第9話 旅行2

 ☆夕也視点☆


 亜美との散歩を終えて、奈央ちゃんズ別荘に帰ってくると皆がリビングに集まっていた。

 どうやら待たせてしまったようだ。

 今日の昼は皆でバーベキューの予定になっている。

 近くにバーベキューができる川縁があるらしい。


「おう、やっと帰ってきたかよ、腹減ったぞ」

「ご、ごめんね宏ちゃん」

「亜美ちゃんは良いんだよ」

「すまんな宏太」

「お前は後で覚えとけよ」


 なんでだよ!


「皆揃ったわね? じゃあ出発出発」


 奈央ちゃんが先導して、外へ出る。


 男2人と、遥ちゃんが荷物持ちとなった。

 遥ちゃん、女子として認識されてるよな? 大丈夫だよなぁ?

 先ほど、亜美と一緒に歩いていた散歩コースを途中で外れて歩いていくと、ちょうどいい広さの川縁に到着した。

 何組かの家族がすでにバーベキューを始めている。


「それでは、この辺にしましょうか」


 いい感じに空いた場所があったのでそこに荷物を置いて準備に取り掛かった。


「奈央、なんでお嬢モードなの?」

「向こうにいる家族、知り合いの人なのよ」


 お金持ちのお嬢様は、色々と大変そうだな。


「ちょっと挨拶行ってくるわ」


 そう言って、少し離れた場所でバーベキューをしている家族の元へ歩いて行った。

 さて、バーベキューの方だ。

 肉だ肉。


「夕ちゃん、野菜も食べないとダメだよ」

「わかってるっつーの」

「そんなこと言って、さっきから自分の前に肉しか並べてないじゃない」


 ぐ、バレてるし。

 本当にこの幼馴染は良く見ている。

 まるでお袋みたいなやつだなまったく。

 俺が並べた肉をささっと中央へ除けて、代わりにどっさりと野菜を並べられた。


「うおい! 何をする! 俺に肉を食べさせない気か?!」

「そんなこと言ってないじゃない」

「こらそこ、夫婦喧嘩しないの」


 奈々美の言葉に、俺達は口を揃えて「喧嘩してない!」と反論すると「あー、夫婦の部分は否定しないのね」と茶化されてしまった。

 周りの女子も「おー、本当だ」とか「やっぱ付き合ってるんでしょ」とか言ってイジり倒してくる。


「私、恋愛とか興味ないもん。 バレーボールと勉強が恋人だもん」


 イジりに耐えられなくなったのか必死に抵抗する亜美。

 それは皆も周知しているのか「まあそうよね、今井君可哀想に」とか「今井、残念だったな」とか言いたい放題言われている。


 くそぅ、亜美とキスしたって暴露してやろうか。

 と思ったが、亜美の名誉のためにここは我慢することにした。

 知り合いに挨拶を終えて戻ってきた奈央ちゃんが「賑やかですわね」と会話に入ってきた。


「でもさぁ、亜美ちゃん可愛いのに勿体ないわよぉ?」

「うーん、そう言われてもなぁ」

「じゃあ、付き合ってみてもいいと思える男子は?」

「えっ? い、いないよそんな人!」


 必死に抵抗する亜美だが、周りが盛り上がってしまって勢いが止まらないようだ。


「実際に付き合うわけじゃないし良いじゃんー。 いるでしょ、1人や2人」


 紗希ちゃんの悪ノリがまた始まったようだ。

 これはまた、亜美が泣き出すパターンではなかろうか。

 なんとか助け舟を出してやりたいところだが、ここで亜美の援護をしようものなら「今井君って亜美ちゃんに優しいのねぇ」とかまた茶化されそうだ。


「──ゃん」

「んん? 聞こえんなあ?」


 ん? 何か言ったのか?


「夕ちゃんと宏ちゃん!」


 もうヤケクソっぽい声でぶっちゃける亜美だったが、周りの反応はという「なーんだ」とか「つまんなーい」とかそんな感じだった。


「あんた達、この子からその2人以外の名前が出てくるわけないでしょうが」

「それもそうよねぇ」


 一気に沈静化してしまった。

 亜美はちょっとご立腹みたいで、肉をパクパク口に運んでいる。

 ちょっと涙目になってるのはご愛敬。

 ふと、視線を横にやると、宏太が亜美の事をずーっと見ている。

 どうかしたんだろうか?

