたみたい?」
「そっかなぁ? えへへー、私もう寝るね、おやすみー」
「お、おやすみなさい」
私は奈々ちゃんと別れて部屋に戻った。
きっと私、凄くにやけた顔をしてたに違いない。
☆奈々美視点☆
──夕也の部屋──
ガチャ……
「で、あんた、何言ったのよ?」
「今度は奈々美か? 何って?」
「さっき、あんたの部屋から出てくる亜美を見たけど、凄くご機嫌だったわよ?」
「そうだったか?」
「はぁ……わかんなかったわけ?」
「いつもあんな感じじゃねぇか?」
「つまり、あんたと居るだけでご機嫌になるってことね。 まあ、結構その通りなのかも?」
「ははは」
「……で、何言ったの?」
「……宏太とはそういう風になってほしくないとだけ伝えた。 もちろんそれは亜美が決めることだってちゃんと添えたぞ」
「そう。 あんたは親友の宏太の味方もしてあげられないのね?」
「……それは」
「ふふ……ま、別にいいんじゃない? どうするか決めるのは亜美だし。 夕也の言葉、結構参考になったっぽいし」
「そうか?」
「ええ、あんな嬉しそうな亜美は初めて見たかも?」
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