第7話 スポーツテスト
☆夕也視点☆
──校庭──
高校にも慣れてきた4月の下旬。
本日は全校生徒の体力測定が行われる。
50m走やら反復横跳びやらの各種目を順番にこなしていくあれだ。
「宏太、組もうぜ」
「おう」
基本2人1組で測定係を交替でやるらしい。
友達のいない奴はぼっちになるやつだな。
亜美は希望ちゃんと、奈々美は奈央ちゃんと組んでいるようだ。
亜美、奈々美、奈央ちゃんは運動神経が良いのは言うまでもないが、実は希望ちゃんも結構な運動神経をしている。
見た目全然ダメそうなのに。
特に反射神経や瞬発力がすごい。
亜美の話によるとバレーボールでもリベロとしては全国五指に入るんだとか。
「あ、夕也くんと佐々木くん」
「おう」
「夕ちゃん、奈々ちゃんはどこからいくの? 一緒に回ろ?」
「うちら、立ち幅跳びいくけど」
奈々美達は立ち幅跳びか。
バレー部としてはやはり跳躍系が気になるのか?
「立ち幅跳びかぁ、よしいこぉ!」
「おー」
亜美と希望ちゃんはノリノリだ。
なんだこのテンション……。
**********************************
という事で、6人でぞろぞろ立ち幅跳びをやっている所までやってきた。
「ねぇ、亜美、せっかくだし勝負しましょうよ?」
「お、いいねー! 負けたほうは、緑風のフルーツパフェ奢りね」
「決まりね」
奈々美が亜美に立ち幅跳びで勝負を吹っ掛けた。
面白そうだな。
「亜美ちゃんからどうぞ」
「いいの? 私の跳躍見てやる気無くさない?」
「いや、大丈夫でしょ、さすがに」
亜美も奈々美もやたら自信あるみたいですなぁ。
亜美が踏み切り位置に立って、腕を振り勢いを付ける。
「っと!」
跳躍中の姿勢は完璧だった。
大きく背中を反りながら跳躍し落下運動に入った所で一気に体を前に倒し着地姿勢に入る。
本当に綺麗な反り跳びだ。
着地をしっかり決めてポーズまで取る。
「……っておい、ちょっと待て。 跳びすぎだろ亜美」
よく見てみると、踏切位置から着地位置まで、かなり跳んでるように見える。
ざっくりで2m50cmぐらいはあるんじゃないか?
「希望ちゃーん記録は?」
せっせとメジャーで記録を測る希望ちゃん。
んー、可愛い。
「はぅ、これすごい。 2m77cmだよ」
「は? 亜美ちゃん凄くね?」
さすがの宏太も驚愕している。
日本の女子高生で陸上やってないヤツが出していい記録なのか?
ちなみに後で調べてみたら高1女子平均が1m60cmから1m70cm、かなり跳んだと言っても2m30cm程らしい。
「あーやる気なくすわー」
「ふふっ、だから言ったのに?」
奈々美が跳ぶ前からやる気をなくしている
「やっぱ勝負なんて言うんじゃなかった」とか呟いたのが聞こえてきた。
しかし、かくいう奈々美も、綺麗なフォームで跳躍する。
「奈央、何mー?」
「2m40cmですわ。 もう限界! お嬢モード解除ー」
それでも十分凄いと思うんだが?
この二人のスペックの高さには驚かされる。
その後は、希望ちゃんが2m11cm、お嬢モードが切れたらしい奈央ちゃんは2m42cmという記録を出していた。
やっぱり、奈央ちゃんもとんでもスペックだな。
希望ちゃんも、軽く2mを超えてるし。
こんなのばかりが集まったバレー部だったからこそ、全中三連覇が出来たんだろうな。
「次! 50m走行くわよ! 次こそ勝つ!」
「まだやるの?」
「奈々美、やめたほうがいいだろ」
「うっさいわね! 負けたままでいられますかっての! 亜美をぎゃふんと言わせてやるわ」
無謀だと思うんだけどな。
亜美の人間としてスペックは、はっきり言って異常だ。
容姿はアイドル並みに可愛くて、頭も毎回平均100点取るほど良いし、運動神経でもそこらの男子顔負け。
料理も人並み以上に出来るし、プロポーションも完璧(俺が見た感じはだぞ?)