 それに、亜美も気づいたようだ。


「どしたの宏ちゃん?」

「え? いやなんでもない」


 真剣な目で見てたし何もないってことは無いだろうに。

 亜美の顔を見てみても何か付いてたりはしない。

 まぁ、いっか。

 バーベキューを楽しみながら、奈央ちゃんからこの後の今日の予定を聞いている。


「この後は少し休憩を挟んでプールへ行きますわよ」

「お、いいねぇ」

「水着楽しみぃ」


 奈央ちゃんが皆に用意した、まだこの世に出ていない新作水着を、わざわざ皆の為にアレンジした、まさにこの世に1つしかない水着らしい。

 男の俺としても見るのが楽しみである。


「亜美、それよりそろそろ肉くれよ……」

「あ、ごめんね! はいっ」


 俺の皿にようやく肉がやってきた。


「私、だいぶ食べちゃったし、本当にごめん。 今から焼くね」

「サンキュー」


 こんな感じだから夫婦だとか、なんだとか言われるんだろうな。

 案の定、紗希ちゃんはにや付いている。

 希望ちゃんや奈々美相手には、強気にイジったりしてるが、紗希ちゃん相手だとどうやら分が悪い様だな。


「そういえば、紗希ちゃんは彼氏さんと上手くいってるのぉ?」


 あ、そうでもないみたいだ。


「えっ? 彼氏と? まあ上手くいってるわよ」

「ほぉー、何年目だっけ?」


 奈々美も参戦したようだ。

 どの角度から攻めようか考えているようだ。


「んーと、中2の夏ぐらいからだから、もうちょっとで2年かしら?」


 そんなに付き合ってんだなぁ。

 中学生の恋愛って子供っぽいものイメージしてたけど。

 チラっと見ると奈々美の顔が獲物を定めた肉食獣のような表情になっている。

 何かぶっこむ気だ。


「その彼氏との初体験っていつなのよ?」


 ぶほっ! ジャブとか無しにいきなりKOパンチを叩きこみやがった。


「げほげほっ……バ、バカなの奈々美は!?」

「あー、それ私も気になるわー」


 遥ちゃんもそんなのに興味とかあるんだな。

 これは意外だ。

 希望ちゃんもなんか興味津々って感じで前に乗り出してるぞ。

 むっつりなとこあるなぁってのは、最近になってわかってきた。


「私、知ってますわよ」

「こ、こら奈央?!」


 女子たちの視線が一気に奈央ちゃんの方に移った。

 紗希ちゃん万事休すだな。


「あれは、中学2年のクリスマスでしたわねぇ」

「あぁぁぁ……」


 珍しく紗希ちゃんが頭を抱えて狼狽えている。


「どうしよう奈央っ! ヤっちゃった!」

「やめてぇー!」

「そんなつもりなかったのに、真剣な顔で求められたら拒めなかったの……」

「うああああ……」


 奈央ちゃんが声マネやその時の仕草を隅々まで再現しているらしく、紗希ちゃんが発狂して壊れてしまった。


「し、死にたい……」 

「あはははっ、紗希でもそんなしおらしくなるのねぇ」


 奈々美は腹を抱えて笑っている。

 亜美も日頃の仕返しができて満足なのかクスクスと笑っている。

 今日の「可愛い」いただき。


「今でもベッドの中ではしおらしくなるらしいですわよ」

「まさか、あいつから聞いたの?!」

「ええ」

「あいつ帰ったら覚えときなさいよ……」

「喧嘩はすんなよ紗希ぃ」

「わかってるわよ!」

「じ、じゃあ初めては中2のクリスマスイブなんだ?」

「そうよ」


 もう開き直ったのか普通に戻っている。

 希望ちゃんは「凄いなぁ……」とか「あとで、どんな感じだったか教えて」とか興味MAXになっていた。


「え、い、いいけど」

「……希望ちゃんはむっつりさんだねー」


 と、亜美も気付いていたようだった。

 希望ちゃんは「ち、違うから!」必死に否定しているがもう遅いんだよなぁ。



 ◆◇◆◇◆◇



 色々と面白い話が聞けたバーベキュータイムは終了を迎え、一旦別荘へ戻ってきて休憩していると、部屋に来客があった。


