第16話 中間テスト

 ☆夕也視点☆


 ゴールデンウィークも明けて、数日もすると中間テストが近づいてくる。

 テスト前ということもあり、俺達は集まってテスト勉強をしている。


「なぁ、だからなんで俺の家なんだ?」

「夕ちゃんの家は一人暮らしだから、遠慮しなくていいんだもん」


 幼馴染一号の亜美が平然と言ってのける。

 奈々美と宏太も「そうだそうだ」と言った感じで頷いている。

 希望ちゃん位なものだ「いつもごめんね」と謝ってくれるのは。

 テスト一週間前からは部活も強制で休みとなっており、放課後に我が家に集まっているという次第だ。

 皆、それぞれ苦手科目を勉強中なのであり、俺は数学がダメなので数学をやっている。


 んー、わからんから次。

 ぬぅ、わからんから次。


「夕ちゃん、わかる?」


 次々と問題を飛ばす俺を見て心配になったらしい。

 ここは亜美に頼るとしよう。


「ここなんだけどな」

「んーどれ?」


 ちょこちょこっと俺の隣に移動してくる亜美。


「これねぇ、ここの式間違ってるよ夕ちゃん。 問題よく見て」

「ほん」

「ちゃんと見てっ!」

「はい」


 適当にやったら怒られてしまった。

 真剣に教えてくれてるんだし、真剣にやらないとな。


「ふふ、仲良いね」


 希望ちゃんがそう言うと、亜美は「普通だよ」と真顔で返した。


「こうか?」

「そそ、ちゃんと問題読んで落ち着いてやれば解けるんだから」

「んーむ」


 真剣さが足りないのかやる気がないのか……多分両方だな。


「んじゃ、私が応用問題作るからやってみて?」


 亜美はノートに問題を書いて渡してきた。


「Oh! Yo! 問題!」

「赤点取って皆が林間学校行ってる間に、一人で補習受けてればいいよ」


 ちょっとふざけてみたら凄い冷たい口調で怒られてしまった。

 この中間テストが終わった後は、新入生同士の親睦を深めるという理由で林間学校がある。

 しかし、中間テストで赤点を取った教科が一つでもある場合は、林間学校に参加できずに補習を受けさせられるのだ。

 生活指導の教師との親睦が深まるイベントなどに参加してたまるか!


「こ、これで合ってるでしょうか亜美先生?」

「知りません」


 亜美先生に見限られてしまった! 一体俺はどうすればいいんだ。


「ま、自業自得よね」

「亜美先生が真剣に教えてくださってるんだぞ? 真剣にやれ真剣に」


 奈々美と宏太にまでダメ出しをされてしまった。

 希望ちゃんもちょっと救えないなぁみたいな顔でこっちを見ている。

 味方はいないようだ。

 ちょっとぐらいふざけてもいいと思うんだが。

 しゃーねぇ……自力で頑張るしかねぇか。



 ◆◇◆◇◆◇



 皆で勉強タイムが終了し夕食を終えた俺は風呂に入りながら単語帳を暗記。

 風呂から上がったら数学の続きと、なんとか一人で頑張ってみた。


「なんだ、集中すれば一人でも普通にできるじゃねぇか」


 これなら亜美先生に頼らなくても赤点は免れそうだぜ。

 ふん、あんな心の狭い奴になんか頼るもんか。


 ピンポーン


 勉強の続きやろうと思った時、不意にインターホンが鳴った。

 こんな時間に誰だよ。

 こっちは試験勉強中の学生だぞ、邪魔すんじゃねぇ!

 と、思いながら「はいはーい」と、ドアの方へ向かった。

 覗き穴から来客者を確認。

 亜美? こんな時間に何だ?


「亜美、忘れ物か?」

「ううん。 勉強進んでるかなぁって心配になって」


 何だかんだ言って心配になって見に来てくれたらしいが、生憎、順調に進んでるのだ。


「あぁ、なんとかなってるよ」

「そっか、良かった。 さっきの問題ちゃんと合ってたし、大丈夫だろうとは思ったけど気になっちゃって。 あ、これ、お夜食作って来たんだけど」


 と、亜美から小さな皿を手渡された。


「お、サンキュー、上がってけよ。 お茶ぐらい出すぞ」

「へっ? こんな時間に悪いよ」

「一人暮らしだから遠慮しなくていいぞ?」


  昼間、亜美に言われた事だ。


「もう、こんな時間に可愛い女の子を連れ込むとか」

「何もしねーよ」

「ふふっ」


 含み笑いをしながら家の中に入ってくる幼馴染。

 そのままリビングへ歩いて行った。

 もはや自分の家と変わらないのではないだろうか?