まさに、非の打ち所の無いパーフェクト女子高生なのだ。
「負けた方が、緑風のフルーツパフェ、もう1杯奢り追加ね?」
「後悔させてやるわ!」
**********************************
50m走のコースへやってきた。
亜美と奈々美がそれぞれスタート地点へ移動しクラウチングスタートの姿勢を取る。
記録係の2人は、ゴール地点でストップウォッチを片手に、スターターのフラッグが上がるのを待っている。
やがてスタートの合図の旗が上がると2人が一斉に飛び出す。
スタートのタイミングは五分だったが、初速で奈々美の方に軍配が上がったようだ。
開始数mで体一つ分リードを取っている。
しかし、20mを超えたあたりで亜美が並びかける。
初速こそ奈々美の方が速かったのだが、トップスピードは亜美の方が速いようだ。
スピードに乗った亜美は上体を起こして大きなストライドでトップスピードを維持する。
普通ならスタートから30mほどは、トップスピードに持っていくための加速区間になるのだが、亜美は、20mでトップスピードに持っていけるようだ。
当然、トップスピードで走れる距離が増えるのでタイムも伸びるだろう。
最後で失速しなければだが、そもそも50mならその心配もないはずだ。
終わってみれば、体三つ分ぐらいの差をつけて、亜美が圧勝していた。
「はぁはぁ……また負けたぁ」
「ふぅ、今日帰りにフルーツパフェ2杯ね」
え? 一日で2杯食うのか?!
「わかってるわよ!」
「んーと、うわわ、亜美ちゃん、7秒13だって。 怖い」
「奈々美も7秒40ですわよ」
しかし、二人とも7秒台なのか。
高校生女子の平均って8秒後半から9秒ぐらいなんじゃねーのか?
亜美なんか頑張れば6秒台でるんじゃねーの??
この後の希望ちゃんが8秒39、いつの間にかお嬢モードを再起動していた奈央ちゃんが7秒37である。
希望ちゃんは実に安心する記録だ。
「はあ、ちょっと休みたいし次は握力行きましょ握力」
「いこいこ」
奈々美の提案に全員が賛同し、次は握力測定となった。
2人が並んで立って握力計を持つ。
「えぃっ!」
「ふんっ!」
亜美は可愛い力の入れ方だが奈々美はおっさんか?
「亜美ちゃん、右が25、左が21」
「ちょっとあんた、手抜いてるんじゃないでしょうね!?」
「ううん、これ全力だよ?」
「なんでそんなとこだけ普通に女の子なのよ!? ずるいじゃない!」
「奈々美、右が65の左が59でーす」
奈央ちゃんが無慈悲に告げたのは、一般男子でも中々出ない数値だった。
「お前ゴリラじゃねーか!」
宏太がそう言った瞬間に、すかさずアイアンクローを極める奈々美。
「ぐあああ! 65kgの握力で潰されるー!」
「奈々ちゃん、宏ちゃんの頭蓋骨が砕けちゃうよ?!」
賑やかなやつらだ……。
**********************************
この後もサクサクと各種目を終えていく。
握力、上体起こし、ハンドボール投げ以外は亜美が勝っている。
運動神経は良いがパワー系種目だけは華麗に避けているあたりも亜美はさすがである。
可愛い所はきっちり可愛い幼馴染だ。
途中で、亜美の記録用紙を見せてもらったが、どれもこれも信じられないくらいの記録を出していた。
こいつに出来ない事ってないんだろうか?
「最後は持久力だね、奈々ちゃん」
「そうねぇ……」
完全にやる気をなくしてるようだが大丈夫か……。
「皆、シャトルランか持久走どっちやるんだ?」
と、宏太が訊いてくる。
持久力テストは20mシャトルランか男子1500m、女子1000mの持久走の選択式だ。
「あー、私シャトルラン嫌い」
「じゃあ1000mいこっか」
奈々美がシャトルランを嫌いだということで亜美達は1000mをやるようだ。
俺達もそれについていく。
「勝負よ亜美」
「え、まだやるの?! お互い、フルーツパフェの奢り結構な数になってるよ?!」
お前ら、フルーツパフェ以外に賭ける物ねぇのか?