「お? 宏太じゃねぇかどうした?」

「おう、ちょっとな、入っていいか?」

「俺は男と語らう趣味はねぇぞ……」

「俺もだよ!」


 などとちょっとしたやり取りをかわしてから宏太を部屋に招き入れた。


「どうした、珍しく」


 こいつが俺と2人で話したいって時は、大体バスケの事か、秘蔵のDVDもしくは本の話の時だが。


「あぁ、お前には言っておこうと思ってな」

「なんだよ、部活の事か?」

「いや、亜美ちゃんの事だ」


 ん? 亜美の事? なんだ?


「お前さっきの亜美ちゃんの話、あれどう思う?」

「あ? さっきの?」

「付き合うなら俺か、お前だって言ってた話だ」


 あぁ、あれなぁ。 その場を切り抜けるための嘘だと俺は思ったが、こいつは違うのか?

 そういや、あの時こいつ、ずっと亜美の顔見てたな。


「それがどうかしたか?」

「俺、今夜、亜美ちゃんに告ろうと思う」

「な……」


 こいつ、あの言葉を亜美は本気で言ったと思ってるのか。


「お前、わざわざ玉砕しに行くのか?」

「わかんねぇだろ?」


 まぁ、結局のとこあいつの本心は良くわからねぇけど。


「なんだ、止められると思ったけどそうでもないのか?」

「別に止めやしないけどよ……だからって応援するわけでもないぞ」

「ああ、わーってるよ……ちなみに、勝率は何%ぐらいだと思う?」

「10%ぐらいじゃね?」

「いいとこ突いてるかもな」


 宏太は椅子から立ち上がって、手を上げて部屋を出て行った。

 出て行く時に「早い者勝ちでも、恨むなよ」と言い残していった。

 俺はベッドに腰を下ろして少し考えてみる。


 10%なわけあるか。

 今の亜美なら50%ぐらいあるはずだ。

 俺の勘だが。





 ☆宏太視点☆


「ってわけだ」

「ふぅん……なんでそれを私に言いに来るの?」


 さっき夕也に言ったことを奈々美にも伝えた。

 こいつは、亜美ちゃんの言葉をどう思ってるんだ?


「そうねぇ……まぁ、告白するのは自由だしいいんじゃないかしら。 結果は知らないけどね」

「まあ、そうだな」

「さっきの亜美が言ってたやつだっけ? 多分あれは本当よ。 付き合うならあんたか、夕也のどっちか」

「そ、そうか……勝率ってどれくらいあると思う?」


 奈々美は額に手を当てて「んー」と考えている。


「私の見込みでは5、60%ね」


 え? そんなにあるのか?! 意外だな。


「まぁ、告るなら今が絶好のタイミングではあるわねぇ。 時間が経つにつれてあんたの勝ち目は薄くなっていくわよ」

「そ、そうなのか?」

「えぇ」


 んー、奈々美の言うことは大体その通りになるんだよな。

 色々と鋭いとことか、先を見据える力があるだとかそんな感じだ。


「わかった、サンキューな色々と」

「別にいいわよ」


 よし……どんな結果になっても受け入れる覚悟はできた。

 10年来の気持ちに決着をつける時が来た……。




 ☆奈々美視点☆


「思ったより早く動いたわねぇあいつ……」


 勝率は5、6割。

 良いとこ、こんなものだと思う。

 夕也と希望の事で悩んでるこのタイミングなら、宏太にも十分にチャンスがあると私は思っている。

 問題は、亜美の中で夕也の存在がどれだけ大きくなってるかだけど。


「はぁ……どう転ぶやら……今夜あたり亜美が相談に来そうね」





 ☆夕也視点☆


 ──室内プール──


 休憩を取って、幾分体が軽くなった俺達は、奈央ちゃんが所有するプライベートプールへやってきた。

 現在俺と宏太は、絶賛更衣中の女子を待っている。

 少し待っているとバスタオルで身を隠した女子組がやってきた。

 順番に披露するつもりか……。


「お待たせ―、じゃあ名簿順で披露よろしく!」


 そういう順番か……ってことはトップバッターからいきなり真打か?