 連れてリビングに入ると、俺が勉強していた跡を見て「うんうん」と頷いていた。


「これなら、一緒に林間学校行けそうだね」

「そうだろ。 俺はやりゃ出来るんだ」

「知ってるよ、それは」

「ほれ、お茶」


 俺は亜美にお茶を出してから、亜美が持ってきた夜食を確認する。

 ほう、フレンチトーストか。

 美味そうだ。


「亜美、半分いるか?」

「あ、うん、食べるよ」


 フレンチトーストを半分にして亜美に渡す。

 俺はもう半分の方を頬張りながら、数学の勉強を再開した。


「根を詰めすぎちゃダメだよ、夕ちゃん?」

「わかってるよ」

「本当かなぁ……」


 ◆◇◆◇◆◇


 その後はしばらく無言で集中していた。

 集中していて気づかなかったが、先程からやけに静かだな。

 知らない間に亜美は帰ったのか?


「すー……すー……」


 人の家のソファーベッドで無防備にも眠っていた。

 時計を見ると既に深夜1時……。

 どうするんだこれ?

 じっと見てみると、やはり可愛い。

 普通の男子なら襲ってるレベルだぞこれは。

 取り敢えず、起こして帰ってもらうか。


「亜美、起きろ」

「んんー? あれ、私寝てた? ごめん……」

「眠いなら帰って寝た方が身の為だぞ」

「それって、このまま寝たら襲うって意味?」

「多分、大丈夫だとは思うが……可能性が無いわけじゃないからな」


 正直、こんな可愛い女の子が目の前で無防備に寝てたら我慢するのが大変だ。

 亜美は「ふぅん、そかそか」と、言いながら起き上がって、リビングから出て行った。

 何故か二階の方へ向かったが。

 二階には俺の寝室と、両親の寝室、物置部屋になってしまった洋室がある。

 まさかとは思うが、俺の部屋に?

 などと考えてる内に、亜美が戻ってきた。

 掛け布団を持って。


「今日はここで泊まってくよ」

   

 ソファーベッドに寝転がり、布団を被る亜美。


「泊まるってなぁ」

「すぐ戻るつもりで、家の鍵置いて来ちゃって……多分、うちの家族は皆寝ちゃってるし、鍵も閉まってるし」


 おいおい、無防備にも程があるぞ。

 いくら、長年一緒にいる幼馴染だからって、こんな可愛い女の子が目の前で寝てたら何をしでかすか。


「せ、せめて、俺の部屋か親の部屋に行ってくれないかね?」

「襲わないんでしょ?」

「そのつもりだけど、保証は出来ないぞ?!」

「良いよ、別に」

「何?」

「だから、夕ちゃんが相手なら別に良いよって言ってるの」


 真顔でとんでも無い事を言う奴だ。

 しかし、この余裕は襲われても良いと言うより、俺なら襲って来ないから安心、みたいな信頼があるからなのかもしれない。

 それにしてもこの誘い方は少々危ない。

 ふと、亜美の方を見ると既に横になって目を閉じている。

 いかん、見るな! 勉強に集中だ!

 ノートに目をやる。

 もやもや……。


「できるかっ!!」

「?!」


 俺の声にびっくりしたのか、亜美が飛び起きた。


「わ、わからないとこあった?」

「あ、いや、大丈夫だ」

「そう?」

「あー、俺も疲れたし寝る!」 


 集中出来ないし、このまま続けても仕方ない。

 俺はソファーベッドで眠る亜美を放置して、自分の寝室へと向かう。


「……」

「?」


 階段の前で足を止めて後ろを振り返ると、亜美が掛け布団を持って付いてきていた。

 振り返った俺を見て、亜美も後ろを振り返る。

 いやいや。


「後ろ、何もないよ?」

「俺の後ろにはいるんだよ」


 亜美はじーっと、俺の背中を見つめる。


「私には見えないけど、背後霊さん?」

「お前だよ!」

「あ、そっか」


 手をポンッと叩いて納得した様子の幼馴染。

「霊感に目醒めたのかと思ったよ」などと、意味不明な事を言っているが。


「何故ゆえに余に付いてくるのだ」

「夕ちゃんの部屋で寝るからだよ?」

「無防備! 無警戒!」

「大丈夫! 私は床で寝るから」


 そこじゃないんだよなぁ。

 信頼されてるとか以前に、こいつ無頓着過ぎやしませんか?

 ここは、しっかりと諭してやらねばなるまい。

 他の男の前でこんな無防備な態度取るような事があれば5秒で女にされるぞ。


「なあ亜美」

「わかってるよ」


 諭してやろうと思い口を開いたのだが遮られる。


「私だって、誰の前でもこんな風に無防備になったりしないよ」


 ちゃんとわかってはいるらしいが、出来れば俺の前でももうちょっと警戒して欲しいところだ。

 ただ、それを言ってもこの幼馴染は「夕ちゃんなら大丈夫だよ」とか、謎の信頼を向けて来るだろうな。

 俺だって、健全な男子だぞ?

 しかも、こっそりと亜美によく似た子が出てる円盤とか見てるんだぞ?