「奈々美は負けず嫌いだな」
宏太が言うと奈々美が「うっさい!」と言って宏太を蹴飛ばしていた。
なんというか理不尽だ。
実際のとこ奈々美は、握力、上体起こし、ハンドボール投げでは亜美に勝っているのだが、それを言ったら「女子として負けてるのよ女子として!」と嘆いていた。
ゴリラの自覚はあったらしい。
「じゃあ、希望ちゃんタイム測定お願いね?」
「はぁい、いってらっしゃーい」
俺も並んでスタートするが俺は1500mだから女子より2周多く走らないといけない。
やたらとギャラリーが多いのは気のせいではなく、途中辺りから「学園のアイドルの清水さんと藍沢さんが、なんか勝負してるらしい」という噂が広まったせいである。
「やりづらいなぁ」
「あはは、そうだね」
並走する亜美が苦笑いを浮かべながら同意する。
「放っておけばいいのよ」
同じく並走する奈々美。
「亜美、俺とも勝負しようぜ」
「パフェだよ?」
「ほぉ、自信がおありのようで」
「じゃあ、俺が勝ったらキスでもしてもらおうかねー」
「えー……いやだよぅー」
「いやだよぅ―」じゃないだろ! お前の誕生日のアレ忘れたのかよ!
俺あれからずっと悩んでるんだぞ!
「あははは! いいじゃんいいじゃん。 ガンガン行きなさい夕也」
「おう。 1000mをどっちが先着するかで勝負な」
俺は1500mだから、その後も走らないといけないので、スタミナを温存しないといけないハンデを抱えているが。
「いいよ、勝てばいいんだもんね!」
「いやー、面白くなってきたわねぇ。 私に勝ったら私もキスしてあげるわよ」
「ほう……2人からキスがもらえるとはな」
「夕ちゃん、勝つ気でいるんだ」
亜美が微妙な顔でこちらを見ている。
喋りながらも俺のペースに余裕で付いてくるなこいつら……。
もうちょっとペース上げるか。
「夕ちゃんは1500mなんだから、無理しない方がいいんじゃないかな?」
「そうそう、慌てない慌てない」
ええ……まだ付いてくるのかこいつら?
信じられんなー……。
これ以上は確かに、1500mのタイムに影響が出かねない。
1000mまで残り500m。 残り2周だ。
迷ったが、俺はスパート仕掛けることにした。
記録よりキスが欲しい!
「ちょっと、マジ? あんた1500mの記録は?!」
「なんとかならぁ!!」
2人を引き離しにかかる。
ついてこれるものならついてきてみろ!
「どうすんのよ亜美?」
「追っかけるに決まってるじゃないっ!」
「よねー?」
奈々美と亜美も、俺の500mスパートについて来た。
そんなに俺とキスするの嫌なのか? ショックだ。
「ううっ、さすがに全力の夕ちゃんについてくのきつい……」
「いいじゃん、キスぐらい……」
「良くないもん!」
亜美と奈々美は、苦しそうな顔をしながらもなんとか付いてくる。
なんか、悪いことをしてるみたいな気分だな。
「このぉっ!」
下を向いて決死のラストスパートを試みる亜美。
付いて行けなくはないが、これ以上は本当に1500mの記録に影響が出る。
俺は、亜美のキスを諦めて少しペースを落とした。
「えっ、あれ? ついてこない?」
追ってこない俺を不思議そうに振り返る。
「俺もう限界だわー」
まだ余裕はあるが、適当に誤魔化しておく。
「はぁ、優しいわねーあんた……」
亜美のスパートに置いてかれた奈々美が並んでくる。
奈々美も諦めたのか?
「ほら、お前も先行ったらどうだ?」
「えー? 私は別にキスしてもいいわよー?」
余裕無いのかと思ったら、ずいぶん余裕あるな。
おそらく、亜美のスパートについて行けるだけの余力を残してるはずだが。
そうか!! 俺とキスしたいからわざとか!?