「とくと見なさい!」


 バッと、バスタオルを外し空中に放り投げる奈々美。


「おお……」


 ついそんな声が出てしまう。

 少し大人っぽい黒を基調としたビキニだ。

 ワンポイントアクセとして胸の中央部分は黄色いリング状のものが付いていて谷間がそこから覗いている。

 なるほど、確かに奈々美に合わせたデザインだな。


「次は私だな」


 次は遥ちゃん。

 ぴったりと体にフィットした紺色の競泳水着のようなデザインの水着だが背中とお腹の部分はがっつりと開いていて、締まった腹筋と背中が良く見えるようになっている。

 水着より体を見せるようなデザインか? スポーティーな遥ちゃんにぴったりだ。


「んじゃ次私ねぇ」


 と、艶めかしい動きでバスタオルをずらしていくのは紗希ちゃんだ。

 ピンク色の下地に、カラフルな水玉模様が散りばめているワンピースタイプの水着だ。

 胸の部分には大きな白いリボンが装飾されている。

 紗希ちゃんの明るい感じを現した良い水着だと思う。


「……わ、私だよね?」


 恥ずかしそうにバスタオルを取るのは亜美だ。


「おおお……」


 こちらもつい声を上げてしまった。

 今日着てきたワンピースのような真っ白なビキニだが、そこかしこにフリフリのフリルが付いていて、亜美の可愛らしさを際立たせている。

 あと、紐パンだ!

 奈々美ですら紐パンじゃないのに、亜美にそれを持ってくるとは奈央ちゃん恐るべし。


「どうかな?」

「か、可愛いと思う……」

「えへ……ありがと」


 やべぇ、可愛すぎてどこを見りゃいいのかわかんねぇ……。

 天使か?


「じゃあ次は私ね」


 奈央ちゃんは上と下で色も模様も変えてきたビキニだ。

 上は黒と白の水玉に、紐部分はレース状になっておりちょっとしたエレガントさを醸し出している。

 下は水色の下地にカラフルな模様が散りばめられてている。

 こちらもレースがあつらえられている。


「最後は、私……だよねぇ?」

「あんたしかいないでしょ」

「はぅ」


 しぶしぶバスタオルを取る希望ちゃん。


「ほうほうこれは……」


 花柄の可愛いビキニのようだ。 下は同じ柄のパレオを巻いている。

 露出を恥じる希望ちゃんには、これでいいのかもしれない。

 パレオを取るとやはり花柄の紐パンが出てくる。

 希望ちゃんに紐パン!?


「うう……」

「可愛いよ、自信持ちな」

「はぅっ……ありがとう……」


 顔を赤くして俯いてしまった。


 ◆◇◆◇◆◇


 数分後……。

 みんな、思い思いプールで遊んでいる。

 ふと、プールサイドに腰かけている亜美に目が行った。


「……」


 今夜、宏太に告られるなんて思いもしてないだろうな。

 不意に亜美と視線が合ってしまった。

 咄嗟に視線を外すが遅かったようだ

 プールを泳ぎながら横切って、こちらへやってきた。

 隣に腰を下ろした亜美は水に濡れてなんとも艶めかしい。


「さっき私の事見てたよね? 見惚れちゃってた?」

「ベ、別に」

「あはは、そっかそっか。 結構、夕ちゃんを悩殺出来てる自信あるんだけどな」


 いや、まぁはい……悩殺されてますけど。


「楽しいよねぇ。 奈央ちゃんには感謝しかないよ」


 天井を見上げて言う亜美。


「なぁ、亜美」

「何?」

「もし……」


 宏太に告白されたらお前はどうする……?

 訊こうと思ったが思い留まった。

 宏太が告る前に俺がこんなこと言ったら、亜美が身構えちまうな。


「うん?」

「もし紐が解けたらどうする?」

「むぅ、夕ちゃんのえっち……どっかで隠れて結び直すよ」

「そっか、ぽろりは?」

「しないよ!」

「ちぇっ……」

「もう……」


 亜美は「しょうがないなぁ」という顔で苦笑いしている。

 明日になったら、俺たちの関係はどうなってるんだろうか?

 俺は亜美にどうしてほしいんだろうか?

 この後も夜まで、落ち着かない時間を過ごした。

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