「さっきも言ったけど、別に夕ちゃんが相手なら構わないよ?」

「あ、あのなぁ」

「何かあっても皆には内緒にしてあげるからぁ」


 冗談ぽく言う亜美。

 負けだ負け。

 これ以上の問答は不要だ。

 俺は諦めて、亜美を部屋に入れた。


 俺は床に布団を敷き、そのまま寝転がる。


「悪いが、亜美はベッドで寝てくれ」

「えー、私は下でいいのに?」

「女の子のお客さんを床に寝かせる程、俺は落ちぶれちゃいない」

「んー、そか。 じゃあ、一緒に寝よう」


 そそくさと俺の隣に寝転がる幼馴染。


「お前のそれは天然か? それともわざとか?」


 亜美は俺の方とは逆を向いて口を開く。


「さあ、どっちでしょー?」


 くすくす笑っているのか、肩が小刻みに震えている。

 はぁ、観念するか。

 亜美は意外と頑固な奴だから、これは何があっても退かないだろ。

 俺は電気を消して、亜美の方とは逆を向いて寝転んだ。


「夕ちゃん、おやすみ」

「はいはい」

「……いいんだけどなぁ」


 それを最後に、俺達の会話は途切れた。

 最後に、亜美が小声で何か言ったような気がしたが、まあいいか。



 ◆◇◆◇◆◇



 そんなこんながあり、中間テスト初日がやってきた。

 机に座って、最後の追い込みをかける奴もいれば、諦めて窓の外を眺めている奴もいる。

 そして、無謀にも亜美に勝負を挑む奴も……。


「亜美ちゃん! 勝負ですわ! 今度こそ、亜美ちゃんに負けましたと言わせて差し上げます!」

「負けました」


 奈央ちゃんは「むきーっ」と猿のように怒っている。

 亜美がケアレスミスの一つでもすれば奈央ちゃんにもワンチャンあるだろうが。

 かつて、亜美がミスをして満点を逃したところを見たことなど無い。

 つまり、今回も亜美が負けることはないという事だ。


「負けた方が緑風のフルーツパフェだからね」


 またそれなのか。

 他に何かあるだろ?


「望むところです!」


 かくして、高校生活最初の定期テストが始まり、あっという間に終わった!


 ◆◇◆◇◆◇


 苦手な数学も亜美にみっちり教えてもらったしまず問題ないだろう。

 その他の教科はどれもそれなりに得意だから大丈夫だ。

 中学時代の成績は、幼馴染五人の中では亜美、希望ちゃんに続いて三番目に良かったし。

 問題なのは、宏太だ。

 テスト最終日も部活は無く午前授業までだ。

 俺達は打ち上げと称してファミレスで昼飯を食べながらテストの出来を話し合っている。


「奈々ちゃん、宏ちゃんどんな感じ? 特に宏ちゃん」

「たぶん大丈夫だと思う。 苦手な物理さえ切り抜けられれば赤点は無さそうだぜ」

「私は大丈夫よ。 中学の時だって赤点までは取らなかったでしょ? 夕也と大して変わんなかったし」

「そうだよなぁ。 いつもいい勝負してたよな」


 大体いつも僅差で俺が勝ってたんだが。

 問題は宏太だ。

 こいつは中学時代でもたまに赤点を取ってた。

 まあ、こいつが林間学校に居なくても問題はないが。


「佐々木くんも頑張ってたし、大丈夫だよ」


 希望ちゃんは誰にでも優しくできるいい子だなぁ。

 結果が返ってくるまではわからないが……。


「みんな揃って林間学校行こうね」

「おう、何か行ける気がするぞ」

「もうテスト終ったのに、今更やる気になってどうすんのよバカ」

「あははは」


 せっかくだから、皆で行きたいもんだ。


 ◆◇◆◇◆◇


 数日後、全教科の答案用紙が返ってきた。

 俺は赤点なしで平均72点! おお! すげぇ!

 前の席の奈々美に聞いてみたらバッチリだったらしい。

 平均74点だと……。

 こいつ、遊んでるくせに成績落とさないよなぁ……。

 希望ちゃんは平均79点だったらしい。

 全教科万遍なく高得点を叩きだしていて、特に数学は亜美と奈央ちゃんに続く三位だったらしい。

 こんなとこにも才女が……。

 で、問題の宏太だが


「な、なんとかギリギリ、全教科赤点は回避したぜ……物理やばかった……」


 物理45点は本当にギリギリだった。

 最終問題配点10点問題ミスってたら終わってたなこいつ。


「亜美……聞くまでもないよなぁ」

「ん? 平均100点だよ?」


 だと思ったよ! マジでロボットなんじゃないのか、こいつ?

 今度、ひん剥いて確かめてやろうか……。

 ダメだ、ひん剥くとか出来ねぇわ。


 亜美のすぐ後ろの席では、ちっこいお嬢様がわなわなと震えている。

 あー、そういやまた勝負してたんだったな。

 フルーツパフェ1杯奢りお気の毒様。


「奈央ちゃんはどうだった?」

「ぐぬぬ……世界史でミスしてしまいましたわ……」


 世界史98点の答案用紙を見せる奈央ちゃん。


「あー、残念~。 引き分けなら奢り無しだったのになぁ」


 がっくりとうなだれる奈央ちゃんを、希望ちゃんが慰めていた。

 しかし、これで皆揃って林間学校には行けそうだ。

 林間学校での行動班もこの六人で固まっている。

 夕飯のカレーなんかはかなり楽しみだ。

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