なんだ可愛い奴め!
よぉし、俺、頑張っちゃうぞぉ。
ちょっとペースを上げて、奈々美を引き離そうとするが、余裕で付いてきやがる。
「ってお前、どんだけだよ! キスは別にいんじゃないのかよ!?」
「ふふっ」
残り1周。
亜美はちょっと前にいるが、先程の無理なスパートが祟ったのか、だいぶペースダウンしているようだった。
抜かそうと思えば抜かせるが……。
「ほんと、優しいわねあんたって」
「うっせー、せめてお前には勝ってキスしてもらうからな」
「勝てたらねぇ」
ぐぬぬ……こいつ駆け引きが絶妙に上手い。
俺が、亜美を追い抜かないようにペースを落としてるの見抜いててついて来てやがる。
亜美が無理なスパートをした時に、後々バテて落ちてくる事も計算済みか?!
俺が、これ以上ペースを上げれないのをわかってるからこその余裕。
亜美の背中を捉えたらまとめて抜き去る気だ。
「ほらほら、亜美ちゃんに追いついてきちゃったわよ?」
ニヤニヤしやがってー!
「ううっ」
顎が上がって苦しそうだが、必死に粘る亜美。
「じゃ、お先に」
奈々美が残り100m付近からラストスパートをしかけた。
「うわわ! 奈々ちゃんすご……」
「いやいや。お前も十分すげぇよ。 俺の無茶なペースに付き合って、ロングスパートなんてしなきゃ、スタミナ切れなんて起こさなかったろ」
後ろから亜美を称賛してやると亜美が振り向く。
「ゆ、夕ちゃん?! やだぁ! 夕ちゃんには負けちゃダメなのぉー! うわーん!」
「はいはい、安心しろって、俺ももう限界だから」
そのまま亜美の真後ろのポジションを維持したまま1000mラインを超えた。
これでいいんだろ、まったく……。
亜美と奈々美はコースの内側に入ってゆっくりペースダウンしクールダウンのために歩いている。
「はぁはぁ……」
「はぁ……お疲れ亜美ー。 私の勝ちってことで」
「はぁー……そうだねー、夕ちゃんに完全にペース乱されたよぉ」
「冷静さを欠いたあんたの負け~」
「うう……」
「そんなにキス嫌だったの?」
「嫌って言うか、ダメなの」
「ふぅん。 1回も2回も変わんないでしょ」
「違うもんー。 って、え? なんで知って?」
「夕也から聞いたのよ」
「ええっ?!」
「好きなんでしょ? 夕也のこと」
「ううん……別になんとも……」
「そっ。 まあ、どっちでもいいけど。 後悔はしないようにね」
「後悔って……。 あれ? 夕ちゃん、私達と走ってた時より速いんじゃない?」
「そりゃ、あいつ、あんたに勝たないようにワザとペース落としてたもの」
「え……?」
**********************************
全てのテストが終わって放課後になった。
この後は部活があるが、今日はミーティングで終わるようだ。
バレー部も同じらしく、終わったらみんなで緑風へ行くことになっている。
体育館の前まで行くと、入り口の前で亜美が立っていた。
「何してんだ?」
「あ、夕ちゃん。 夕ちゃん待ってたの」
ん? なんか用事でもあるのか?
「どうした?」
「んとね……さっきの勝負だけど、手を抜いてたよね?」
んーばれたか。
しやーねぇな、ここはシラを切るしかない。
「何のことだー?」
「もう、とぼけちゃって。 私達がゴールした後にペース上げたの見てたんだから」
亜美がゆっくりこっちへ歩いてくる。
「夕ちゃん、優しいよね。 ありがと」
亜美は俺の前まで来ると、俺の肩に手を乗せて背伸びをする。
「ちゅっ」
「?!」
頬に柔らかい感触。
「口はもうダメだけど、ほっぺぐらいならいつでも……それじゃまたあとでねっ」
と言い残して体育館へ入って行った。
「なんだよ……」
ますます、あいつの心がわからなくなってきた。
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